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第四十八話 イフリート

ドン!


突如として鳴り響いた銃声。

円形の広間に木霊して方角は分からなかった。

だが、誰が撃ったのかは分かった。

無茶と無謀をはき違えた様な行動ばかり取る聞かん坊であるアルト=オオヤケの仕業だ。


「ギュルルルル!!」


私が振り向いて声を荒げるよりも先に、あの親衛隊クラスのパラサイトアントが奇声を上げる。

その声に呼応するかのようにパラサイトアント達がアルト君たちの方に向かっていく。


「な、何をしているんですか!」


怒りと驚きの混じった声をあげる私だった。

今すぐにでもアルトさんたちの元に帰らなければ・・・

そんな焦りを抱きながらもすぐには動き出せなかった。

四本脚の悲鳴にも似た叫び声に呼応してパラサイトアント達の内の何匹化がアルト達の方に向かうが、半数は自分の所に向かってきているのだ。

四方八方から襲い来る敵を前にしては引くことも進むこともできない。


「いけない!!」


ただ敵を迎撃するのがやっとだった私にできたことはそう叫ぶことだけだった。

それでも、何とかアルトさん達の元に向かおうと機会を窺うだが、そんな私にアルトさんがこう叫んだ。


「ガラハット!こっちに来るな!戦いに集中しろ!」


その言葉の意味を理解できず、どうすればいいのか戸惑いながらも戦いを続ける私だったが、すぐにその言葉に意味を理解した。

アルトさんが水の結界か何かを張ったのだ。

この時は「ああ、防御に徹するんだな。」としか思えなかったが、その後の行動には驚いた。


なんと自らが作った水の結界を自分で破壊したのだ。

ただ、その破壊された水の結界は散弾となってパラサイトアント達を貫いた。

体を貫かれたパラサイトアント達は地面に落ちて悲鳴を上げる。


そんなパラサイトアント達を余所にアルトさんはまた水の結界を展開した。

その水の結界に先程の散弾に当たらなかったパラサイトアント達が群がるが、また先程と同じように水の結界に阻まれた後に散弾を食らって地面に落ちていく。


見事な攻撃と防御の魔法だ。

水の結界自体はパラサイトアントの攻撃を長時間は耐えられそうにない代物だが、一度散弾にして飛び散らせて再展開することによってその防御力を一定以上に保っている。

散弾は至近距離にいるパラサイトアントの硬い殻を貫く威力があり、時間をかければ倒すことは十分に可能だ。


(やはり、侮れない男ですね・・・)


ガラハットはアルトのことを頼もしくも思いながらも暴走した時のことが脳裏に過り少しだけ恐怖した。

だが、そんなガラハットの恐怖を余所にアルトは効率よくパラサイトアント達を落としていく。

ガラハットも迫りくるパラサイトアント達を一刀のもとに切り伏せていったためかやがてパラサイトアントの数が減ってきた。


(ここだ!)


それを視覚的に確認したガラハットは数の薄い場所を一点突破し、壁に張り付く四本脚の元へと大きく跳躍すると、四本脚を切り刻んだ。


「ギュル・・・」


四本脚は糸を吐いてガラハットの動きを止めようとしたがガラハットの蠱惑的な動きに惑わされて残像に糸を吐いただけだった。


こうして、アルト達は時間をかけて一つ目の広間を攻略した。




「案外楽勝だったな。」


戦いが終わった後、セリスと共にガラハットの元に駆け寄った俺はそんなのんきなことを言っていた。


「もう!アルトさん。何かするなら事前に行ってくださいよ!」


セリスが隣で抗議の声を上げるが取り合わない。

俺は両方の耳を押さえて聞こえないふりをする。


「全くですな。一歩間違えれば死ぬところだったんですぞ?!」


ガラハットさんまでそう言って説教を始めそうになったので、俺は逃げる様に先を急いだ。

といっても、先頭はガラハットさんなので移動しながら説教を受ける破目になった。


(そんなに出しゃばった覚えはないのだが・・・)


