第二十六話 異変
最近、熱くてパソコンの前に立つのがつらいね。
水分補給はこまめにしないとマジで死にそう・・・
「それじゃ、分け前は半々で。」
「おう、助けてくれてサンキュな。」
俺は五人の冒険者のリーダー格の男、グラッツさんとそう話をつけた。
分け前の話の前に一旦自己紹介は終わっている。
冒険者5人のリーダー格の戦士のグラッツ、狩人のオルド、魔法使いのカミュー、僧侶のカルトとパントン。
グラッツさんは手を前に出して握手を求めてくるので俺もそれに応える。
決めたのは今回の戦いの取り分だ。
俺達は冒険者たちと魔物の戦いに横入りした形だが、そのおかげで「助かった」と言って冒険者達も特にこちらを責めることなく、寧ろ感謝された。
そんなわけで、取り分はこの広間内で倒された魔物、魔獣を俺達のパーティーと冒険者たち5人のパーティーで半々にすることになった。
元々彼らはここで戦闘をしていたので半々にしたら俺達の取り分が倒した数より増えてしまうのだが、5人の冒険者は「死ぬよりましだ」と言って譲ってくれた。
「取り分はどうしますか?」
2つのパーティーで取り分を半々で回収し終わった後で、俺達は自身のパーティー内で取り分を決めることにする。
アーシェは分け前をどうするのかを俺に尋ねてくる。
彼女は言葉遣いは丁寧で佇まいも騎士の様な感じなのだが、報酬の配分には結構うるさい。
(実家は貧乏なんじゃないか?)と俺はたまに疑っている。
「報酬は4人で山分けにしよう。」
いつもなら倒した数や受け持った数などで配分するが、今回は別のパーティーと半々にしているし、アリスは回復メインで戦闘に参加したのでほとんど配分がなくなってしまう。
いや、それよりもアーシェとセリスの方が今回は配分が少ない。
何せ彼らはワームを抑えていたのだが、そのワームは俺が撃破し、2匹目のワームはもう一方の冒険者たちのグループの報酬として回収された。
いつもの分け方では俺のほぼ総取りなってしまう。
リリスを除いた4人パーティーの中で一番お金を必要としない俺が総取りではメンバー内で揉めるだろう。
このダンジョン攻略時のみのパーティーとはいえ、まだ少しの間はこのダンジョンでのレベル上げは必要だ。
揉め事はできるだけ避けるべきだろう。
そんなわけで俺は報酬を4人で割ることにした。
3人はそれに快く頷いて採取品やドロップアイテムを4等分して分配した。
ただ、ワームの死骸や血はマジックバックを持っていない3人には大きすぎるのでリリスが持つことになった。
いや、ここに来るまでの回収品などですでに持ち切れていない分もリリスに預けているのでそれ以上だろう。
「「「リリスさんお願いします。」」」
今回の報酬も持ちきれないので全て一旦リリスに預ける3人。
俺はレベルが上がってマジックバックに入る量が上がっているのでまだ余裕がある。
「いや~、それにしてもそっちは女の子が多くていいね。どう? 誰かこっちの男衆と交換しない?」
向こうも報酬の分配が終わったのか。
グラッツさんが、俺の肩に手を回して女性4人に軽口を叩く。
アーシェとアリスは顔を見合わせて苦笑いを浮かべて、リリスは溜息をつきながら首を横に振る。
セリスは自分が女性に見えることを気にしているのか、服装を確かめている。
(セリスよ。残念ながらその仕草は女の子が服の汚れを気にしている風にしま見えない。)
セリスがどんな思いで服装を確認したのかは不明だが、その仕草はどこか可愛らしかった。
「おい、失礼だぞ。」
グラッツさんの軽口に彼の仲間の僧侶、カルトさんがそれを咎める。
「いや、冗談だって!」
グラッツさんは振り返ってカルトさんにそう言って言葉を返す。
5人の冒険者たちは全員が男で暑苦しい感じだったので、俺にはグラッツの軽口が冗談には聞こえない。
「それにしても、巷で噂のエロキングがあんなに強いだなんてな。」
カミューさんが俺を不思議そうに見つめながらそう言った。
エロキングとはまさか俺のことだろうか?
