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第二十九話 狩り

魔道具の使用訓練を終えてから俺達は森に狩りに入った。

森の中での狩りは5人で固まって行うと非効率なので分かれることにした。

リリスは他の4人を魔法で探知しながら周辺警戒も行うので狩りの範囲の中心で俺とセリスが西側、アーシェとアリスは東側に広がって南西方向に進んでいく。


南西に進むのは街から離れつつ南側の森の深い所に行くためだ。

北ではなく南に行く理由は北上すると俺達では倒せない魔獣と出会う危険性を回避するためだ。

狩りを効率よく行う都合上、5人は広く離れた方がいい。

だが、それでは複数の魔獣の襲来荷物時にリリスが対応できない。

そんな理由で俺達は比較的安全な南側の森の中へと進んでいく。



逆になら街道沿いから進むのではなく街の南から出て南の森に直接行けばいいと思われるだろうが、狩りをしやすい安全な南の森には街に住む猟師達が生活のために入っていくのだ。

そこに俺達が入っていくと彼らの邪魔になるし、俺達の狩猟数も減ってしまう可能性がある。


「そういえば、動物から得られる経験値ってどの程度なんだろう?」


俺は動物から得られる経験値がどの程度なのか気になって周囲を見渡して質問しようとするが、残念ながら分散して獲物を探しているので聞くことができない。


(動物は魔物に比べて経験値量が少ないと思ったけど、狼や熊の様な危険な動物ならもしかしてポーンよりは経験値量多いんじゃないかな?)


狼と熊、どちらの動物もボーンや下手をするとボーンソルジャーより強そうだ。

出会うことができれば経験値的には1回で得られる量は多いかもしれない。


(問題はどうやって会うかか・・・)


狭いダンジョンなら魔物に遭う確率はかなり高いが広い森で暮らす動物は出会うこと自体が難しい。

周辺を警戒しながら森の奥に入っていくもその姿を確認することはまだできない。


森に入ってから数時間後。

俺達は一旦お昼休憩を取ることにした。


(なかなか獲物に出会えなかったな・・・)


俺はそんなことを思いながら皆が集まっているであろう方向を目指す。

お昼の合図はリリスの魔法により煙をあげて狼煙の様にすることで行っている。

俺は今日半日の成果が何もないままに手ぶらの状態でみんなのいるとこのに集まるのだが・・・


途中で多くの獣の死体を持ったセリスに出会った。

兎や狼、狐に犬となかなか大量に仕留めていた。


(う、嘘だろう・・・)


俺は何の収穫も得られなかった自分を恥じながらセリスに声をかけて収穫物を持つことにした。


「持つの手伝おうか?」


「え? ああ、お願いします。」


声をかけるとセリスは振り返って俺を見てからそう言って獲物を渡した。

俺は受け取った獲物の大半をマジックバックに入れる。


「マジックバックって便利ですよね。どれだけ、大量に倒しても持てるんですから。」


セリスはそう言って俺のマジックバックを見つめる。

だが、残念ながらこのマジックバックの中にはセリス以外の収穫物は俺の私物のみだ。

セリスは俺の収穫物も入っていると思っているのだろうが、全くそんなことはない。

不甲斐無い自分が少し嫌になった。

おかげで、セリスの純粋で綺麗な眼と視線を合わせられない。


「どうやってこんなに捕まえたんだ?」


俺はリリスの下に行く道中でセリスにどうやって捕まえたのかを聞く。

「どうやって捕まえたんだ?」と言わなかったのは俺が1匹も捕まえられなかったのを隠したかったからだ。

いや、正確には隠したのではなく言わなかっただけだ。

なぜ、男であるセリスに見栄を張ったのかは自分でもわかりたくない。


「? どうやってと言われましても、こういうのは慣れですから。」


どうやらセリスは実家での生活中に狩猟経験があったらしかった。


(まぁなら仕方ないか・・・)


などと思っていた俺が甘かった。

リリスの下に辿り着くとそこにはすでにアーシェやアリスもいた。

3人の足元にはこれ見よがしに大量の獣の死体が置いてあった。


「すごいな。どうやってこんなに狩猟したんだ?」


俺はセリスの狩猟物を地面に置いて3人に質問する。


「狩りの経験は元々ありますし、気配探知の能力で獲物の位置は分かりますからね。」


アーシェは平然とした態度でそう言った。

なるほど、彼女も狩りの経験があるのか。

おまけに、彼女の気配探知スキルは俺よりも大分高い。

リリスの探知魔法の範囲よりは格段に狭いが、それでも半径50m以上は把握していると俺は予測している。

俺の気配探知は半径3mほどしかない。

アーシェのマネをするのは無理だろう。


「アリスは?」


アーシェの答えもセリス同様に役立ちそうもないのでアリスに質問の答えを促す。


「私ですか?そうですね。気配を断って相手に近づき仕留める。という基本を忠実にやっているだけですね。あとは、光の魔法で姿を消すようにできれば完璧なのですが私にはまだ・・・」


