第四十七話 広間へ
今回は短いです。
俺は四本腕との戦い以降、魔導の修行を兼ねて様々な魔法を試しながらリリスの様にクールに一撃で仕留めることはできないかと試行錯誤を繰り返す。
ただ、残念ながら今の所は成功していない。
魔法を使って向かって来るパラサイトアントを攻撃するが風の刃や氷結の魔法、雷撃に光や闇の魔法を試してみたがどれも一撃で倒すには至らない。
この辺は魔法の威力不足=レベル不足なのかもしれない。
(プロミネンスアローのような大魔術はさすがにまずいし・・・ その中間の魔法で・・・ いや、どちらにしてもある程度の被害が出るか・・・)
威力を上げればコントロールできずに余計な被害を周りに与えてしまい、コントロールできる威力では倒しきれない。
だからと言って数を撃てばやはりやり過ぎてしまう気がする。
「すごかったですね。影の魔法で相手を拘束してそこからの怒涛の魔法攻撃!」
俺を見ながら横でキラキラと瞳を輝かせてセリスがそう言ってきた。
容赦のない一方的な殺戮を行うかのようなあの戦い方を褒められてもな・・・
いや、しかしモンスターとの戦いを優位に勝つためにはやはりどうしてもそうなってしまうのだろうか・・・
魔法使いは接近戦闘が弱い。
そうなるとやはり接近される前に決着をつける必要がある。
そのためには相手の機動力を封じて一方的に攻め続けるのがセオリーのはず・・・
俺は魔法使いとして間違った戦い方はしていないのかもしれない。
そう思うことにして俺は先に進む。
あれから何度か卵の置いてある場所に出くわして四本腕と何度か対決した。
結果は勝利に終わっているが、やはりガラハットさんがいなければ勝利するのは難しかっただろう。
レベル的に勝てるはずがないパラサイトアントに単独で勝てる時点でアルトの実力はこの世界の常識を凌駕している。
無論、装備による底上げもあるがそれだけではない。
半魔人化による魔力の半無限化、リリスの精神世界で学んだ知識を利用しての上位魔法の行使。
だが、この情報はリリスと仲間であるアーシェ達三人しか知らない。
(これが魔人化による能力の向上ですか・・・ 危険極まりないですね・・・)
ガラハットにとってアルトの圧倒的な強さは魔人化によるものとしか認識できない。
その為だろうか。
ガラハットには焦りがあった。
現在の低レベルでもこの実力。
リリスと共にあることで急速に成長するアルトがもし暴走すれば、リリス1人ではいずれ対処できなくなるのは明白だった。
(今なら・・・ 今ならまだ私でも・・・)
ガラハットの中で使命感にも似た感情が芽生え始めていた。
(さて、次はどうするかな・・・)
そんなガラハットの心境に全く気付かずにアルトは次に使う魔法の選定に入る。
(ドッペルから教わった下位、中位の魔法はすでに試し終った。コントロールできる範囲で威力を上げつつか・・・ そうなると炎の魔法はダメだだな。周囲に爆散するから被害が出やすい。一点集中で威力を上げてダメージと貫通能力を高めるとしたら何の魔法だろうか・・・)
洞窟内を進む関係上、土を使って洞窟の形を変えるのはまずい。
つまり、土系の魔法は使えない。もしくは種類に制限がかかる。
闇の魔法の攻撃はいまいち使い勝手が悪いというか光と違って収束のイメージがし難いので収束して威力を上げられない。
単純な無属性の魔法弾も同様でイメージし難い。
雷も圧縮のイメージがつきにくい。どうしても雷の様に放電するイメージが湧いてしまうので強力な物は作りズライ。
風も圧縮しすぎると解放時に炸裂して周囲を消し飛ばしてしまうが炎のように熱をして残らないのでありだろう。
問題はこの閉鎖空間で空気の圧縮ができるかだ。
魔法で作り出せるのは人工的な空気の流れや圧縮だけだ。
空気自体は作れないので下手をすると俺達が酸欠になってしまう。
そうするとリリスの様に光の生成・圧縮によるレーザーが一番効率がよさそうだが、光の魔法は威力が弱い。圧縮して放つ場合は膨大な光量を作成しなければならない。
しかもそれを圧縮するのだ。
リリスクラスの魔法使いでなければできないかもしれない。
現状の俺の実力では無理そうだ。
となると、最後は水だ。
水を生成・圧縮して高速で放てばダイヤモンドを研磨する要領でウォーターカッターにできるかもしれない。
ウォーターカッターにはある程度の水量が必要だが、最も重要なのは水を押し出す圧力と速度だ。
これが高ければ高いほど切れ味は上がる。
正確には切るのではなく『その場にある物を消し飛ばす』のだが、今はそんなことはどうでもいい。
