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第四十九話 炎の化身

最近、更新速度が遅い・・・

充電期間が必要なのだろうか・・・

これが書き続ける難しさか・・・

小説家さんって大変なんですね。

炎々と燃え盛る炎の中で俺は自分を自覚する。

先程まで半透明に見えていた霊体の体は見る影もない。

全身が炎に包まれたかのような見た目に反して、俺は冷静に状況を把握する。


(熱くない・・・ 寧ろ、暖かいぐらいだ。フレイムプロテクションのおかげか? それとも魔法を吸ったらこうなるのが普通なのか?)


正確な理由は分からないが、魔法吸収によって炎の体を手に入れた俺は炎の熱さを暖かいと感じている。

一瞬、「炎の熱量が低いのか?」と疑ったが今も俺に向かって来て体当たりしていくパラサイトアント達が炎の熱によって羽を失い地面に落ちていくところを見てとそうではないらしい。


炎の体はパラサイトアントの攻撃によって消耗しているのか放っておくと小さくなってしまうので、俺は暖炉に薪をくべるかのように炎の魔法を展開しては吸収して大きさを維持する。

炎の体は炎の魔法を吸収すると勢いよく燃え上がる。

燃え上がれば燃え上がるほどパラサイトアント達は俺の下に集まってくる。

さながら、光に群がる虫の様だ。


(これはこれで問題ない・・・)


俺は流し目でガラハットを見た。

ガラハットに向かっているパラサイトアントはかなり少なく何とか捌き切れている。

ドッペルやセリスの方を見れば水の防御膜に小さく穴を開けて近寄ってくるパラサイトアント達を魔法で撃退していた。

もう少しすればガラハットが合流するのであの二人の安全は確保できるだろう。


自身の体や仲間の心配はもうすぐなくなる。

霊体の体はパラサイトアントの攻撃は効かず、こちらからは魔法による一方的な攻撃が可能。

誰がどう見てもワンサイドゲームなこの状況にもかかわらず俺は焦っていた。


(魔力が足りない・・・)


理由は魔力の残量不足だ。

魔力の吸収能力を自身の生み出した魔法につぎ込んでいるために周囲の魔力を吸収できていない。

故に現在、俺は自身の魔力のみで戦っている。


魔法を吸収して肉体を作ることでその肉体内で魔法を燃焼することで威力の底上げを行っている。

やっていることは吸収した魔法を体内でぶつけ合っているだけなのだが、そうして燃え上がった炎の体は実に威力があり強力だ。

問題は俺の魔力量が低いのでこの状況を維持できる時間が短いということだ。


魔力の吸収能力も限界まで使っているので魔力の吸収は望めない。

魔法の使用はあと数分が限度。

魔力量がなくなり魔法が使えなくなってから魔力の吸収に専念しても全快まで魔力量を回復するのに数十分かかることを考えるとこの方法は効率が悪かったかもしれない。

ガラハットを逃がす為に目立つ必要性と敵を排除するための高火力を求めた結果とはいえ、考えが無さ過ぎた。


(いつも行き当たりばったりだからあいつにも勝てなかったのかな・・・)


入念な作戦もなくモンスターの巣内で戦力を分散し、おまけに仲間の状態をしっかりと管理できていなかった。


(この戦いの敗因はすべて俺にある。)


だからこそ、この状況を逆転する一手を欲して俺は策を模索した。

と言っても、この状況下でうてる策などほとんどない。

というよりも、ガラハットが駄目な以上、ドッペルとクルトに頼る以外に選択肢はない。


(この状況を覆し、勝利するにはあれしかねぇな・・・)


「ドッペル!すべて焼き払え!」


次の瞬間には俺は決定した内容をドッペルに叫んでいた。


「・・・! おいおい、マジかよ・・・」


アルトの言葉にドッペルは驚きの表情と共に苦笑いを浮かべる。

アルトの一言で、その意味を理解することができたのは彼らが元は同一の存在だからだろう。


「(やるしかないな。クルト。サポート頼む。)」


ドッペルは即座にクルトに応援の要請をすると同時に魔法の術式展開に入る。


「(マジかよ・・・ 大丈夫か?)」


クルトは驚き、心配そうな言葉をかけるがすでにドッペルのサポートに入っている。

と言っても、クルトには難しい術式展開はできないのでできるのはすでに展開している水の防御膜の維持と最初から行っている魔力の吸収ぐらいのものだ。


「(この状況じゃ他に方法はないだろう。)」


ドッペルはため息交じりにクルトに返事を返すが、その返事にはどこか嬉しさがあった。

その嬉しさはクルトも感じていた。

しかし、2人の嬉しさの方向性は全く違う。

クルトは元が破壊本能の塊である魔人の卵である故に大規模魔法や大規模な破壊というものに愉悦を感じ、ドッペルはアルトと共に戦えることに、必要とされることに喜びを感じている。


「セリス!ガラハットの奴と合流して撤退するぞ!」


クルトはドッペルに魔法の術式展開に集中してもらうために肉体の主導権を取ると声を張り上げる。

肉体の主導感を手にすると突如として髪が赤くなり、セリスは思わずそれに驚いて後ずさってしまった。

洞窟の暗闇の中ではドッペルの赤い髪もアルトと同じように黒く見えるがクルトの髪の色は紅くわずかに輝いて見えるのでセリスには魔人化したように見えた。


「いけない!」


それを近くまで来ていたガラハットが目にした。

彼はそれを見て声を上げると一目散に走りだした。

クルトやドッペルの存在を知らないガラハットにとってアルトの髪と瞳が紅くなった姿を見て魔人化したと思い込んだのだ。


バシャリ!


