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第二十五話 魔力供給

俺達は昼食を取りながら反省会を始める。


「まずは・・・」


「アルトさんはもっと体を大事にするべきだと思います!」


リリスが反省点を述べる前にアリスがアルトに対して力強く発言する。

リリスは出鼻を挫かれて目を丸くしている。


「そう無茶ってこともないだろう。腐食用の薬は作ってきたし、リリスもそれ用の薬を持っているし、アリスの腐食用の治癒魔法もあるんだし問題ないだろう。」


アルトは昼食を取りながらも耐腐食用の薬を飲んでボーンハウンドの牙を受けて体内に入り込んだ腐食の原因たる毒素を浄化する。


「それにしたってあんな戦い方を続けていては体が持ちませんよ!」


アリスは怒ったような口調でアルトに反論する。


「ですが、腐食は体内に毒素が入るだけでなく、体の一部が腐食することで起きるんです。ですから、ただ毒素に対して薬を飲めばいいというものではてですね・・・」


アリスは身振り手振りを交えてその後もお説教を続ける。

アルトは何とか自分の正当性を説こうとアリスに対して反論を投げかける。

だが、アリスはそれを全て否定してアルトに対して説教をし続けた。

他の三人はただそれを見守ることしかできなかった。

最終的にアルトが根負けして「ごめんなさい」と平謝りをするのだった。


「ええ、では。仕切り直してじゃな。」


昼食を食べ終わり。

アリスのお説教が止んだところで、リリスは反省会を仕切り直すのだった。


「まず、アーシェからじゃな。ボーンハウンド、ボーンソルジャーとの集団戦になると動きにキレがなくなるの、視野が狭いから敵の攻撃を捌いたり受けたりするのが雑になっておる。戦闘中でも気配探知を使ってもっと広く視野を持つことじゃ。それからワームとの戦いじゃが、ワームは目と耳が退化しておるから注意を引くときは手近な石を投げるかした方がよいの。あとは温度を肌で感じ取っておると言われておるから火を起こしたりじゃの。まぁこれはそういった物があった場合に限られるがの。」


「はい。」


アーシェはリリスからのアドバイスを聞きながらメモを取っている。

教える側のリリスからすれば大変優秀な生徒だろう。


「次にセリスじゃが・・・ お主はまぁ弱いから戦闘についてはこれからじゃの。」


セリスを見てリリスはそう言うだけで終わってしまう。

リリスが何かアドバイスを送るよりも戦闘技術を教えられる人間がアドバイスを送った方がいいと判断したのだろう。


「うう・・・ はい」


セリスは少しだけ塞ぎ込んで落ち込んで返事を返す。


「あとは・・・ セリスは魔獣との戦いに慣れた方がいいの。」


リリスは最後に言いにくそうにセリスに告げる。

アルトがワームに止めを刺すところを見て固まっていたことへの忠告だろう。

冒険者を目指すならば魔獣との戦いは必須項目だ。


どんなダンジョンでも魔物しか出ないということはありえない。

無論、ここより以前の魔物しかいないエリアならばそこそこの数が存在するが、そこにいる魔物は弱いし

倒してもお金にならないやつらばかりだ。


そんな奴らを狩っているだけでは生活はままならない。

そんなわけでセリスには残酷だが、魔獣ワームを自力で倒せるようになってもらわなければならない。

セリスは顔が青ざめて気分を悪そうにしながらも、リリスの言葉に頷くのだった。


「なぁに。すぐに慣れるわい!」


リリスは落ち込んだセリスを励まそうと背中をバシバシと叩いて元気づけるのだった。


「さて、アリスじゃが。まぁ低レベルの僧侶ならそんなものじゃろう。アルトにはワシからは特にないしの。」


リリスはそう言って二人を一瞥するだけで、特に言うことはなさそうだった。

アリスの僧侶という役職はもともと戦闘に向かないので、戦闘についてあれこれと文句をつけるのは酷というものだろう。

アルトの戦い方にリリスは特に反対はしない。

逆に、アルトの戦い方には目が見張るものがあるとリリスは思っている。


反省会も終わって俺達はまたダンジョンを散策しながら魔物を退治していく。


「ワームがいないな・・・」


アルト達はセリスにワーム退治をさせようと思いワームを捜索しているが一向に見つからない。


「・・・!」


セリスはアルトの吐き捨てた言葉に一瞬だけ驚く。

アルトが視線を送るとセリスは苦笑いを浮かべて誤魔化そうとする。

ワームとの戦いが余程嫌らしい。

アルトはそんなセリスを見てにやりと笑う。


「リリス。探知でワームを探せないか?」


そして、リリスにワームの居場所を尋ねるのだった。


(何もそこまでしなくても・・・!)


