第四十一話 パラサイトアント殲滅作戦
休日が終わった翌日の朝。
俺はいつもの様に目覚めてリリスと共に朝食を取りギルドへと向かう。
ギルドの前にはいつもよりも多い冒険者の群れができていた。
その群れの端でアーシェ達三人が俺達を持っていた。
「「おはよう」」
「「「おはようございます」」」
俺とリリスが挨拶をすると三人も挨拶を返した。
三人はどこか浮かない顔で俺を見つめる。
昨日の夕食時のドッペルとリリスの会話で俺の精神が三つあるという事情を知ったことに対するものだろう。
まぁ、俺の霊体を見ているから嘘だとは思っていないだろうが暴走の危険性があることは変わっていないので、それに対する心配かもしれないが、今はそんなことはどうでもいい。
「ギルド前のこの集まりはなんなんだ?」
俺は冒険者の群れの方に視線を向けて三人に尋ねた。
「えっと、パラサイトアントの巣が見つかったそうでこれから殲滅部隊を派遣するのでその募集をかけているようです。」
アリスが少し余所余所しく答えを返してくれる。
「殲滅ってことは巣の場所が分かったのか」
「ああ、えっと。全部じゃなくて以前から探していたダンジョンの方だけみたいですけど。そうみたいです」
セリスが補足説明を教えてくれる。
以前として俺を恐れたような態度だが話しかけてくれているので今の所大きな問題ではないだろう。
時間をかければ関係の修復はできるかもしれない。
まぁ元からそこまで仲良くなかったので修復もクソもないのだが・・・
「殲滅作戦が行われるってことは今日無理にダンジョンに入らなくても明日にから行くことにしても問題ないのかな?」
俺は三人に一応、今日の予定を確認する。
三人は顔を見合わせてどうするかを考えているようだった。
殲滅作戦で今日にでもダンジョン内が正常に戻るならば危険を冒してまでダンジョンに入る必要はない。
明日、安全なダンジョンを攻略すればいい。
魔鎧を覚えたからといって三人の実力ではパラサイトアントを倒すことはできないのだ。
いつダンジョンが元に戻るかわからない状態ならばまだしも、たった一日のロスならば問題はないだろう。
「いや、殲滅作戦が終わっても数日は様子を見んといかんからすぐに元に戻る訳ではないぞ。それに殲滅作戦も戦力がどの程度揃うかによって殲滅速度が変わるからいつまでかかるかはわからんのじゃよ。」
リリスがそう言って俺の提案に否定的な答えを返した。
どうやら一日で終わることではないらしい。
数日様子を見るのは巣のパラサイトアントを倒してもすでに寄生虫の魔物や魔獣が倒されるかパラサイトアントが羽化するまでは絶対に安全ではないということだろうか。
リリスが居れば問題ない気もするが『もう安全だ』と油断した気持ちでダンジョンに入るのは確かに危険だろう。
(そう考えると今日から普通にダンジョンに行った方が緊張感があっていいのかもしれないな・・・)
などと考えている俺達に声をかける人物が現れた。
「やぁやぁ、みなさん。おはようございます。」
そう言って現れたのはガラハットさんと受付にいる兎の獣人の人である。
兎の獣人さんは俺を見るとなぜか面倒くさそうな顔をした。
いったいなぜだろうか? 心当たりは全くないのだが・・・
「なんじゃ、何か用か。」
リリスはガラハットさんを見るやいなや不機嫌な態度を取る。
まぁガラハットさんが出てくるのは面倒事が起こっている時だからな。
ガラシャワの時も俺の赤毛赤眼の時も・・・
半分は俺達の責任か・・・
今回は相手が俺達に話を持ってくる感じかな・・・
「まぁそうおっしゃらずに。リリスさん達も是非パラサイトアント殲滅作戦に参加ください。報酬は弾みますぞ。」
そう言ってガラハッドさんはダンジョンに入るためのアイテムと腕時計の様なモノを差し出してきた。
突然差し出された物をアーシェ達三人は流されるままに受け取り、俺とリリスは「なんだこれは?」という表情だけして受け取らない。
腕時計の様なモノには時計ではなく何か数字を計測するためのモノがついていた。
「これは『討伐の腕輪』というものです。指定した対象を討伐すると計器が反応して数字が加算されます。これにより誰が何体討伐したかがわかる様になっております。」
ガラハッドさんは俺達に差し出した物とは別に自分の腕に付けている討伐の腕輪を見せる。
俺はそれを聞いて関心を浮かべるが、リリスはすでに知っていたのだろう。
「そんなことはわかっている。私が言いたいのはなぜそれを私達に差し出したんだお前は?」という表情だ。