一気に駆け出したガラハットは残されたわずかな力を振り絞ってアルト達の元まで一気に駆け抜けると邪魔なパラサイトアントもアルトの張っていた水の防御膜を切り裂いた。

飛び散る水と虫たちの血飛沫が混じり合い、鬼気迫るガラハットの顔がクルトの瞳に映った。


ザシュリ!


振り下ろされたガラハットの刃をクルトは咄嗟に躱すが壁に激突する。

最初が座った状態だったためか単純なレベルの差かは分からないが、クルトはガラハットの剣を避けきれずに胸に剣を受けてしまう。


「グ・・・ 何しやがる!」


ゴス!


クルトは突如として剣を向けてきたガラハットに怒鳴り付けると手にしていた杖でガラハットを殴りつけた。

ガラハットはクルトを切りつけた後、すぐさまセリスの無事を確かめるために視線を移していたためにこの一撃に気づけなった。


「グ・・・ ウォオオ!」


ガラハットは肩にクルトの一撃を受けると一瞬痛がるが、すぐに剣を振り上げて杖を払い除けるとセリスとクルトの間に入って身構える。

2人は睨み合う様にして対峙すると互いに武器を構える。


「ちょ・・・! ちょっと2人とも!」


そんな二人を止めるためにセリスは声を上げる。


「黙ってろ!」


「セリスさん! ここは私に任せてください。」


クルトはいきなり襲い掛かってきたガラハットに対しての怒りから、ガラハットはアルトの監視役として使命感からお互いに引く気はない。


「2人とも! そんな場合じゃないですよ!」


セリスは大声を張り上げて広間の方に注意を向けるためにクナイを投げつける。

2人は投げつけられたクナイの方を見るとすぐそこまでパラサイトアント達が迫ってきていた。


「チッ! 2人とも走れ! ここから離れるぞ!」


クルトの言葉に2人は一瞬だけ戸惑うが「殿しんがりは俺がやる!急げ!」ともう一度檄を飛ばすと二人はお互いに一瞬見つめ合って頷くと走り出した。

クルトは2人の後を追う様に走り出すと同時に後ろを振り向いて魔法を発動する。


「面倒くせぇ!」


発動する魔法はファイアーボール。

魔法弾しか発動できなかったクルトだが、ドッペルやアルトとの情報共有によって炎と闇の属性変換だけは何とかものにしていた。

作られたファイアーボールは一個だけだったが、その大きさは規格外のものだった。

巣内の通路を塞いでしまうほどの大きさがある。


森の中での戦闘で自身の魔法が当たらないことをすでに知っていたクルトは量や質での勝負を捨てて大きさのみで勝負に出た。

結果、その選択は間違っていない。


クルトの実力はアルトやドッペルよりも低いが、その二人ですらファイアーボールでパラサイトアントを倒すことはできない。

フレアアロー系の魔法は速度と威力がある代わりにアルト達の技量では直線的にしか飛ばせないので空を自在に飛ぶパラサイトアントに当てるのは難しい。

その点、追尾や誘導のできるファイアーボール系の魔法は使い勝手がいい。


だが、直撃しても威力が弱く、クルトの技量では当てることすらできないファイアーボールだが、通路を覆うほどの大きさのものを一つ作ることができればその効果は大きい。

大きさのみを求めて複数の小さな火球を融合し膨張させただけのそれは威力はさらに落ちているが、飛んできたパラサイトアントの羽を焼くには十分な威力があった。


三人を追うパラサイトアント達は次々と火の玉の中に入るとその羽を焼かれて地面に落ちる。

地面に落ちた虫達は六本の足をバタバタと動かしながら移動するがその速度はあまり早くない。

時間をかければ羽を再生することもできる虫達の足は移動に適してはいなかった。

彼らの足の役割は弱らせた得物を運ぶ時に使用されるので物を掴むことに適した形と筋力は備わっているが、走ったり歩いたりは苦手だったのだ。

おまけに、炎の魔法を通過すると虫達の行動を指揮する四本脚の声や超音波が炎の音によって掻き消される。

これにより、統率を失った虫達は炎を通過すると後ろから来る仲間のことを考えずにその場に留まり羽の再生に力を注いだ。


地を這うことを得意としていない虫達は飛ぶことを優先したのだが、それがそもそもの間違いだ。

後ろから炎を抜けてくる仲間達が獲物を追う為に次々と後ろからやってくる。

ただ押されるだけならばまだいいだろうが、中には先頭にいる仲間の上に乗る奴までいる始末、これにより乗られた虫は羽を再生することができなくなりファイアーボールを抜けた先で大渋滞を引き起こし団子状態になっていた。


