表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/69

第五十五話 モーベン=ルーキンス

ブルデーモンの咆哮と斧の魔力に当てられて怯んだ俺は地面の中に潜り攻撃から身を守る。


(全く厄介な敵に出会ったものだな。リリスがいるからすぐに片が付くと予想していたんだが・・・ この後の約束に遅れるかもしれんな・・・)


俺はそんなこと思いながらここに来る途中の出来事を思い出す。

それは広間での攻防を追えたすぐ後のことだった。


広間の中心部でガラハットのものと思わしき足跡を発見した俺はすぐにリリス達の身を案じて女王の間に向かう通路に行こうとしたがすぐに違和感を感じた。

通路の方向はリリス達がいると思われる方向とは逆方向だったのだ。


パラサイトアントの巣にいくら曲がりくねった通路が多いといっても180度も曲がってはいないだろう。

それでは住む側である虫達にとって面倒なだけだ。


(だとすれば一番怪しいのは・・・)


対極に存在する穴の先の通路だ。

だが、そこは炎が最も早く行き止まりに達した場所でもある。

敵はリリスを確実に仕留めるためにガラハットさんの体力を奪い、援軍を来させなくしている。

だとすれば一刻の猶予もない。

この通路が正解の道の可能性は確かにある。


(だが、確かめる価値はある。)


そう思い、俺は行き止まりと思われる通路へと入っていった。

そして、通路の先は予想通り行き止まりだった。


(俺の勘違いか・・・?)


そう思ったが俺はすぐには引き返さない。

どう考えてもこの通路がおかしいからだ。

本来、迎撃拠点にある穴は迎撃拠点で敵を殲滅するために穴の先には大量のパラサイトアントが待機するための待機所と思われる場所がある。


だが、この通路の先にはそれがない。

その為だろう。

通路の先に死骸がほとんどないし、行き止まりは待機所というよりは道の先を無理やり埋め立てたかのようにプッツリと途絶えている感じだ。


「試してみるか。」


俺は体となっている炎の一部を切り離して行き止まりの壁にぶつけてみる。

ドン!と壁にぶつかり炎が爆発すると土壁がボロボロと崩れ去っていく。

崩れ去った土壁の向こうには通路の先と思われる道が見える。


そして、その道を塞いだと思われる魔術師もいた。


「貴様。何者だ・・・」


そいつは明らかに敵意を宿した目を向けてくる。

その男は魔人と言われる者やまるでクルトの様に眼も髪も深紅に輝いている。


「アルトだ。よろしくな。」


そう言って俺は炎をそいつに向けて発射した。

明らかに敵意のある相手に無用な問答は無用なので攻撃することに抵抗はなかった。


「な・・・! くそが・・・!」


敵はいきなり攻撃されると思ってなかったのか。

少し驚きつつも炎を消す為に水の魔法を瞬時に展開してぶつけてきた。


(こいつ・・・ 馬鹿なのか・・・?)


俺がそう思うと同時に炎と水がぶつかり合い大爆発が起きる。

俺は崩れた土壁のまだ残っている所に体を隠して爆発をやり過ごすが、相手の方は先制攻撃を受けているので爆発が直撃したのだろう。

何も聞こえなくなった。


炎に水で対抗するのは別にかまわないが、こんな近距離の閉鎖空間で行えば水蒸気爆発で大きな被害が出ることは間違いない。

そんなことも分からずに水の魔法を使用してくるとは思ってもみなかった。

てっきり、土の魔法で対抗してくると読んでいたのだが・・・

いや、道を閉鎖するための土壁を作るために周囲の土を集めているはずなのでもう一度使うと崩壊の危険性があったのかもしれない。


(どちらにせよ。一撃で済んでよかった。)


俺は立ち上がると壁の向こう側へと進む。

少し先に先程の男と思わしき黒いズタボロの何かが倒れている。

どうやらかなりの重症らしい。


だが、俺はゆっくりとそいつに近づくと様子を窺う。

男の体は全体的に黒いがそれは服だけらしく、顔はマントで覆われていて分からない。

だが、魔法を使っている気配があるのでおそらく回復の魔法でも使っているのだろう。


(どう考えても罠だよな・・・)


俺の位置は炎の熱量でだいたいわかるはずだし、探知魔法や気を探る術があれば目視しなくても正確に魔法を使用して打ち抜ける。

戦いになれば長期戦になる可能性もある。

先程見た男の髪や瞳の色から俺と同じ魔力吸収能力を持っている可能性が高いからだ。


(はぁ・・・ もったいないな・・・)


そう思いつつも俺は炎の体から霊体を出して炎の体だけを相手に近づける。

炎の体が壊れない様にゆっくりと慎重に近づけていくと・・・


ジャキン!


