第四十二話 作戦開始
パラサイトアント殲滅作戦がに参加することになった俺達はギルド内へと足を運ぶ。
作戦に参加するメンバーはギルド内部にある訓練施設に集合した。
集合した訓練場はドッペルが魔法の修行をするのに使っていた何もない居場所の様だ。
作戦に必要な地図の様なモノが中央に広げられている。
地図は大きく正方形の形で一辺の長さが5mはある。
その地図を踏まない様に作戦に参加する冒険者が四方を囲むように話を聞く。
「ええ、では作戦を説明します。」
地図の上に乗る様にガラハットさんが立ち作戦の概要を説明する。
「パラサイトアントの巣はダンジョン内に繋がっている穴が3つ。地上に出ているモノが2つあることが確認されています。我々はその五つの場所全てから同時に進行します。そのため、まずはこのメンバーを五つのチームに分けそれをさらに二つから三つに分けてます。二つに分かれたチームは一つは突入班。ももう一つを穴の外からパラサイトアントが返ってきた時のや巣から逃げるのを阻止する拠点防衛班とします。拠点防衛班はパラサイトアントを一匹も逃がさない様に殲滅してください。突入班は女王と親衛隊、それから卵と幼虫の殲滅をお願いします。女王と親衛隊は討伐部位証明である顎の回収を、幼虫や卵は破壊すると成虫のパラサイトアント同様に皆様に事前にお渡しした討伐数確認のためのアイテムに自動でその数値が加算されます。卵についている繭やその原料である女王の腹部にある液体は換金アイテムですが今回の目的は殲滅なので集めるのは作戦終了後にお願いします。班は実力や人数、実績に合わせてこちらで決定いたします。無用な争いの内容に変更などの手続きはギルドを通してください。こちらに無断での変更は作戦からの脱退とみなしますので討伐報酬金はありませんからね。では、私からは以上です。」
そういうと作戦に参加するメンバーの下にギルド職員が寄っていく。
俺達の下に来たのは豹の獣人であるリズさんだった。
「こちらの用紙に班のリーダーとそのメンバーをお書きください。」
リズさんが渡してたメンバー表に自分たちの名前を書き込んで渡すとリズさんは帰って行った。
「リーダーは当然の様にアルトなのですね・・・」
何か不満でもあるのかアーシェがそう呟いた。
まぁ、実力的には断然リリスの方が上なので言いたいことは分からなくもない。
「いやなら作戦から抜けるか?」
「そんなことは言ってないでしょう。」
俺の問いにアーシェが頬を膨らませて反発する。
そんなアーシェをアリスとセリスの2人が宥めていた。
「アルトよ。今回の敵は強い。一度帰って以前ガラシャワ戦で着た装備に着替えんか? あと、今回の戦闘は私が前線に立つぞ。よいな。」
リリスは提案と共に今回の作戦での行動を確認する。
「服装は・・・ そうだな。着替えた方が安全か・・・ ああ、でも今回はあのガンマンスタイルじゃなくて普通の魔術師的な服装がいいんだがあるか?」
「お主様の装備は色々と揃えておるから問題ない。あとは・・・」
そう言ってリリスはアーシェ達三人を見た。
三人とも駆け出しの低レベルの冒険故にその装備は装備といえないほどに頼りない。
アーシェやアリスはまだ戦士や僧侶というのが判る様な装備をしているがセリスに関しては戦闘様の衣服ではなく一般的な服装だ。
「お主たちもついて参れ。」
そう言ってリリスは三人にも後をついてくるように促すとギルドから出ようとした。
「あの、何も言わずに行って大丈夫なんですか?」
そんなリリスを見てアリスが不安げに周囲を見つめる。
周囲の冒険者たちはギルドの職員や冒険者同士で何やら話し合いをしていた。
「大丈夫じゃよ。」
そう言ってリリスが出入り口の方を指さすと兎の獣人であるミーファさんが入り口に立ち看板を持っていた。
看板には『パラサイトアント殲滅作戦 集合時刻 9:00 集合場所 ダンジョン入り口』
「班は集合後に発表します。不服はその時にリーダーさんがギルド長であるガラハットさんに行って下さい。ダンジョン探索用のアイテムはここで受け取ってから移動してください。」
そして、ミーファさんが言葉で他に必要そうな情報を発していた。
俺達は通り過ぎざまにミーファさんからダンジョン探索時の許可証代わりのアイテムを受け取ってからギルドから出た。
