第二十八、五話 こんなアイテムがあったんですよって話
以前、リリスからアルトが借りた魔道具にはこんなものがありましたよって話です。特に進展などはありません。
ごめんなさい。
徹夜明けの眠い目を擦りながら俺はリリスと共にギルドへと向かう。
「夜に何をしとったんじゃ? は・・・! まさか・・・」
最初は冗談めかして、途中から何かに気づいたのか。
リリスは俺の下半身を凝視して何かを疑っているようだった。 (主に股間部)
「いや、違うから。」
リリスの勘違いを否定するとリリスは疑わしげに俺を見る。
どんなに性欲の強い男でも自家発電を一晩中徹夜する奴はいないと思うのだが、なぜ疑われているのだろうか・・・
リリスは疑わしげに俺を見つめてくるが、俺はそれ以上何も言わなかった。
何を言っても言い訳にしかならないと思ったからだ。
「なんだ? 今日は何かの行事でもあるのか?」
俺はギルドの前にできた人だかりを見てそう言った。
「これは面倒そうじゃの・・・」
リリスは早くも何かに勘づいたのか。
数歩後ずさる。
俺はそんなリリスを放っておいて人だかりの後ろにいる男の傍によって話しかけることにした。
「すいません、この人だかりはなんですか?」
「ああ、なんかダンジョンに見たことない魔獣が出たらしくてね。今日はダンジョンへの入場に制限かけるんだとさ。」
話しかけた人物は俺の方を振り返って説明してくれた。
見たことのない魔獣というのはパラサイトアントのことだろう。
「そうですか。それでその制限というのは?」
「ああ、なんでもパーティーメンバーの平均レベルが一定以上じゃないとダメだとか。1人で入るならレベル50は超えていないとダメらしい。」
「そうですか。ありがとうございます。」
俺はそう言って頭を下げて男の下から去って人ごみを観察して情報を集める。
下級職のレベル50はパラサイトアントと一対一で戦ってギリギリ勝てるレベルだ。
パーティーの平均レベルはどうやらパーティー人数に応じて変えているらしい。
パーティーの人数が多ければ平均レベルはその分下がる様に設定されているらしい。
この人だかりはそのレベルに到達できなかった人たちがギルドに説明や抗議のために集まっているらしい。
中には今回のことで大人数のパーティーを組んで平均レベル値をクリアしようとしている人たちもいる様だった。
(ただ人数を出した烏合の衆じゃパラサイトアントに出くわしたらただ殺されるだけだと思うが・・・)
俺は一旦、その場を離れてリリスの所に向かう。
するとそこにはリリスの他にアーシェやアリス、セリスの3人もいた。
いつの間にか合流していたらしい。
「おはよう。」
「「「おはようございます。」」」
挨拶をすると3人は丁寧な挨拶を返してくる。
セリスはともかく、ほぼ同い年のアーシェやアリスがそんな挨拶をすると俺が1人だけ年上みたいじゃないか。実際は2人の方が年上なのに・・・
「今日はもう解散するか?」
俺は思ったこととは裏腹に今日のことについて話を始める。
徹夜明けの俺としては今日を休みにして昼まで昼寝するのも悪くない。
「いえ、リリスさんもいるのですからダンジョンに入りましょう。」
アーシェはリリスと五人のパーティーなら問題ないだろうとダンジョンに潜ることを勧める。
確かに、昨日のパラサイトアント5体の内の4体はリリスが一人で仕留めている。
足手まといが4人いても問題はないだろうがそれは少しリリスに頼り過ぎではなかろうか。
「私としては今日は森で狩りをしてお金を稼ぐのはどうでしょうか。南の森の方なら危険な魔獣もいませんし、西と東の街道沿いも比較的安全に狩りができます。」
アリスは安全に森で狩りをしようと提案する。
この周辺の森の中で狩れるのはほとんどが動物だ。
魔獣と戦いたいなら北に進めば出会えるが、北の森で遭遇する魔獣の強さはピンキリだ。
それでは、ダンジョンに潜るのと変わらずリリス頼りになる。
