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第十七話 右ルートへ

朝、俺達はいつもの様にギルドに向かい指輪とイヤリングを借りてダンジョンへと向かう。


ダンジョン内に入ってこの前までとは違い最初の分岐点で右に曲がった。

右に曲がって少し行くと縦幅高さが3m以上の広い道が迷路の様に続いている。


「そう言えば、なんでこの洞窟内ってこんなに明るいんだ?」


歩いている途中、ダンジョン内が異様に明るい理由が気になって尋ねてみる。


「魔晶石のおかげじゃな。」


「魔晶石? 魔法石じゃなく?」


「うむ。 魔法石はあらかじめ魔法と魔力を貯めたもので魔力石という魔力を自動で魔力を貯め込む特殊な石を加工した者じゃ。 それに比べて魔晶石は周囲の魔力に反応して特殊な現象を起こすものじゃ。

全てのダンジョン内に存在して色々な現象を起こしているが、もっとも多いのが光を放つ現象じゃな。」


「ほう。」


リリスの説明を聞いて周囲を見渡すが特に石の様な物が見当たらない。


(いや、所々に光ってそうない石はあるがそれだけでこの光量を出せる物なのか?)


首を傾げながら周囲を見渡しているとリリスは俺の顔を見て「どうしたんじゃ?」と首をかしげて問いかけてくる。

俺は自分の抱いた疑問を素直にぶつけるとリリスは「ああ」と言ってその辺の壁の土を掴みとり俺の前に差し出す。

手の中にある砂を覗き込む。


「よく見ておれ。」


リリスがそう言い終わると同時に手の中の砂が急速に光を放ちだした。

その光は段々大きくなると最後にはふっと蝋燭を吹き消すかの様に消えてしまった。


「つまり、この壁に使われている土、全てが小さな魔晶石だと?」


光が少し強すぎたのか俺は両目を擦りながらリリスに質問を投げかける。


「正確には7、8割と言ったところじゃの。」


疑問には納得したがその為の方法には少し違和感を覚える。


(口で言ってくれれば納得するのに・・・)


「百聞は一見に如かずというじゃろう?」


俺の考えを読む様に的確に指摘を入れるリリス。


ほどなく、迷路を進むと曲がり角でボーンに出会った。

道を曲がった瞬間のいきなりのお出ましに行動が一瞬遅れる。

ボーンは待ち構えていたかのように手に持った大腿骨の骨を振り下ろしてくる。


バキン!


だが、振り下ろされた骨は俺に辿り着く前に空中で何かに弾かれた。


「ワシがいるからといって油断する出ないぞ。」


後ろからリリスの少し真剣みを帯びた声が鼓膜に届く。

空中で骨が弾かれたのはリリスが魔法で防いでくれたからのようだ。

俺は手に持った棍棒を攻撃を弾かれて体制の崩れたボーンの顔面目掛けて振るう。


バキン。


俺の棍棒はボーンの顔面を綺麗に捉え頭蓋骨を粉々に砕いた。

ボーンはそのまま崩れ落ちてほぼ灰になって消えた。


「気づいてたなら教えてくれてもいいんだぞ?」


「ふふふ、お主の一人立ちを助けるために厳しく育てておるんじゃよ。」


振り返って文句を言う俺にリリスは優しく笑って面白がっているようにそう言った。

俺は溜息を一つついて先を急ぐことにした。


(ふふふ、こうしてワシの重要性を植え付けて離れられなくしてやるわい。)