(リリスから借りてる『水神のお守り』で水の生成は余裕だ。問題は圧縮と圧力と速度・・・)
俺はマジックバックに手を伸ばしリリスから借りている銃を手に取る。
リリスからの借りものばかりで申し訳ないし、情けなくはあるが今はそんなことは言っていられない。
(試してみる価値はあるだろう。)
そんなことを思いながら歩いていると道が巨大な空間、広間に繋がっていた。
「皆さん。止まってください。」
ガラハットさんがそう言って広間に入る前で制止を呼びかける。
入り口から広間を覗き込むと巨大な円柱型の広間の様だった。
高さは四階建てのビルに相当するもので所々に穴があり、ここからいろんなルートに分岐するような感じだった。
「ここは巣に入ってきた敵の迎撃拠点です。女王の元に行くほど多くあります。このルートは女王への最短ルートではありませんがこういった場所がいくつかあるでしょうから入る前に戦闘の準備を整えてからにしましょう。」
ガラハットさんの話によると広間の中央付近や壁沿いであっても何人かが入ればその時点で大量の迎撃用の親衛隊クラスと通常のパラサイトアントが出てくるらしい。
迎撃用の親衛隊クラスは運搬用の四本腕と形が違うらしく、下半身は四本の足を持つクモの様な形で上半身は人の形をしているらしい。
面倒なので四本脚と名づけようと思う。
四本脚の特徴はクモの様に糸を出して足場を作ったり、相手の武器を封じたり相手の動きを拘束したりと厄介なことをしてくる相手らしい。
「この広間に入れば広間に繋がる複数の通路から大量のパラサイトアントが出てきます。それを倒さなければたとえ先に進んでも後ろからずっと追いかけられ続けることになり、そうすると正面から敵が来たら狭い通路の中で挟み撃ちにあいます。ですので、ここでは敵を全滅させなければなりません。」
ガラハットは広間での戦闘は殲滅戦になり、さらに複数の方向から襲い掛かってくるのでこの中に入るのは自分一人か自分とアルトの2人の方がいいと提案してきた。
ガラハットの実力ならば一人でも問題ないし、アルトも自分の身を守りつつ何とか戦えるだろう。
だが、セリスにそれができるのかとなると怪しい所だ。
ここまでの戦いでレベルは上がっている。
敵は倒していないが攻撃しているので経験値は入っている。
低レベルなセリスにはそれだけでも十分な量の経験値が入っているのでレベルも上がり戦いを繰り返すことで敵の行動の先読みもできる。
問題になりそうなのは初戦闘になる迎撃拠点にしかいないパラサイトアントの四本脚ぐらいだろう。
「セリス1人を残すのは怖いな。」
俺はそう言ってセリスを見る。
レベルが上がったと言ってもセリス1人でパラサイトアントと戦えるわけではない。
一対一ならば時間稼ぎはできるだろうが複数体に襲われれば敗北は確実だ。
俺がリリスの様に強力な結界か防御の魔法をセリスにかけて安全が確保できるわけでもない以上、俺とセリスの2人が通路で待機か3人での突撃かしか選択肢はない。
「では、お二人はここにいてください。時間はかかるでしょうが私一人でもなんとかできますから。」
そう言ってガラハットは1人で広間に入りに行こうとした。
「待ってくれ。」
俺はそんなガラハットを呼び止める。
ガラハットは広間に入る直前で足を止めてこちらを振り返った。
「少し待ってくれ。セリスの意見が聞きたい。セリスはここで待機でいいのか? なんなら、3人で広間に入るのもありなんだぞ?」
俺はセリスに顔を向けて質問を投げかける。
セリスは困ったように俺とガラハットさんを交互に見る。
今までに自分の意見をあまり聞かれたことのないセリスはどうすればいいのかわからないのだろう。
今までにあったのは結論に対しての肯定か否定かの二択であって二つの選択肢からどちらかを選ぶということはなかった。
「セリス君を中に入れるのは私は反対です。彼の実力では危険だ。ここにいた方がまだ安全です。」
ガラハットさんはそう言って俺のセリスへの質問に対して自分の意見を述べる。
それを聞いたセリスは「あ、足手まといになりそうなので僕はここで待機してます。」と言って苦笑いを浮かべた。
俺はそれを見て納得いかなかったがセリスの意思を尊重して頷くとガラハットさんを見る。
「ガラハットさん。リリスですら以前のガラシャワ戦で死にかけている。無理そうならこちらに逃げて来てくれ。」
「わかりました。」
俺の言葉にガラハットさんは深く頷くと広間へと入っていった。
そして、ガラハットさんが広間の中央に移動すると広間に繋がる無数の通路から大量のパラサイトアントが出てくるのだった。