俺は反省しつつもあの状況ではアレが最善だったと自分自身を弁護する。


「(そうか? 多少時間が早くなっただけでガラハット1人でも十分に対処できてただろう。)」


「(全くですね。少しは大人しくしたらどうですか?)」


クルトとドッペルがそう言って抗議の声を上げてくる。

精神世界にいるだけで体を操れないクルトとドッペルからすれば、俺が自分から危地に赴くのを看過できないのだろう。

だが2人はそう言って俺に落ち着きを持てというが、俺が何かする時は止めようとしない。

それが、俺との情報共有で何を言っても止まることがないことを理解しているからなのか。

俺を信頼してなのかは分からないが、時に手を貸してくれる優しさには感謝することにした。


そうしている間にも、第二の広間が視界に入ってきた。

このルートは予想では女王の間にはリリス達の進んだルートよりも遠いという話だったが広間の近さからして大して変わらないのかもしれない。


(寧ろ、こっちのルートの方が近いか?)


休憩を取り、ある程度ステータスの回復を待ってから第二の広間で戦闘を開始する俺達。

先程同様、ガラハットが先陣を切り俺が広間まで来た道から攻撃をしてセリスの護衛をしつつ中の敵を殲滅していく。

パラサイトアントは俺にとってかなり高レベルのモンスターだからかレベルがいつの間にかドンドン上がっていて先程よりも殲滅速度が上がった。


「なんだかあっさり倒せてしまうな。」


「普通はそんなことないんですがね。やはりアルトさんはすごいですな。」


俺の気の抜けた感想にガラハットが呆れ顔でそう言った。

セリスはそんな俺とガラハットを見ながら何もできない自分を恥じているのか。

俺達と少し距離を取っている。


「どうした。いくぞ。」


先を急ぐ俺はそんなセリスの悩みを聞かずに先を促す。

パーティならば悩みを聞いてやるのが普通なのだろうが、残念ながら俺からアドバイスできることは何もない。

なにせ俺は魔力ほぼ無制限のチート状態だ。

魔法の知識は教えれるだろうがセリスに魔力吸収法を教えても俺の様に半魔人の状態になれるかは分からない。


そもそも俺の境遇が特殊なので下手にマネや目標にしたり評価対象にしない方がいいだろう。

だが、それを口で言ってもセリスは分からないだろう。

俺だってセリスと同じ境遇ならば分かろうとはしなかっただろう。


同じような立場で同じような能力値だった人間がつい数日後には自分よりも遥かに先にいる。

それは信じがたい事実だ。

俺も俺がいた世界でそのことを思い知らされた。

中学時代、一度として勝つことのできなかった相手。

きっと、今のセリスは俺が勝つことのできなかったあいつに俺が挑んでいく様な心持なのだろう。


『どうにかして』『何か別の分野ならば』『作戦を練れば』そんな幻想を抱き、挑み。

そして、夢破れていく。


理想を追い求めた結果、現実を知り挫折する。

人生で、おそらくは誰もが通る道。


そこに至るまでにかけるべき言葉は「諦めろ」や「お前には無理だ」といった諦めさせる言葉ではあってはならない。

現実を知る過程で自分で考え行動する力を失ってしまうからだ。

だが、無責任に「頑張れ」や「もう少しだ」という言葉をかけるのもどこか違う気がした。


その言葉を糧に立ち上がり、そして勝利することもあるだろう。

だが、すべてに人間がそうなれるわけではない。

そうなればいいなと夢想することはできても、勝利のために他人ができることはあまりにも少ない。


俺が今考えなければならないのは、自分で考え、行動した結果。

もしそれでもダメだった時に俺の様に何もかもを投げ捨てて空虚な日常を過ごさない様に声をかけてやることだろう。


日本昔話の『ウサギとカメ』の話を聞いて素直に怠けなければ天に選ばれた者に才無き者が勝ると理解してくれるだろうか・・・

俺にリリスの様に人を立ち直らせることができるだろうか・・・


俺には別の世界にセリスを連れて行ってやることも人を立ち上がらせることもできる気がしない。

自分のやりたいことをただやり続け、そのために他人を巻き込んできた。

