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第二十三、五話 修行 午後の部

お昼を終えて僕たちはまた二組に分かれて別行動を取ることになった。

アーシェさんは別れ際にアルトさんに「さっきのお礼よ。受け取って」と上品な顔と笑顔を向けて背中をバシバシと叩いていた。

アルトさんは「仕方がないか・・・」という表情で受け入れていた。

リリスさんとアリスさんも「何も言えない」という表情で無言のままその光景を見続けていた。


「ではの・・・」


「アーシェそろそろ行きましょう。」


「ええ、そうしましょうか。」


リリスさんが一人先行する形で広間に向かうのを見てアリスさんがアーシェさんを呼び。

ようやく、アーシェさんはアルトさんの背中を叩くのをやめて去って行った。


「やっといったか・・・」


アルトさんは背中をさすりながら午前中に回復した魔力を使って背中に治癒魔法を施している。

アーシェさんは素手で背中を叩いていただけだが、身体強化の魔法を施しているのでその攻撃力はかなりのものになっていた。

アルトさんは食事を取り魔力がある程度回復していたはずだが、身体強化魔法を使わずに受けていたので相当のダメージがあったのだろう。

涙目を浮かべていた。


「俺達も行くか。」


「はい。」


アルトさんの治療が終わったところで、僕達は広間へと向かった。

またレベル上げのためにボーンを倒しに行くのだ。


「午前中の内にレベルも上がっただろうし、次は一対一で戦ってみてくれ。」


アルトさんはそう言って僕にボーンとの一騎打ちを促した。

少し不安を感じながらもステータスを確認するとレベルは3にまで上がっていた。


「大丈夫だ。身体強化と光魔法のナイフを使い慣れてきているし、ナイフ捌きも様になってきた。無理そうなら俺の銃で援護もできる。」


アルトさんはそう言って魔法銃を取り出して僕に見せる。

きっと僕の不安を感じ取ってそう言葉を投げかけてくれたのだろう。

先程、昼食を取ったのと午前中は魔力を使っていないため、魔力はかなり回復しているらしかった。


「わかりました。やってみます。」


僕はアルトさんの期待に応えるためにも張り切って返事を返す。

アルトさんは何も言わすにただにこやかに笑ってくれた。


(なんでだろう。この人の笑顔はすごく安心するな・・・)


よくわからない安堵感に包まれて僕は広間へと急いだ。

広間内ではまた魔物たちが徘徊していた。


「じゃ、お前はすぐそばで徘徊してるあいつな。俺は他のが近づいたらそれを排除する。危なくなったら援護射撃してやるから安心して突っ込め。」


「はい!」


僕は大きな声で返事を返してからすぐそこにいたボーンに突っ込んでいく。

3mほどまで近づくとボーンの方も僕に気づいて臨戦態勢に入る。


(魔法発動!)


戦いの間合いに入る少し手前で僕は両手に持つ付加魔法付きのナイフに魔力を流して魔法を発動する。

身体強化の魔法で一気に加速してボーンの前に躍り出ると、ボーンが「待ってました」と言わんばかりに棍棒を振るって来た。

僕はそれを軽く躱して右手に持つナイフでボーンを切りつける。

光魔法の宿ったナイフは力の弱い僕の攻撃でもボーンの骨の肉体を軽く切り裂いていく。


「カラカラ!」


ボーンは怒ったのか顎を動かして上の歯と下の歯をぶつけて叫ぶような動作を取る。

だが、僕はボーンが棍棒を振り上げる前にまたナイフを振るって攻撃をし続ける。

ボーンは一旦距離を取ろうとするが、ボーンの緩慢な動きでは僕を振り切ることなどできない。

焦ったボーンはまた棍棒を振り上げる動作を行う。


「はあ!!」


その瞬間、僕の気合の入った一撃がボーンの振り上げた右腕を切り落とした。

武器を失ったボーンは戦意を喪失したのか。

その後は抵抗なく僕に切り刻まれて霧散した。


僕はボーンが残していった骨のかけらを収集してアルトさんを見る。

アルトさんは数体のボーンを蹴散らしている最中だった。


「・・・! 終わったか。じゃ、次は向こうから走ってきてるのの相手をしてくれ。」


アルトさんは余裕のすまし顔で指さして僕に指示を送る。

指先の方向を見ると一体のボーンがこちらに向かって駆け寄っている最中だった。


「わかりました。」


僕はアルトさんに了承にの意を返すとボーンに向かって駆け出した。

ボーンはすぐに僕の方へと向きを変えて走りながら棍棒を振り上げる。

そして、間合いに入った瞬間にボーンは棍棒を振り下ろしてきた。


シュ!


