第二十三話 修行
朝、俺はいつもより早く起きて昨日セリスのために購入したナイフを2本取り出して付加魔法を施す。
昨日購入したナイフの数は11本。
その内の7本は俺が預かっている。
セリスにはリリスの付加魔法の練習に使うと言って預からせてもらっている。
実際は俺の付加魔法の練習なのだが、それは黙っている。
リリスに確認を取ったところ。
本当に付加魔法の習得は難しいらしく。
生活系職業で付加魔法師を選択しても、付加魔法を習得できずに諦める人が後を絶たないらしい。
スキルというのは覚えれば使うだけでレベルが自然に上がっていく。
だが、習得するには知識とそれを使う頭脳とセンスが要求される。
魔法使いとして高位になれば、魔法への理解が高まりセンスも磨かれていくので、自然と付加魔法を覚えやすくなる。
そんなわけで、付加魔法は高位の魔法使いにしか使えないという認識がある。
俺が使えるのは魔法のセンスがあるのと、多分他の人にはできないズルをしているからだろう。
この世界に初めて来た時の影響で俺は二つの精神を持ち、さらに夢の中で魔法の練習ができる。
この練習では、スキルのレベルも上がらないしスキルも発現しない。
だが、コツを掴む為の時間は人の二倍ある上に精神が二つあるので情報を共有することで魔法に対する理解とセンスをさらに倍の速度で磨くことが出来る。
コンコン
俺がナイフ二本に付加魔法をかけているといつもの時間になったのか。
ドアがノックされる。
リリスが俺を朝食に誘いに来たのだろう。
「少し待ってくれ。もうすぐ終わる。」
俺はドアの向こうのリリスに聞こえる様に少し声を張って言った。
ガチャリ
待ちきれないのか。
ドアが開かれてリリスが中に入ってきた。
ドアのカギは閉めていたのだが、リリスは魔法でカギを解除してしまう。
「おはよう。」
「おはよう。」
リリスの朝の挨拶をナイフ二本を持った状態で返す。
「ふむ、朝からナイフ二本に付加魔法か・・・ 今日は朝から魔力を使い切ってしまうつもりの様じゃの。」
リリスは顎に手を置き、俺の魔力の流れを見てそう判断したのだろう。
実際、二本のナイフに全魔力を注いで付加魔法を施しているので、リリスの分析は間違っていない。
「ああ、今日はセリスのレベル上げで一日終わるだろうからな。」
俺はリリスに手短に今日のダンジョン内での予想を話す。
「ま、そうじゃろうの」
リリスも同じ見解らしく、両手を組んで頷いた。
「リリスには俺が付加魔法を施したナイフをセリスに渡して貰えると助かる」
「うむ、ワシが付加魔法を施したことにするのじゃな。いいじゃろう。」
リリスはそう言って俺が付加魔法を施し終えるまで室内でゴロゴロしていた。
主に部屋のベッドの上で・・・
「ええ匂いじゃの~♪」
枕や布団の匂いを嗅いでいた。
自分の体臭が少し気になった。
俺は付加魔法を施し終るとナイフをリリスに渡す。
「ふむ、身体強化と光の魔法か。」
リリスはナイフに魔力を流して早速、付加されている魔法を確認する。
リリスの持つ『魔眼』のスキルを使用すれば、魔法を発動させなくても何の魔法が付加されているのか解るので必要ないのだが、リリスは付加魔法を発動させて感触を確かめている。
「レベル1とは思えん仕事ぶりじゃの。少し多めに魔力を流して負荷をかけても内部の魔法式が壊れん」
どうやら、ナイフ内の魔法式の強度を確認していたらしい。
付加魔法は武器内部に魔法式を魔力で焼き付けることによって、魔力を流すと魔法式内に魔力が充填されて魔法が発動する仕組みになっている。
焼き付けの作業が甘かったり雑だと、魔法式が数回の使用、又は過負荷の魔力を流すと崩壊して付加魔法が消滅してしまう。
魔法式に関しては失敗したり間違っていると付加魔法が発動しなかったり、予定していた魔法とは違う魔法が発動したりしてしまう。
だが、この2つさえできれば誰にだって使える魔法なのだ。