あいつらからすれば本当に迷惑極まりない行為だっただろう。

だが、それでも俺はあいつらと共にあいつに挑んだことを後悔していない。

そんなあいつらとも途中からは「あいつを倒す」という同じ目標に向かう仲間にも慣れたのだから・・・


ただ最後は自分の力の無さに挫折して、心を閉ざしてしまった。

そんな俺が他人に何を言えるのだろうか・・・


そんな不安を抱えつつ俺達は第三の広間へと辿り着いた。

広間に辿り着くとすぐには入らずお互いのステータスを確認しながら魔力の回復を待つ。

俺はともかくとしてガラハットさんやセリスは身体強化や攻撃時に魔力を使って刃の切れ味を上げたりして魔力を消費している。

体内の魔力量は時間と共に回復するのでそれをある程度回復するまで待つために休憩を挟みつつ洞窟内で待つ。


パラサイトアントの巣は以外にも広間の前が一番休憩に適している。

通路は妨害のためにパラサイトアントが襲って来るし、巣の卵を置く場所には四本腕がいて戦闘になる。

四本腕を倒しても通路からパラサイトアントがやってくる。

だが、広間の前は広間に入った敵を殲滅するために敵が待機しているのでこちらを襲いには来ない。

敵も広間の奥に行かせないことが目的だからか襲ってはこない。

そんな理由からこの場所が一番休憩に向いている。




第三の広間を観察するとこれまで同様の大きさで形も変わらなかった。

だから、戦略もこれまで同様にガラハットさんが広間に入り俺とセリスは広間の外で待機した。


戦闘が始まってからも問題なく戦いは続いた。

ガラハットさんが縦横無尽に広間で舞うように剣を振り敵を落としていく。

俺は第一、第二同様にセリスに背中を支えてもらいながら水の防御膜を展開しつつ銃撃をして援護する。


もはや必勝パターンと言っていい三度目の攻防。

勝つのは時間の問題でしかない。

俺達の頭にはそんな空虚な勝利への確信が広がっていた。


「アルトさん!ガラハットさんが・・・!」


最初に違和感に気づいたのはセリスだった。

セリスは俺を支えつつもガラハットの動きを見て戦い方を勉強していたのだろう。

目の前の敵しか見ていなかった俺よりも早く異変に気付いた。


「ん・・・?」


セリスに言われて俺がガラハットさんの動きを確認すると確かに先程よりも動きに繊細さを欠いていた。

ステータスが非公開状態なので能力値は不明だが何かしらにバッドステータスを受けていることも考えたがここまでの道中で休憩が必要かを見るために必要な所だけお互いにステータスの公開をして来たのでそれはないだろう。

ならばなぜ動きが悪くなったのか・・・

よく動きを観察すると呼吸が早く肩で息をしていることに気づいた。


『疲労』


長時間に及ぶ戦闘と常に先頭を歩いてきた精神的な負担。

ステータスに反映されず、自己申告でしか分からないもの。

パーティを組んでいれば表情や顔色、仕草から分かってくるものだが、ガラハットさんとパーティを組んだのは今日が初めてだ。

ここに来る途中も何度か休憩は取ったが不十分だったのだろうか。


「ギュルルル!!」


ガラハットさんの動きが悪い。

俺達がそう思うと同時に四本脚が奇声を上げる。

何事かと俺達が動きを一瞬止めると俺達に向かってきていたパラサイトアント達の数が減った。

そして、俺達の側の戦力を減らすとその分をガラハットさんに向けたのだ。


弱っている獲物から仕留める。

野生の純然たる狩人である彼らの選択は早く。

そして、的確だった。


俺の放っている銃弾は威力はあるが一発ずつしか撃てない。

その上、一発撃つのに時間がかかる。

水の防御膜を破壊することで散弾にして使用することで複数の敵を攻撃して時間におけるダメージの総量を上げていた。

だが、代わりにこの技は至近距離でしか使えない。


おまけに今は敵がこちらにも来ているので水の防御膜を解くことはできない。

水の防御膜に穴を開けて銃弾を撃ったとしてもそこから入り込もうとするパラサイトアントに阻まれて威力を殺される。


(俺達にガラハットさんを助けに行く能力がない・・・)


