表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/69

第四十五話 二手に分かれて

二手に分かれて進むことになり、俺達の魔法で使えなくなった中央の通路以外の左右をそれぞれのチームが進むのだが・・・


「では、我々が左のルートを行きますのでリリス様方は右側をお願いします。」


「は? 何を言っておる左のルートはワシらが進む。お主らが右じゃ。」


という感じでガラハットさんとリリスの両人が『左ルートを行く』と言ってきかないのだ。

他のメンバーは俺も含めてなぜ左のルートをお互いに主張するのかわからないのでこの戦いに参加しないで状況を見守る。


「お主は同行者なのじゃから、ワシの意見を聞けばいいんじゃ!」


「いえ、ここは断固として私が左ルートを行かせていただきます。アルトさんだって左がいいですよね?!」


口喧嘩をほんの一分ほどやった後にガラハットさんはなぜか俺に話を振ってくる。


「お主! 卑怯じゃぞ!」


なぜかそれを見てリリスが抗議の声を上げる。

まぁリリスは『俺の決定に従わなければならない?』的な感じなので俺が事情を知ると左ルートを選択すると思っているのだろう。

もしくは、事情も聴かずに左ルートを選択する可能性も視野に入れての講義なのかもしれないが、俺はとりあえず事情を聴くことにした。


「ええっとですね。ダンジョンの形状と出口の位置、ダンジョン内と繋がっている位置から推測するに左ルートがダンジョンの最奥に繋がっているはずです。」


と、ガラハットさんが答える。

それを聞いてなんとなく納得した。

ダンジョンの最奥ということは女王や親衛隊といったボス級の魔獣が存在するということだろう。

リリスとしてはやりたくもないのに作戦に駆り出されたために『せめてお金を稼ごう』と思っているのだろう。ガラハットさんはギルドが支払う金額を抑えるために自分で勝った方がいいと思っているのだろう。


(いや、ガラハットさんが狩ってもガラハットさんに支払われるのか? その辺のことはよくわからないな・・・)


もしかしたら、ガラハットさんもお小遣い稼ぎのつもりかもしれないが今はそんなことはどうでもいい。

パラサイトアントの行動が止まっている内にできるだけ移動しておいた方がいい。

リリスがいる女子チームと違って男子チームは実力が不確かなガラハットさんと一緒なのだ。


「わかった。なら、左ルートはリリスに任せて俺達は右ルートを行こう。」


「え・・・?!」


俺の返答が意外だったのかガラハットさんが奇声の様な声を上げる。他のメンバーも俺の返答が意外だったのか「おお」と声が漏れているし、リリスにしても「珍しい」とでも言いたげな顔で俺を見ている。

俺としては別に無茶や無謀な行動をとっているわけではない。

そういった行動が必要な状況や使ってみたい新術しんじゅつがあるから使用しているだけなのだ。

まぁ、それを試すこと自体が無茶なのだろうからそういう風に思われても仕方がないだろう。


「さて、どちらが進むかが決まったところで行くぞ。」


俺はその場で固まった5人の意見を聞くことなく3本に分かれた道の右ルートを突き進む。

リーダーは俺でガラハットさんは同行者である故に決定には逆らえない。

リリスは自分の意見が通ったので俺に言うことはなく、他の3人も俺の決定が覆ることがないことは今までの経験で知っているので何も言わない。


「ふむ。では、ワシらも行くとしようかの。」


しばらくの間、固まっていた面々もリリスのこの一言で動き出したのだろう。

少し遅れてセリスとガラハットさんが駆け足で追いついてきた。


「いや~。まさか、最奥の女王をリリスさんに譲ることになるとは残念です。ところで、アルトさんは女王や親衛隊との戦いは良いのですか?」


ガラハットさんは残念そうに呟きながら俺を横目で見て質問を投げかける。

その瞳には自分の意見が通らなかった恨みが少しだけ混じっていた。


「上位の魔法は使いこなせないことはさっきの戦闘で分かったからな。こんな閉鎖空間でこれ以上の無茶はできないさ。それに、リリスは作戦への参加を無理強いしているからな。これくらいは良いだろう。」


