第三十八話 休日 午前 後編
午前だけでこんなに長くなるとは・・・
午後は省いてもいいかなと思っているので書かないかもしれません。
いつの間にかブックマーク数が10件を超えているぞ!!
少ないって?
いや、こんなものじゃないの?(実力的に)
クルトはパラサイトアントに囲まれ救援に来てくれた兵士達やアーシェ達との合流はできそうにない。
絶望的な状況に呆然としているクルト。
彼にはこの状況下からの逆転手がない。
目の前のパラサイトアント一匹すら勝てないのに後方の戦線に参加するなどできない。
目の前のパラサイトアントはただ目の前の得物が魔力切れになるのを待っているのか。
クルトの周囲を飛んだまま襲ってはこない。
「(・・・)」
「(くそう・・・どうすれば・・・)」
クルトは絶望に打ちひしがれてただただ目を閉じて状況が好転するのを待つ。
もしかしたら、リリスが助けに来るかもしれないとそんな甘えが彼の感情を支配した。
「(か・・・)」
「(ん?)」
クルトはどこかから聞こえる声に目を開き耳を澄ます。
「(代われ!クルト!)」
すると、心の内から声が聞こえた。
「(この声は?! ドッペルか?! 代われってお前・・・ この状況を何とかできるのか?!)」
「(いいから代われ! 手の痛みでアルトが起きるかもしれん!)」
精神を表に出していないため肉体の痛みはドッペルとアルトにはあまり影響はない。
しかし、微かな違和感はある。
その違和感でアルトが起きるかもしれないと思ったドッペルはクルトに代われと命じる。
クルトも情報の共有でドッペルが回復魔法を習得していることを知っていた。
「(分かった。)」
クルトはすぐに精神世界に引っ込むとドッペルが表に出てくる。
この一瞬の交代の間に魔鎧が解除される。
その一瞬をパラサイトアントは見逃さなかった。
すぐさま、襲い掛かり相手の息の根を止めるために急所である首目掛けて一直線に飛んできた。
ドッペルはそうなることを想定していたためにすぐさま身体強化魔法を発動し、攻撃を躱す。
パラサイトアントは攻撃を躱されて無防備な背中を晒すとドッペルはそこにファイアーボールをぶつけて羽を焼いた。
羽を失い空中でのコントロールを失ったパラサイトアントはフラフラとふらつきながら地面に落ちる。
(ヒール。フレイムプロテクション。シーフレイム!!)
ドッペルはすぐさま三連続で魔法を発動させる。
まず、ヒールで左手の治療を開始してフレイムプロテクションを全身にかけると同時に地面に落ちたパラサイトアントを両手で抑え全体重を乗せて地面に押さえつける。
最後にリリスのシーフレイムを発動するが、ドッペルの魔法は両手の先から半径1mほどの極小範囲でのみ展開される。
これはドッペルの魔法の習得が不十分なためだ。
だが、それでも放たれた小さな炎の海は発動時間中延々と燃え続けパラサイトアントを焼き続ける。
「すぅぅ・・・ はぁ・・・」
ドッペルは押さえつけている間に深く深呼吸をして周囲の魔力を吸収する。
クルトと違いまだ魔力の吸収方法が雑なドッペルでは魔力の吸収は三つの魔法で消費し続ける魔力よりも少ないがそれでも持続時間を延ばすことができる。
グググ
押さえつけている力が足りないのかパラサイトアントが六本の足で俺を押し上げる。
身体強化していても力負けをするのはレベルが圧倒的に低いからだろう。
(魔法の発動は4つが限界だ・・・)
ドッペルは左手の傷を見て血が止まっているのを確認する。
(よし! ヒール解除。代わりにグラビティを発動!)
