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第三十一話 合流

アーシェがパラサイトアントに遭遇する数分前、リリスはすでに感知魔法でアーシェの前に立った熊の中にパラサイトアントがいることに気づいていた。

そのため、飛翔魔法を使ってアーシェの下へと急ぐ。


「リリスさん?!」


「一緒に来い!」


途中でアリスを強引に回収してからアーシェの下に向かうリリス。

リリスにとって誤算だったのは南の森にまでパラサイトアントがいたこと。

パラサイトアントは寄生した生物の体内で成虫になる。

そして、寄生された生物の体内でパラサイトアントが成虫になるまでは魔法でも感知できない。

だからこそ、巣のあるであるダンジョン方面である北側で無く南側に来たのである。


(誤算じゃった。ギルドの話では昨日初めて報告が合ったようじゃから羽化期はまだ先かと思っておったが・・・)


リリスの放っている感知魔法が次々とパラサイトアントの成虫化に伴い反応を占めす。

その反応はアーシェの担当する場所よりもさらに東側だ。

ダンジョンよりさらに離れた場所に反応が複数体現われたことからダンジョン内以外にパラサイトアントの巣がある可能性がある。

リリスは飛翔速度を速めてアーシェの下に一気に向かう。


アーシェを視界で捉えるとアーシェは獲物に止めを刺しているのか獲物に突き刺さっている。

だがアーシェの顔は青ざめており、表情だけでなく全身が固まっているように見える。

恐らく体内にいるパラサイトアントに当たったのであろう。

そしてアーシェはそのことに勘付いており、そのためにどうすればいいのかわからない状態になっているのであろうとリリスは推測する。


「逃げるんじゃ!」


リリスはアーシェの思考を動かす為に大声で叫ぶと同時に魔法を展開。

それと同時に反対側にいるセリスとアルトに魔法でパラサイトアントが出たことを伝える。


「は・・・!」


リリスの声を聴いてアーシェはようやく我に返り剣を引き抜いてリリスの方に駆ける。

その間に熊の体内からパラサイトアントが顔を出した。

だが、そいつは次の瞬間にはリリスの魔法で焼却処分される。

体内にいる魔獣を焼くために熊の死体は黒焦げになってしまったが、それを見てアーシェは安堵した。


「大丈夫か。」


リリスはアーシェの前に降り立つとアリスを離す。

アリスは高速で飛翔するリリスにしっかりとしがみつき目を閉じていたので、そこでようやく目を開いて状況を確認する。

パラサイトアントが出たことは先程リリスがセリス達に飛ばした魔法で理解している。

アリスは少し酔ったかのようにフラフラと歩いてアーシェの下に行くと「怪我はない?」と声をかける。


「私は大丈夫です。アリスこそ大丈夫ですか?」


アーシェは自分よりもフラフラと歩くアリスが心配で両手でアリスの体を支える。


「ありがとう。」


アリスはアーシェに感謝の意を述べながら肩に手を置いて深呼吸をして落ち着くとする。


「悪いがゆっくりしとるわけにもいかん。ワシが殿を務めるから2人はアルトとセリスの下に向かってくれ。2人には合流するように言っておる。」


リリスは杖を取り出して戦闘態勢に入る。

見据えるのは森の東側。

視界には見えないがリリスの感知魔法には複数体のパラサイトアントが羽化した反応がある。

飛翔魔法で逃げるのが最善手の様な気もするが、リリスの飛翔魔法では四人も運ぶことはできない。

アルトたちと合流した後のことを考えれば、今ここで数を減らしておかなければならない。


なにせ本来ならパラサイトアントの巣は近場にそうそう巣が2つあるなんてことにはならない。

だが、今は巣が2つあるかもしれないという特殊な状況だ。

この場合は考えられるのは2つ。

単なる偶然か女王たるメスのパラサイトアントの大繁殖によるものだ。

前者であるならば巣はダンジョン内に繋がっているものと東側にあるものの2つだけかもしくは孵化したパラサイトアントの幼虫が寄生した動物が東側に集まっていること。

後者ならば巣は2つとは限らない。

まだ見ぬ巣が2~3ある可能性がある。


(ワシの勘はでは・・・)


