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第四十六話 女王へ至る道

アルト達、男チームと別れた私はアーシェとアリスを引き連れて女王の間を目指す。

その道中はごく単純な作業だった。

一応、最前線にアーシェを配置してその後ろにアリス、最後方に私。

理由は単純、前から来る敵をアーシェが引きつけて後方から私が攻撃するため。

アリスは回復・支援の魔法でアーシェのサポートをするためだ。


最も別れる前まで進んでいたように私が先頭に立って魔法で処理していくのが最速であり、最も安全な選択だ。

しかし、それを許さなかったのはアーシェとアリスの向上心だ。


(その向上心の理由はアルトなんじゃろうな・・・)


リリスはふと視線をアルト達がいるであろう方向に向ける。

リリスの考え通り、アーシェとアリスの向上心の元となっているのはアルトの存在だ。


最初に二人がアルトにあった時のレベルはほぼ同じぐらいの低いものだった。

知識に関しても二人に教わるほどにアルトの知識は乏しかっただろう。

無論、この世界での知識であって元の世界での知識も合わせればアルトの知識量はかなりのものになるのだが、この世界にいる限りその知識が役立つ瞬間は恐らく来ないだろう。


アルトは現在『冒険家』という下級職業の中でも最も珍しくあまり意味のない職種に就いている。

そのため、現在のレベルは後から入ってきたセリスよりも低いか同レベル程度だろう。

それでもアルトが強いのは何も『半魔人化している』というだけのことではない。

ただ単に半魔人化しているだけならば、あそこまでの強さは手に入らない。

事実としてクルトやドッペルはアルトほど強くない。


私の精神世界から持ち帰った膨大な魔法の知識の解読はドッペルに任せることでいずれ全てを手に入れることができるし、クルトのおかげで無限に等しい魔力を得ることができるためにレベルに縛られずにどんな強大な魔法も放つことができる。

それ故に魔法の余波で死ぬ可能性も高いのだが、それは先程のプロミネンスアローで学習済みだろう。

アルトの存在は非常に危険で危ういものだが、アルトにはその力を安全に使いこなす可能性がある。


無論、それは絶対にというわけではない。

完璧な存在など存在しないし絶対という言葉ほど信頼できないものもない。

故に、アルトには『魔人化の危険性』と『精神の分離による未知の可能性』がある。


(アルトの強さはそれらの可能性の一端が発揮されてのものだろう。それは私達の常識とは違う何かであって決して比べるべき対象ではないのだが・・・)


アリスとアーシェには焦りがあった。

本人たちの成長速度はリリスやアルトと行動することで恐ろしく加速している。

アリスは2人がいなければ未だに教会で修行中の身だろうし、アーシェは一人でダンジョンに潜りボーンソルジャーが複数体出た時点で対処しきれなくなる程度の実力だっただろう。

だが、現在の2人の実力は魔術の習得と熟練、さらにパーティーで行動することにより敵を早く多く殲滅したことによる早期のレベルアップによって単独でもボーンソルジャーが複数体出ても十分に対処できるまでになっている。


現在の装備ならばこの初級ダンジョンで最強の魔物であるゴーストすら圧倒できるだろう。

セリスの様にアルトより弱い状態で仲間になっていない彼女達にとってアルトの圧倒的な戦闘能力は彼女たちの自信を奪ってしまっていた。


(アーシェとアリスとの行動はこの戦いを最後にした方がいいかもしれんな。アルトと行動するには少し真面目過ぎる。まぁ不真面目すぎても駄目なんじゃろうがの・・・)


溜息をつきながらリリスは2人の後をついて歩き、目の前から来る敵を適当に殲滅していく。

リリスが悩むのはもっともだった。

このまま二人がアルトと行動すれば真面目な二人は『アルトにおいて行かれまい』として過剰に努力を続けることになるだろう。

そうなれば、いずれ彼女たちはその無茶に肉体が限界を迎えるか精神を病んでしまうかのどちらかに陥るのは目に見えている。

そうならないためには『アルトには敵わない』と諦めるか『半魔人化しているから勝てないのは仕方がない』と適当に流すかしてもらわなければならない。

真面目な彼女達にそれができるのか・・・


(人を育てるというのは難しいのう・・・)


そうして、リリスは頭を抱えるのだった。

そうしている間に彼女たちの進む道の先に大きな広間が現れた。

その広間に入る前の所でリリス達は前進をやめた。


広間は円柱の形をしており床の広さよりも天井が高い作りになっていた。

床から天井までの高さまでは4階建てのビルの様だった。

壁には多くの穴があり、そのすべてがおそらく通路になっているのだろう。

天井付近の穴などが女王に至る道だった場合は空を飛ばなければ辿り着けそうにない。


「ここは巣に入った侵入者を迎撃するための拠点じゃ。巣内にいくつかあるのじゃろうが、女王へと至る道には一番数多く設置されておるはずじゃから覚えておくといい。広間に入り込んだ瞬間に壁にある無数の穴からパラサイトアントがぞろぞろと出てくるからの周囲を囲まれてはお主らを守りきれんかもしれん。故に、この中での戦闘はワシ1人で行う。お主らはここで戦闘を見ておれ。まぁ、気づかれたら戦闘になるからいつまで観戦しておれるかわからんがの。」