ドッペルは自身と手で抑えつけているパラサイトアントの重力を増加する。
グッグッグ・・・ クク・・・
重力が増加したからかパラサイトアントが押し上げる力がゆっくりとなり、やがてその力が弱まって逆にパラサイトアントの足が曲がりまた下に沈み始めた。
これが重力増加による影響なのかシーフレイムで弱ってきているかなのかは定かではないがこの状況にドッペルは勝利への希望を見つけた。
ガシュリ・・・
「くあ・・・?!」
左後方の首の付け根に強烈な痛みを感じるて取っ手に振り向くとそこにはパラサイトアントが噛み付き肉を抉って咀嚼していた。
増援かもしくはアーシェ達の下に行ったパラサイトアントの内の一匹がこちらに戻ってきたのだろう。
ドッペルはすぐに左手をあげてパラサイトアントを振り払うが簡単には離れない。
仕方なく、ドッペルは体を後ろに倒してパラサイトアントを地面に叩きつける様とする。
するとパラサイトアントは自分から離れて行った。
しかし、すぐに空中で旋回してドッペルを襲う。
「チッ・・・!」
ドッペルはグラビティを解除して抑えていたパラサイトアントの上からどいて上空からの攻撃を躱す。
パラサイトアントは攻撃を外し、一体目同様に後姿を晒した。
ドッペルはすぐにファイアーボールで羽を焼きまた地面に落とした。
(状況は?! いや、ともかくヒールだ。)
ヒールを発動してから状況を確認するとどうやらアーシェ達の下に行った奴がこっちに帰ってきたらしい。
向こうも苦戦しているのか。
アーシェ達が足手まといなためなのか防戦一方になっていた。
地面に落ちた二匹目のパラサイトアントはすぐに羽の再生を始めている。
一匹目の方はドッペルが離れたことでシーフレイムが強制解除となったようで炎が消えて立ち上がろうとしていた。
どうやらドッペルのシーフレイムはかなり近距離でないと発動しないらしい。
「(とりあえず、攻撃を・・・)」
「(右に避けろ!)」
ドッペルが魔法で攻撃しようとした瞬間だった。
心の中で誰かが叫んだ。
その声に従ってドッペルは右に攻撃を躱す。
すると先程までドッペルがいたところにパラサイトアントが通過している。
もう一匹こちらに来たようだ。
アーシェ達の方を見ると数が四匹に減っていた。
どうやらもう一体こちらに来たらしい。
ドッペルは先程と同じ手順で背中を見せたパラサイトアントの羽にファイアーボールを打ち込んで地面に落とした。
「(手こずっているようだな。)」
またも心の中で声がする。
声の感じからクルトではない。
「(アルトか?!)」
どうやら、先程の攻撃で精神世界で寝ていたアルトが起きたらしい。
「(ああ、さっき起きた。とりあえず、魔鎧発動して防御固めろ。来るぞ。)」
ドッペルはすぐに指示通りに魔鎧を発動して羽を再生した二匹目の攻撃から身を守る。
「(状況はクルトの馬鹿を締めて聞き出した。とりあえず、この状況を脱するぞ。)」
「どうするんだ? 交代するか?!」
アルトの自信に満ちた声にドッペルは頼もしさを感じて声を出してしまう。
もっとも、近くにいる兵士たちやアーシェ達は戦闘中でそれどころではない。
「(いや、まだ本調子じゃないから任せるは・・・ クルトと一緒にサポートに回る。 行くぞクルト!)」
「(わ!わ! 行くから引っ張るなよ!!)」
アルトはドッペルが以前やった背中から上半身だけ霊体を出す方法でドッペルと共に体の外に出た。
「ドッペルは魔力の吸収と身体強化だけしてろ。俺とドッペルで敵をやる。ドッペル銃を貸せ。あと、魔鎧を解除しろ。クルトの魔力吸収の邪魔になる。」
「はい。」
「了解。」
ドッペルは返事をしながら二丁の拳銃を渡す。
クルトは少し嫌そうに返事をしながら魔力の吸収を始めた。
霊体だけでは魔力の吸収はできないが下半身が肉体に繋がっているので可能なのだ。
いや、アルトができないだけでドッペルならば霊体でも魔力吸収が可能かもしれない。
ドッペルはそんなことを考えながら自身も棍棒を手にして臨戦態勢に入る。
次にクルトに身体強化の魔法を使わせることでドッペルの使用できる魔法の数が増えた。
(四つ使わなくとも数を抑えることでその分を他に回せるので先程よりも戦いやすくなった。)
ドッペルは自身の負担が減りこの苦しい状況で笑みを浮かべた。
ドッペルが臨戦態勢に入ると同時に三体目のパラサイトアントも羽を修復し終わったのか空を飛び始めた。
「ドッペルは攻撃の回避と羽を燃やすことだけ考えてろ。後は俺がやる。」
ドドドドド!!!