俺がズルをしていると言っても、そこまで難しくはない気がするのだが・・・
まぁ気にしないでおこう。
俺達は部屋を出て1階で朝食を食べるとギルドへと向かった。
ギルドにはすでにアーシェ、アリス、セリスの3人が待っていた。
待っている間にセリスはアーシェからナイフの扱いを教えて貰っているようだった。
「いくか。」
俺達はダンジョンに入るためのアイテムを借りてダンジョンへと向かう。
その途中でリリスがセリスに付加魔法を施したナイフ2本を渡した。
「ナイフにはそれぞれ、光の魔法と身体強化魔法が入っておる。その両方を同時に使えば、楽にダンジョン内で戦闘ができるじゃろう。」
「はい。ありがとうございます。」
リリスのアドバイスにセリスは気持ちのいい返事を返して礼を言った。
セリスはリリスから受け取ったナイフを持って素振りをして感触を確かめる。
「ナイフが一本の時の戦い方を習ったのですが、どうすればいいのでしょうか?」
両手にナイフを持って戦う方法は教えられてないらしく、セリス困ったように師匠であるアーシェを見つめる。
「そうですね。教えたのは右手にナイフを持った基本的な戦い方ですが、左手は基本的に使わないので武器を持っても特に問題はないでしょう。」
アーシェは自分もナイフ2本を持って「こうすればいいですよ」やって見せる。
ナイフを2本持っているが基本的に片手しか使わないスタイルを教えているようだった。
「うむ。その戦い方なら右手に光魔法付きのナイフを持って攻撃して、左手は身体能力の底上げのために魔法を発動させればよかろう。」
リリスはセリスにそう言ってアドバイスを送る。
セリスは言われた通りにナイフを持ち直した。
「さて、今日はセリスのレベル上げに1日費やすだろうから二人はどうする?」
俺はアーシェとアリスに今日の予定を尋ねる。
セリスのレベル上げには俺が付き添えば問題ないだろう。
アーシェとアリスならばボンソルにならば苦戦はしないだろう。
二人だけ別行動でお金を稼ぎに行っても特に問題はない。
「どうしましょうか。」
「そうですね・・・」
二人は顔を見合わせて迷っているようだった。
「迷っているなら二人とも今日は修行に1日費やしたらどうじゃ?」
リリスはそんな二人に修行を提案する。
「修行ですか?」
「どういった内容のものですか?」
二人はリリスに視線を向けて真剣な表情で問うた。
「うむ、まずアーシェは魔法が苦手すぎて身体強化魔法が使えんようじゃからそれを克服してもらう。戦士には必須のスキルじゃからの。アリスは光の付与魔法の効果時間の持続と光の遠距離魔法の精度の上昇じゃの。できれば、身体強化魔法も覚えたいところじゃの。これを今日1日頑張ればゴーストをもう少し楽に倒せるはずじゃ。」
リリスは腕を組み魔法の修行を提案する。
確かに、二人がそれらを向上させればゴースト戦でもっと活躍できるだろう。
「アルトは修行しなくていいのですか?交替でセリスのサポートをすれば3人とも修行ができますよ。」
アーシェはそう言って俺を見る。
「あやつはワシと毎晩修行しておるから問題ない。それに、あやつは隠れて修行するのがうまいからの。セリスと一緒でもうまく修行をするじゃろう。」
リリスはあくまでも、俺には修行は必要ないと言い張る。
これは本当に修行が必要ないわけではなく、朝一で魔力を使い切ってしまっている俺にはろくに修行する魔力が残っていないからだ。
「じゃ、今日は二手に分かれる方向でいくか」
「うむ」
「「「はい」」」
俺の決定に4人は快く承諾した。
ダンジョン内に入ると俺達は二手に分かれて修行に向かう。
「なんだか、ダンジョン内って動きにくいですね。」
セリスは俺が初めてダンジョンに入ったのと同じように体に違和感を覚えているようだった。
リリスが俺の時と同じようにセリスに「ダンジョン内の魔力のせいだ」と説明する。
セリスは「そうなんですか」とリリスの話しに頻りに感心していた。
