第二十四話 ワーム
修行を終えた翌日の朝。
俺はまた朝早く起きて昨日、アーシェから預かった剣に付加魔法を施す。
アーシェにはゴースト戦用に光魔法を付加して欲しいと言われているので、その通りに付加魔法を施す。
今日はゴースト戦ということもあって、俺はアーシェの剣一本だけに魔力を流す。
昨日の内に剣の内部に魔法式を書き込んでいるので、今日も魔力で焼き付けをするだけだ。
ナイフと違って剣は大きいのだが、アーシェの使っている剣はサーベルなのでそこまで大きいという気はしない。
ただ、薄く細い刀身内に魔法陣を焼き付けるのは少し面倒だった。
以前からの戦いで、剣は少し消耗しているので魔力を雑に流すと折れてしまいそうで正直、やらない方がいいのかと思ってしまった。
コンコン
「どうぞ。」
いつもの時間になりリリスがドアをノックしてきた。
昨日と違い、俺の気配探知能力も上がっているのでドアの外に人がいることと、それが知り合いかどうかまでは分かるようになった。
気配を知っているか知らないかを判断するだけなので、アーシェやアリスの場合もあるかもしれないが、この宿にはリリス以外の知り合いが泊まっていないのでそれはないだろう。
ガチャリ 「おはよう。」
「おはよう。」
ドアが開いて入って来たリリスが挨拶をしてくるので俺も挨拶を返す。
「ふむ。お主、付加魔法のレベルが上がったか?」
付加魔法の最中でまだ完成していないのに、リリスは俺の魔法を見て尋ねる。
俺は少し気になってステータスが見たくなったが集中力が途切れて失敗しても困るので、後で確認することにした。
付加魔法の完成後にリリスに見せるとリリスは俺を見て驚いた表情を向ける。
「お主、何をしたんじゃ?」
「?」
普通に付加魔法を施しただけなので、何をしたのかと問われても俺には答えようがない。
俺はリリスの質問に首を傾げるだけで返して、ステータスを確認する。
ステータスには『付加魔法Lv3』と書かれていた。
昨日ので2にさっきので3に上がったのだろう。
「ちょっと使ってみるぞ。」
リリスはそう言って剣に魔力を流す。
すると刀身に白い光が満ち、輝きだした。
「やはりそうじゃ・・・」
リリスは何かに勘づいたらしく、魔力の流し方を変える。
すると今度は刀身が透明になって見えなくなった。
「ん?」
俺はなぜそうなったのかが分からず、剣の刀身のあるであろう部分に触れる。
すると、眼には見えないが確かにそこには剣があった。
「なにこれ?」
「お主、自分でやって気づいておらんのか。この剣には光魔法が二種類入っておるんじゃよ。」
リリスはあきれた様な顔で俺に説明を始めた。
「正確には一種類の光の魔法を二種類に変化させておる。魔力を普通に流せば光の魔力が刀身に満ちて光属性を宿した刃に、魔力の流す部分を替えると刀身の光が周囲の光を屈折させて見えない剣となる。この場合は光の魔力が全て剣を隠すためにその力を使ってしまうので、属性はなしじゃ。」
リリスは簡潔に説明しつつも、剣内部の魔力を操作して剣を光らせたり消したりしている。
「俺にもやらせてくれ。」
俺も新しいおもちゃを見た子供の様にリリスから剣を借りて魔力を流す。
剣の刀身は光を帯びて輝きだす。
「それでじゃのう。魔力を全体に流すのではなく、こう魔力を流すんじゃよ。」
リリスは俺の手を取って剣に魔力を流して内部の魔力を操作する。
魔力の操作能力が俺より優れているリリスは俺の魔力さえ操作してしまう。
すると、剣の内部の魔力が動いて刀身がまるで消えてなくなったかのように消えてしまう。
「おお!」
俺は思わず歓喜の声をあげてしまう。
「ふふふ、どうじゃすごいじゃろう! まぁお主の魔法操作能力ではまだ出来んじゃろうが・・・」
リリスは手を離して両腕を組んでまるで自分が作ったかのように「えっへん」と胸を張って自慢げに語り出した。