「だな。ダンジョン内で女の子とイチャイチャしてる変人って噂だったがその様子だと豪くストイックに狩りをしているようだな。」
もう一人の僧侶のパントンさんが感心したように俺見る。
「な! そんな噂が立っていたのですか?」
アーシェはパントンさんの言葉に声を出して驚き、アリスは頬を赤く染めながら伏せてしまう。
セリスは自分が入っているのかと不安そうに男達の顔を見る。
「本当にそうじゃったら・・・」
リリスは顔を伏せて何かをブツブツと唱え始めた。
きっと、噂通りに俺とイチャイチャしたいのだろう。
(まぁ、そんな気は全くないがな。)
俺としてはリリスよりもアーシェやアリスと仲良くしている方が健全だし、この中で一番仕草が可愛いのはセリスだ。本人に自覚はないだろうし、不名誉なことだろうが・・・
すくなくとも、セリスが女だったら襲っている自信が俺にはある。
まぁ実際は男なのでそんな気はさらさらないがな。
「まぁ、噂はあくまで噂だろう。」
そう言って魔法使いのカミューさんはローブの帽子部分を脱いで水筒に口をつけた。
男の頭には渦を巻いたヒツジの角の様なモノがあった。
「あなたは魔族ですか?」
他の4人がエルフなのにその男だけが他種族なのが気になって俺は思わず問いかけてしまった。
「ああそうだよ。魔族に会うのは初めてかい?この国にも結構魔族はいるはずだが・・・」
俺達のいるドルアドの街はエルフの国、公国に属している。
公国は、主にエルフが多くいるので他の種族はなかなか見ない。
唯一の例外は国を持たない人間だろう。
彼らはどこの国でもその国で一番多い種族と同数が存在する。
短命ゆえの繁殖力の高さこそが人が唯一、他種族に勝てる部分なのだろう。
(まぁ数がいても質で圧倒的に負けてるからな・・・)
人が未だに建国に至らない最大の理由を少しだけ噛み締めながら俺はグラッツ達を見据える。
グラッツ達は俺達のパーティーを見て少しだけ不思議そうな顔をする。
人と他種族のパーティーが珍しいのだろうか。
まぁ寿命とレベル上げの速度が人とそれ以外の種族では違うので仕方がないだろう。
寿命の長い種族はゆっくり慎重にレベルを上げ、短命な人間は危険を冒してでもレベル上げの速度を優先する。
そうしなければ、人は中級クラスに上がることさえ難しいのだ。
そのため、人間とその他の種族がパーティーを組むことは大変に珍しい。
(俺はどこまでいけるかな・・・)
「じゃ、これで。お気をつけて」
そんなことを考えながら俺は肩に手を置いたグラッツさんの手を振り払って先に進むことにした。
「おお、最近はワームが大量に発生してるから気をつけろよ!」
俺が別れを告げて立ち去ろうとすると、グラッツさんはそう忠告してきた。
「ん? その話少し詳しく・・・」
リリスが俺の服の袖を掴んで男の方を振り返ってそう尋ねようとした時だった。
天井からパラパラと土が落ち始めた。
「崩れるのか?!」
「そんな馬鹿な!!」
その場にいる全員がその場から退避して天井を見上げる。
天井の土中に何かがうごめいているのか。
天井の土が異様に盛り上がってからドンドン崩れて落ちてくる。
「天井に何かいるぞ!」
グラッツさんが声を張り上げて警戒を促すとその場にいた全員が臨戦態勢を取る。
そいつは地面を食い荒らしながら天井から5匹のワームが降ってきた。
そのどれもが、幅80cmオーバーで体長も5mを超えている。
「何だこの馬鹿でかいのは?!」
その大きさにグラッツさんは思わず声をあげて叫んだ。
(五体は多すぎるな。)