最初の分岐点に到達した俺達はそこで二手に分かれることにした。
俺とセリスは最初の分岐を左へ、リリスとアーシェ、アリスの3人は右に進んでそれぞれレベル上げと修行を行うことにする。
俺とセリスは左側の通路の先の広間の入り口で作戦を立てる。
「広間内にはボーンが結構いるから気をつけろよ。俺が敵の注意を惹きつけるから、セリスは正面に立たずに側面や背後から襲い掛かるんだ。」
俺の話を聞きながらセリスは唾を飲み込んで頷く。
その顔には緊張がにじみ出ていた。
「ふう。」
パチン
俺はセリスの両頬を両手で叩いて挟み込んで落ち着かせる。
「な、なにするんですか」
セリスは嫌がって俺の手を振り払って逃げていく。
その顔は赤面して恥らっているように見える。
その姿は急に男の人に触れられて恥ずかしさのあまり距離を取る少女の様だった。
セリスが女の子だったら襲ってしまいそうなほど可愛らしいその姿に俺の頬は少し緩んだ。
(セリスの緊張を解くつもりが、俺の警戒心が緩んでしまった)
俺は少し反省してセリスに謝る。
「もう、急にこんなことしないでくださいよ。」
セリスは両頬を撫でて少しだけ怒ったような口調でそう言って俺を睨む。
だが、全く怖くない上に寧ろもっと苛めて見たくなる俺だった。
「ふう、あんまり緊張しない様にな。あと、戦闘が始まると同時に付加魔法を発動しろよ。」
なんとか踏みとどまって一声かけて俺は先行してボーンとの戦闘を開始する。
「あ、待って!」
セリスは俺の後を追いながらも両手のナイフに魔力を込めて魔法を発動する。
アーシェと違って魔力の操作はなかなかうまいようだった。
俺はボーンの攻撃を棍棒でいなしながら周囲のボーンを警戒する。
魔力がないので魔法銃が使えない現状では、俺にできるのは一定の距離にまで近づいてきたボーンの排除だ。なので、周囲を観察しながら正面のボーンの攻撃をいなさなければならない。
そんな俺と相対しているボーンの側面にセリスはうまく回り込んで攻撃を始めた。
セリスのナイフは光の魔法を帯びているためか、ボーンの骨の体に簡単に突き刺さっていく。
ボーンは攻撃を繰り出してくるセリスに反撃に移ろうと向きを変えようとするたびに、俺の棍棒で阻害される。
(これ、結構しんどいな・・・)
周囲の警戒とボーンがセリスに向かわないようにしつつ、ボーンにダメージを与えすぎて倒してしまわない様にするのは非常に難しかった。
「はぁ、はぁ・・・」
初めての実戦でセリスは動きが硬い上に2つの魔法を発動させているので精神的にもしんどそうだった。
(まだ一体目だぞ・・・)
俺はセリスに「頑張れ頑張れ」と心の中でエールを送りながらも、周囲を警戒する。
予想通り周囲にいたボーン達がゆっくりとこちらに近づいて来ていた。
「はぁ、はぁ・・・ やぁ!」
セリスは少し深呼吸した後にようやく一体目のボーンを撃破した。
「セリス!出口に走れ!」
俺はセリスをすぐさま広間の出口に向かって走らせる。
セリスは訳も分からずに俺の言葉に従って出口に走った。
俺はセリスの倒したボーンの残した骨を拾って集まってきたボーンを倒してから出口へと向かう。
セリスは広間を出てすぐの道で俺を待っていた。
「ほらよ。」
俺はセリスの倒したボーン分の骨をセリスに渡す。
「お前が初めて倒した魔物からの収集品だ。」
俺の言葉にやっと魔物を倒した実感がわいてきたのか、セリスはうれしそうに骨を握り締めて喜んだ。
「少し休憩するか。」
俺達は昼までの間はずっと1回戦闘を終えるたびに休憩を取ることにした。
休憩の間に俺ができるアドバイスをしてできるだけセリスにすることにした。
右のルートを抜けて広間に辿り着いたワシたちは魔物を倒す前に魔法の講習を開いた。
アーシェもアリスもワシの講習を真面目に聞いてくれるので、実に捗った。
アルトの奴は話を聞きながらすぐに教えられた魔法を試そうとして話が進まないのだ。