リリスの言葉に二人は頷きを返した。

リリスの言う通り、室内に入りあらゆる方向からパラサイトアントが襲ってきた場合、全方向からの敵をリリス1人で二人を守りながら戦うのは厳しいだろう。

だが、リリス1人ならば室内の敵を焼き払えばすべて解決する。

リリスの使う魔法は完全に制御されたものなのでアルトの様に周囲を巻き込むことはほとんどない。

フレイムシーの様に広範囲攻撃系の魔法ならばその限りではないがそれも、距離を取れば問題ないだろう。


2人が頷いたのを確認してリリスは1人で広間に入った。

広間に入った。

ただそれだけでは周囲からまだパラサイトアント達は出て来ない。

だが、リリスが広間の中央付近に辿り着いた瞬間だった。


ブブブブブブブブブブブブブ


大量の羽音が聞こえたと思ううとほぼ同時に四方八方の穴からパラサイトアントが大量に現れた。

その数は10や20ではない少なく見積もっても100は存在しているだろう。

さらに穴のすぐそばで次に出てくるパラサイトアントが待機している。

そんなパラサイトアントたちの中でも異様な雰囲気を醸し出しているのは壁にへばりついた人型の虫だった。

今までのとは形の違う10体ほどの虫達。

恐らくは親衛隊クラスと言われる部類のものだろう。


「(お主達、よく見ておくといい。アレが親衛隊クラスじゃ・・・)」


アーシェとアリスの2人が壁にへばりついた虫を見ているとふと耳元から声が聞こえてきた。

その声はリリスのものだ。

リリスが魔法で声を飛ばしているのだ。

そして、リリスは親衛隊に対する簡単なレクチャーをしてくれる。

親衛隊クラスになると周囲に飛んでいる兵隊クラスのパラサイトアントに命令を与える権利があり、効率的に獲物を狩れるようになること。

そして、運搬用と迎撃用のパラサイトアントでは目的が違う為に同じ親衛隊クラスであるがその形が大きく異なること。


運搬用のパラサイトアントは二本の腕に四本の腕を持つ二足歩行の人型に近いタイプ(前回の話で出て来た『四本腕』のこと)であり、迎撃用の親衛隊には足が四本あり腕が二本あり、その形は上半身は人型になっており下半身はクモの様になっている。

お尻の先には大きな丸い腹部がついておりその中には粘着性の糸の元となるものが入っている。

迎撃任務を主に行うパラサイトアントはその粘着性の糸で相手の武器を封じたり動きを封じたりして来る厄介な敵だそうだ。


そんな説明をリリスに受ける2人だがそんな厄介な相手と戦っているようには見えない。

四方八方の穴から増援が出てくるために倒しても倒しても常に広間には100体を超えるパラサイトアントが存在する。

だが、そんな敵を魔法で瞬殺し続けるリリスの姿は戦場の支配者の様だった。

空を飛ぶ兵隊クラスは回避も防御もできずに魔法による一撃で地面に落ち、クモの様に壁を歩行しながらたまに糸を飛ばして動きを封じようとする親衛隊クラスも同じように一撃で死に絶えて地面に落ちていく。

やがて地面には大量の死骸が転がり死屍累々の地獄絵図を作り上げる。

その様子に二人が戦慄しているとリリスがポツリと何かをつぶやいた。

リリスの魔法は解除されておらず、未だに2人にはリリスの声が聞こえる状態にある。


「面倒じゃの。一撃で終わらせるかの・・・」


そう呟いた次の瞬間にはリリスの頭上に光り輝く巨大な雷の塊が出現した。

≪サンダーストーム≫

雷撃を嵐の如く撒き散らす広範囲系魔法。

サンダーストームは巨大な雷の塊から四方八方に轟音と共に雷撃を撒き散らして周囲にいる敵を殲滅する魔法だ。その性質上、周囲を巻き込むので集団戦では使えない魔法であるがリリスの放ったサンダーストームはまるで敵だけを狙いすましたかのようにパラサイトアントに攻撃を行い雷撃によって串刺しにしていく。

そして広間の敵を殲滅すると今度はアーシェ達がいる以外の穴に雷撃は吸い込まれるようにして入って行った。


雷撃の嵐というよりは雷撃の槍が無数に飛び敵を屠っていっているような感じだろうか。

その攻撃はしばしの間止むことはなく、轟音を上げながら獲物をつけ狙う蛇の如く穴の中に雷撃を放ち続けた。

数分ほどしてようやく雷撃は治まり消えた。


「掃除は粗方終わったじゃろう。顎をはぎ取って先に進もうかの。」


私達がその光景を声も出せずにただ見守っているとリリスさんが優しい笑顔を向けてそう言ってきた。


「えっと・・・ あ・・・・ はい。」


私達は顔を見合わせてそう返事をした。

きっと今の私達の顔はお互いが見る様に驚きのあまり表情の抜け落ちたものとなっていることだろう。


それから私達は広間に入って親衛隊クラスの顎の採取に入った。

リリスさんは探索の魔法を使って調べた後で、飛翔魔法を使って広間ではなく穴の先で死んでいる親衛隊の顎の回収に向かった。


顎を回収し終わった私達は女王を目指して先に進むのだった。

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