レベルの低いセリスでは広間に入ってもパラサイトアントには太刀打ちできない。

俺はレベルも上がり全体的な能力が向上しているが、装備的に魔法に能力の向上を偏らせている。

四方八方を囲まれては攻撃を受けて何もできない可能性がある。


「うおぉお?!」


俺が判断を下すよりも早くガラハットさんの右手に持つ剣に四本脚の吐いた糸が絡みつく。

いつもなら振りほどける糸も今は疲労のせいかいつもよりもほどくのが遅い。


ガジュリ!


その一瞬の遅れを奴らは見逃さなかった。


「ウグゥァアアア!」


パラサイトアントの一体がガラハットさんの肩に噛み付いた。

それを皮切りに一気に形勢が傾く。

必死に剣を振り敵を切るガラハット。


(躊躇している場合じゃないな・・・ ドッペル。クルト。後は任せた。)


決断を遅らせるとガラハットが死ぬ。

そう判断した俺は体を二人に預けて霊体のまま外に出た。


体から出る前に銃を発射し水の防御膜を打ち破る。

水の防御膜がドッペルによって破壊された防御膜が再度展開される前に広間へと入る。


「ファイアーボール」


広間に入った俺は瞬時に無数の火球を作りながら発射していく。

狙いはつける必要がない。

速度と威力さえあればガラハットさんに群がっているパラサイトアントを遠ざけることができる。


「ギギギギ」


突如入ってきた俺を攻撃しようとパラサイトアントの何体かが突進をしてくるが霊体である俺に物理攻撃は効かない。

寧ろ、こちらに気を引ければガラハットの生存率が上がるので助かる。

ただ、問題はガラハットを仕留めるために群がっている仲間を守るためにパラサイトアント達が自分自身を盾にした事と俺の周囲に群がることで火球の生成が抑制されてしまうことだろう。


俺への突撃自体は無駄だが周囲の空間に生成途中の火球やこれから放つための火球にぶつかっていくので発射できる球の数が減る。

そうなるとガラハットへの援護が難しい。

多少はマシになってはいるが俺が突如霊体で出たせいでガラハットは混乱していた。


もっとも援護が来たのでこれを機にと何とか逃げようとはしているので時間は稼げているのだろう。

だが、霊体になった俺の火球では装備の補正を得られないので威力が弱く心許ない。


(威力、命中速度、生成の問題。すべて解決するには・・・)


俺は現状の最善手を模索する。

戦いの中で冷静に物事を考えられるのは中学時代にあいつとの戦いでスポーツで何度も戦ったからだろうか。

それとも、この世界で得た経験か。

俺はこの場でおそらくもっとも効率的に敵を倒す為の最善手を選んだ。


(魔力を吸えるんだから魔法も吸えるよな・・・)


次の瞬間には俺はフレイムプロテクションを展開して自身の火耐性を上げると周囲に作った火球を吸収しだした。

霊体状態での魔力吸収法はクルトが霊体を体から出してしていたので情報交換済みだ。

俺はその応用で自らが生み出した火球を吸収する。


生成した火球を自らに集め霊体と一体化させる。

いや、炎で己の体を作るといった方が正しいのかもしれない。

体内に入ってきた火球同士をぶつけ合わせ爆発させ燃焼させて己の肉体を作る。


ゴォオオオオ!!


延々と燃え盛る炎の渦に自らの霊体を入れることで俺は炎の肉体を手に入れた。


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