今までよりも巨大ということは今までのワームよりも高レベルの存在である可能性が高くそれが5匹もいるという状況は先程の戦いを見る限りでは現状の戦力では太刀打ちできないだろうと俺は判断した。
「く・・・ カミュー!攻撃魔法で牽制してくれ! 皆はその間に撤退だ!」
グラッツさんも同意見なのだろう。
カミューさんに魔法での牽制を頼んで撤退をいち早く宣言する。
「リリス! すべて焼き払え! 全員退避!」
「お主ら!ワームには近づくなよ!ワシの魔法に巻き込まれるぞ!」
俺はリリスに攻撃命令を出してそのあとはグラッツさん同様に退避を命じる。
リリスは先に魔法の術式を展開したカミューさんよりも先に魔法を完成させて複数の魔力弾を作ると全員に魔法の攻撃範囲外に逃げるように促した。
「な・・・! やばい逃げろ!」
真っ先にリリスの言葉に反応したのはカミューさんだった。
彼は魔法の発動を停止して一目散に逃げ出す。
同じ魔法使いであるカミューが逃げ出したことでリリスの魔法使いとしての実力を悟ったのか。
その場にいたリリスと俺以外の全員が一目散に逃げ出した。
「「「「「ビガァアア!!」」」」」
5匹のワームは攻撃態勢に入っているリリスに対して威嚇しながら大きな口を開けて迫ってくる。
優先してリリスを倒すべきだと判断したのだろう。
だが、ワーム達のその判断は明らかに間違いだろう。
ワーム達が向かって来た瞬間、リリスの作った魔法弾は一斉にワーム達に向かって発射される。
「・・・!」
それはワーム達に悲鳴の言葉を出させることなく、彼らを一撃で絶命させた。
そう、彼らには逃げる以外に助かる選択肢などなかったのだ。
リリスの強力な魔法弾による爆撃により、ワーム達は一瞬にして黒焦げになった。
「雷属性か?」
俺はワーム達の死に方と魔法の炸裂の仕方を見てそう判断してリリスに問う。
「そうじゃよ。炎の魔法じゃと消し炭になるからの。」
リリスはそう言っているが、ワームは十分に焦げていて回収する部位があるか不明だ。
「とりあえず、切り開いてみ・・・」 パキリ
俺がナイフを出してワームの焦げた皮膚に刃を突き立て様とした瞬間だった。
ワームの焦げた皮膚が独りでに割れた。
それは俺がナイフを突き立てようとした一体だけでなく、他の4体も同様に体の一部が割れてドンドンと中から不気味な虫が顔を出す。
そいつはアリの様に真っ黒で巨大な顎を持ち、白く透き通った羽を持つ羽虫の様なのだが・・・
その大きさは体長1m近い怪物だった。
ブチ、ガチリ・・・
そのアリの様な羽虫はワームの体内にあるまだ新鮮で綺麗な部位を食い千切りながらワームの体からゆっくりと全身を出した。
「寄生羽付蟻じゃと?!」
リリスが現れた虫を見てそう叫んだ。
その言葉を聞いてリリス以外の全員が頭の上に?マークを浮かべながら動きを止める。
どうやら、リリス以外の人は知らない魔獣らしい。
(いや、魔虫か?! ともかく・・・!)
「退避だ!」
俺は一目散にその場から離れながらそう叫んだ。
リリスは魔法を発動して交戦状態に入る。
リリス意外に知らない魔獣ということはこのダンジョンには本来存在しない強力な魔獣である可能性が高い。
現状の戦力では恐らくリリス以外に対抗できる者はいないだろうと俺は判断した。
ブブブブ!
パラサイトアントはリリスが魔法を展開すると同時に羽をはばたかせて一斉に飛び立った。
3匹はリリスと俺の方に向かって残り2匹は二手に分かれてアーシェ達とグラッツさん達の方へと向かっていく。
「くそが!」
俺は銃を引き抜いて牽制のために一発、魔法弾を打ち込んだ。
だが、その魔法弾はアッサリと躱される。
(速い!!)