リリスの勘では後者の巣が他にもあるというものだ。

だからこそ、複数方向からの挟み撃ちを避けるためにここで敵を倒しておく必要がある。


リリスは二人に逃げる様に促してセリス達の所に向かわせつつパラサイトアントの動向を探る。

羽化期に入ったパラサイトアントは一斉に羽化を始めてその後、獲物を求めて周囲に散布する。

一つの巣からでも千体近くが生まれるのでそれらが無事に成虫化すれば『巣の数』×『千』の数が生まれることになる。

実際は栄養不足や羽化後に共食い、寄生対象の取り合いで半分は死滅するがそれでも500体は残る。

いくら下級職業でも倒せる雑魚でも数が多ければ被害が出る。


(いや、場所で敵に被害はもっと出るかもしれん。)


ここが初心者用ではなく初級、もしくは中級用のダンジョン近くの街ならば冒険者たちで狩りが出来る。

だが、ドルアドは初心者用のレベル30までを対象にしたダンジョン近くの街だ。

そんなところでこのレベルの魔獣が暴れまわれば被害は甚大だ。

リリスは巣が一つならば自分一人で余裕で対処できると思っていたが、巣が複数ある場合は人海戦術が必要になるのでこのままではまずいと冷や汗をかきながらアリスたちと共にセリス達の下へと向かう。


一方その頃。

セリスはアルトと合流しようと走り出していた。

先程まで狩りで得た獲物の大半は地面に置き去りにしてひた走る。


(アルトさんどこだろう。)


「アルトさ~ん!」


セリスはアルトのいる正確な位置がわからなかったので声上げて名前を呼びながら走る。

アルトはというと霊体の状態で魔法での効率的な狩りの方法を研究していた。

そして、アルトの体を使用中のドッペルはリリスからの魔法でセリスとの合流を言い渡されて迷っていた。


(セリス達と合流するべきなんだよな・・・ でも、アルトにどうやってそれを伝える?!)


ドッペルにもアルトにもお互いの位置は分かる何かしらの力が働いている。

だが、ドッペルがアルトの場所に行くとセリスから離れることになる。

かと言ってセリスの場所に行くとアルトは状況が判らずに狩りを続けることになる。


(どうすればいい・・・ どうすれば・・・)


アルトは訳も分からずにセリスのいるであろう方向とアルトのいる方向を見比べる。


「ああ、もうわからん!!」


ドッペルはとりあえずセリスのいる方向に行くことにした。

合流後にアルトの場所に向かうのが得策だと判断したのだ。

そしてこの行動を取ることでアルトは自身の置かれている状況を少しだけ理解することになるのだが、そのことにドッペルは気づいていない。


(ドッペルの奴。どこに行く気だ?)


アルトは狩りをやめてドッペルのいる方向とその向っている先に眼をやる。

方向的にドッペルがセリスのいる方向に向かっていることに気づいた。


「ズレたか・・・?」


アルトは自分の進行方向がずれているのかと思い少しだけセリス寄りの方向に進む。

だが、ドッペルの動きはどうやら方向修正ではなくどこかに向かっているという風な印象と途中で感じ取った。


(何かあったな・・・)


リリスが緊急で招集をかけたことをなんとなく悟ったアルトはドッペルの下へと向かおうと加速しようとしたその時。


ミチリ・・・


後方から変な音がしたことに気づいた。

それは何か肉や骨を力で無理やり引き裂くような音だった。

後方を振り返り辺りを見渡すもそこには先程狩りで仕留めた死体が転がっているだけ。


(気のせいか・・・)


アルトがそう思って振り向き直した瞬間だった。

待ってましたと言わんばかりに死体から何かが飛び出してアルトへと襲い掛かる。


(・・・!)