まぁアルトはそれですぐにコツを掴んで瞬く間に成長するのであれはあれで教えがいのある生徒なのだが・・・
やはり、教師役としては話を最後まで聞いてくれるとありがたい。
ただ・・・
「アーシェはなかなか魔法が発動せんの。」
身体強化魔法を二人に教えたところ。
アリスはすぐにできるようになった。
もともと、前々から修行をしていたらしくすぐにものにして今は付与魔法の持続を修行しながら身体強化魔法を発動させて単独でボーン達の群れと戦っている。
アーシェは先程から体内の魔力を操って強化魔法を発動させようとしているが、なかなかうまくいかない。
一応、リリスの持つ魔道具を貸して身体強化魔法を発動させてそのメカニズムを体で覚えさせたりもしたのだが、自力での発動はなかなか困難なようだった。
(魔道具を使ってスキル欄に身体強化魔法Lv1は発現させたんじゃがの・・・)
アルトに与えた棍棒と同じ効力のある魔道具を使ってスキルに発現させてもなお、自力での発動に至らないアーシェにリリスは頭を抱えていた。
(ううむ・・・ どう説明した者かの・・・)
自分の中で言葉にできることはすべて言葉にしたので、リリスにはそれ以上できることがなかった。
そんなリリスの姿を見てアーシェも焦っていた。
(なぜだ。なぜできない・・・!)
魔道具を貸して貰ってスキルに発現させてもらったにもかかわらず、未だに発動させることができない。
(やはり私には才能がないのか・・・)
アーシェは焦っていた。
魔力を感じ取りそれを操作するところまでは行っている。
スキルの発現により感覚でなんとなく身体強化魔法のやり方も分かっている。
にもかかわらず、できない。
発動しない。
ただ、時間だけが過ぎていきその先に辿り着けない。
(情けない・・・!)
焦りが平常心を奪い、精神を乱し、魔力の流れに歪が生じる。
生じた歪が体内の魔法式を狂わせて魔法の発動からまた遠ざかる。
アーシェは結局、昼の休憩に入るまでに一度として自力で身体強化の魔法を発動させるに至らなかった。
昼の時間になり、リリス達3人は休憩に入るためにアルトたちと合流する。
昼の時点でどこまで言ったのかを確認するためだ。
内容が芳しくない場合は、昼からは方針を変える必要性がある。
そんなわけで昼食を取りながら情報交換をする。
「アリスは順調なんじゃが・・・ アーシェがのう・・・」
リリスは重い口どりで報告を始める。
傍で食事をしているアーシェはものすごく辛そうな顔で黙々と食事をしていた。
「また息でも吹きかけたらできるんじゃないか?」
アルトは平然とアーシェを見てそう言った。
その顔には「またやってやろうか?」と書かれている。
「な! そ、そんな必要はありません!!」
アーシェは顔を真っ赤にして激怒する。
「そうじゃ、そんなことはすでに試したわい。」
リリスは平然とアルトに「言われなくてもやった」という表情で答える。
「男がやった方が効果があるんじゃないか?あとは、不意打ちとかな。俺が嫌ならセリスならどうだ? 子供だし、女顔だから抵抗なくできるんじゃないか?」
「え?! 僕ですか?!」
急に話を振られてセリスは赤面して思わずアーシェを見る。
「な・・・!あんな恥ずかしいことはもうごめんです!!」
アーシェは立ち上がると怒ってどこかに行ってしまう。
「もう、アルトさんはデリカシーが無さ過ぎですよ! アーシェ待って!!」
アリスは立ち上がってアルトに一言文句を言うとアーシェの後を追って行った。
それを見ながらアルトは平然と食事を勧める。
リリスとセリスはそんなアルトを見つめて「こ、この人すごい・・・」と恐怖した。
食事が終わると5人は集結して昼からの方針を決める。
「アリスはそのまま修行を続行で、セリスはレベル上げしながら自分でも身体強化魔法を使えるようになってみるか。付加魔法で身体強化魔法が発動しているからなんとなくやり方は分かるだろう。アーシェはここでやってみて出来なかったらレベル上げをひたすら頑張るか。」
