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第四十四話 被害状況の確認

自ら放った巨大な炎の渦に巻き込まれた俺はリリスから借りていた魔法使いのマントに身を包み自分の身を守った。

咄嗟に張った魔鎧は俺とドッペルが二枚ずつクルトが一枚の計五枚を張ったが一瞬にして破られた。

さすがはリリスの持っている装備だけあってマントは全く焼けなかった。

だが、フードで頭は覆えるが顔は隠せない。

おかげで喉と顔の表面がものすごく熱い。

魔鎧が破られた俺とドッペルはほぼ同時に回復魔法を発動して傷を癒すことで体力値がゼロにならない様に努力した。

炎は俺の身を包んでからわずか十数秒で治まったのだろうが、炎に身を包まれている俺からすると恐ろしく長い時間に感じた。


(長い・・・ 苦しい・・・ 死ぬ・・・)


炎に包まれて喉が焼かれ息苦しくなり、言葉一つ発することができない状況で十数秒さらされることになった俺は死を覚悟した。

だが、そんな状況も長くは続かなかった。

実際は十数秒のことなので本当にわずかの時間だったのだが、終わってみれば辺りは焼け野原だった。

炎が放たれた道は俺の経っている所からほんの1メートルほど先から溶岩の様に地面や壁が赤く発熱している。


「ふぅ・・・ 何とか助かった。」


俺はステータスを表示して体力値を確認しながら汗を拭う。

体力値は回復魔法によって回復し続けているがそれでも半分近く減っている所から回復魔法をかけていなければどうなっていたか・・・

下手すれば死んでいたかもしれない・・・

そう思うと「この魔法は二度と使わない方がいいかもしれないな」と思った。


「助かったではないわい。お主は何を考えておるんじゃ!!」


俺を怒鳴り付ける声が背後から聞こえてきたので振り返るとリリス達他のメンツが青い色の結界の中に立っていた。

リリスが何か結界でも張ったのだろう。

もっともリリスとガラハットさん以外は結界の中で座り込んで身を震わせていた。

炎の勢いがすごかったから怖かったのだろう。


「すまん。やり過ぎたな。あんなことになるとは思わなくてな・・・」


俺は頭を掻きながら「悪い悪い」と頭を下げて謝るとリリスが全員を包んでいた結界を解除した。


「全くお主は魔法を使うのが下手じゃな・・・」


リリスがあきれた風に俺にそう言った。


「いやぁ、それにしても今の魔法はすごい威力でしたな・・・ いったいどうやったのですか?」


リリスの後ろからガラハットさんが感心したように俺に尋ねる。


「普通の『プロミネンスアロー』じゃないのか?」


俺としては普通にプロミネンスアローを撃ったはずなのだが何か違うのだろうか?


「普通のプロミネンスアローの余波でワシの防御魔法を破壊できるわけがあるまい。」


リリスはそう言って俺の背後の1メートル先を指さした。

どうやら、その地点にリリスが防御魔法を張って威力を緩和させてくれたらしい。

リリスの結界と俺が張った魔鎧を合わせると6枚分の防御魔法を突き破ってあのダメージだったのか。

直撃か暴発すれば死は確実の魔法を発動していたらしい。

洞窟の中という閉鎖空間だからこそこの威力なのかもしれないが、それにしても威力があり過ぎである。


(ドッペルの奴は何でこんなにも強力な魔法を覚えようとしてたんだ?)