ミーファさんは俺を見るととても冷たい目を向けてきた。
俺のせいってわけじゃないけど申し訳なくなった。
顔やスタイルが好みだったのですごく残念だった。
「ということじゃ、行くぞ。」
リリスの言葉に促されて全員がリリスの後についてギルドから出て宿に向かった。
宿についた俺達はリリスが渡した衣服に着替えるために男女で分かれる。
のかと思ったが・・・
「アルトの衣服はサイズがピッタリじゃろうが、セリスの服は調整が必要じゃからワシの部屋に来い。」
との一言でリリスやアーシェ達と一緒に女子部屋へと入っていく。
「え?え?」
と三人を見ながら驚きの声を上げるセリスだったが三人は気にしていないのか普通にリリスの部屋に入って行った。
(セリスは男だよな・・・? それとも、あれがラッキースケベ体質ってやつなんだろうか・・・)
残された俺には謎が残るばかりであった。
着替えが終わり一階に降りて宿の食事スペースで待っていると四人が下りてきた。
「ほぅ・・・」
四人は見違える様に綺麗な装備を身に付けていた。
その為だろうか四人はいつもより輝いて見える。
周囲の人達もそう思ったのか視線が四人に集まった。
アーシェは体にぴったりフィットした青を基調とした鎧を着ていた。
それに合わせて下に着る衣服や装飾、剣や盾までも美しく洗練されたものを身に付けている。
元々整った顔をしているアーシェが着ると美しき女性騎士か戦乙女の様であった。
盾が少し大きくて大変そうなのは男性の守護騎士が持ちそうな大きな盾を持っているからだろうか。
剣もいつも使っているレイピアの様な細身の剣ではなくしっかりと幅の広いバスタードソードの様なものを身に付けていた。
アリスの服装は僧侶なのにもかかわらずこちらも鎧だった。
白を基調にした純白の鎧に胸の部分に合わせて張り出した胸部が彼女の豊満さを強調していた。
ただ手に持っていメイスが清楚で可憐なその出で立ちに似合わないほど凶悪そうな形をしているので目についた瞬間にちょっと引いた。
メイスの色が赤黒いのは血がついた使用済みだからなのか、それともそういう色合いなのか・・・
きっと後者だろう。
そう思うことにした。
セリスは・・・
実は女の子だったのだろうか。
鎧を着ている2人よりも明らかに露出面積が多い。
女性忍者であるくノ一が着る様な服装に腰に小刀をさしている。
下半身のスカート部分の丈が短いからだろうか先程から押さえている。
逆にそれが可愛らしく見えてしまうのはやはり仕草が一番女の子らしいからだろうか?
いや、それよりも本当にセリスが男なのか確かめたくなってきた。
だからといって衣服を剥いでの確認や一緒に風呂に入ってなどといった行為ができない。
というか、しちゃいけない気がするのはなぜだろうか・・・
男色かと思われる可能性があるから? 女性であって欲しいという願望から?
よくわからないがこの件に関してはこれ以上考えないことにした。
最後はリリスだ。
以前ガラシャワ戦の時に着ていた喪服の様な黒い服ではなく、今日の衣服は深い紫のマントにとんがり帽子という魔女っ娘の様なスタイルだ。
普段持っていない小さな杖の様な物を持っている。
魔法のロッドか何かだろうか。
だが、黒いマントから覗く白く明るい衣服のおかげだろうか暗いイメージみたいなものはなく落ち着いた印象を受ける。
「待たせたの。行こうか。」
「ああ。」
リリスに促されるままに席を立ってダンジョンへと向かう。
「あの、本当にこんなに良い装備をお貸し頂いていいのですか?」
アーシェが不安そうに尋ねる。
あとで貸し出しの賃金を求められたらとても返せそうにないからだろうか。
それとも、戦いの中で傷ついた時の弁償を気にしているのだろうか。
三人の装備は真新しく使われた形跡がない。
リリスの装備は昔使われていたのか丁寧に補修がされているが歴戦の魔法使いが着るのに相応しく新品同然ということはなさそうだが、それでも古くぼろい感じは全くしない。
「かまわんよ。買ったは良いが使っておらん不必要な装備じゃからな。それにアルトほどの金はかけておらんからの。」
リリスは気にするなと言わんばかりに手を振る。
「俺ほど」というのは装備の金額だろうか?