アルトは咄嗟に反応するが、振り返ることしかできず防御も回避もできぬまま強襲されるのだった。


アルトが強襲されている間にセリスとドッペルは合流していた。


「アルトさん! よかった無事だったんですね。」


「セリスも大丈夫だったか?」


ドッペルはセリスの血にまみれた衣服を見て心配そうに見つめる。


「これは返り血ですから大丈夫です。」


セリスはにっこりと笑顔を浮かべて大丈夫だと主張する。

ドッペルはそれを見て安堵の表情を浮かべる。


「それよりも早くリリスさん達と合流しましょう。」


「待ってくれ。それよりも先にアルトと合流を・・・!」


「え・・・?」


ドッペルの言葉にセリスは意味が解らず素で返す。

リリス以外にはドッペルのことを知るものはパーティー内には存在しない。

なのでセリスにとって現状はアルトとの合流を果たしたので、次はリリス達との合流を行うのが目標なのだが、アルトの口から自分と合流しようなどという馬鹿げた発言が出たことに固まってしまう。


「ええ、えっと・・・ つまりだな・・・」


ドッペルはそのことに気づいて説明しようとするのだが、どう説明すればいいのかわからなかった。


「俺、二重人格なんだ。」「俺のもう一人の自分が・・・」「俺に封印されたもう一つの力が・・・」などといった厨二病としか思えない発言しか思い至らずに何をどう説明すればいいのかわからない。

厨二病という言葉がないこの世界では『頭に難病を抱える変人』としか思われないだろう。

それはアルトの為にも自分の為にもよろしくはない。


(でも、他にどう説明すれば・・・)


ドッペルが頭を抱えて悩んでいると急にセリスはドッペルの手を掴んできた。


「大丈夫です。僕がついてますから、行きましょう!」


そう言ってセリスはドッペルの手を引いてリリス達の下へ走っていく。

どうやら、急な強敵の出現に混乱を起こしたと思われているらしい。


「ああ、いやでもアルトが・・・」


とドッペルは後方を振り返るがセリスは一切気にせずに走り続ける。

その表情は女顔ではあったが凛々しくかっこよかった。

残念なことに後方を見ているドッペルにも、他のメンバーにも見られることはなかったがセリスが見せる男の表情であった。

だが、そんな表情も長くは続かない。


セリスが先程まで抱えていた収穫物の前へと差し掛かった時だった。

羽化期を迎えたパラサイトアント達が一斉に羽化しだしたのだ。

それは先程、自身が狩りで倒した死体から出ている。


「う・・・」


思わず吐きそうになりながらも何とかそれを抑え込むセリス。


「こっちだ!」


そんなセリスを引っ張ってドッペルは駆ける。

それと同時に魔法銃を抜いて魔法を放つ。

ドッペルの放った魔法は巨大な火球となり一つの塊となった死体の山を包み込む。


ズドォン!


