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第十八話 先頭を行く者

ダンジョンの奥へと進み広間を抜けるとまた3mほどの広い道が続いていた。

俺達はアーシェを先頭に俺、リリスの順番で進む。


「アーシェは気配探知とかできるのか?」


「ええ、習いましたから少しならできますよ。」


ただ道を歩くだけなのでつまらなくなった俺はアーシェに話しかけるとなんとアーシェは気配探知ができるらしい。


「じゃ、教えてくれない?」


「え、今ですか?」


早速教えて貰おうと思い声をかけるとアーシェは戸惑ったように振り返って尋ねてくる。


「できれば、早い方がいいな。」


「あなたは・・・ リリスさんが強いからって甘え過ぎじゃないですか?」


俺が気配探知のスキル欲しさに早めに教えてほしいと頼むと緊張感がないと感じたのかアーシェがそんなことを言い出した。

リリスがいるから今教えて貰っても問題ないと俺が思っていると思われたのだろう。


「別にそういうわけじゃないけど・・・ というかさっきからアーシェは何か疲れてない?」


振り返ったアーシェを見ると彼女はただ歩いているだけなのに額に汗を流している。


「気配を探っていつくるかもわからない敵に備えているんです。当然でしょう?ここから先のエリアにはボーンソルジャーが多く出るんです。今までいた場所の様に油断していい場所ではありません。」


「ふ~ん。でも、気配探知があるなら気配で敵の位置がわかるんだからそんなに身構えなくてもいいんじゃない?」


「何言ってるんですか! いつ戦闘になってもいいように備えておくのは当然のことでしょう?! どんな甘えた環境で育てばそうなるのです?!」


俺の何気ない一言が逆鱗に触れたようでアーシェは怒りだして早歩きで先に進んでしまう。


「お主はもう少し気を使ってやったら同じゃ? あの歳の娘が戦闘職に就いてもうこんな場所におるなどよっぽどの事情があるんじゃよ。」


俺を諭すようにリリスはそう言った。


「気を張ってりきむのと緊張感を持って進むことは別次元の話だよ。」


俺はリリスの言葉を否定してアーシェの後を追った。


「まぁ、そうなんじゃが・・・ あの歳の娘にそれを言っても解らんのじゃよ。」


先に進んで歩いていくとアーシェが急に立ち止まり俺達を制止する。


「どうした?」


「この先の角の向こうに魔物がいます。おそらく、ボーンソルジャーですね。」


「ふ~ん。」


アーシェの言葉を聞いて俺は顎に手を置いて考える素振りをする。


「リリスさん。魔法で敵の正確な情報を探ってもらってもいいですか?」


アーシェはリリスに正確な敵の情報を求める。

そのことから、彼女の探知能力では敵がいるいないは判ってもどんな魔物か、所有する武器は何かまでは判らないのだろう。

リリスは俺を見上げてどうするべきかを眼で訴えてくる。


「リリス。探知はしなくていい。壁の向こうに敵がいることだけわかれば十分だ。」


俺はそう言って歩を進める。そんな俺の手を掴んでアーシェが待ったをかける。


「待ちなさい。今はリリスさんっていう強力な魔法使いがいるのですよ。ここは彼女に正確な情報を聞いて対策を立ててから進んだ方がいいです。」


アーシェはあくまでも安全策を提案してくる。


「ふう、わかっていないな。」


俺の言葉を聞いてアーシェは自分の考えを否定されて怒気を表情に滲ませる。


「安全策を取るならリリスが遠くから魔法を撃てばそれで終わりだ。だが、それでは俺とお前の意味がない。リリスはあくまでも切り札。俺達が先を急ぎ過ぎて対処できなくなった相手を倒してもらうためにいるんだ。それ以外でリリスを頼るのはただの甘えだ。」


「違います!今打てる最善をうってから私とあなたが戦う。それがベストです!」


「じゃ、リリスがいなければお前は奴らと戦わないのか?」


「そんなこと言ってないじゃないですか! 私はただ!」


「こんなところでリリスに頼っている奴がこの先一人でやっていけると本気で思っているのか?」


「・・・!」


俺の言葉にアーシェは歯を食いしばり言葉を紡ぐのをやめた。

別にアーシェの言っていることは間違っていない。

いや、おそらくそれこそがベスト。

そんなことは俺にだって判っている。


ただ、これは俺とアーシェの立場の違いからきている。

俺はリリスから早く一人立ちするために自分だけで戦う力を欲し、アーシェは今日だけとはいえパーティーを組んだ俺やリリスを最大限活用したいのだろう。


俺は一人、魔物が待ち伏せる曲がり角へと侵入した。

俺が来るのと同時に魔物は「待ってました」と言わんばかりに剣を振り下ろした。


バキン!