俺の装備は普通に魔術師風の装備なんだが、もしかして以前のものよりお高い?
それとも、3人の装備が安いのだろうか?
見た目からは以前着た物や今身に付けている物、アーシェ達の装備と何がどう違うのかわからない。
「どう見てもサイズ的に着れそうにないのにどうして買ったんだ?」
俺は自分の抱いた何気ない疑問を口にする。
「秘密じゃ。」
リリスは一言そう言って俺の言葉を切って捨てる。
「答えるつもりはない」そんな雰囲気を醸し出すリリスに俺はそれ以上何も言えなかった。
ダンジョンの前に到着した俺達を見て周囲の視線が集まる。
低レベルなのに明らかに高級な装備をしているのだ。
そうなるのは当然だろう。
「異様に視線を受けて落ち着きませんね。」
セリスはそう言って周囲の視線から隠れる様に俺の陰に隠れる。
女性の陰に隠れないのは男としての精一杯の抵抗なのか。
それとも、俺に対する信頼度が高いからなのだろうか。
(あんな可愛い子に抱きつかれてうらや・・・ いや、作戦前に不謹慎だ!!)
(なんであんなに女の子が多いパーティがあるんだ!!)
(装備高そう・・・ さらにエロい・・・ そして、そんな女達に囲まれてるあいつは死ねばいいのに・・・)
そんな俺達を見つつ周囲の人間は恨みがましく俺を睨みつける。
セリスの行動でさらにその恨みが増しているような気がするのだが・・・
これがセリスの作戦でないことを祈るばかりである。
「みなさん。御揃いの様ですね。では、突入地点と班を発表しますのでリーダー方だけ集まって頂けますか?」
俺が心の中で信じてもいない神に祈っているとガラハットさんとギルド職員が何名かやってきた。
皆、普段の姿と違い戦闘用の衣服や鎧を纏っている。
ガラハットさん達も戦うつもりなのだろう。
俺は一応リーダーなのでガラハットさんの所に向かう。
リーダーが全員集合したのを確認してからガラハットさんが話し始めた。
「まずは、それぞれの班の役割とどこの場所を担当するかを発表します。」
そう言ってガラハットさんは班ごとの役割と突入地点を説明する。
俺達はダンジョン内部の穴の中の三つある内の一つから突入する班となった。
「では、班と突入場所は以上です。異論がある人は突入前のギルドからのアイテムの補給中にお願いします。それ以降の変更は認めません。勝手に変更をしない様に各班にはギルドから監視兼手助けとして1人派遣します。では、各自ギルドからの支援アイテムを受け取ってから順次指定の場所に向かって下さい。」
ガラハットさんの話が終わるとリーダーは各自解散となった。
皆、班に対する異論がないのか誰もガラハットさんの所にはいかなかった。
俺は仲間の下に戻ると聞いた内容を説明して皆で支援アイテムを受け取りに行く。
「どうぞ。」
支援アイテムは回復用のアイテムが1人につき5つほどと各班に地図が一つ渡されるだけだった。
「この程度のアイテムで凌げるのかの・・・」
何とも頼りない支援アイテムにリリスが不安げに見つめる。
「リリス様たちの所ならばアイテムなしでも余裕でしょう?」
そんなリリスの背後から声をかける人がいた。
振り返ってみるとガラハットさんだった。
「この班には私が同行します。出口の位置と推測ではこの班の突入点が一番女王に近いですからな。」
そう言って俺達に声をかけるガラハットの全身からは闘気が満ちていた。
(えらいやす気満々だな・・・)
「お主、見かけによらず血の気が多いんじゃの。」
俺と同じ感想に至ったのか。
リリスがそう言って肩をすくめる。
「ははは。さて、行きましょうか。」
こうして、ガラハットさんに促されて俺達はダンジョンに入って行った。