そんなリリスを放っておいて俺はリリスから教えて貰った通りに魔力の流し方を変えて剣を光らせたり消したりしてしばらく遊んでみる。
(こやつもうできるようになっとる・・・・)
リリスはそんな俺を見てあきれた様な顔を浮かべてガックリと肩を落とした。
「それで、一体どうやったんじゃ?」
リリスは俺がどうやってこんな複雑な魔法を剣に入れたのかを問うてくる。
「ああ、ええっとな・・・」
とりあえず、剣に組み込んだ魔法術式をリリスに説明する。
実際にそれがどういう効果を発揮するのかが俺にはよくわかっていなかった。
俺は自分がやりやすいやり方で術式を組んで入れただけなのだ。
「ううむ。なるほど・・・ これがこうなっとるのはつまりこういうことじゃな?」
「ああ、それでここにエルダーの術式を組み込んで・・・」
その後、俺達は魔法術式の話しで少し話し込んでしまい。
アーシェ達が心配になって見に来るまで魔法術式の話を続けたのだった。
「それで、剣の方はどうなったのでしょうか?」
朝食後、ギルドに行く途中でアーシェがリリスに剣のことを訪ねてくる。
「ああ、それなら・・・」
リリスは俺の方を見て剣はどうしたか尋ねてくる。
「ここにあるぞ。」
俺はにこやかに笑顔を浮かべて剣を抜き、アーシェに刀身を見せる。
「「「あ・・・」」」
それを見て予想通り、アーシェ、アリス、セリスの三人は絶句した。
理由は俺が魔力を流して剣の刀身を消しているからだ。
刀身のない剣を見つめたまま三人は数秒間、固まっていたのだが・・・
「な、なんてことするんですか!!」
アーシェが俺の胸倉を掴んでガクガクと揺すっってくる。
その焦った表情を見て俺とリリスは思わず笑みを浮かべてしまう。
「何を笑ってるんですか! この変質者!」
アーシェの渾身の右フックが俺の左頬に突き刺さった。
アーシェは咄嗟のこととはいえ、見事に身体強化魔法を発動していた。
「成長したな・・・」
俺は地面に倒れ伏してアーシェの成長を喜びながら剣への魔力供給をやめる。
すると剣の刀身が見えるようになるのだった。
「アーシェ。その辺で勘弁してやっておくれ。」
剣の刀身が見えるようになったのだが、怒りのままに俺に追撃しようとするアーシェをリリスが抑える。
そして、剣の刀身があることを説明する。
「すごい、一つの剣に二つの付加魔法を?」
アーシェはリリスを見て尊敬のまなざしを向ける。
「正確には一つの魔法術式の一部を消すことで二つの作用になるようにしておるんじゃよ。」
リリスはアーシェに武器内部の付加魔法について説明しながら、俺の時と同じように剣を透明にする方法を教える。
魔力操作が苦手なアーシェには残念ながら刀身の透明化はできそうになかった。
「む・・・ 難しいですね・・・」
ダンジョンに行くまでの最中、ずっと練習していたのだが、アーシェには結局できなかった。
アリスとセリスにもやらせてみた結果はアリスは成功。
セリスは不可能だった。
「まぁ今回のダンジョン探索では必要ありませんし、問題ないでしょう。」
アーシェはできた所でと自分に言い聞かせるて、ダンジョン内に入っていった。
ダンジョン内に入ると、俺達は一目散に以前のゴーストが出現するエリアの手前まで移動する。
途中の戦闘は俺とアーシェ、セリスの三人で受け持ってアリスの魔力は温存する方針を取る。
俺もセリスへのフォローをリリスに任せて、魔法銃を使わずに戦うことにした。
「この先に進むんですか・・・?」
セリスはゴーストの出現するエリアの前で立ち止まって俺に質問を投げかける。
その表情には不安の色が強く出ていた。
「ボーンソルジャーと一対一をやるのはまた今度だ。連携の確認はここに来るまでの戦闘で十分だろう?大丈夫。敵の引きつけは俺とアーシェでやるから、お前は側面か背後から攻撃してくれればいい。」
俺はセリスを勇気づけながらも、決定事項だと言わんばかりに先に進む。