アリスは顎に手を当てて考え込む姿勢を取って呟くように小さな声で告げる。

その声は聞くことに集中しないと聞き取れないほど小さなものだったが俺の耳にはしっかりと聞こえた。


「気配を断つって・・・  気配遮断のスキルか何かがいるってことか?」


俺は思ったことを口に出して質問を投げる。


「ええ、そうですね。気配遮断のスキルは狩りでは必須事項ですから。もしかして、アルトさんはお持ちでないのですか?」


アリスは半ば驚いたように後半は声をあげて聞き返してきた。


「ああ、持ってない。でも、そうか。気配を消さないと動物に逃げられるのか。」


「いえ、動物に気配感知のスキルはありませんから気配を断つ必要はありません。ただ、森の中を歩くと音や匂いで動物に勘付かれます。」


アリスはそう言って追加補足してくれる。

確かに、動物に気配探知の能力があるわけではないので気配を断つ必要性はないだろう。

だが、向こうにも危機察知能力はあるのだ。

その能力のせいで俺の存在がバレているから俺の視界や攻撃範囲外に逃げて行っているのだろう。


この世界には魔法という遠距離攻撃手段が普通に存在するので元の世界よりも動物たちの警戒範囲や逃走範囲、逃走距離(相手がどこまで近づいたら逃げるかという距離)が遠い。

そのため、俺の匂いや移動時に出る小さな草木をかき分ける音を察知して逃げたり隠れたりしているのだろう。

それでは俺が遭遇できないのも頷ける。


俺にアーシェ並の気配探知能力があれば隠れた獲物を見つけ出したりできるかもしれないが残念ながら今からそれだけの能力は得られない。

魔法による探知なども俺の実力では今泊まっている宿一室分がやっとだ。

広さにして半径3~4mといったところだろう。

結局は気配探知と広さは変わらないのだ。


(気配遮断のスキルを今から身に付けようとして果たして身につくだろうか・・・ いや、無理だろう。気配探知もスキルとして発現させるまでに1日はかかった。そして、発現してもその効果は使いものになるか微妙なモノだった。スキルを無視して見よう見真似で実践しても意味があるとは思えない。)


「リリス。気配を消す魔法ってあるのか?」


現状を考察して俺はリリスの魔法の知識に答えを求めることにした。

リリスはアーシェやアリス、セリスの狩ってきた獲物達に保存の魔法と冷却の魔法で凍らせてからマジックバックにしまっていた。


「気配を消す魔法はあるが、1日で覚えられるとは思えんの。」


リリスの態度から「教えてもいいがすぐに効果が出るわけではないぞ」というものが感じられた。

確かに、気配探知の魔法もうまく扱えてない俺が気配遮断の魔法をすぐに実用化レベルで使えるとは思えない。


(そもそも俺が使える魔法って魔法銃などの道具を使うか、肉体に直接使用するモノ以外は使い物にならないんだよな・・・)


才能のないステータスにより管理された世界ではあるが、この世界はゲームではない。

故に、きっとある程度の得意不得意がステータスに見えない部分で存在するのだろう。

それはアーシェの魔法に対する苦手意識があり、その代わりと言ってはなんだが剣技の方は目を見張るものがある。

反対にセリスなどは魔法に関する理解力とセンスがある代わりに命を絶つという戦闘行為が苦手だ。

やはり、この世界にも才能というものはあるのだと思う。


「・・・ん? そういえば、セリスは動物を殺すことを怖がっているんじゃなかったのか?」


俺はセリスが大量の獲物を殺していることと命を絶つことへの苦手意識が結びつかないことに疑問を抱いてセリスに問いかける。


「ああ、あれは泣き叫ばれるのが逃げてなだけで、殺すこと自体を怖がっているわけではないんですよ。だから、獲物は一撃で仕留めています。」


セリスは苦笑いを浮かべながらそう言った。

少しだけ顔が青ざめているような気もするが、それはここまでの狩りで神経をすり減らしたり大量の獲物を運ぶのに疲れたからだろう。

リリスは獲物の回収が終わると大きな布を広げて地面に敷き食事の用意を始める。

アーシェ達3人もそれに座って各々昼食を取る。

俺もそれを見てリリスの用意した昼食を食べる。


一応、食事中にリリスに気配遮断魔法をセリス達に気配遮断スキルについて説明を受ける。

だが、やはり習得までは最短でも1日は要する。

いや、徹夜明けの体調では出来るかどうか怪しい所だ。


(今日は収穫なしかな・・・)