セリスは涙目になりながらもセリスを睨んだ。


「ふむ。いるにはいるが先客がおるぞ。」


探索を終えたリリスがそう言ってアルトにどうするかを尋ねる。


「他の冒険者が戦っているのでしたら止したらどうでしょうか。」


アリスは他の冒険者がいるから諦めようと提案する。


「賛成だな。それよりも私はゴーストと戦いたい。」


アーシェはワームよりもゴーストとの再戦を望んだ。

セリスは二人の発言を聞きながらうんうんと頷いている。

2人の意見に賛成してワームとの戦いを避けたいのだろう。


「そこでいい。案内してくれ。」


アルトは三人の意見を却下してリリスにワームのいる場所に案内を頼んだ。

他の冒険者がどのように戦っているのかと、その姿を見ることも重要だと感じたのだ。

現パーティーは日が浅いがそれぞれに役割を持って動けている。

だが、連携はあまり取れていない。


それは誰も集団戦を間近に見て理解していないからだとアルトは考えた。

行く道の途中で集団戦での連携の重要性を説きながら3人を何とか説得する。


あくまでも見学。

それが今回の冒険者とワームの戦いを見る理由だった。


リリスの案内通りに道を進むとすぐそこに部屋の様な広い空間があった。

アルトたちは入り口から中の様子を窺うと、5人の冒険者がワーム2体やボーンソルジャー4体、ボーンハウンド7体と戦っていた。

だが、その戦い方は参考にならない無様な物だった。


戦士、狩人、魔法使い1人ずつに僧侶が2人の5人パーティーは五人が固まって背中を庇いあって戦っていた。

魔法使いも僧侶も慣れない接近戦を余儀なくされて、魔法を使う暇がないのか。

手に持った武器を振るっていた。


「参考にならんな。」


アルトは残念そうに戦況を見つめながらあくびを始めた。

5人は声を出し合って鼓舞し合いながらも懸命に闘っていたが、数の優位と魔法を発動するための間を与えられず攻め続けられてじり貧の状況だった。


「加勢した方がいいのでは?」


アリスは5人の冒険者たちの劣勢の姿を見てそう進言する。


「同意します。」


アーシェも同じ意見のようで剣を鞘から抜いて臨戦態勢を取った。


「横取りは禁止なんじゃないのか?」


アルトはギルドでの決まりを守るべきなんじゃないのかと思って部屋での戦闘に参戦するべきなのかどうか迷っている風だった。


「基本的にはなしじゃが、この場合は放っておくと死人が出そうじゃからな。」


リリスは「助けに入ってもいいんじゃないか?」という口ぶりであくまで断言はしない。

俺達が助けに入るべきかどうか迷っている合間にも部屋の内部で戦っている人達の体力は刻一刻と減り続けている。


「私一人でも行きます。」


アーシェはそう言って一人で室内に入ろうとする。


「私も行きます。」


アリスも「もう見ていられない」といった様子でメイスを手に持ち、室内に一歩足を延ばした。

セリスも無言で両手にナイフを握って2人についていく。


「お人好しだな。」


アルトはまるで三人の行動を馬鹿にしたような発言をして三人を挑発する。


「な・・・・!」


アーシェはアルトの言葉に反論しようと振り返るが、その姿を見て言葉を失った。

アルト自身も両手に拳銃を持ち戦闘態勢に入っていたからだ。


「アーシェとセリスはワームを、アリスは5人の下に駆けよって治癒を、俺は狙撃で敵の数を減らす。

以上だ!」


「「「はい!」」」


アルトの号令と共に三人は駆け出した。

それと同時にアルトは両手に握った拳銃に魔力を流して魔法弾を発射する。

発射された魔法弾はすべて光属性を帯びており、アンデット系のボーンソルジャー、ボーンハウンドに着弾すると眩い閃光を放って一撃でそれらを浄化し撃破していく。


「はあ!」


アーシェは三人の中で最速の速さを誇るために一人先んじて目標に下に辿り着き、剣を振るう。


「ピギャァ!」


アーシェの振るった剣はワームの胴体に深々と突き刺さる。


「な、なんだ?!」


「助けか?!」


「まさか敵じゃないわよね?!」


アーシェの登場で5人の冒険者は驚きの声と共に事態を把握しようと周囲を見渡す。

アルトの放った弾丸ですでに何かが起こっていることは理解していたが、アーシェの登場でそれがより分かりやすくなったため、彼らは連携を取るために周囲を確認しながら声をかけあう。


「はぁあ!」


アーシェに一歩遅れてセリスもワームの側面に辿り着くとナイフを突き立てた。


「ピギィィイ!」


「・・・!」


ワームにナイフが突き刺さるとワームは痛みに身をよじらせながら悲鳴に似た声を上げる。

セリスはその声に驚きと恐怖、不安を感じながらもナイフを抜いては突き立てるという行動を繰り返す。


(戦わなきゃ! 闘わなきゃ!)