と、大地から巨大な剣が飛び出し炎の体を貫く。


「フハハハハハ!」


炎の体が貫かれると同時に倒れている男からまるで勝ち誇ったかのような笑い声が聞こえてきた。

俺はそんな笑い声を無視して炎の体に突き刺さった剣に触れ、それが魔法かどうか確認しながら魔法吸収を行うと土の剣に体が吸い込まれて中に入ることができた。

土の剣の中に入った俺は地面の中に戻り、先程まで操っていた炎の体を解放する。


「グゥアアア!!」


人の体ほどに収まっていた炎が周囲に拡散して男を焼く。

その間に俺は土の中に潜って自身の取り込んだ魔法を調査する。

この魔法はどうやら巣全体に張り巡らされた魔法の一部の様で元になっている魔法はその気になれば巣全体を崩壊させることができるもののようだ。


(寧ろ、それが敵の狙いか・・・)


リリスを倒す為に入念な計画を作り、最後は証拠を土の下に隠滅。

いや、巣の中でリリスを倒せなくても最後は生き埋めにしてしまえば計画自体は完遂できる。

「悪くない作戦だ」と思わず感心してしまう。


(この魔法は大元の魔法と繋がっているのか・・・ ちょうどいい、まだ発動していないようだしこのまま吸収してしまおう。)


俺は早速、魔力を吸収する要領で大規模な魔法の吸収に取り掛かる。

まだ使用されていない待機中の魔法なのでそのほとんどは魔力そのままなのだが、それはそれで魔力を回復できるので好都合だ。


魔力を吸収していると解放した炎が収まったのか。

ムクリと通路で何かが立ち上がった。

土の魔法と融合したことで巣の全体図と巣内の様子を感じ取る能力を身に付けたらしい。


迎撃拠点で土に潜った時の様に正確に自分の場所を把握できないということはない。

立ち上がった敵は俺を倒したと思っているのか警戒心がなく、壁にもたれてかかっている。


(丁度いい。こいつから狙いや目的を聞いておくか。)


そう思った俺は即座に先程、炎の体を貫いた土の剣に姿を変えて男がもたれかかっている壁から突き出て男の体を貫いた。


「グぅ・・・・ カ・・・ ハ・・・」


男は苦しそうに呻き声を上げると力なくぐったりと剣にもたれかかる。

俺は男を貫いた剣を経由して男の精神世界に潜ることにした。


「さて、入ってみるとやっぱり何もないな。」


精神世界内は誰の中に入ってもそうだが基本的に真っ白な世界だ。

リリスの時のように探せば本が大量にある場所があるかもしれないが、探すのが面倒なのでそんなことはしない。


「さてと、こいつは一体どこにいるのかな・・・」


俺は周囲を見渡して入った男がどこにいるのかを探す。

周囲が真っ白の何もない所なので男はすぐに見つかった。

少し距離があったので正確に「あの男だ」とは認識できなかったが、精神世界に何人も人間がいるだなんて俺以外ではありえないだろうと思い、リリスの精神世界で学んだ瞬間移動で一瞬にして男のいる場所に飛ぶ。


「何だ貴様は!! どうしてここにいる!」


瞬間移動した先には予想通り先程の男がいたのだが・・・

何故か二人いる。

全く同じ顔なのだが、1人は肌が黒く瞳と髪の色が深紅に輝いている。

もう1人は黒い肌の方に地面に倒されて苦しそうにしている。

肌の色はエルフ特有の白く透き通ったもので髪の色は金髪、瞳の色は蒼い。


ただ残念なのは、白い肌も金の髪も黒い肌の男に相当甚振られたのであろう。

傷つきボロボロになっている。


(これはあれか? 白い方が俺で黒い方がクルトみたいなものなのかね・・・)