死体の山を包み込むと同時に火球は爆散して火の粉を撒き散らし辺りは火の海へと変わる。

その隙にドッペルはセリスを連れて迂回してリリスの下へと向かう。

ただ、この時ドッペルは間違いを犯した。

彼は逃げる時に街のある北側ではなく南側の方向から迂回ようとしたのだ。


さらに、炎の魔法を爆散させたためにパラサイトアントがその場所に集まってきてしまったのだ。

無論、すぐに来るほど近くにいたわけではないが高速で飛翔するパラサイトアントが駆けつけるのは時間の問題でありその間にリリス達と合流できるかといえば、それは難しい。

理由は二つ、リリス達のいる場所が遠いことと炎の爆散による火事で迂回する距離が遠くなったころである。


2人は懸命に走り狩りの時のリリスの持ち場近くまでは来ることができた。

そこで二人は後ろから猛追する黒い影を見てしまう。

それは木の陰に隠れてすぐ見えなくなるが猛スピードで近づいてくる。

しかも、ざっと見ただけでも3体以上はいるようだった。


「まずいですよ。どうしましょう。」


セリスはドッペルの手を引いてひた走っていた時に比べてかなり弱弱しく弱音を吐く。

その表情は今にも泣きだしそうな少女の様だった。


(リリス達は一旦アーシェの所に行ってからこちらに向かって3人で走っている。合流するのはアリスの持ち場に入ってからかその手前でかな・・・。向こうにもパラサイトアントがいるとすればこのままだと挟み撃ちになるな)


反対にドッペルは冷静に状況を分析しながら走り続ける。

土壇場での冷静さはアルトの記憶を受け継いでいるからだろう。

その思考は生まれて一年経っていない精神とは思えないものだった。


「セリス! 先導してくれ。俺は威嚇射撃を行う。」


ドッペルはセリスの手を引いて前を走る様に指示する。

後ろからの襲撃に混乱しているセリスだったが指示を受けるとすぐに涙を拭って前を走る。

ダンジョン内での「命令には逆らわずにやれることをやれ」というアルトのスタンスがここでセリスを冷静にさせた。


ドンドン!


セリスと手を離して二丁の拳銃を握って後方から追いかけてくる影を狙撃する。

銃弾に込める魔法は火から風に変えている。

風の魔法を爆散させることでたとえ当たらなくても気流や風圧の変化で相手の飛行の能力を落とす為だ。

目に見えて速度が激減することはなかったが時間稼ぎにはなっているだろうと信じて撃ち続ける。


ブブブブ


そんな時間稼ぎもむなしくドンドンと近づくパラサイトアント達、走りながらなのと草木の陰に隠れてしまうので陰しかとらえられないが聞こえてくる羽音が距離がすぐそこだと教えてくれる。

彼らが本当に三体ならばもっと時間稼ぎもできたかもしれないが、いつの間にかその数は少なくとも8体以上は存在するようだった。

これが途中から増えたものなのか最初からいたのかは定かではないが危機的状況はすぐそこまで迫っていた。


ブン!


「うわ!!」


ドサ


先頭を走っていたパラサイトアントの一体がセリスの前眼を横切るとセリスは驚いて足を止めて勢いを殺そうとしてお尻から倒れ込んでしまう。


「大丈夫か!」


ドンドン


セリスに声をかけながらもドッペルは周囲に魔法弾を撃って相手を威嚇する。

その間にセリスは無事に立ち上がるが、周囲は完全に囲まれてしまい逃げることはできない。

セリスも覚悟を決めたのかナイフを抜いて戦闘態勢に入る。

パラサイトアント達はこちらを警戒しているのか周囲を飛び回りながら機会をうかがっている。


(どうすればいい・・・)


ドッペルが状況を打破する方法を考えているときだった。

先程、自分たちが来た方向から急速に接近する存在が現れた。


「ドッペル! 魔力を貸せ!!」


それは雄叫びをあげて全身に雷を纏って驚くべき速度でドッペルの方に一直線に向かって来る。

突然の襲撃にセリスもパラサイトアント達も何事かと警戒した瞬間だった。

その一瞬の隙をついてドッペルは全魔力で散弾を四方に向けて発射しパラサイトアントと森の木々をずたずたに切り裂く。

ドッペルは何もこの一撃で倒せるとは思っていない。

ただ、逃げるための退路ができればいいと思っての一撃だ。


ドッペルの奇襲は見事にはまり木々と共にパラサイトアント達は地面に落ちる。

何体かは避けられてしまったが、その内の一体に戻ってきたアルトが奇襲をかけて地面にたたき落とすとアルトはドッペルの体の中に入って行った。


アクセス数がドンドン下がってるぜ・・・

何とかしたいけどどうにもならないね。

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