「(いや、俺の想定よりも威力が高い。おそらく、二重に魔法が発動した可能性がある。)」


俺が何がおかしいのかと考えているとドッペルが話しかけてきた。


「ああ・・・ ドッペルは何かわかってるのか・・・」


俺はリリス達から目線を外して天井を見ながらドッペルに話しかける。

ガラハットはそんな俺を見て不思議そうに首を傾げるが他の四人は事情を知っているので特になんとも思わない。


「(なんとなくは、話せるが・・・ 霊体として外に出るのはな・・・)」


ドッペルは霊体として外に出るのが嫌らしく腕しか外に出そうとはしなかった。

よく考えればクルトも霊体部分はほとんど体から出していない。

元々の体の持ち主である俺と違って二人はあとから生まれたから体外に出ると戻って来れないとでも思っているのかもしれない。


「はぁ・・・ ドッペルが何かわかってそうだから俺は引っ込むわ。」


俺は告げて精神世界に引っ込んでリリスとドッペルの会話を聞くことにした。


「あ、ちょっと・・・!」


突如として表に出ることにドッペルが焦りの声を漏らしながら倒れそうにフラフラと歩く。

急に体を操作することになったので戸惑っているのだろう。


「ええっと・・・ どうも、お久しぶりです。」


体の表に出たドッペルは苦笑いを浮かべながらリリスを見る。

先日の件でリリスに対する恐怖心があるのかもしれない。

逆にリリスは落ち着いている。

驚いたのはガラハットさんぐらいだった。

アーシェ達3人なんかは寧ろドッペルの魔法講義を受けているので俺よりも印象がよさそうだった。

ちなみに、ドッペルと変わった時点で髪の色が変化するのでガラハットさんはそれで驚いている。


「ええっと。さっきの魔法の件ですよね?」


ドッペルは恐る恐るリリスに話しかける。


「そうじゃ、並みの魔法ではない。ただのプロミネンスアローであの威力は出ない筈じゃ。いったい何をしたんじゃ?」


リリスは怪訝そうにドッペルに問う。


「魔法を使う際にアルトに手伝ってもらいながら魔術式の展開を行ったのですが、これがなかなかうまくいかなかったので、魔法の詠唱と術式の展開で双方の欠点を補うことで一つの魔法を形成しようとしたのですが・・・ アルトにプロミネンスアローの知識を渡した時に術式の方も同時に渡してしまい・・・」


ドッペルはバツが悪そうに顔を伏せた。


「なるほど、アルトが詠唱と同時にお主の展開していた術式を補助でなく同時に形成してしまったのじゃな・・・」


リリスは状況をいち早く理解したのかそう言って納得したように頷く。


「はい・・・」


ドッペルはガックリと肩を落として項垂れながら肯定した。


「つまり、どういうことなのでしょうか?」


話の意味が理解できなかったアーシェが背後からリリスに問いかける。


「つまり、詠唱と術式で同じ魔法を同時展開して発動したんじゃよ。発動地点が同じじゃったからワシらの眼には一つの魔法が完成したようにしか見えなかったが、実はあれは二つの魔法が合体して出来たもんだったんじゃ。」


魔法の合体。

それは高度で難しいもの・・・

では、実はない。

二つの全く違う魔法ならば高度で複雑なものであるが、同じ魔法を同時展開する場合は特に難しい魔法ではない。

なにせ同じ魔法を合体させるだけなのだ。

火のついた紙に火のついた紙を合わせて火を大きくする。

ただそれだけのこと。


身体強化魔法でも実は同じことをしている。

身体強化魔法にも術式タイプと体内の魔力を操って行う魔導タイプの二種類があり同時に使うことで相乗効果が得られる。

無論、魔力を二倍消費するので瞬間的な能力は向上できても長期的には使えない代物だ。


プロミネンスアローは≪フレアアロー≫系統の魔法の最上位種に位置する魔法だ。

当然使用される魔力も多く低レベルで下級職な上に魔法専門職でもないアルトに二つの魔法を同時に発動するだけの魔力量は普通なら存在しない。

だが、半魔人と化したアルトには体外からの魔力の吸収によりその問題は意味をなさい。

さらに、魔人と化した人間は無限に魔力を使えるだけではなく魔法の威力も厄介になる。

だからこそ、魔人化は恐れられているのだ。

例えば下級職のレベル20が魔人化した場合の魔法の威力は中級職のレベル2程度と同等である。(下級職から中級職に上がる最低レベルは75である。)