「よし! これで時間が稼げる!」


クルトは自身の考えがうまくいったことに歓喜の声を上げるのだった。




一方その頃、アルトは苦戦を強いられていた。


(おかしい・・・ なぜだ・・・)


アルトにとってそれは理解できないことだった。

ガラハットが通路に逃げ込んだ直後からなぜか敵の攻撃でダメージを受け始めたのだ。

霊体であるはずの自分が痛みを感じてステータスを開き確認すると体力値が減少していた。


減少は毒や火傷のように時間が経つと徐々に減っているわけではにない。

つまり、炎の吸収に失敗しているわけではない。

毒を受けた形跡もない。

そして、突如として感じるわずかな痛みはパラサイトアントの攻撃を受けた時のみに感じる。


痛みが鈍いのが霊体だからなのか大したダメージではないからなのかは不明だが、この状況はあまりよくないことだけは確かだ。

せっかくのワンサイドゲームだった状況が崩れたのだ。


(なぜだ・・・ なぜ突如としてダメージを食らうようになった・・・)


アルトは戸惑いながらも虫達の波状攻撃を避け続ける。

回避と同時にできるだけ羽を焼き敵の数を減らす。

羽のみを焼けば炎の消費は少ない。

寧ろ、パラサイトアントの羽はよく燃えるので炎の量は上がっている。


だが、空中での戦闘は常に空と飛び行動することを主とするパラサイトアントの方が有利である上に向こうには数の利がある。

いずれはアルトの魔力が底をつき炎を纏えなくなり逆にこちらが攻撃手段を失うのは必死。


(ジリ貧だな・・・)


勝てるはずの戦いでまさかの苦戦を強いられることになるとは思ってもみなかった。

攻撃を受け続けることで分かってきたことはパラサイトアントの牙がわずかに光っていること。

牙以外の部分は先程と変わりなく例え当たっても痛みを感じないことから、恐らくはアレが何らかの魔法的な効果を持っているのだろう。


(それがわかったところで攻撃を捌き続けられるわけじゃないがな・・・)


牙以外の部分を避ければいい。

頭では分かっていても実際にやるとなると難しい。

パラサイトアントが一体だけならば闘牛士のように避け続けることも可能だろうが、相手が複数いる場合はそうもいかない。


「グ・・・ クソが・・・!」


体を貫かれるたびに感じる痛みに徐々に減り続ける体力値にストレスが溜まり思考が鈍る。

力任せに暴れたい衝動に駆られながらも「それでは意味がない」と必死に冷静さを取り戻して時間を稼ぐ。

もう少しすればドッペルの魔法が来る。

そう信じて待つことが俺にできる最善の一手。


ベチャリ!!


「なに・・・!」


突如として襲う何かがへばりつく感覚に俺は驚きのあまり声を荒げる。

へばりついた物を見てみるとそこには何か気持ち悪い水気の多い白濁色をした、ガムの様な物がへばりついている。


(なんだこれは・・・!)


ジュウウウ・・・


取ろうと思って手を伸ばすと水気の多いガムの様な物に触れると大量の湯気が出た。

炎の体がガムから水分を奪い蒸発させているのだ。

だが、それは逆にこのガムの様な物に炎が奪われていることを意味する。

よく見れば手だけではなく、張り付いた部分から大量の湯気が出ていた。


ベチャリ!


そうしている間にも第二波が俺の頭に落ちてきた。

見上げれば、そこには四本脚が腹部にある糸を出す発射口を向けてこちらに向けていた。

そう、これはガムではなく糸だったのだ。

しかも、糸の生成時に水分を多めにすることで炎に対する耐性を高めていた。

そうなると糸としては使えないが、俺の体に貼り付けることで炎を奪うことができる。


「チッ・・・! 大人しく観察知れると思ったらこんなことを・・・!」


どうやら、先程から攻撃してこなかったのは糸の水分量を変化させていたかららしい。


(虫のくせに頭がいいやつだ。)


そう思って睨みつけていると第三波が発射された。


(そう何度も食らうかよ!!)


そう思い攻撃を避けた俺だったが・・・


「グ・・・!」


避けた先になぜかパラサイトアントが突撃して来ていた。

拠点迎撃を目的とした四本脚の親衛隊クラスには兵隊であるパラサイトアントの指揮権がある。

つまり、俺は避けたのではなくパラサイトアントの攻撃の方に誘導させられたのだ。


(つくづく、やな奴だな・・・)


俺は思ってもみなかった強敵の存在に苦笑いを浮かべるのだった。

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