先程のアイテムを差し出された時の俺とリリスの表情は同じ「なんんだこれは?」というものだったが、アルトとリリスの心の内では全く違うものだった。
アルトは見たことも無い物に対する好奇心の様なモノであったが、リリスのそれは「討伐に参加すると言った覚えがないのになぜそれを差し出すんだ?」というものだ。
「討伐に参加していただきたいのですよ。何せ今は人手不足ですからな。リリス様ほどのお方ならばパラサイトアントの殲滅なぞ容易でしょう?」
ガラハッドは手に持ったアイテムをリリスに差し出しながら下手に出てなんとか作戦に参加してもらおうと話を持っていく。
「いやじゃよ。めんどくさい。」
「そこをなんとか。後進の育成のためにお願いしますよ。ね?ね?」
ガラハットさんはリリスのご機嫌をうかがいながらもチラチラと俺を見てくる。
リリスが俺の発言に対して弱いので俺に後押しして欲しいのだろう。
そんな俺達のやり取りを見ながらアーシェ達三人が手渡されたアイテムを見てつけるかどうか迷っていた。
ダンジョンに潜るのはいいとしてもさすがにパラサイトアントの巣に行くのは抵抗があるのだろう。
彼らの実力では自分の身を守ることはできても討伐はできないのだ。
そんなアーシェ達が悩んでいる姿を見てガラハットが彼らに向き直った。
「大丈夫だよ。幼虫の討伐や卵を破壊するのは君たちにだってできる!成虫の方はリリスさんに任せれば問題ないさ!」
ガラハットはそう言って三人にも作戦への参加を進める。
余程人が集まらないのだろう。
他の街からの応援は戦争が間近にあるかもしれないので出ないだろうし、この町にいる冒険者は初心者用ダンジョンに潜る様な低レベルな人たちだけだ。
リリスという戦力は貴重なのだろう。
(しかし、えらい腰が低いおっさんだな。リリスを引き入れるために俺やアーシェ達にも下手に出て嫌がる・・・)
俺はガラハッドの執念にも似た強引さに少し恐怖した。
このおっさんは実はすごい交渉のうまい人なのかもしれない・・・
現にアーシェ達三人は俺の方を見て「リリスさんを説得して・・・」と眼で訴えかけてきている。
「報酬はどのくらい出るんだ?」
とりあえずは話に乗った振りをしてすることにした。
報酬がよければ前向きに検討しよう。
「作戦に参加するだけでの報酬はないけど。討伐報酬は結構いい額だよ。成虫のパラサイトアント一体につき銀貨3枚ですね。幼虫や卵の破壊は10毎に銅貨3枚で取引します。あと、幼虫や成虫は倒しても素材が手に入りませんが卵を包んでいる繭は集めれば1キロ銅貨50枚で取引します。」
ガラハットさんはそう言って説明を終えた。
なぜかそれを見てリリスがガラハットさんをさらに睨んだ。
その眼からは「まだ説明が足りてないだろう?」という目をしている。
ガラハットさんはリリスの凄まじい眼力に気圧されて出て来た汗を拭きながら説明を再開した。
「ええっと。巣にいる女王を倒しますと報酬として銀貨8枚。巣の内部にいる巣を守るパラサイトアントの親衛隊は一匹につき銅貨5枚で取引します。どちらも討伐部位証明である顎を取ってきてください。見た目が他のやつと全く違うのですぐに分かると思います。女王の腹部には繭の原料となる粘着性の物質があるのでそれも持って帰ってきてくれれば1キロ銀貨1枚で取引します。」
ガラハットが黙っていたのはパラサイトアントの女王と親衛隊の値段と繭やその原料の値段説明だった。
俺からすれば換金部位のないパラサイトアントの成虫に討伐数に応じた値段が貰えるだけでも儲けものの様な気もするがリリスにはそれが不足だったらしい。
まぁ確かに親衛隊や女王といった危険があるのにそれに対する説明や報酬がないのはおかしいかもしれない。
「報酬としてはどうなんだ?」
ガラハットさんの説明が終わったところでリリスに相場を尋ねる。
「いい値段じゃよ。状況的に金銭不足かと思ったが普通に相場相当じゃな。」
リリスは不服そうな顔をしながらも答えを返す。
ガラハットはその答えに満足したように笑顔を浮かべて俺を見つめる。
俺が参加を表明することに期待しているのだろう。
俺が参加すれば流れ的にリリスの参加は確実だ。
そうなれば集まった人数や実力に関係なく作戦はスムーズに終わりを告げるだろう。
リリスの実力はそれほどに高いのだ。
「どうするかなぁ~・・・」
俺はなんとなく嫌そうな顔をするリリスを見て参加するかどうか迷ってしまう。
いつもの様に傲岸不遜にリリスの意志を無視して参加すれば惚れた弱みでリリスは俺に付き添て参加するだろう。
何故かそれが俺の心に棘を刺して躊躇われる。
一夜を共に過ごしたから情が移ってしまったのだろうか?