それほどに強大な力を持つ存在が魔人だ。

そんな魔人に半分以上足を突っ込んでいるアルトの能力値はレベルよりも30ほど高いのかもしれない。


「その上、あの時は魔力の供給が十二分にあったので魔力によるブーストがかかってましたからさらに威力が上がっていたんですよ。」


ドッペルが最後のダメ出しにそんなことをつぶやいた。


「な・・・ そんなに吸収できるのか・・・」


リリスは絶句したのか言葉を言い終わった口がふさがっていなかった。

それはそうだろう。

プロミネンスアロー二発分+αの魔力をあの時に持っていたというのだ。

その前に複数の魔法を起動して大量の魔力を消費していたにもかかわらずだ。

アルトの魔力吸収量はリリスの想像の遥かに上を行っていた。


魔力のブーストとは、魔法を使う際に必要よりも多く魔力を使用してその威力を上げる方法である。

ただ、魔法は規定量を使ったところが100%の威力で無駄が一番少ないのでほとんどそんなことをする人はいない。

逆に強者ほど少ない魔力で高効率の魔法を目指すので戦闘では滅多にお目にかかることのない技術である。

そもそも威力が足りないのならば『より上位の魔法』を覚えれば問題はないのだ。


(まぁ、プロミネンスアローを超える魔法はほとんどないから仕方ないのかの・・・)


「なるほど、だいたいの事情は分かった。しかし、今みたいな技は使用禁止じゃ。ドッペル。おそらくお主の方がアルトより魔法の知識が多いな?」


「ああ、アルトは知識は持っているが理解していない。だから、知ってはいても魔法は使えない。使うには理解する必要があるから俺からの情報提供が必要だ。」


リリスの言葉に頷きながらドッペルは答えた。

ドッペルの言う通りアルトはリリスの精神世界で得た知識を記憶してはいても理解はしていない。

正確には理解するための時間がないだけなのだが、現状ではそれは言う必要のない事実だ。


「うむ。場所が場所だけにあまり大規模魔法を使わん方がいいじゃろう。こんな風になってはこの道はもう使えんからの。」


そう言ってリリスはドッペルの後方の道を指さした。

その道はまだ天井も壁もが赤々と燃えるかのように赤熱していた。

この道の交通は不可能だろう。

幸い熱のせいでパラサイトアントの方もこの道を通ることはできそうにない。

通れば放たれる熱量だけでパラサイトアントの羽は燃えてしまうことだろう。


「先程の魔法の影響で敵の進軍も止んでおる。今のうちに二手に分かれて進むとしよう。」


リリスの提案にその場にいる誰もが頷いた。

三手に分かれた場合は戦力的に問題が出るが二手の場合はリリスかガラハットさんのどちらかが入るので実力的な問題はない。


「どのようにして別れますか?」


アーシェがリリスに向かって尋ねる。

リリスはそれには答えずにドッペルの方を見た。

その視線に全員の視線がドッペルに集まるとほぼ同時にドッペルの髪の色が赤色から赤黒い色に変化した。

アルトと入れ替わったのだ。


「そんじゃ、男女で分かれるか。ちょうど三人ずつだしな。」


「へ・・・?」


体をドッペルと入れ替わった俺がそういうとガラハットさんが奇声を上げた。

ガラハットさんは女性陣(セリス含む)を見つめた後で首を傾げると俺の傍によって耳元で話しかける。


「もしかしてリリスさんは男性なのですか?」


「誰が男じゃ!!」


「はうあ?!」


ガラハットさんは周囲に聞こえない様にアルトの耳元で話しかけたはずだがリリスには聞こえていたらしく怒鳴られると同時に金的を食らった。

見ているこっちまで痛々しくなる。

セリスもそうなのか内股になって股間を抑えている。

しかしなぜだろう。

彼がやるとセクシーポーズに見える。


「あうあうあう・・・」


ガラハットさんは少しの間ピョンピョンと跳ねながら股間を抑えていた。

落ち着くまで待つしかないので数分待つことになった。


数分後


ガラハットさんが落ち着いたところで「セリスは男なんだよ」と教えてやるとガラハットさんは「ええ?!」と大声を出して驚いていた。

まぁ、そうなるよな。

気持ちは分かる。


「伝説の生物、男のが現実にいたなんて・・・ これは世紀の大発見・・・・」


ガラハットさんは妙な独り言を呟きいていたが俺達は無視した。

そうして、俺達は二手に分かれて先を進むことになった。

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