俺はその件を払い除けると同時に棍棒を振るってボンソルの顔の側面を強打する。

兜に覆われているため直撃はしなかったがそれでも、相手の態勢を崩すことには成功した。

そのまま俺は二撃目を打ち込もうとしてやめて後方に下がり逃げる。


剣を持つボンソルの後ろにもう一匹、槍を持ったボンソルが隠れていたのだ。

そいつは体制の崩れたボンソルに代わって俺に向かい槍を突き出してくる。


「いけない!」


遠くからそう言って駆け寄ってくる一つの人影。

俺は槍を持ったボンソルから距離を取り攻撃を躱して片方の手で銃を取り剣を持ったボンソルを狙撃する。槍を持った方は剣を持った奴の後ろに隠れるようにしているので撃つことができないのだ。


そんなことをしていると先程こちらに向かって走ってきたアーシェが間に割り込んできた。


「ほら見なさい! あなたの行動は軽率すぎるのよ!」


アーシェは盾で突き出された槍を払い除けてから切りかかる。

俺は槍の奴を狙撃できる場所に移動して銃口を向けて弾丸を放つ。

その後、剣と槍のボンソルを二手に分断してタイマンの戦いへと持っていく。




アルトは槍を牽制しながら銃弾を放ち、敵にダメージを与えていく。

一対一の接近戦なのだから棍棒のみで戦った方がいいはずなのに何をしているのか。

考えだけでなく、戦い方までお粗末なようだ。

なぜこんなやつがリリスさんみたいな高レベルの人と一緒にいるのかわからない。


ガキン!


考え事をしていたためか、ボンソルの攻撃を防ぐのが一瞬遅れる。


(いけない! 戦いに集中しないと!)


私は目の前の敵に集中して戦うことにする。

敵の攻撃を受けては剣で反撃するという基本的な戦士スタイルで私はボーンソルジャーと一対一の戦いを続ける。


たまにステータス画面を見て体力値を見るのを忘れてはいけない。

いくら盾で防いでいるとはいっても剣を受ける衝撃で腕は少ししびれるし体は軋んでいる。

足にも重量の乗った剣の重みに耐えるために力を入れなければならず、そういった疲労などは体力値に反映されて目で見ることができる。


(この数値がここまで来たらいったん回復がしたい。それまでに倒せるのか?!)


先程の弓で戦うボンソルと違い一方的に攻められるわけではないので体力値を回復するためには距離を取らなければならない。

だが、リリスさんに代わってもらったら瞬殺されて終わってしまい私の経験値などがあまり入らない。

かと言ってアルトは先程から苦戦しているのか逃げ回っているように見える。


(ここは一人で切り抜けよう!)


別に先程のアルトの(リリスに甘えるな!)という言葉に感化されたわけではないが、一人で頑張ろうと思った。


ボンソルとの戦いは意外と長引くかと思われたが意外とアッサリと集結した。

その頃にはアルトの方も何とか槍の奴を片付けたらしく、戦闘は終わっていた。


「ふぅ、疲れたな。」


「お疲れ様じゃの。」


「ありがとうございます。」


遠くから現れたリリスさんが水筒を二本持って私たちの前に現れた。


「全く、リリスさんからそんないい武器や防具を借りておいて、なぜ私と同じ時間がかかるのですか?!」


私はリリスさんから水筒を受け取って一口飲んだ後、アルトに説教をしてやるついでに文句を言ってやった。


「まぁ、そういうでない。二対一にしては時間がかからなかった方じゃと思うぞ。」


「え?!」


リリスさんの言葉に思わず奇声をあげてしまう。


「ほれ、あそこじゃよ。」


リリスさんはそう言って道の先、10mほどの位置を指さした。

そこにはボーンソルジャーの死体と思われる骨一式と籠手が落ちていた。


「うそ・・・」


私はアルトを見つめるとアルトは無言のまま水筒から口を離してリリスへと渡す。

リリスさんはそれを受け取ってうれしそうに口をつけてアルトの口をつけた水筒の中身を飲んでいた。


「何をしてるんですか?!」


リリスさんの奇行に思わず大声を出してしまう私。


「放っておけ。それよりも早く戦利品を集めよう。」


アルトはリリスさんの行動を全く気にしていない様子で自分の倒した槍と遠くにいたボーンソルジャーの残した収集品を拾っていく。

リリスさんはその後をついて何事もなかったように歩いて行った。

私は少しばかりその場に留まった後、自分の収集品を拾い二人を追いかけた。


「なんだ。まだついてくるのか?」


「当然です。というか、別にパーティーが解散したわけじゃないんだからいいでしょう?!」


私の言葉にアルトは「まぁ、そうだな」といって一人戦闘を歩く。

私かリリスさんが先導して探知などを使った方がいいと思うのだが、彼は何も言わずに先頭を歩く。


「アルトってなんか変ですよね? 何を考えているのか理解できません。」


私は前を歩くアルトに聞こえない様にリリスさんに尋ねた。


「探知スキルも使えずに先頭を歩く理由か? それは簡単じゃ、ワシを頼りたくないのとお主を歩かせるには危なっかしすぎるからの。」


「どういうことですか?」


リリスさんを頼らないのは寄生したくないからだろうが、私を先頭にするのが危なっかしすぎるというのは聞き捨てならない。


「まぁ、ワシを頼りたくないのはいずれはアヤツが一人立ちすることを願っておるからじゃ。そして、お主が先頭をいうのはワシも反対じゃ、後ろから見とってあまりいい気がせんからの。」