俺はガラハットさんに悪びれることなく答える。

実際、先程の様な魔法はもう使えないだろう。

右手の怪我もあるので全属性の収束魔法も多用できない。

だが、ドッペルの知識には下位の魔法もいくつかある。

最底辺の魔法であるただの魔力弾よりは威力があるだろうし、使い勝手もいいかもしれない。

今回の装備は魔法使い系の装備なので魔法に対する耐性と魔法攻撃に対する補正がかかるので魔法中心の攻撃で後方からの射撃がベストだろう。


「作戦としてはガラハットさんが前衛で俺が後衛。セリスは俺の護衛でいいですよね?」


「ええ、構いませんよ。私一人でも十分でしょうが後方からの魔法攻撃があると戦闘が楽になりますからな。」


ガラハットさんは俺の作戦に反対することなく快く了承してくれた。

セリスの方を見ると異論はないようで頷きだけ返してきた。

こうして、俺達は進むことになったのだが結果は・・・


ガラハットさんの圧勝だった。

最前線に出たガラハットさんは飛んでくるパラサイトアントを瞬殺する。

リリスの様に遠距離にレーザービームを一発撃つだけというわけではないので、殲滅速度は遅いし、複数回攻撃しているがそれでも攻撃回数は4、5回だ。

2本の曲刀を振り回して舞う様に戦う様からして職業は『ソードダンサー』なのだろうか。

正直、俺の出る幕がない。

一応、遠方にいる敵に攻撃魔法を飛ばして複数体が一気に襲い掛からない様に調整しているが、正直必要ないだろう。

おかげで、俺の討伐数が24でストップしている。


ちなみに、この数字はプロミネンスアローを撃った後の数字そのままだ。

それだけあの魔法で広範囲の敵を薙ぎ払ったということだろう。

セリスの討伐数は0でこれも変化がない。

どうやら俺が地面に落としたパラサイトアントはアーシェが仕留めたらしい。


(向こうはリリスがいるから結局、討伐数は分かれた時と変わらないんだろうな・・・)


アーシェとアリスが少し可哀想になる。

せっかくの良い装備が着るだけでほとんど使わずに終わってしまうのだ。

セリスも活躍させてやりたいが残念ながら一本道を歩いているので正面から来る敵をガラハットさんが倒すと俺達の所には敵はやってこない。

護衛の必要性はなかったな。


「おや、どうやら部屋が見えてきたようですよ。」


ガラハットさんがそういうと確かに少し行ったところに脇道の様なものが見えた。

だが、ここからでは部屋には見えない。

なぜ、部屋という言葉を使ったのか俺達には分からなかったが恐らくは気配探知で悟ったのだろう。

気配察知は魔法と違って通路や部屋の構造などを調べることはできないが、レベルが上がると生物の気配からそいつがどんな奴かはわかるようになるらしい。

そこに経験と勘が加わることでその場所がどのような構造になっているのか推測できるのだろう。


ガラハットさんが『部屋』と言った場所の前まで来てその中を覗き込むと確かに奥に通路はなく、少し歩いた先は部屋の様に広い空洞になっていた。

室内に敵はいなかったが、無数の繭とその中心に倒れ伏した動物やワームがいた。

室内に入るとワームや動物たちは生きていた。


「ここはおそらく卵の保管場所でしょう。卵は女王が生む際に繭に包むことで保温して温めているのです。卵の護衛をしている親衛隊クラスのパラサイトアントは今はいない様なので今のうちに卵を叩き潰しましょう。」


ガラハットさんがこの場所の説明と指示を飛ばす。


「この動物たちはどうするんだ?」


卵の中央に倒れ伏した動物たちのことを聞くと「殺すのが手っ取り早いですね」という返事が返ってきた。

なんでも、動物たちが生きたまま捕まえられているのは孵化した幼虫が寄生するためらしい。

なんとも、気持ちの悪い話である。

繭は売れるらしいので俺達は卵を焼却処分せずに割っていく。

繭に包まれている卵は余程やわらかいのだろう。

踏みつぶすだけで割れてしまう。

本当は繭を剥がしてから割るのが正しいのだが、今回の作戦は早期の殲滅が最重要目的なのでそんな暇はない。

なんせざっと見積もっても300以上はあるのだ。

たった3人では繭を剥がして割るだけでも1日では終わりそうにない。


ガサリ


俺達が卵を割っていると部屋唯一の入り口から何かが入ってきた。

振り向くと人型の昆虫が1匹、部屋の入り口に佇んでいた。

そいつは2足歩行しているが手が4本あり背中は猫背の様に丸めて顔を突き出す様な感じでいる。

肩とおそらく腰から生えている4本の腕には一つずつ卵を持っている。


「卵の親衛隊クラスです! 皆さん気をつけてください!」


入り口付近で卵を割っていたガラハットさんが檄を飛ばす。

セリスはすぐさまクナイを抜いて俺とパラサイトアントの親衛隊クラスの奴の中心に立つ。

(パラサイトアントの親衛隊クラスは名前が長いので次からは『4本腕』と表記します)