だが、安全な街道周辺や南の森では魔獣に出会うことがほとんどないのでそっちに行くと今日は経験値も金銭もあまり得られないだろう。
「僕も森での狩りがいいです。動物を殺すのにも慣れておかなくちゃ・・・」
セリスは自分で言いながらどんよりとしている。
自分から言い出したのでいい傾向だとは思うが無茶をさせてトラウマを植え付けるわけにもいかない。
もし行くならセリスの様子を逐一観察した方がいいだろう。
「どうするんじゃ?」
リリスは3人の意見を聞いてどうするのかを俺に問う。
他の3人も俺を見据えて答えを待つ。
5人中2人が森なので俺がダンジョンを選択しても本来はダンジョン行きも5人中2人なのだが、リリスは基本俺に任せるので俺の票はリリスと2人分の効果がある。
「とりあえず、今日は様子を見て街道沿いの森に行ってみるか。稼ぎが少ないようなら明日からダンジョンに潜るのもありかもな。」
俺がそう結論を出して4人を引き連れて街道の方に歩き出す。
アーシェだけは納得がいかないようだったがこればかりは仕方がない。
リリス頼りの考えでは解散後にトラブルで命を落とす恐れがある。
安全策を取ってリリスの恩恵をできるだけ受けない状況を作ろう。
それにリリスがいても「絶対安全だ」とは言えない。
ガラシャワ戦の時は本当に死にかけたのだ。
俺が事前に適当なアイテムをいくつか借りておいたら何とかなったが・・・
「ああ、そうだ。リリス。アイテムをいくつか貸してくれないか?もしもの時様に皆が使えるようになれば便利だからな。」
そう言って俺は以前リリスから借りたアイテムを4人分借りれないかを問う。
「無間の迷鈴と水神のお守り、呪魂の反射鏡の3つでよいのか? あのときは使わなかったが他にも風鏡の霊符や火蜥蜴の護符も渡しておくか?」
「頼む。使える様になれば自分の身を守ることができるからな。」
俺はそう言ってリリスにアイテムを借りて街の外で使い方を教えることにした。
パラサイトアントの件が早急に片付くとは限らない。
ならば、全員のレベル上げと魔道具の使用で自分の身を守ることと逃げることだけでもできるようにしといたほうがいいだろう。
その間にリリスが何とかしてくれる可能性もある。
無論、これもアイテムから戦力までリリス頼りなアーシェの計画と同じだが、現状が長く続くようなら仕方ない事だろう。
俺はエルフ族の4人と違って寿命も短い。
おまけに、今はもう一つの人格であるドッペルを外に出すための方法を探している途中でもある。
あまり悠長にするのは可哀想だ。
俺達は街の外に出るとそれぞれ一つずつアイテムを受け取ってリリスからその説明を受ける。
「魔道具ですか・・・」
アーシェは魔力の扱いそのものが苦手なので手渡された魔道具を見て気落ちしていた。
「気楽にやればいいさ。」
俺はそんなアーシェに声をかけて落ち着かせようとする。
「アルト・・・ 今度セクハラしたら容赦しませんよ。」
アーシェはなぜか剣を抜いて俺を睨みつける。
今までのセクハラまがいの行為をかなり気にしているらしい。
「わかったよ。今回は何もしないさ。」
「では、実際に使ってみるかの。」
説明を終えたリリスが実際に魔道具を使う様に指示した。
「まずは無間の迷鈴からいくか。」
俺達4人は離れた場所から同時にリリスに向けて無間の迷鈴を発動する。
リリスは魔法に強力な耐性があるので効果はほとんどないのだが、それでも発動できているのかはわかる。
「うむ、4人とも発動には問題ないの。次は風鏡の霊符をいってみようかの。」
風鏡の霊符は発動すると『空気に自身の幻を映し出す』という能力がある。
これも問題なく皆発動させる。
アーシェもどうやら魔道具の発動にだいぶ慣れて来ていたようだった。
まぁ、できた幻が壊れたテレビの画像の様にブレていたがとりあえず発動はできる様だ。
「次は火蜥蜴の護符じゃの。」
火蜥蜴の護符は発動すると『周囲に一定の熱を放つ』というものだ。