俺は両手に銃を持ち連射するがそれでもパラサイトアントには一発も当らない。
そんな間にリリスの放った魔法弾がパラサイトアント3匹を一瞬で仕留めてしまう。
「リリスはアーシェ達を! 俺は向こうに行く!」
俺は3匹のパラサイトアントが地面に落ちて動かなくなったのを確認しながらアーシェ達の方をリリスに任せてグラッツさん達の方に向かった。
グラッツさん達はグラッツさんを先頭に固まりながらも後ろから魔法使いと僧侶の魔法と狩人の弓矢で攻撃をしているがパラサイトアントは空中で素早く動いてすべての攻撃を躱す。
たまに手数で押しているので掠ったり当たったりしているが、威力が弱いのか、単に相手が硬いのか昆虫特有の堅い皮膚には全く効果が見られない。
「く・・・!」
俺はパラサイトアントの背後からとりあえず、あのすばしっこく動くための羽を狙って攻撃することにした。
(相手の動きは早い・・・)
パラサイトアント自体の素早さもさることながら、羽の動きはさらに早く目で追うことはできない。
「羽を狙う! 相手を誘導してくれ!」
俺はグラッツさん達にそう指示を出した。
彼らは無言のまま、パラサイトアントが俺の射線から逃げない様に攻撃をパラサイトアントの周囲に攻撃を拡散してわざと外すことで、パラサイトアントが直線軌道でないと動けないようにした。
それでも、ある程度は動き回れるし、俺の攻撃など軽く躱してしまうだろう。
だから俺はわざと少し遅い炎の魔法弾をパラサイトアントに向かって打ち出した。
俺の弾丸はパラサイトアントを捉えるには遅い。
それよりさらに遅い弾丸を放つ意味を周囲の者たちは理解できないだろう。
グラッツさん達の表情にも「それではだめだ」と書いてあった。
だが、俺はそんなことを気にせずに2発目の弾丸を最速最大威力で発射する。
その弾丸は、一発目の弾丸と同じ軌道をたどり一発目の弾丸を後方から打ち抜いて爆散する。
どう考えてもミスショットにしか見えない攻撃。
だが、この攻撃により一発目の弾丸は散弾の様に飛び散りながら爆発の勢いもあって高速でパラサイトアントに飛来する。
「?!?」
突如、後方で起こった爆発により回避行動が遅れたパラサイトアントは背中に浴びる様に炎の散弾をくらい。羽を焦がして地面に墜落する。
その瞬間を待ってましたと言わんばかりに、グラッツ達は散開して攻撃を始める。
ガキン!
まずグラッツさんが剣で上からパラサイトアントの体を押さえつけ、そこに魔法や弓矢を俺を入れた5人でたたき込む。
パラサイトアントは魔法の猛攻に耐えながらも必死に手足を動かしてグラッツさんの剣を弾いて立ち上がろうとする。
「倒しきれない・・・」
パントンさんがパラサイトアントの動きを見ながら自身の魔力量を確認しているんか空中の1点とパラサイトアントを交互に見る。
その焦りはその場にいた全員を焦らせる。
俺もそうだが皆、魔力が付きかけているんのだ。
「すうううう・・・・! はぁああ・・・!」
そんな中、カミューさんが突然深呼吸をしだした。
その間、彼は魔法を撃っていない。
もしかすると魔力が尽きたのかもしれないが、それでなぜ深呼吸なのかは俺には分からない。
だが、その場にいる全員が何も言わずにパラサイトアントに攻撃し続ける。
いや、攻撃しているのはもはや剣と棍棒で叩く俺とグラッツさんのみだ。
俺も他の3人も魔力はすでに尽きた。
あと少しで倒せる。
そう思った時だった。
カミューさんがもう一度魔法を放ったのだ。
その一撃を最後にパラサイトアントは動きを止めた。
おそらく、絶命したのだろう。
俺達は緊張の糸が切れたのか、その場にへたり込んでしまう。
「どうやら終わった様じゃの。」
そう言ってリリスが俺の背後からやってきて水筒を渡してくれる。
「そっちの被害は?」
「問題ない。アーシェとセリスが傷を負ったのとアーシェの盾が壊れたぐらいじゃ。」
リリスの言葉を聞いて振り返ると、3人はこことは別の部屋の隅でへたり込んでいた。
アリスが懸命に治癒魔法をかけているようだった。
「今日は疲れたな。帰るか。」
俺はそう言った後で水筒に口をつけて中の飲み物を飲みほした。
その後で水筒を返したのにもかかわらず、リリスは水筒に口をつけていた。
その光景にグラッツさん達は驚愕の表情を浮かべて俺とリリスの顔を交互に見ていた。
(変に誤解されないだろうか・・・)
俺は頭を抱えて悩みこむのだった。