その間にもガラハットさんは4本腕に接近して2本の剣を振るう。


ガガン!! ・・・ボチャリ


4本腕はガラハットさんの剣を4本の腕で弾き飛ばすが、卵を落としてしまう。

落ちた卵は落下の衝撃で割れてしまう。


「ピギィィイイイ!!」


攻撃されたことに対して怒ったのか卵を割ってしまったことで声を荒げたのか分からないが4本腕は怒り狂ったようにガラハットさんに攻撃を仕掛ける。

ガラハットさんは4本の腕の猛攻を2本の剣で巧みに防いでいる。


「さすがに今回は加勢がいるかな。セリス、前に出ろ。側面から攻撃してガラハットさんの援護をしろ。」


俺はガラハットさんの苦戦の様子を見て魔法を発動すると同時にセリスに指示を飛ばす。


「はい!」


セリスは俺の指示を「待ってました」と言わんばかりに飛び出していった。

やはり、ここまでの戦闘の無さは何か思うところがあったのだろう。

『遂に活躍の場が・・・!』って感じで飛び出して俺の魔術式の完成よりも早く4本腕の側面に回り込んでクナイを投げつける。


4本腕はセリスのクナイを手で叩き落とすが、それによりガラハットさんへの攻撃が一瞬遅れる。

ガラハットさんはここぞとばかりに反撃に転じるが、さすがに4本の腕を持つ虫である。

恐らく、その眼は複眼で早く動く物体を複数捉えることができるのだろう。

ガラハットさんの剣を残った腕で弾き返す。


「まぁ、それが狙いなんだがな。」


そうして2人の攻撃の迎撃に成功したパラサイトアントの背中から生えている腕の付け根に俺の魔法の矢が突き刺さる。

放たれた魔法はプロミネンスアローが属するフレアアロー系魔法の一つ上であるフレイムアロー。

ちなみにフレアアロー系の魔法はフレア(下級)、フレイム(中級)、バーン(上級)、プロミネンス(最上級)の4段階の強さがある。

俺が中級を使うのはただの見栄であり別に中級クラスの魔法を使う能力があるわけではない。


「ピギャ!ギャ!」


炎の矢が突き刺さったためか4本腕は腕を振り回して炎を消そうとするがそんなことでは魔法の炎は消えはしない。


「フン!」


その隙を突いたセリスのクナイの投擲による援護を受けてガラハットさんが4本腕の腕をかいくぐり腹部へと一刀を入れる。

腕と違い腹部は柔らかいのかガラハットさんの剣は簡単に4本腕の体を貫いた。


「ピギァアアアアア!!」


腹部の痛みに奇声を上げる4本腕に俺は容赦なくフレイムアローを投射する。

4本腕の背中には次々と炎の矢が突き刺さりその肉を焼いていく。


ブンブン!!


4本腕は4本の腕を振り回して攻撃と防御を行うが、ダメージによる疲労と暴れ回る様な大振りで単調な攻撃では腹部にまで潜り込んだガラハットさんにも攻撃は当たらない。

腕を振り回して暴れるのでガラハットさんが距離を取ると4本腕は一直線に俺に向かって走り込んでくる。

だが、俺は魔法を次々に放っているし背後を取ったことでガラハットさんとセリスの攻撃が一斉に4本腕を襲う形になる。


「ビ・・・・ ビギュイ・・・」


背後からの斬撃と足に投げられたクナイの投擲で地面に倒れ込んだ4本腕に俺はさらなる追撃の火矢を打ち込むとあることを思い出した。


(ああ、そういや火矢って最後に爆発させるんだっけか・・・)


本物の火矢ではなく魔法でできたもの故にできる遠隔による爆発をすっかり忘れていた俺は100本近くの矢が突き刺さった4本腕に止めの一撃と言わんばかりに一斉に火矢を爆発させた。


ドドドドドドドン!!


火矢はうまく同時に爆発しなかったが次々と連鎖爆発を起こして4本腕の体をバラバラにしていく。

特に一番火矢が刺さっている背中は見るに堪えないほどボロボロになっていく。

爆発が止むと4本腕はもう動かなかった。

残ったのは頭部と比較的矢が刺さっていない手足のみ。

胴体部分は見事に周囲に飛散している。


(ちょっとやり過ぎたかな・・・)


とりあえず、討伐報酬の顎をはぎ取り残った後で、残っている卵を割ると次へと進む俺達であったが…


「アルトさんは容赦がありませんな・・・」


「そうなんですよ。」


と、ガラハットさんとセリスがこそこそと話をしていた。

今回の反省を活かしてもう少しスマートに殺せるよな魔法を覚えようと思った俺だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