アルトはそう言って銃を乱射する。
霊体だが手の部分に魔力を込めることで引き金を引けるようにしているのだ。
咄嗟のことなのにすぐに状況に対応するこの順応性の速さがアルトの強みだ。
アルトの放った銃弾は空中を飛ぶパラサイトアントにすべて躱されてしまうが未だに地面にいる一匹目には命中する。
というか、外れた弾丸が吸い込まれるように地面にいる一匹に向かって進路を変えていく。
(すげ~・・・ 二匹に向けて銃弾を放って外れたら動けない一匹に向かっていくように調整してるのか。)
発射時にどの方向に飛ばすかを支持することしかできない自分と違い無駄な魔力を使おうとしないアルトの行動と魔法技術にクルトは感心した。
ドッペルは二匹の動きを見ながら自身にかけたフレイムプロテクションを解き、棍棒にフレイムプロテクションをかけ直していつでも迎撃できるように準備する。
「(うん。もういいだろう。ドッペル、地面にいる奴の止めは任せた。俺は上空にいるのを叩き落とす。)」
「(は?! さっきから一発も当ってないくせに何言ってんだ?!)」
「了解。」
クルトはアルトの発言に驚きの声をあげ、ドッペルは指示通りに地面に這いつくばっている一匹目に止めを刺しに向かった。
その行動を見て上空にいる二匹は地面にいる一匹を助けるかのようにドッペルの下に向かって突進してきた。
(予想通りだな・・・)
アルトは想定通りに事が運んでいるのを確認して魔法弾を発射する。
ドドドド
二丁の拳銃からそれぞれ二発の弾丸が飛ぶが二匹はそれを器用に躱して突進してくる。
「(やっぱり当たんねーじゃん!!)」
クルトが近づいてくる二匹のパラサイトアントにオロオロしだした。
1人の時の戦闘で完全に苦手意識か恐怖心が植え付けられている。
ドドドドドドドド
アルトは気にせずに銃を乱射する。
ガガガガガガガ
最初の二発と違い続けて撃った弾達は次々と標的に当たり相手の動きを封じた。
属性変換で雷の属性弾を作っていたために一発当たると衝撃でコンマ数秒だけ動きがと止まり、そこに連続した銃弾が集中的に当たる。
最初に撃った四発の弾丸も空中で反転して見事に二匹のパラサイトアントに命中する。
さらに、最初に撃った四発のみ火属性弾だったために羽が焼かれてパラサイトアントは二体とも地面に転がり落ちた。
そんな二体にアルトの容赦のない弾丸が降り注ぐ。
「死ね!」
グシャリ
ドッペルはその間に地面に落ちていた文字通り虫の息であったパラサイトアントに止めの一撃を浴びせる。
パラサイトアントの体は炎に焼かれてボロボロになっており堅い甲殻がドッペルの一撃で崩れてバラバラになった。
「よし、終わったぞ。あとは・・・」
「(お前は左から来るもう一匹の相手をしていろ。)」
アルトの言葉に踵を返すと今度はアーシェ達の方からではなく、巣があると思われる方向から一匹こちらに向かってきていた。
「こい!」
棍棒を握り締め腰を落としいつでも迎撃できる準備をしたドッペルに向かってパラサイトアントは一直線に向かって来る。
ドッペルは今までの三匹同様に突進を避けて背後を取り、そこにファイアーボールを浴びせてパラサイトアントを地面に叩き落とした。
「(そのパターンが一番楽そうだな)」
アルトは小さくそう呟いた。
地面に落ちたパラサイトアントをドッペルは一匹目と同じように今度は棍棒で抑えつけて棍棒の先から半径1mほどの極小範囲にシーフレイムを発動してさらにグラビティを発動して全体重を乗せてパラサイトアントを押さえつけた。
「(レベルが低いと倒すのに時間がかかってしょうがないな・・・)」
「それは同感だね。」
アルトの愚痴にドッペルも共感を覚える。
2人はこのまま一方的にパラサイトアントを凌辱して死に至らしめるのだった。
戦っている最中に何度かアーシェ達の様子を窺うとパラサイトアント四匹に兵士たちが善戦していた。
アーシェとセリスは兵士たちのサポートに回り役立っているようだった。
アリスは完全に治癒専門で傷ついたものを癒していた。
戦いが終わった後、アルトは眠りにつきドッペルも精神世界に引っ込んで、クルトに兵士たちからキツイお説教を押し付けた。
といっても元凶はクルト自身なので自業自得である。
お説教後に昼食を取るとアルトの許しを得て今度はドッペルが夕方まで体を使うことになった。




