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第三十四話 魔人化・・・?

街に帰り監禁のためにギルドへと向かう俺達一行。

リリスは三人と何かを話しながら俺の後ろをついてくる。

俺はというとなぜかいつもよりも視線を感じるので周囲を見渡すと・・・


ササッ サササッ


といった感じで誰も俺と眼を合わせようとしない。

仕舞いにはアニメや漫画でよく見る子供が「あの人~」と指を刺した後に母親か父親が「見ちゃいけません」という奴までやられる始末だ。


(何か変なのだろうか・・・)


よくわからないが何かが変らしく皆が俺を遠目で見てくる。

リリスに聞けばすぐにわかるのだろうが、リリスは後ろの三人と何かを真剣に話しているようで聞ける雰囲気ではない。

そうこうしている内にギルドに到着した俺はギルドの扉を潜って中に入った。


「「「「「・・・・!」」」」」


中に入ってきた俺を見て中に居た数名の冒険者は椅子から腰をあげて自分の得物に手を付ける。

受付や換金所のいつもの兎と豹の獣人のお姉さんたちも真剣に俺のことを見つめてくる。


(やけに視線を感じるな・・・)


そう思いながらもとりあえず俺は換金するために換金所に向かう。

俺が向かうと豹の獣人であるリズさんはなぜか俺と距離を取り、周囲の人達は俺を取り囲むようにゆっくりと近づいてくる。


「換金をお願いします。」


俺はそれを気にすることなく自分のマジックバックから今日の収穫物を取り出して換金をお願いする。


「ええっと・・・」


リズさんは俺と獲物を交互に見ながらどうするべきか迷っている様子だった。

その様子に俺が首を傾げると首筋に何か冷たいものが当たった。

振り返ると冒険者風の男が剣を俺の首筋に突き立てている。


「何のマネだ?」


俺は敵意を込めた瞳で睨みつけると冒険者の男は委縮したのか一歩だけ下がった。

だが、剣だけは俺の首筋に当てたままだ。

先程の下がった一歩分剣が動いたので俺の首筋からは薄らと血が出る。


「喧嘩を打っているのか?」


俺はもう一度睨みつけると男は過呼吸でも起こしたように荒い呼吸をして剣を落として地面に倒れた。

よく見るとズボンの股間部分が濡れている。

俺の眼力がそんなに怖かったのだろうか。

男の顔は恐怖で歪んでいた。


「お、おい・・・」


「どうするよ・・・」


周りの男達はそれを見て腰が引けたのか皆一様に距離を取ってしまう。


「・・・やれやれ」


仕方なく俺は適当な袋を手に持って倒れた男の口に当てようと屈んだ。


「ま・・・」


誰かがそれを止めようと俺に声をかけようとするがそれをリリス達が止める。


「安心せい。なにもせんよ。アリス。」


「はい。わかりました。」


男はリリスの制止により動きを止め、アリスは治癒魔法を施して男を治療する。

俺は男の口に袋を当てて過呼吸を治してやる。

そうしているとだんだんと男の呼吸が落ち着いて穏やかになってくる。


「これはこれは・・・ いったい何事ですかな?」


倒れた男の呼吸が整ったところでガラハットさんがやってきた。

隣にはセリスがいる。

どうやら、リリスが呼びに行かせたらしくリリスはセリスを見て「よくやった」という表情を浮かべている。


「発狂しておるのですかな?」


ガラハットさんは俺を見ながらリリスにそう尋ねた。


「そうだと思うんじゃが・・・ 本人はいたって平常なんじゃと。そこでアルトと話をしようと思うのじゃが、部屋を用意してくれんかの。お主には同席してもらってそこで見聞きした内容をギルドの上層部に伝えてくれんかの。いちいち、騒ぎになると面倒じゃからの。」


