第四十七話 広間での攻防
広間に入ったガラハットの活躍は凄まじい物だった。
当初はガラシャワ戦時のリリスの様になるのではという不安があったが、それは全くの杞憂だった。
「すごいな・・・」
ガラハットのレベルと職業は分からないがその戦闘能力は凄まじものだ。
先程までの道中とは明らかに動きが違う。
(力を温存していたのか? いや・・・ ここまでの道は狭かった使えなかったというべきか。)
ここに来る道中もガラハットはまるで踊るかのように剣を振り戦っていたが、広く天井の高い円形の広間はその本領を発揮するに最高のステージとなっている。
常に動き続けることで四本脚(迎撃用のパラサイトアント)の放つ糸を受けず。
その糸が地面につく瞬間に剣を使ってフォークでパスタを絡め取る様に巻きつけるとそれを飛行しているパラサイトアントに投げつけて動きを封じたり、壁に投げつけることで足場を粘着性のある糸で満たされない様にしている。
「リリスがギルドのマスターは中級職のレベル50以上って言ってたが、あの強さは実際はどれぐらいのレベルなんだろうな。」
そんなことをセリスに呟きながら俺は先程閃いた魔法が使えるか銃と水神のお守りを構えて魔法を発動させる。
「すごい・・・」
そんな俺の呟きをセリスは軽くスルーしてガラハットの剣舞に見入っていた。
(水神お水守りで水の生成か完了。水を操る魔法のアクアハンドルで圧縮しながら銃の中に入れて、さらに重力の魔法グラビティボールで円形にしながらさらに圧縮。それを魔法銃の魔力圧縮で圧縮して高圧の水球を作って発射するんだが・・・)
引き金を引く瞬間、俺の手が止まった。
理由は3つ。
1つはグラビティボールで重力を増加している弾丸が普通に飛ぶのかという問題。
ウォーターカッターの原理を利用して高圧縮の水を高速で発射できなければこの複合魔法は意味がない。
2つ目は一点凝縮した複数の魔法を発射後も維持できるのかという問題。
速度と威力を上げるために三重に圧縮した水の弾丸は非常に小さいものになっている。
そこに込められた複数の魔法を俺の技量で維持できるかが問題だ。
維持できなければこの水弾は空中分解してただの水鉄砲になってしまう。
ドッペルのサポートがあっても成功するかは定かではない。
三つ目は俺の銃の腕前だ。
今までは魔法弾はこぶし大の大きさで速度を落とすことである程度の操作もできるようにしていた。
そうすることで命中率を上げるためだ。
だが、今回は速度と威力重視のために発射された弾丸は真っ直ぐにか飛ばず途中での魔法の操作ができない。
(一つ目は水弾を撃ちだすアクアスプラッシュの魔法で威力を補うとして、二つ目はどうするかな・・・)
「(それならいい方法がある。)」
俺が二つ目の問題をどうするか考えているとドッペルの奴が割り込んできた。
「(何かいい方法があるのか?)」
俺は自問自答するようにドッペルと脳内会話を行う。
「(ああ、試したい魔法がある。)」
「(ほう、どんな魔法だ?)」
「(複数の魔法を固定化する魔法だ。違う魔法を同じものにかけた時に複合する魔法がずれない様にする魔法を作ってみたいんだ。)」
「(作ってみたいって・・・ 完成してないのか・・・)」
「(いいだろう。どうせ、その魔法も実験なんだから)」
「(まぁ、確かにそうだな。じゃ、サポートとその魔法の発動をよろしく頼む。)」
「(待て、その前に一つ条件がある。)」
「(なんだ? 前みたいに一日体を貸してくれってか?)」
「(いや、違う。)」
「(じゃ、なんだ? あ、まさかリリスとやらせてくれってお願いか? お前ほんとにロリコンだな・・・)」