アーシェとアリスはセリスをみて可哀想だとは思いつつも、俺についてくる。
俺に何を言っても無駄だと知っているからだ。
セリスは最後尾のリリスも先に進むので仕方なく足を踏み入れるのだった。
「リリス。人のいないルートで魔物が多いのはどれだ?」
俺はリリスに探索魔法で周囲の状況を確認してもらうことにした。
「そうじゃの。こっちかの。」
リリスは一瞬で探索の魔法を展開して俺に指でルートを示した。
俺はリリスの指さした方に迷いなく突き進む。
先に進むと程なくして犬型の骨の魔獣が遠くに見えた。
「なんだあれ?」
俺は後方にいる四人に認識した魔物を確認する。
「あれはボーンハウンドじゃの。俊敏に動く上に牙には腐食の効果があるから気を付けた方がよいぞ。
今見えておるのは一体じゃが、奴らは集団で行動するからおそらく見えないところに大量におるはずじゃ、気を付けての。」
リリスはいつも通り両腕を組んで答える。
「爪は気をつけなくてもいいんですか?」
セリスは爪には気をつけなくていいのかと尋ねる。
「骨に爪はないからの、心配無用じゃ。」
リリスの言う通り、骨だけの魔獣なので爪による攻撃は気にしなくてもよさそうだった。
「危険なのは牙だけか。楽勝だな。」
「いえ、油断は禁物です。腐食は大変危険な症状です。最悪は周囲の肉を切り落とさなければなりませんから。」
俺の呑気な発言にアリスは腐食の危険性について説明して、気を抜かせない様にする。
「んじゃ、気を付けていくか。」
俺達は気合を入れ直してからボーンハウンドへ突撃を開始する。
先頭は俺とアーシェ、後からセリス、アリスと続いていく。
「カチカチ」
ボーンハウンドは俺達を発見すると口を開閉して音を鳴らしだした。
周りにいる仲間を呼ぶための行為だろうか。
ボーンハウンドは3mほどまで近づくと口を打ち付けるのをやめて、こちらに向かって駆け出してくる。
狙いはアーシェの様だった。
「俺は周囲を警戒する。」
「お願いします。」
アーシェに一声かけて俺は周囲を警戒しながらボーンハウンドの真横を駆け抜ける。
アーシェは飛び掛かってくるボーンハウンドの攻撃を縦で捌くと、剣に宿った光魔法を発動してボーンハウンドを切りつけた。
ボーンハウンドは一撃で死亡したのか。
全身の骨が関節部分からバラバラに分離した。
その間に、俺が先の分岐点に行くと左右の道から複数のボーンハウンドが押し寄せていた。
その後ろにはボーンソルジャーも駆け寄ってきている。
「左から5、右6! その後ろにさらにソルジャーが3と2!」
予想外の多さに驚きながらも俺は後方の3人に敵の人数を知らせる。
「多いですね。」
アーシェは文句を言いながらもすぐに俺の傍に駆け寄って左側を受け持ってくれる。
俺は右側から迫りくする敵に集中することにした。
「撤退しますか?!」
アリスが遠くから俺達に撤退するかどうかを問う。
だが、そんな時間はない。
次の瞬間には俺の担当する右側からボーンハウンドが飛び出してきた。
俺は棍棒を振り回して応戦する。
「!」
それを見てアリスも決心したのかすぐさま光魔法を放って一体を仕留めた。
「ええっと・・・」
セリスだけがどちらに加勢すればいいのかわからずに戸惑っている。
「セリスはアーシェの援護だ。アリスもアーシェの方を優先してかまわん!」
「あ、はい!」
俺の一声でセリスは迷いなくアーシェの方に駆け寄って敵と交戦する。
2人は迫りくる5体のボーンハウンドと交戦を開始する。
「試させてもらうぞ。」
俺は棍棒を右手で持って大の字になる様にしてボーンハウンド5体の攻撃を受ける。
「な!なにを?!」
その姿を唯一見ていたアリスが驚いて悲鳴に近い声を上げる。
「発動!」
次の瞬間、俺は予め準備しておいた魔法を発動する。
発動した魔法は『ホーリープロテクション』
アリスがメイスに使用している光の付与魔法だ。