そう思いつつ俺を怒鳴りつけてきた黒い肌の方を睨みつける。


「どうしてここにいるかと聞いているのだ!!」


黒い肌の方が黙っている俺に対して憤りを感じたのか。

怒声を放ちながら近づいてきた。


「た、助けて・・・」


地面に倒れている白い肌の方はこちらに向けて手を伸ばし助けを乞うている。


「はぁ!」


黒い肌の男が拳を突きつけてきたので俺は掴んで捻りながら男を地面に叩きつけた。


「ガハ! 貴様! こんなことをしてタダで済むと思うなよ!」


地面に叩きつけられた男は小さく呻くと俺を睨みつけて罵声を浴びせる。


「面倒だな。おい、お前。こいつは黒い靄だった奴か?」


「え・・・ ああ、そうです。」


俺は男を無視して白い肌の方の奴に話しかけると男は戸惑いながらも頷いた。


「貴様! 先程から俺を無視するな!!」


黒い肌の男は地面に手を突き、魔法を発動する。

それは先程、炎の体を貫いた土の剣だった。


「ハハハ! どうだ!! この世界でろくに動くことも魔法を使うこともできないお前如きがこの俺に勝てるとでも思ったのか?!」


男はなぜか勝ち誇ったかのように高らかに声を変える。


「はぁ・・・ なんで、お前そんなに勝ち誇ってるんだ?」


俺は男に対してあきれてしまい、体を土の剣に貫かれたまま「やれやれ」と言った感じで首を振る。


「な・・・! 貴様、痛くないのか?!」


「痛い? ああ、魔法吸収しているからな。」


俺はそう言って体に刺さった土の剣を体内に吸収した。

精神世界ではどうやら土の剣を普通に体にしまえるらしい。

現実の体では一体どのようになるのだろうか・・・

かなり疑問だ。


「クソが・・・! グラビトン!!」


黒い男はそう言って魔法を唱えると俺の周囲に薄く黒い幕が形成されてその中だけ重力が増えたかのように重たくなる。

俺は体が重くなるのを感じてすぐに魔法吸収を発動してその黒い空間を体内に収めた。


「な・・・! なんなのだ貴様は・・・!!」


黒い肌の男は動揺したのか目を泳がせて1、2歩後ろに下がった。


「さて、問題だ。 この魔法吸収という技をお前に使うとどうなるのかな? 元が魔力の塊のお前は人の意志と形をとっていても所詮は魔法の一種だよな?」


俺はそう言ってできるだけ楽しげに笑顔を向けて近づく。


「や・・・ やめろ・・・ 来るな・・・」


男はそう言ってどんどん俺から逃げる様に距離を取っている。

おかしいな。こんなに笑顔で近づいているのになぜ怖がっているのだろうか。(笑)


「う・・・ うわぁああああああ!!!」


恐怖が頂点に達したのか。

男は全力で俺から逃げながら魔法を放って逃げていく。

そのほとんどが土の魔法から察するにそういう魔法が得意なのだろう。


「ふぅ・・・ 無駄だというのに・・・」


俺は瞬間移動で相手の先に先回りするとガバ!と正面から男を抱きしめる。

別にそういう趣味があるわけじゃない。

ただ、この方が効率的なだけだ。


「な・・・! は、離せ!!」


「うるさい。消えろ。」


俺は捕まえた黒い男に対して魔法吸収を発動する。


「う、うわぁ~・・・!!!」


男はその絶叫を最後に俺の前から姿を消した。


「さて、これでもう動けるな?」


俺は白い方に近づくと頭に手を置いて情報共有を行い精神世界での動き方をレクチャーするとそう声をかけた。


「え? あ、ああ。ありがとうございます。」


男は立ち上がると深く礼をして顔を上げる。

礼をする前も後も男が俺を見る目は驚いたままだ。


「さて、俺は急ぎの様がある。必要な情報は黒いのを吸収して分かったからもう行く。じゃあな。」


そう言って立ち去ろうとした時だった。

男は声を出すよりも先に俺の服を掴んだ。


「なんだ?」


振り返って尋ねると男はバツの悪そうな顔をして申し訳なさそうに口を開いた。


「お、俺の仲間が俺と同じように魔人にされたんだ。 頼む! あんたなら他の皆も救える! 協力してくれ!」


男は縋りつくような目で俺を見るとそう訴えてきた。


「いいよ。仲間を助けた後でよければな。」


俺は軽くその話を受けた。

受ける必要など全くないのだが、そう言わないとこの男が服を離しようにないので適当に頷くことにしたのだ。


「ありがとう。この作戦終了後、仲間の1人と出口で落ち合うことになってるんだ。俺はあんたが来るまで時間を稼いでおく。必ず来てくれよ。」


男の真剣な表情に俺は溜息をつきながら「分かったよ」と頷いた。

男の名はモーベン=ルーキンス。

土の魔法を得意とする戦闘職は『森使い』の男だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