「(ち、違うわ! そういうお願いじゃない!! というか、それなら抱いたあんたの方がロリコンだろうが!!)」
俺の放った言葉にドッペルがものすごくわかりやすく動揺して反論する。
そんなドッペルを見て可愛い奴だなと思ってしまい思わず顔がニヤけてしまう。
そのことに気づいて慌ててセリスを見るがセリスは未だにガラハッドさんの動きに見とれているようだった。
いや、それだけでなく手にナイフを握ってガラハットさんの動きをマネしようとしているようだった。
(人の動きを見て剣技の練習か。セリスもすっかり戦いに馴染んで来たな。)
それが良い事なのか悪い事なのかは人それぞれだろうが、とりあえず一人前の冒険者には慣れそうで安堵した。
「(さて、ドッペル。話の途中だったが後にしてくれ。これ以上は魔法を発動状態で置いとくのがしんどい。)」
俺がそう言って弱音を吐くとドッペルは「(分かったよ。少し待ってくれ。もう少しで術式が完成するから)」と言って押し黙った。
どうやら、先に魔法の準備をある程度はしていたようだった。
「(よし、OKだ!)」
ドッペルがそう言って魔法を発動させると俺は壁に張り付いている四本脚に銃口を向ける。
空を飛んでいるパラサイトアントに標準を合わせるのが難しそうだったからだ。
ドン!!
「うお・・・!」
発射の衝撃は俺の予想を超えるものだった。
大量の水を圧縮して高速で飛ばす為に魔法銃に魔力を多く込めたからなのか。
発射時に圧縮水を打ち出す威力を上げるためにアクアスプラッシュの魔法を同時に使ったからなのかはわからないが、発射時の異常な威力の反動で俺は仰け反ってしまった。
ドサ
「・・・! だ、大丈夫ですか?!」
そんな背中を地面について倒れた俺に先程までガラハットの動きに見とれていたセリスがこちらを心配そうに見とれてくる。
「ああ、大丈夫だ。」
発射の威力を上げればその分、反動が上がることを全く考えていなかったせいで無様な姿を見せてしまった。
俺は顔を赤らめて少し照れながらも起き上ると広間の状況を見る。
さっき撃った魔法弾がどうなったのかが気になったからだ。
「ギュルルルル!!」
奇妙な鳴き声を上げながら四本脚がこちらを見ていた。
その体には直径にして2、3cmほどの穴が開いており、そこから血が出ていた。
どうやら、攻撃は命中している上にその威力はパラサイトアントの親衛隊クラスの甲殻を貫通するのに十分な威力があったようだった。
「な、何をしているんですか!」
ガラハットさんもこちらを見て怒りと驚きの混在した表情を浮かべている。
大人しく状況を見守らずに勝手に攻撃したことに怒りと驚きを隠しきれていない。
(悪いなガラハットさん。 謝罪は後でさせてもらうぜ・・・)
「セリス! 俺の背中を押して支えてくれ! ドッペル! もう一回やるぞ!」
俺は声を出してセリスとドッペルに指示を出す。
ドッペルには声を出さずに脳内で指示を出すのがベストなのだが、今はそんなことを考えている暇はない。
セリスは戸惑いながらも俺の背後に回って恐る恐る体を支える。
ドッペルは「(いつでもどうぞ)」と頭の中で返事が返ってきた。
俺は早速次弾の発射準備に取り掛かるがパラサイトアントはそれを待ってはくれない。
四本脚が俺の方を見て奇声を発すると広間にいたパラサイトアントの何匹かがこちらに向かって来る。
「いけない!!」
ガラハットさんが慌ててこちらに駆け寄ろうとするが他のパラサイトアントがそれをさせまいと取り囲む。
ガラハットさんはそいつらを何とか倒してこちらに向かおうとするが広間内には多数のパラサイトアントが待機して号令を待っているためにそう簡単にはこちらに近づけない。
「ガラハット!こっちに来るな!戦いに集中しろ!」