俺はそれを体全体にかけて使用する。
光の加護は俺の体を包み込み、牙を突き立てたはずのボーンハウンド5体が光の魔法に触れたためか、バラバラになって地面に転がる。
「実験終了。ヒール。」
俺はすぐに体に治癒魔法をかけて傷を癒す。
ヒールの魔法で俺の体についた傷はすぐに完治した。
どうやら、腐食の効果は怖いが攻撃力自体はそれほどでもないらしい。
(なんて無茶を・・・!)
アリスにはその光景が理解できなかった。
自分の身を犠牲にしてまで敵を倒そうとるアルトの行動はもはや自殺志願者のそれに近い。
(さすがじゃの。自分に打てる最善手をこうまで迷いなくやってのけるとは・・・)
逆にリリスはアルトの行動に感心した。
自分の持てるすべての手段を利用してその中で最速最善の手を考え、迷いなく実践できるその度胸と勝利への執念に・・・
背後で戦うセリスとアーシェの二人には何が起こったのかを理解できなかった。
2人とも目の前の敵と戦うので精いっぱいだったのだ。
「アリス!援護を!」
「・・・ハッ!」
アーシェの援護の要求にアリスはようやく正気を取り戻して援護射撃を始める。
狭い道の内部では3人で戦うのでやっとのため、アリスは前線に出ることができない。
そのため、彼女の役目は後方からの援護射撃だ。
もっとも、彼女の光魔法はアンデットに有効なためその攻撃は一撃必殺の威力を持つ上に、昨日の修練で速度と命中精度が上がっているので、その攻撃は一撃必中でもある。
そんなわけでリリスを除いた場合、アリスは現戦力で最強の攻撃力を誇っていた。(アンデット限定)
(ん?今ので魔力を使いすぎたか・・・)
アルトはステータス画面を確認して魔力量の残りを確認する。
全身にホーリープロテクションは少々やり過ぎたようで魔力量が予想以上に激減していた。
そんなわけで後続に迫っているボーンソルジャー2体をアルトは銃で攻撃するのではなく、接近戦で戦うことになった。
「よし、終わり!」
「アルトさん?!」
その間にアーシェとセリスの二人もボーンハウンドを片付けたらしかった。
セリスはアリスの援護射撃の範囲外で戦闘を始めるアルトに声を投げかける。
「セリス、次が来るよ!」
そんなセリスにアーシェはボーンソルジャー3体が迫っていることを伝えて臨戦態勢を取る。
「あ、はい!」
セリスもすぐに向きを変えて迫りくるボーンソルジャー3体と戦い始めた。
アーシェが2体、セリスが1体を受け持つ。
2人はボーンソルジャー2体の攻撃を捌くのがやっとでなかなか攻撃に転じることができない。
そんな二人の下にアリスの援護射撃が届く。
放たれた魔法はアリスの剣の形をしたホーリーバレットだ。
剣の形をしたホーリーバレットは2体のボーンソルジャーを巻き込んで突き刺さると霧散する。
だが、2体のボーンソルジャーが体勢を崩したことでアーシェとセリスに勝機生まれる。
アーシェは体勢を崩していないボーンソルジャーに攻撃を集中してこれを撃破。
セリスも態勢の崩れたボーンソルジャーに追い打ちをかけて撃破。
その後、二人ががかりで残った1体を撃破すると後方を振り返る。
右側の道の先ではアルトがボーンソルジャー2体と交戦していた。
(向こうは終わったようだな。)
アルトは戦闘中のわずかな一瞬に目線を後方に向けてアーシェ達を見る。
どうやら二人は無事にボーンソルジャーまでを倒したらしかった。
(・・・? あれは・・・)
アルトはアーシェの足元に先程までなかった地面のふくらみを発見する。
2人はこちらに気を取られて足元が見えていない様子だった。
(あの二人の課題は視野の狭さだな。)
アルトはそんなことを考えながらもボーンソルジャーの攻撃を捌いて反撃しながら腰の銃に手をかけた。
「アルト! 今助けに・・・」
そう言ってアーシェが一歩踏み出した瞬間。
「アーシェ!足元!」 ドン!