僕はそれを難なく交わし、ボーンの放った一撃は虚しく空を切った。

僕はそのまま駆け抜けてボーンの背後に回って連続で切り付けるとボーンはなすすべなく葬り去られて霧散した。


「やった!」


僕が喜びに満ちて歓喜の声を上げた瞬間、僕の顔の横を銃弾が横切った。

放ったのは当然、アルトさんだ。

僕は恐る恐る振り返ると、僕の背後には顔面を銃弾に射抜かれて力なく崩れ落ちながら消滅するボーンの姿が映った。


「油断するな。敵が一体とは限らないし、近くの敵が騒ぎにかこつけて襲ってくるかもしれない。」


アルトさんは平然とした表情で僕の頭に手を乗せてポンポンと叩いた。


(僕はまだまだだな・・・)


アルトさんの頭の上に手を置いて軽く叩くこの行為は、僕を励ましてくれているのだろう。

僕は気合を入れ直して戦闘を続行しようと思った。


「じゃ、次は二対一でやってみるか。」


「え?!」


たった二戦で次のステップに進もうと言い出すアルトさん。

彼は結構ハードな要求を突き付けてくるなと思った。


「大丈夫♪大丈夫♪ 危なくなったら援護射撃してやるからさ♪」


ちなみに、アルトさんは自分の意見をなかなか曲げないので、僕に拒否権はない。


「が、頑張ります・・・」


僕は少し憂鬱になりながらも返事を返すと、アルトさんはものすごくいい笑顔を返してくれた。


(なんでだろう。やっぱりこの笑顔を見ると安心してやれそうな気がするんだよな・・・)


この後、休憩兼二対一での戦闘に対する講義が開かれるのだった。




初めて体得した身体強化魔法はかなり使い勝手が良かった。

リリスさんから魔道具を借りてその効力を体験していたが、実戦では使わせてくれなかった。

だが、私は今実戦で使って見てその凄さを実感している。


身体強化魔法で筋力、速力が上がっているのは当然として、それについていくために動体視力や思考速度まで上昇しているのか。

いつもより相手が遅く見える。

魔法を使わなくても、いつも通り動いている速度でも後れを取ることはないので、その分的確に刃を立てて突き刺したり切ったりできる。

おかげで武器の損傷が以前より減っているし、攻撃力もその分上がっている。


「はぁ!!」


もはやボーン如きでは練習台にもならない。


「うむ。では、もっと奥でボーンソルジャーと戦ってみるかの。」


リリスさんも私のそんな考えを読んでか、そう促してくれた。

アリスを見ると彼女も単独でボーン複数体を相手にするのを最早苦にしていない。

そんな彼女もボーン相手では不足なのか、リリスさんの提案に笑顔で頷いた。


「はい、行きましょう!」


私もついつい気合の入った返事を返してしまう。

広間のさらに奥の道で私達はボーンソルジャーと戦うことにした。


ボーンソルジャーはボーンより速度が速い上に鎧などの防具と武器を持っている。

昨日までアルトたちと戦っているときでさえ、私たちはできるだけ一対一で戦うか。

数的優位を作って戦ってきた。


だが、今の私には身体強化魔法がある。

それはまだレベル1のものすごく弱い力だが、有ると無いでは雲泥の差だ。


私は盾を使ってボーンソルジャーの攻撃を捌きながら剣でボーンソルジャーの防具の間を縫って攻撃を食らわせていく。

防具のない部位の防御力はボーンと大して変わらない。

そのおかげか、半分ほどの時間で倒すことができた。


二対一になると防御だけで手一杯だが、それでもうまく立ち回れば時間をかけて削っていくことができそうだった。

もう少しレベルが上がれば、二対一でも苦も無く倒せることだろう。


(強くなっている。)


ここにきて私はそれを強く実感していた。

今までは自分より低レベルだが、装備の充実しているアルトが敵の引きつけ役をしていたために戦士としての自分の存在意義に疑問があったが、今はアリスとの二人での戦闘なので自分の役割を強く実感できる。


唯一気にいらないのが、今の私があるのがアルトのおかげということだろう。

戦士の必須といっていい魔法スキルである身体強化魔法をあの男のセクハラによって体得したという事実。


(これさえなければ、こんな時でもあの男のことなど考えなくてもいいのに・・・戦闘中に男のことが気に合なるなど、まるで恋する乙女の様じゃないか・・・)


私は憂さを晴らすかのようにボーンソルジャーに剣を突き立てるのだった。




午後からの修練兼レベル上げの時間。

アーシェはやけに嬉しそうに剣を振るっていた。

午前中に全く習得できなかった身体強化魔法を習得できたことが余程うれしいのだろう。


「ふふふ」


そんな私も昨日よりも強くなった自分を実感して思わず笑みが零れてしまう。

近距離の光魔法の効果持続が伸びて、一回の戦闘中に倒すべき数だけ発動させていた魔法も、今では時間で管理しているので、時間内ならば何体でも付与魔法を施したメイスで攻撃することができる。