俺は横槍を入れておきながらそんなことを叫んでいた。
そして、その言葉を言い終わると同時に俺は水神のお守りで水の結界を作成する。
以前にドッペルがやったような一ヶ所だけ穴を開けることはせずに完全に通路側であるこちらと広間側を寸断してしまう。
「セリス。リリスから借りてる水神のお守り貸してくれ。」
俺の持っている水神のお守りで水の防御膜を作ってしまったのでセリスからもう一つ借りて霊体の腕を出したドッペルに持たせて水を生成させる。
それ以降は先程と同じ手順で複数の魔法で圧縮した弾丸をドッペルの固定化の魔法で固定してから打ち出す。
先程と違い今度は銃口を向ける相手がすぐそばの水の防御膜の向こう側で待機してくれていることだろう。
パラサイトパントからすれば水の防御膜を突破するための行為なのだろが今の俺からすれば順番待ちする自殺志願者にしか見えない。
「(だが、どうするつもりだ? 結界に穴を開けていないとこちらの攻撃が通らないぞ?)」
ドッペルが心配そうに俺に問いかける。
確かに俺は今も水の防御膜には穴を開けていない。
そこからの侵入を恐れてのことだが、俺はさらにここから手を加えるつもりでいる。
ドッペルの固定化の魔法が発動すると俺の魔法はその状態をキープして維持される。
そうなると逆に俺から変化をつけることができなくなる代わりに魔力さえ送っていれば魔法はその状態を維持し続ける。
その隙に俺は水の防御膜の水量を上げて圧縮。
さらにグラビティフォールを同時展開してさらに圧縮した水の防御膜を作り上げる。
「さぁ、準備完了だ。」
俺はニヤケた笑顔を浮かべてそう言い放つと引き金を引いた。
初めて行うその魔法の結果を予め知っているかのように迷いなく実行する様はドッペルやセリス、クルトには理解できないことだろう。
ドン! バァシャアアア!!
轟音を奏でる発射音の後に水をばら撒くかのような音がこだまする。
だが、放たれた水の音と違ってその水しぶきはまるで弾丸の様にパラサイトアント達に突き刺さる。
「「「「ビギィィ」」」」
小さな呻き声に似た声を上げて水の防御膜にかじりついていたパラサイトアント達が水の散弾を食らって穴の開いた羽を懸命に羽ばたかせながら地面に落ちる。
パラサイトアント達の体にも同様に水の散弾による穴が開いておりそこから紫色の血と水が垂れ出ていた。
「すごい・・・」
「再展開。」
背後から俺を支えながらその光景を見ていたセリスが小さく呟く。
俺はそんな言葉や状況を無視して再度、水の防御膜を展開する。
そうしなければ次に控えているパラサイトアント達に接近を許してしまうからだ。
魔法による一定の距離を取った安全圏からの攻撃。
それが俺の必勝法であると同時に唯一の活路だからだ。
一度でも接近を許せばそれを抗うすべはない。
魔法による身体強化に魔力量はあまり意味をなさいない。
魔力による肉体強化は肉体の持つ能力を2割や3割増しにする方法と肉体の能力値に関係なく能力値に一定量をプラスする方法がある。
全体的な能力を上げる場合は前述で筋力や耐久力などの一ヶ所のみを上げる場合は後述になる。
だが、それらに魔力によるブーストをかけるのは難しい。
肉体への魔法に対する魔力ブーストは肉体を損傷させる恐れがあるからだ。
肉体に痛みを伴うだけならまだいいが体力値が減るようなことがあれば問題だ。
回復魔法を常時かけなければならないし、もしダメージを負っても回復魔法はすでに使用中なのでかけられない。
よって、無尽蔵の魔力を手にできる俺にも肉体の強化はレベルと同程度にしか行えない。
(ま、魔法で一方的に攻撃し続ければ勝てるから問題ないか・・・)
そんなことを思いながら俺は一方的な狩りを行うのだった。