そんな煮え切らない俺を見てガラハットさんは連れて来ていた兎の獣人の女性に何かを耳打ちした。
女性はなんだか少し嫌そうな顔をしながら俺の前に出てくる。
「ええっと・・・ デートの話だけど、当日にバックれるつもりだったけど。参加してくれたらいってやってもいいよ?」
女性はそう言って頬を赤らめて頭を掻きながら恥ずかしそうにそう言った。
その言葉にアーシェ達三人は驚きの表情を浮かべて、ガラハットさんは勝利を確信した様な笑みを浮かべる。
リリスは眼を見開いて俺と獣人の女性を見る。
その瞳と表情は驚きに満ち満ちていた。
「は? デート? 何の話だ?」
ただ、話を振られた当の本人である俺には何のことか皆目見当もつかないので素で返す。
その言葉を聞いた瞬間だった。
バチン!!
兎の獣人女性の平手が俺の左頬にヒットした。
なぜ叩かれたのか分からず俺は目を白黒させると女性は「最低!」と一言言い残して怒気を帯びた状態でギルドに戻っていく。
残された者達の間にはただただ静かな静寂が訪れるのだった。
「ちょっと席を外すぞ・・・」
静寂の中に佇むこと数分。
俺はそう言い残して一人宿の自室に帰った。
仲間達は誰も一言も発さずにそれを見守る。
俺が去った後にリリスは事情を知っていそうなアーシェ達やガラハットに何かを問いただしていた。
自室に戻り1人になったところで俺はベッドに倒れ込んで精神世界に入る。
精神世界に入ると足元で土下座をしたクルトが待っていた。
そのすぐ傍にはドッペルが気まずそうに立っている。
「説明を貰おうか・・・」
俺の怒気を多分に孕んだ一言に二人はビクッと体を震わせる。
そして、情報共有後に俺は2人に二対一での戦闘訓練を提案した。
無論、一人を苛めるのではなく俺一人対ドッペルとクルトの2人だ。
そう、これは訓練なのだ。
だから決して全力で襲ってくる二人をこちらが一方的に凌辱し虐げ苛めても問題はない。
二対一という不利な状況で戦う俺はただ必至なだけなのだ。
2人が泣こうが叫ぼうがそんなことは関係ない。
命を懸けて戦う可能性のあるこの世界で弱い二人を強くしようとするこの行為は俺の愛情であって決して二人に対する罰でもストレス発散のための行為でもない。
俺はただ二人に強くなって欲しいだけなのだ。
そうでなければこの世界では生きていけないのだから・・・・
ドッペル「こ、殺さないで下さい。お願いします。どうか命だけは・・・」(土下座)
クルト「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。もうしませんから・・・もうしませんから・・・」(泣きながら地面に頭を擦りつけて)
俺「次からは隠し事はない様にな」(ニコ ← とてもいい笑顔で)
2人同時に「「はい!!」」
俺の愛情が伝わったのか二人はとてもいい子になった。
2人の返事に満足して俺は起き上ることにした。
この後、ギルドに戻って参加することを仲間に伝えた。
リリスは「クルトか?ドッペルか?」と不敵な笑みを浮かべて聞いて来た。
とりあえず「クルトだ。」と答えるとリリスは「そうか。消すなら手伝おうか?」ととても良い笑顔で尋ねてくるが、それは遠慮した。
「そうか残念じゃ。しかし、ちょうど良い事にストレスの発散はできそうじゃな・・・」
こうしてリリスも快くパラサイトアント討伐作戦に参加することになった。
俺もまだ怒りが収まってないのでその提案には大賛成だ。
ブルブルガクガク
そんな俺たち二人を見て周囲の人々は戦慄していた。
(パラサイトアント可哀想・・・)
これからパラサイト殲滅作戦に参加するメンバーが抱いた共通認識がなぜかこうなっていたことにアルトとリリスだけは気づかなかったという。
人によっては小説の長さ一話につき1000文字とかもあるよね。
その方が毎日更新しやすいのかな?
まぁ毎日はしんどいので書かないけど、更新速度アップのために5000文字より少なくてもアップするかもしれません。
気分しだいの作品なのであまり期待はしないでね。
もう一つの方もそういう更新の仕方になるかもしれませんが悪しからず。