リリスさんの話によると私は「いかにも敵を待ち構えている」とわかるぐらい緊張していて肩に力が入り過ぎており、後ろから見ていて「この人について行って大丈夫か?」と思うらしい。

言われてみれば、前を歩くアルトさんは探知スキルがないにも関わらず、ついていくことにあまり不安はない。

背中から見ていて程よい緊張感と自信が見て取れるからだろうか。


「いつ敵が来るかわからぬダンジョン内で敵を待ち構えて力が入るのはわかるが、あれでは咄嗟の行動がとれんじゃろう。アヤツを見てみい、緊張感は持ちつつ体のどこにも変な力が入っておらん。あれならば、たとえ奇襲を受けても一瞬遅れるじゃろうが対処はできるじゃろう。」


「その一瞬が致命的なんじゃないですか?」


「奇襲とは確かに相手の虚を突き一瞬で相手に多大な被害を与えるのが目的じゃ。しかしのそれは奇襲をあらかじめ予測できんものには防げん。じゃが、気配が探知できてもお主の様に力んでおってはりきみのせいで体の反応が一瞬遅れるんじゃよ。つまり、今のお主とアヤツは奇襲を受ける面では初撃に対する反応に違いはないんじゃよ。」


私はリリスさんの言葉になるほどと頷き返す。


「所がじゃ、アヤツが先頭におると後方のワシらはなぜかリラックスしてこんな風に話をしながら進めるじゃろう? じゃが、お主が先導しておってはワシらも固唾を飲んで見守ってしまうんじゃよ。

ここがまず、アヤツの方が先導するのに優れておる点じゃの。パーティーという集団での行動の利点は先頭を行く者に精神的負担を押し付けることで他の者の負担を減らせることじゃからの。その利点を奪うお主はまだまだ冒険者として半人前じゃの。」


「うう・・・」


リリスさんの言葉が痛く胸に響いた。


「まぁ、頻繁に敵が襲って着たり広間などのどこからでも襲撃を受ける場所では全員で四方八方に注意をせねばならんがの。」


そんな話をしている内に戦闘を歩いているアルトがまた曲がり角でボーンソルジャーの奇襲を受けていた。


「行かなきゃ!」


「待て!」


駆け出そうとする私をリリスさんが制止する。


「よく見ておれ。お主にとって奴の行動は手本となるぞ。」


言われるがままにアルトの行動をその場で見守る。

アルトは私たちに助けを求めず一瞥をくれた後、襲い掛かってきたボーンソルジャーの攻撃を躱して反撃に転じて戦闘を始めた。


「今の動きのどこを基本にするんですか?」


ハッキリ言って武器と戦うスタイルが違いすぎるので見本にならないのだが・・・


「ふふふ、アヤツが先頭を行く利点その二はの初撃を受けた後の精神的な考え方の違いからくる技や動きの冴えじゃよ。ええか? お主とアヤツが先頭を行き奇襲された時の一瞬の遅れはお互い同じじゃ、しかし精神状態は全く違う。あやつはどこから攻撃が来るのかわからずに歩いておるから来た攻撃を防ぐか躱すかして初撃を防いだ後に普通に戦闘に入る。しかし、お主は分かっていたのに一瞬行動が遅れてから対処する羽目になり、それが焦りや不安を生む。その差は長いダンジョン探索で後々大きな失敗を生むじゃろう。ただでさえ、お主は普段から力んでおるから身体的、精神的に疲労が蓄積しておるからの。」


リリスのいうことはもっともだった。

私は反論の余地なくアルトの冷静な戦いを見守る。


「彼はなぜあそこまで冷静に物事を対処できるのですか?こんなところでレベル上げをしているということは私と同じぐらいのレベルなのでしょう?装備はリリスさんからもらって良い物を持っていますが…」


「ふふふ。アヤツはの同世代に全てにおいてアヤツより優秀な男に勝負を挑み続けて敗北しておるからの。それで少し他人より達観しておるんじゃよ。」


リリスさんの言葉に私は言葉を失った。

たったそれだけのことであれだけの冷静さを得られるだなんて一体どんな相手にどんな勝負を挑んだのか想像もできなかった。


その後、私はその日一日彼らとダンジョン探索をして色々と教えて貰った。

スキル面ではなく、ダンジョンを進むのに必要な冒険者の心得の様なものを学べた気がする。


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