アリスの叫び声とアルトの銃声が同時に鳴り響いた。
アーシェは思わず足元を見ると、アルトの放った銃弾が地面に突き刺さる。
突き刺さった銃弾は地面の土を捲り上げて霧散する。
「ピギャ!」
すると、捲れ上がった地面から巨大なミミズの様な魔獣が飛び出してきた。
直径はおよそ30cm強、長さは地面から出ているだけでも1mを超えている。
「ワームか!」
その姿にアーシェとセリスはすぐさま臨戦態勢を取る。
「何なんですかこれ?!」
セリスは武器を構えながらもアーシェに尋ねる。
「ミミズの魔獣ワームだ。」
ミミズのような胴体に本来のミミズには存在しない巨大な口を持つ魔獣。
それがワームだ。
体長は2~3mほどで直径は30~50cmほどのものが基本とされる。
アーシェはそんな基礎知識を思い出しながら相手を観察する。
「こいつは小さい方だ! 私が攻撃を受けるからセリスは側面から攻撃だ。 アリスはアルトの援護をしてやってくれ!」
アーシェは状況を分析してすぐに指示を飛ばした。
「「はい!」」
2人はすぐに指示通りに動くために走り出す。
(ふむ。敵を分析して的確な指示を出すの。)
そんなアーシェを見てリリスは少し感心していた。
ワームには打撃武器も光魔法も効果が薄い。
柔らかく弾力のある皮膚に打撃攻撃は意味がなく、アンデットではないワームには光魔法は無駄に魔力を消耗するも同然だ。
そんなアーシェの行動を監視しつつ、リリスは背後から迫りくるワームを焼却処分しながら観戦を続けるのだった。
アーシェは盾と剣をぶつけて音を出してワームの攻撃を受ける準備をする。
その隙にセリスは側面に回り込んで臨戦態勢をとった。
だが、セリスが走ったからだろうか。
先程飛び散った土の中の石ころを蹴飛ばしてしまい、それがワームにぶつかってしまう。
ワームはそれを攻撃と勘違いしたのか、セリスに向かって突撃する。
「わぁあ!!」
セリスは自分が攻撃されると思っていなかったために、不意を突かれて無様に逃げ惑う。
「しまった!」
アーシェは仕方なくワームの側面から攻撃を開始して自分に注意を着つけようとする。
そんな二人の横を通りぬけてアリスが右側の通路に入ると、アルトが2体のボーンソルジャーを倒しているところだった。
(すごい・・・ あの短時間で2体同時に・・・)
それはアルトよりレベルの高いアーシェでさえ難しい事なに、アルト1人であっさりと2体を倒してしまっていた。
「アルトさん! 2人に加勢を・・・!」
アリスはすぐさまアルトに加勢を申し出るが、アルトは頭をかきながらどうするか迷った風に歩き出す。
「俺が出ても有効な手が打てないんだよな・・・ とりあえず、あいつについて知ってること教えて。」
アルトは悠長にもワームのことについて質問を始めた。
「何を悠長なことを・・・! 早く加勢に行きましょう!」
アリスはそんなアルトに業を煮やしたのか。
すぐに反転してワームの方に走り出した。
アーシェの放った一撃はワームの体に深く突き刺さっていた。