蛇の魔獣であるガラシャワの熱感知対策に持っていたものだが、魔力を入れた分の範囲に一定の熱量を放つこの代物は人体と同じ熱量を周囲に放つことができれば蛇の熱感知を攪乱させることができるのだが、残念ながらあの時は魔力量が足りなかったことと熱量操作が出来なかったために使えなかったが、今なら自分の周囲を人と同じ体温にして熱感知を誤魔化すことができるかもしれない。
そんなことを思いながら発動させたが、周囲が少しあったかくなるだけだった。
周囲の熱量を操作するのはまだ無理らしい。
他の3人も発動事態は問題なくできているようだった。
アーシェは発動する範囲が狭く、セリスは発する熱量がものすごいのか熱気がこっちにまで伝わってくる。
「これは何の訓練なのですか?」
アーシェは魔道具の練習に飽きたのか。
突然そんなことを言い出した。
「まぁまぁ魔道具を扱えると便利じゃし応用すれば戦闘でも役立つものもある。次の水神のお守りで理解できるじゃろう。」
リリスはそう言って皆に水神のお守りの効果を説明する。
水神のお守りの効果は以前俺が使った水の防御壁を作るというものだ。
「アルトは勘違いしておるかもしれんが。水神のお守りの本来の能力は『水を作成する』というだけじゃぞ。」
リリスは突然何を言い出したのか、水神のお守りに魔力を流して水を生成する。
(ん? そんなはずは・・・)
俺は以前使ったように水神のお守りを発動する。
すると今度はどうだろう。
生成された水が空気を吸い込んで泡のようになり俺の体を包んだ。
内側から軽く叩いてみると程よい弾力と強度が窺える。
「アレがこれの応用じゃ。」
リリスは俺を指さして3人に説明する。
どうやら作成した水で防御壁を作るのは応用らしい。
俺はてっきりこれが本来の使い方だと思っていた。
『水神のお守り』なんて言っているが実はたいそうな物でもないらしい。
「いや、魔力を注ぎ込めば無限に水を生成できるすごいアイテムなんじゃがな。」
リリスは俺が残念がっているのを察してそう付け足す。
なるほど、簡単な性能の代わりに魔力があれば水を無限に生成できるのか。
更に応用で防護壁としても使える。
これはもしかしたらまだまだ応用が利くアイテムかも知れない。
3人は無事に水の作成に成功した後、水の防御壁を作ろうとしてなぜか失敗していた。
セリスが一番良い所まで言っているがそれでも生成した水の量が多いのか薄い泡状にならず、分厚い水の防壁となる。
これでは、一方向に壁としては使えても円形にして防御するには重すぎてすぐに崩れてしまう。
まぁアーシェの様に水の作成しかできないよりはマシだろう。
アリスは防御壁としてではなく水を圧縮して武器にしてしまっている。
高密度に圧縮した水の剣とでも言えばいいのだろうか。
切れ味は凄まじそうだが、水なので手に持てず地面に突き刺さってそのまま地面の底に沈んでいく。
空中に浮かせるために風属性か重力操作の系の土属性魔法を併用しなければならなさそうだった。
「では、最後に呪魂の反射鏡を使ってみるぞい。これはワシもやってみたいので交替でバッドステータスを引き受けられるか確認しようかの。」
呪魂の反射鏡の効果は『相手の放った呪いを反射する』というものだが、リリスが試したかったのは俺が以前やった誰かのバッドステータスを自分に反射させるというものだ。
5人でローテーションを組んでバッドステータスを適当に付けて反射できるかを試す。
結果、俺以外は不可能だった。
あのリリスですら「やり方がよう分からん」と言ってさじを投げた。
まぁ俺がどうやるのかを説明できなかったのが最大の理由なのだが・・・
「感覚で、なんとなく。出来ると信じろ。」
これでできる方がおかしいというものだろう。
ただ、俺もなんとなくやっているのでこれ以上の説明は不可能だった。
「まぁ使い方も覚えたことだし気を取り直して狩りに行くか。」
俺はそう促してこの話を流すことにした。
『感覚でできるようになると人に説明できない』ということが勉強になった貴重な体験だったと受け止めることにしよう。