リリスはそう言ってガラハットにお願いをする。

ガラハットは「わかりました。少々お待ちください。皆さんもここは剣を引いて私に任せてください」と言ってその場を後にする。


「何が起きてるんだ?」


俺はそうリリスに尋ねるとリリスは何も言わずにマジックバックから鏡を出して俺に向けてくる。

そこで俺はようやく、自分の髪と瞳が赤く染まっていることを知った。


「おお、これはいったいどうしたんだ?」


俺は自分の髪をなでながら自分の変化に驚きつつ派手すぎないか?と首を捻る。

赤い髪なんてアニメや漫画だけの存在だが、実際に見ると本当に派手でとてもではないがこの状態のまま放置はできそうにない。

この世界にも髪を染めるアイテムは果たしてあるのだろうか・・・


「今は体内に残った魔力の影響でその状態じゃが、その内に魔力が抜けてだんだんと元の色に戻るじゃろう。」


「ほう、そうなのか・・・」


『だんだん』ということはここに来るまではもっと赤かかった可能性がある。

今よりもさらに赤い髪の毛を晒してここまでの道のりを歩いて来たのかと思うと少し憂鬱になった。


そんなことで悩んでいるとガラハッドさんは「準備ができました。どうぞこちらへ」と言って部屋に案内してくれる。

ガラハッドさんの腰には剣が差してあった。

俺達は室内で思い思いの場所に席に着くとその前のテーブルに兎の獣人のお姉さんが飲み物を置いてくれる。


「それでアルトさんは魔力吸収法を制御できずに発狂したにもかかわらず、精神に異常をきたしていないと・・・? いったいどんな魔法を使えばこうなるのですかな?」


ガラハッドさんは席に着くと飲み物が配り終られる前に口を開いた。

質問する時のガラハッドさんの動きは顔を向けて俺を見た後で視線だけをリリスに移す感じだ。


「残念ながらワシは何もしておらんよ。こやつの実力じゃよ。何をしたのかはだいたい予想をつくがの・・・」


リリスは俺を見てニヤリを笑った。

どうやら精神世界で何かあったとあたりをつけているのだろう。


「精神世界で発狂した黒い俺自身と戦闘した。結果は圧勝だったな。ただそいつが俺の意識を表に出すのを邪魔するから今はドッペルに抑えさせている。」


「ほう、ではそやつをドッペルが抑えられなければお主はまた暴走するのか? そいつは始末できんのか?」


リリスは顎に手を当てて目を細めてこちらを睨みつけるかのように見てくる。

おそらくは、どうにかして俺の精神内の『黒い俺』を倒せないか考えているのだろう。

ガラハッドさんは俺達の会話についていけてないので何を話しているのかわかっていない様子だ。


「そうなるが、今晩中に俺やドッペルと精神情報をある程度共有して大人しくさせるから問題ないだろう。」


「それは逆に危険ではないのか? お主やドッペルの知識や経験を取り込んで強くなって手が付けられなくなるのでは・・・・」


リリスは心配そうに俺を見つめて「その方法はやめた方がいい」のではと言いたそうにしている。


「大丈夫だよ。俺の精神情報を吸収すれば落ち着くだろう。ドッペルの時もそうだったしな。」


俺は笑顔を浮かべて「心配ない」と伝える。

リリスは溜息を一つついて「仕方がないの」とでもいいたげに頭を掻いて何も言わない。

俺が一度決めたことを曲げない性格なのを知っているからだろう。


「まぁ、とりあえずこれをつけい。」


頭を掻いて俺を説得することを諦めたリリスはそう言って俺に眼鏡を渡してきた。

この世界にも眼鏡があるのかと思い驚いたが、リリス曰く「このタイプの魔道具は結構多いぞ」ということらしい。

俺は渡された眼鏡をとりあえずかけてみた。

特に変化はない。

何のためにかけさせられたのだろうか・・・


「あのう・・・ それで、結局どういうことなんでしょうか?」


ガラハッドさんは俺達の話が一段落したのを見て「私にも説明を」といった雰囲気で話しかけてきた。

その後、俺達は現状に必要な情報と知識をガラハッドさんに伝えてその場はお開きとなった。

ただ、その知識の中では俺も知っておかなければならないことがあった。

それは俺の眼についてだ。


なんでも、俺の眼は発狂した影響で魔眼の劣化版になっているらしい。

能力は本来の魔眼よりも遥かに弱いのだが、低レベルの人にはかなり堪える物らしい。

俺に睨みつけられて過呼吸を起こした冒険者の男がいい例だ。

なので、俺は魔力が抜けて眼が元に戻るまで眼鏡をかけていないといけないらしいとのことだ。

まぁ別に眼鏡かけるだけなので特に不便もないことだし良しとしよう。