ワームは斬撃に対して弱いのでアーシェの剣は深々と突き刺さってワームの体を切り裂いていく。
「はぁ!!」
アーシェは気合を込めてワームの体に突き刺さった剣を引いてその身を引き裂いていく。
引き裂かれたワームの体からは紫色のドロドロとした血が飛び散る。
「ピギャァ!」
ワームは悲鳴を上げて叫ぶと体を鞭のようにしならせてアーシェに体をぶつけて体当たりをする。
「きゃぁ!」
アーシェは体をごと弾き飛ばされて壁に激突する。
追撃を仕掛けようとワームは頭部を反転させて大きな口を開いてアーシェに向かって突進する。
「く、うう・・・」
アーシェは突き刺さった剣を握り締めた状態で弾き飛ばされたためか、手を捻って捻挫してしまっていた。彼女にできるのは盾で攻撃を防ぐことのみ。
アーシェは向かって来るワームの攻撃を何とか盾で防ぐものの、そのせいでさらに壁に激突してしまう。
「アーシェ!」
「アーシェさん!」
アリスとセリスの二人が懸命にメイスとナイフを振るってワームに攻撃するが、メイスは弾かれて効果がなく、セリスのナイフは突き刺さったは良いがそこから体を引き裂くには至らない。
これは単純にセリスの筋力値が足りないためだ。
セリスは年が若く、レベルも低い、おまけに元々筋力値がそこまで高くない。
「くそう。」
セリスは自分の力の無さを嘆き
「アルトさん!」
アリスはアルトに助けを求める。
「分かってる。」
アルトは銃を手に持ってワームに近づくと、先程アーシェが傷つけて部分に拳銃の先を突っ込んだ。
「爆ぜろ!」
アルトがトリガーを引いた瞬間。
ワームの拳銃を突っ込まれた部分が赤く腫れ上がり、爆散した。
「ピギャァアア!!」
ワームは体を2つに裂かれて泣き叫ぶような声をあげて地面に落ちた。
「アーシェ!今のうちにこっちに・・・!」
アリスはアーシェに駆け寄って立ち上がらせるとワームから距離を取る。
「うるさい!」
アルトは泣き叫ぶワームの上にマウントして銃をしまうと、セリスから預かっているナイフを取り出してワームの頭部を引き裂いた。
ワームの頭部からは大量の紫色の血が流れ、飛び散った。
「・・・」
やがて、ワームは沈黙して動かなくなった。
「汚いな・・・」
アルトは血を拭いながらワームの上から立ち上がるとナイフをしまう。
その光景をセリスはただ怖いと思うことしかできなかった。
魔獣を躊躇なく殺す光景は魔物を倒す時よりも、残酷に感じたのだ。
おそらく、それは魔物が悲鳴を上げることがないからだろうが、セリスにはそれが判らなかった。
アリスはアーシェに治癒魔法を施したのちに薬を塗ってと包帯を巻いていた。
「終わった様じゃの。」
戦いが終わったことを確認してリリスがアルトに水筒とタオルを渡す。
「ああ、あとでな。セリス、先に回収するぞ。」
アルトはセリスと先に魔物のドロップアイテムの回収を先に済ませることにして、リリスの差し出した水筒とタオルには手をつけなかった。
「あ、はい」
セリスは呆然とアルトを見つめながらも、指示通りにアイテムを回収していくのだった。