俺は半ばあきらめの気持ちで空を見上げる。

木々の間から漏れる木漏れ日が美しく空を覆い隠していた。


「このままではお主は何の収穫も得られんの。ワシが魔法をかけようか?」


リリスはなんだか可哀想な物を見る様な目をしながら優しく笑った。

その笑顔は困っている人を助けようとする慈愛に満ちた物だった。


(でも、なんか負けた気がするからやだな・・・)


俺はここでリリスに頼るのはなんだか他の3人にも負けたような気がして嫌だった。

いや、正確にはなんの収穫も得られそうにない現状は敗北以外の何物でもないだろう。

無論、収穫量を競っているわけではないがそれでも、自分だけ一匹も仕留められなかった上に午後からも自分では打つ手がないのだ。

この5人の中で一番役に立っていないという事実は重い。


(ダンジョン内での戦闘ではリリスを除けば一番の戦力だと自負している俺がこういう場では役に立たないだなんて・・・ 現実ってつらいな・・・)


食事を食べ終わるまで俺は何とか自力でどうにかしようと色々と考えたが、いい考えは浮かばない。


(煮詰まってきたな・・・)


「少し寝る。休憩が終わったら起こしてくれ。」


「は~い。」


俺はリリスに一声かけてから眠りに落ちる。

昨日徹夜した影響か、すぐに睡魔がやってきてくれた。


「と、いうわけで何かいい案はないか?」


眠りにつくやいなや、すぐに精神世界に入り俺はドッペルに質問を投げかける。


「と、言われてもね。俺には何もできないよ。魔法も表の世界に出ずにここで修行してるだけだからうまく使えるかわかんないし・・・」


ドッペルはそう言って自分でもどうしようもないと両手を上げる。

ドッペルは俺と違って銃などの媒体を使わずに精神世界で魔法を使えるので交替してでも成果を出そうかと一瞬考えたが、どうやら断念するしかなさそうだ。

ちなみに、俺は精神世界でも魔法は銃や肉体などの固形の媒体がないとうまく使えない。


「俺にできることは昨日の夜みたいな特殊な訓練をする時だけかな。」


ドッペルはそう言って欠伸をして真っ白な空間に横たわり背後の真っ白な空間からベッドを出す。

この世界ではイメージしたものを形にすることができる。

ドッペルは俺の精神の片割れなので作れるのはそれほど大きな物ではないが、それでもベッドくらいは出せる。

俺が白い空間で無く何か便利な空間をイメージして作ってやれればいいのだが、残念ながら俺の想像力ではこの広大な真っ白な空間を埋め尽くすだけのものは作れない。

精々が今まで見た街の景色を再現するだけだ。


再現される空間は限定的でそれほど広くはない。

精々が半径1km程度だろう。

この白い空間はそれよりもっと広い。

境界線が見えない真っ白な空間が延々と続いている。


「やはり無理か・・・」


俺は半ばあきらめたようにドッペルと同じようにベッドを作って大の字になって転がる。

天井には先程見た木漏れ日を再現してみる。

まっしく何もない空間を見つめるよりは健康的な気がしたからだ。


(昨日と同じか・・・)


俺は昨日の感覚を思い出しながら魔力吸収法について考える。

外部の魔力を吸収して魔力を回復するこの方法を入手するために昨日の夜から今日の朝までを費やしたが、現状ではその成果はまだ出ていない。

例え出たとしても、敵と遭遇できない現状では意味がない。


どうしようかと頭を悩ませながら半分以上諦めていた時。

俺の中で一つの妙案が浮かんだ。


「ドッペル。お前に俺の体を一時任せる。」


「は?」


ドッペルは俺の突然の発言に耳を疑ったのか奇声をあげて聞き返してくる。


「お前に体を一旦預けるといったんだ。」


「それはなに? 自分が負けを認めてリリスの助けを得たくないから俺に助けを求めて来いと?」


ドッペルはものすごく嫌そうな顔をする。

それはそうだろう。

自分が何もできないからと言って他の人間に頭を下げるときだけ代われと言われれば誰だっていやだろう。


「まぁ、待て俺の話を聞け。」


俺はドッペルの気持ちを察して宥めながら自分の思いついた妙案を話す。


「なるほど。それは面白い。」


ドッペルも俺の案に光明を見出した様子で嬉々として話を聞く。


「でも、それをするのが俺でなくていいのか? 俺がお前の体を乗っ取る可能性があるぞ?」


ドッペルはそう言って俺の案で一部訂正を促す。

それは、自分が体を預かるのはおかしいというものだ。


「お前はそんなことしないさ。それに体を使うことにも慣れておいた方がいいだろう。いずれは、何かの体に入るんだから。」


俺はドッペルがいずれ何か別の体を手に入れた時の練習だと言って説得する。

ドッペルは「まぁアルトさんがそれでいいならいいけど・・・」と言って了承してくれた。


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