説明を聞き終わるとガラハッドさんは「では、私はこの件を上層部に連絡しておきますね」と言ってくれた。多分、俺達の話に納得してくれたのだろう。


「いや~、良かったですよ。最悪の場合はアルトさんには死んでもらわなければなりませんでしたから・・・」


去り際にガラハッドさんは腰に差していた剣に手を触れてそう言っていた。


「ガラハッドさんって強いのか?」


俺はガラハッドさんの言葉の意味が読み取れずリリスに尋ねる。


「ギルド支部のマスターじゃからな。実力は最低でも中級のLv50じゃよ。おそらくは、この街で3本の指に入る実力じゃろうな。」


その内の1人はリリスだろうがもう1人は誰だろうか・・・

いや、3本目がぶっちぎりに弱くてガラハッドさんとリリスの2強なのかもしれない。


そして、俺達はようやく換金を済ませることになった。


その後は、いつも通りに適当な店に入って食事をとることになった。

店に着き、注文を頼んだ後で俺は三人にある質問を投げかけることにした。


「お前たちはこれからどうする?」


「「「・・・?」」」


3人は俺の質問の意味が解らないのか首を捻って頭の上に?マークを浮かべる。


「俺もさっきようやく自分の現状を把握したところだからな。正直に言って今回の件は俺が全面的に悪いすまなかった。」


俺は頭を下げて一度話を切り、再び頭をあげてから話を再開する。


「セリスはかなり怖い目にあったみたいだしな。パーティーを解散するなら今がいい節目なんじゃないのかと思っての先程の質問なんだ。」


俺の言葉を聞いてようやく最初の質問の意図を悟った3人は困ったように顔を見合わせている。


「俺に言いにくいならリリスに言えばいいし、3人で一度話し合うならそれもいいだろう。答えは明日もう一度聞こう。」


俺はその場で答えを求めずに話を中断する。

するとちょうど良い事に俺の頼んだパンケーキが届いた。

パンケーキにはホイップクリームや蜂蜜がたっぷりとのっていてとてもおいしそうだ。


「お先に~♪」


俺は気分よく食事を始めてパンケーキを頬張る。

するとどうだろうか俺を見ている4人はなぜか微笑ましそうな笑顔で俺を見てきた。

なぜだろうすごく恥ずかしい・・・


「あいからわず、可愛いの~♪」


リリスは俺の顔を見ながらそう言って嬉々とした笑顔を向けてくる。

それを見て他の3人もクスクスと笑いだした。

馬鹿にされているのとは少し違う気もするが・・・・

少し気になるが俺は食事を続けるのだった。

そして4人は俺をそっちのけでガールズトークを始めるのだった。

セリスは本当に男なのだろうか・・・

普通に会話に参加しているのだが・・・


食事が終わると今日は解散ということになった。

本来なら明日はダンジョンに潜るか今日と同じように狩りをするか話し合うのだが、パーティーを解散するかもしれないのでそんな話はしない。


俺はリリスと二人で歩く道中でステータスを確認する。

今日はパラサイトアントを1人で何匹か倒したし、ある程度のダメージを与えた。

俺の予測ではものすごい量の経験値が手に入っているはずだ。

そして、予想通りレベルがものすごく上がっていた。

Lv15を超えたのだ。


低くないかって?

それはまぁ下位職業全選択ですからね・・・

普通ならLv30を超えていても不思議ではないさ!


ただ、これで俺が一つの指標にしてきた戦闘系職業の『冒険家』が解放された。


冒険家は下位職業で下位の職業を全選択しなおかつレベル20にすると出てくる職業だ。

全ての能力が均一化されており特色がない代わりに全スキルに補正がつく。(その代わり補正値は全職業中最低)

レベルも他の職業よりも上がりやすい。(出すのに時間がかかるので最初にある職業の内の一つを上げた方が効率がいい)

まさに凡庸で平凡な職業だ。


俺は早速、職業を『冒険家』に変更する。


「何を嬉しそうにしておるんじゃ?」


俺はどうやら笑顔を浮かべていたようでリリスにそれを指摘された。


「冒険家の職業がついに解放されて今変更してたんだ。」


俺はにこやかに返事を返すとリリスは・・・


「お主は無茶ばかりするからその職業はお主のために用意されたような職じゃな」


と皮肉を言って来る。

まぁでも今日は一つの目標に無事に達して機嫌がいいので俺は何も言わずにリリスと一緒に宿へと帰った。


この後、俺に訪れる出来事を予感できなかったのは俺がこの時浮かれていたからだろうか・・・


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