遠距離魔法は一体につき一回の使用が限度だが、威力と精度、さらには発動までの時間と発動してから標的に突き刺さるまでの時間が短縮された結果だろう。


「光魔法はコントロールよりも速度と精度に重点を置いた方がよい。」


リリスさんのこのアドバイスを聞いて私は光魔法を途中で向きを変えることができる様に修行していたけど、それをやめて的を確実に射抜く精度と魔法の中で雷の属性と共に最速を誇るその速度を生かして、一直線に敵を射抜くスタイルにシフトした。


威力、精度、速度のこの三つが向上すればゴーストを単独で倒せるようになるかもしれない。

ゴーストはこの迷宮内で最強と言っていい魔物だ。

他にも犬の骨の魔物『ボーンハウンド』やミミズの魔獣『ワーム』が存在するが、ゴーストはそれらを凌ぐ存在だ。

正直、昨日進んだあの場所でゴーストにあったのはかなり運が悪かったのだ。


(でも今の私なら・・・!)


身体強化をしても武術に優れているわけではないので、接近攻撃は当たらないかもしれない。

だが、遠距離からの魔法攻撃ならば当てることができるはずだ。


(リリスさんが一緒なんだし・・・)


今日の内に試しに行ってもいいのでは・・・?

そんな考えが頭をよぎってしまう。

でも、焦ってはいけない。

明日には行くのだし、昨日の様に運よくゴーストに遭遇できるかもわからない。


(何より、私が魔法を使うまで相手を引き寄せてくれる頼もしい前衛が必要だ。)


その点で言っても私にとってはアルトさんよりも気心の知れたアーシェはものすごく頼りになる。

実力的には何でもできてしまうアルトさんの方が総合力で上なのだろうが、私にとってはアーシェの方が前衛として頼もしく感じる。

その証拠に今も、目の前にいるボーンソルジャー二体を食い止めてくれている。

私はボーンソルジャー1体と接近戦を繰り広げている。


私の接近戦での戦闘能力は低い。

ボーンならともかく、ボーンソルジャーとまともに接近戦をしても勝ち目はない。

だから、攻撃を防御することだけに専念しつつ、遠距離用の魔法で後方か側面から不意打ちを食らわせて倒すのが私のスタイルだ。


「こっちは倒したよ! アーシェちゃんそのまま押さえてて!」


私は目の前のボーンソルジャーを倒した後、もう一度魔法を放つ準備に取り掛かる。


「わかりました!お願いします!」


アーシェちゃんはこっちを向くことなく声をあげて私の援護魔法を待つ。

私は光の魔法を発動して剣の様な形にして飛ばす。

本来は「ホーリーバレット」という光の弾丸なのだが、この形にした方が命中精度と速度が上がるのだ。

ただ、このやり方を教えてくれたのはアルトさんだ。

アルトさん曰く、「同じ魔法でもイメージする内容を変えることで威力に変化が出る可能性がある」ということらしい。


これは身体強化魔法使用時のイメージが人によって異なるのと同じで、絶対にこうでなければいけないという明確な基準が存在しないからだそうだ。

リリスさんは「同じステータスで同じ魔法を使用しているにも関わらず魔法の威力に影響するはずがない」と言い張って否定する。

確かに私は命中精度と速度が上昇しているが威力に関しては上昇しているのかはわからない。


それについてのリリスさんのコメントは「当然じゃろう」というものだった。

リリスさんは魔法の威力はステータスとスキルの合計値でしか決まらないと頑なに認めようとしない。

命中精度に関しては、「イメージしやすい方が当たりやすいじゃろうの」と肯定的だった。

速度も「ステータスによる補正や影響がないからの」とこれもイメージで変化するとおっしゃっていた。


私も今回はリリスさんに同意する。

ステータスが全てではないと思うが、イメージの変化で魔法の威力が上がったらそれはもはや別の魔法だろう。


そんなことを考えている内に私たちは次々とボーンソルジャーを屠って行った。

ただ、やはり魔力量の問題で今日も3時頃にはダンジョンを出ることになった。




「なぁ、リリス・・・」


ギルドについて換金を済ませた後、俺はリリスに頼んでアーシェの剣を借りられないか相談する。

俺が付加魔法を施して明日の戦いに備えるためだ。


「のう、アーシェよ。」


リリスはアーシェに付加魔法を施すからと言って剣を預かってくれた。

アーシェはリリスが付加魔法を施してくれると思っているのであろうが、実は俺が施すので少しだけ罪悪感がある。


俺達はまた適当にぶらついて喫茶店で軽くケーキなどを食べて解散した。


「アルトさんって甘いもの好きですよね。」


「ええ、男性は甘いものはあまり好きではないのかと思ってました。」


「私も実家の兄弟たちが甘いものが苦手なのでてっきりそうなのかと・・・」


「ふふふ、そこがまた可愛らしいじゃろう。」


帰り際に四人がこそこそと何かを話していたが、俺にはよく聞き取れなかった。


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