アルトが簡潔に昼からの予定を話す。
皆はただそれに頷いて応える。
ただ、アーシェの顔だけは浮かない表情で固まっていた。
「それじゃ、アーシェ。おさらいのために1回目はこのナイフでやってみてくれ。」
俺はセリスから身体強化の付加魔法が施されたナイフを借りてアーシェに渡した。
「はぁ、ふう・・・」
アーシェは1回、深く深呼吸した後に魔力をナイフに流して魔法を発動する。
身体強化の魔法が無事発動したようで、体の周囲を黄色い光が包み込んでいた。
「よし、今度はナイフなしでやってみようか。」
俺はアーシェからナイフを受け取って今度は自力で発動するように促した。
「頑張って!アーシェならできるよ!」
「頑張ってください。」
アリスとセリスが声援を送る。
アーシェは二人を見てゆっくりと頷いた後に、また深呼吸をすると目を閉じで体内の魔力を操る。
身体強化の魔法は体内の魔力で体を強化するという単純なものだが、イメージの仕方が何通りかあるので人によって魔力の流し方が違う。
アーシェは体内の魔力を爆発させるようなイメージで魔力を練っているようで、お腹のあたりに魔力を貯めている。
これを爆発させて体内に魔力を行き渡らせると成功するのだろうが、そこから先に進めないようだった。
皆が見つめる中で、アーシェは集めた魔力をどう爆発させて体内に行き渡らせるのかを必死に考えているようだった。
眉間に皺を寄せて、額には大量の汗をかいている。
だが、そこから先には一向に進む気配がない。
「ふぅ・・・」
リリスがため息をついてアーシェを止めに入ろうとする。
アルトはそれよりも早く動いてアーシェの目の前に立つと、突然お腹を撫でまわした。
突然腹部に感じる違和感にアーシェが目を開けると、目の前にアルトが立っており自分のお腹を撫で回しているのが目に入った。
完璧な痴漢行為に周囲にいる3人は言葉を失って硬直した。
「な、な・・・・!!」
アーシェの顔がみるみると赤くなってくのを間近で見ているアルトはにっこりと微笑んで、アーシェのお腹をさらに撫で回した。
それを見たアーシェは遂にブチ切れて拳を振り上げるとアルトの顔面に叩きつける。
アルトはそのまま顔面にパンチを受けて数メートル後方に吹き飛んだ。
「この変態!! (以下略)」
アーシェはものすごい怒気と怒声を放て怒鳴り続けてアルトに襲い掛かろうと歩み始める。
そんなアーシェを周りにいた3人がなんとか抑えようとする。
「お主は何を考えておるのじゃ!!」
「デリカシーが無いにもほどがありますよ!」
「いくらなんでもやり過ぎですよ!」
3人はアーシェを抑えながらもアルトに怒気の籠った罵声を浴びせる。
「自分でもそう思うよ。」
アーシェに顔面を強打されて鼻血を垂らしながら涙目を浮かべてアルトは立ち上がった。
「まぁでも、アーシェの身体強化がうまくいって何よりだよ。」
アルトのこの言葉で4人は少しだけ我に帰ってアーシェを見ると、アーシェは身体強化時特有のオーラの様なものを纏っていた。
ただ、それでもアルトの行動は行き過ぎているということで厳重注意と長いお説教を受けることになった。
(まぁ分かっててやったから仕方ないか・・・)
アルトは最悪は全員が俺を嫌って離れていくことも想定していたので、このお説教で済んだ程度で「まぁいいか」と思っていた。
昨日、ギルドの裏手にある宿の存在を知ったので、寝る場所には困らないとたかを括っていたのだ。
説教が終わった後、俺達はようやくお昼からの修行を再開したのだった。
アーシェは無事に身体強化魔法を習得したようで、その後は普通に発動できるようになった。
(アルト殺す!!)
体内魔力の爆発時のイメージが掴めたのは良かったのだが、魔法発動時のアーシェの眼は非常に怖いという事態になったのは、仕方がない事だろう。