セリスは恐怖に駆られてただただ刃を振り上げては振り下ろすという行為を繰り返す。


「ピギィイイ!」


そんなセリスに業を煮やしたのか、ワームは体を捻って体当たりを仕掛ける。


「危ない!」


逃げようとせず、ただただナイフを振り回すセリスの前にアーシェが飛び出してワームの体当たりを盾で受ける。


「うわぁあ!」


「くぅう!」


アーシェはワームの体当たりを受けきれずに後方に弾き飛ばされる。

背後にいたセリスもアーシェと共に弾き飛ばされて2人は壁に激突する。


「大丈夫ですか?!」


5人の冒険者たちと無事に合流したアリスは5人に治癒魔法を施しながらも、アーシェとセリスの2人に声をかける。


「何をやってるんだか。」


未だに部屋の入り口付近に留まったアルトは頭を抱えながら二人を見つめる。

アルトは魔力を使い果たしてしまい、戦闘に行く前に水筒に口をつけて水分を補給する。

この世界では飲食や睡眠で主に魔力が回復するので、こうして少しでも魔力を回復させようとしているのだ。


(正直、魔法弾を撃ち過ぎて身体強化する魔力がない。)


そのおかげでアンデット系の魔物はほぼ全滅したのだが、アルトは前線に出るのに必須の魔法である身体強化魔法を使う魔力が残っていなかった。

アルトはレベルが低いので身体強化魔法なしではワームと戦うには大きな支障が出る。


アーシェ達の介入とアンデット系の数が大幅に減ったことで戦況は一気に好転している。

残ったアンデット系の魔物はアリスと僧侶2人がすぐにでも片付けるだろうし、ワームも戦士と狩人が協力して足止めしている間に魔法使いが魔法を使い消耗させるか、撃破させてくれるだろう。

だが、弾き飛ばされたアーシェとセリスが止めていたワームがそちら側に行けばまた戦況が悪くなるのだ。

アルトは現状で一人で突っ込むか、リリスに応援を頼むかで迷っていた。


「仕方ないの~♪」


そんなアルトの顔の正面にリリスの顔が鼻先が当たりそうな距離でいきなり現れた。

リリスが飛行魔法を使ってアルトの前顔に来るように飛んだのだ。


「な・・・・!」


アルトが言葉を発するよりも早くリリスはアルトの唇に自身の唇を乗せる。

所謂、接吻。キスである。

この状況下でこの行為の意味を見いだせなかったアルトはリリスの両肩に手を乗せて引きはがそうとした、その瞬間だった。

リリスの口内から何かが流れ込んでくる。


(唾?! 涎?!)


それがなんなのかわからず、アルトはどうしていいの分からない。

だが、口内から入ってきたものはそのどちらでもないようで、喉を動かして飲みこんでもいないのに体内に入っていき体の中心で凝固し始める。

アルトはそれがなんなのかをそこでようやく理解した。


(魔力か。)


リリスが行ったのは、口内接触で行う特殊な魔力供給法である。

接吻しなければならないという欠点はあるが、供給する魔力をほぼ100%相手に送ることのできるこの魔力供給法は貞操観念が強いこの世界では恋人同士、もしくは夫婦の間でしか使われない。


2人がそんなことをしている間にも、アーシェとセリスを吹き飛ばしたワームが手近な人間を襲おうと活動を始める。

それを見て、アルトは両手に持つ二丁の拳銃にリリスから送られてきた魔力を送って攻撃を開始した。


ドドドドドン!


「ピギャァ!」


アルトの放った魔法弾は今度は火属性を帯びているのか、ワームに当たると爆散していく。

ワームは攻撃が当たるたびに叫び声を上げながらも、魔法弾を放つアルトに向かって前進してきた。


「ふはぁ・・・」


アルトへの魔力の供給が終わったからか、ただ単に満足したからかは分からないが、リリスは唇を離して息をする。

2人の間には先程まで熱い接吻を交わしていた証拠として唾液の橋が口と口との間にかかっていた。


「礼は言わんぞ。」


アルトは無理やり唇を奪われたことが不服なのか、不機嫌そうにそう言ってワームへの攻撃をより激しくする。

ワームへの攻撃はもはや八つ当たりに近いものになっていた。


「ふふふ♪ 御馳走様じゃ♪」


反対にリリスはすごくご機嫌そうに唇を舐めて先程までの行為を思い出しているのか、悦に浸っていた。


その後、戦いは一気に収束へと向かう。

アルトの砲撃でワーム一体が死亡。

アンデット系の残った魔物は僧侶陣3人が撃破。

3人の冒険者が相手をしていたワームには、無事に起き上ったアーシェとセリスが参戦して五人がかりで仕留めることができた。


「終わったみたいだな。」


アルトは戦闘が終了したことを確認して、リリスと共にアーシェ達と5人の冒険者の下に向かう。


「つ、疲れた~。」


長かった戦闘がようやく終わり、冒険者5人とアーシェ達3人は地面に腰を下ろして休憩に入るのだった。


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