リリスはなぜか笑みのまま俺の後をついてくる。


「そういえば、探知系のスキルってどうやって身に付けるんだ?」


「う~む、そうじゃのう。魔法か気配を読むか、後は空気の流れで把握する者もおるな。

どんな方法で探るかによって覚え方が違うからの、魔法ならワシでも教えられるが他は無理じゃの。」


「そうか・・・ 魔力は銃弾に全部つぎ込みたいから却下だな。帰ったらまたどこかで習うか。」


現状の魔力量では全て弾丸に注ぎ込んでも全然足りないので他に回す余裕がない。

昨日も、回復用の魔法を習得したのに薬に頼ってばかりだった。


「早くレベル上がらないかな・・・」


「そう言うなら一つに絞ったらどうじゃ? 狩人か僧侶なら魔力もそこそこ上がるし、スキル的にも今のお主の戦闘スタイルにあっておるのではないか?」


リリスの言うことはもっともで早くレベルを上げるならば一つに絞った方がいいし、スキル的にもそのどちらかに絞ればいいのだが、俺は絞り切れなかった。

というか、他を切り落とすことができない。

何かに秀でていない代わりに、何も劣っていないという現状が俺には合っているような気がしたからだ。


「もう少し、考えてみる。」


俺の曖昧な返事にリリスは「仕方ないな」といった表情で頷き先を進む。


その後、道に迷いながらも順当に奥へと進んで良く俺達。

人の足跡をたどれば進むべき正解の道がわかるのだが俺がすべての道を確認したかったので進むのに時間がかかる。

出てくる魔物はボーンばかりで張り合いがなくリリスは途中から鼻歌を歌いだした。


どんどん先に進んでようやく左側の道に在ったのと同じような広間に出た。

広間には岩が乱立していて遠くまで先が見渡せない様になっていた。

先に進むと岩と岩の間にある広いスペースで冒険者と思われる少女が剣を振るっていた。


見た目からしてエルフだろう。


「綺麗な子だね。」


「!」


俺の口から出た素直な感想にリリスは毛を逆立てて睨んでくる。

そんな視線を全く気にせず、俺は目の前で複数体のボーンに囲まれて戦う少女から視線を離さない。


少女は右手に剣を左手に盾を持ちいかにも「戦士です」という感じの戦いをしていた。

装備はインナー服の上に皮鎧で、あまりレベルも高そうではないが複数のボーンを相手に見事に立ち回っていた。


「ふむ、まぁまぁじゃの。」


途中から睨むのをやめてリリスも少女の方に視線を向けていたらしく、その身のこなしを褒めた。


「大丈夫そうだし行くか。」


俺達は少女が苦戦していなさそうだったので先を進むことにした。

先に進んでまた広いスペースを見つけるとボーン数体が集まり円陣を組んで周囲を見渡していた。


「このゾーンではボーンはあんなふうに固まっていることが多いみたいだね。」


「うむ、レベルも左側の通路やここまでの道の奴らより高レベルじゃの。」


「レベルなんて見てわかる物なのか?」


「わかるぞ。鑑定のスキルは相手のステータスを盗み見ることができるスキルじゃからの。」


そう言ってリリスは先程まで見ていた相手のステータスを俺にも見えるようにしてくれた。


「このスキルも欲しいな。」


「うむ、このスキルならばワシが今夜教えてやろう。」


(ベッドの上での・・・♪)


にこやかに笑うリリスを見て「ベッドの上ってのはなしな」と俺は釘を打つことにした。


「う・・・」


リリスは小さく呻き声を上げて残念そうに項垂れた。


「じゃ、行って来るわ。」


「うむ、気をつけての。」


俺は棍棒を握り締めて複数体固まっているボーンの集団内に突っ込み。

戦いを挑む。

一番最初に俺に気づいたボーンが骨を振り上げるが、その瞬間には俺の振るった棍棒の一撃で顔を消し飛ばされていた。

続く二体目三体目には棍棒で牽制しつつ腰から抜いた銃で一体ずつ仕留めていく。


俺の魔法を使用する技術が上がったからか、レベルが上がったからかはわからないが、すべて一撃で仕留めることができた。


「ふう、終わったな。」


スペース内のボーンをすべて撃破した俺は銃を腰に戻してリリスを見る。

だが、リリスの眼はまだ真剣なままだった。

その眼を見た瞬間、まだ何かいると思い周囲を見渡すが特に何も見つけることができない。


(どこだ?!)


周囲の岩と岩の間に魔物の姿は見えないにもかかわらず、リリスの視線は真剣に俺を見つめている。

これがただ見つめているだけならば問題ないのだが、今のリリスの表情からして甘い感情で見ているわけではないと本能が理解する。


「危ない!」


そう叫んで誰かが俺の方に思いっきりぶつかってきた。

不意を疲れて訳も判らず吹き飛ばされる俺。

一歩分だけ吹き飛ばされた後、両足で大地を踏みしめて留まりぶつかってきた相手を見る。


そこにいたのは先程、一人でボーンの集団と戦っていた少女だった。

少女の持つ盾には一本の矢が突き刺さっており、少女は斜め上空を見つめたまま動かない。

その視線の先を眼で追うと弓を持ったボーンがいた。


(いや、あれはボーンじゃない。)


一度だけ戦闘をしたのでよく覚えている姿がそこには合った。

兜に鎧などをつけているのはそのままに今回は剣ではなく手に弓を持っていた。


「ボーンソルジャーです。手強いので気をつけてください!」


後ろを見ずに少女はそう言い放ち、ボーンソルジャー|(以降はボンソル)を睨みつけたまま動かない。

ボンソルの方はというと第二射をゆっくりと番えながら弓を引いていく。


(ああ、あんなにゆっくり弓引きながらだからボーンとの戦闘中に矢が飛んでこなかったのか。)


弓を引くときに大分弓矢が震えているので、引いてからの狙いを合わせるのにも時間がかかりそうな様子だった。

腰の銃を引いて狙いを定めて俺はお返しにと弾丸を放つ。


「「!」」


弾丸はボンソルに当たったが手甲に弾かれてダメージを与えたとは言い難い。

ステータスの体力値には変動があるかもしれないが鑑定のスキルがないのでどの程度のダメージがあるのか俺には分からない。

ボンソルは俺からの反撃に驚いて弓を落すと、また別の矢を背中にぶら下げた矢筒から矢を取り出して弓に番えて引く。


「あなたなんでそんなの持ってるの?!」


先程俺を助けてくれたエルフの少女が振り返って俺を見る。

魔法銃を持っている俺が珍しいのだろう。


「今はそんなことより、あいつを倒すのが先だ。」


俺は構わず二発目を発射する。

発射された弾丸は顔面に向かって一直線に飛んだのだが、途中で手甲に弾き落とされてしまう。

ボンソルは手甲で弾丸を受け止めたのでまた矢を落としてしまう。


「俺があいつの弓の発射を防ぐからあんたは岩の上に登って仕留めてくれ。」


俺は思わぬところからの助っ人を頼りにすることにした。

少女は頷きで返した後、盾に刺さった矢を抜いて岩の方に駈け出した。

岩は3mほどの大きさでゴツゴツしており、小さな岩が周りにあるのもあって少女は迷いなくすいすいと上に登っていく。

ボンソルは弓を引いて近づいてくる少女を落とそうと狙いを定めるが、俺の弾丸でそれを阻害されてまた矢を落としてしまう。


そうこうしている間に少女は岩の上に登り切りボンソルに向かって一気に駆け寄り剣を振るう。

近付かれ、弓しか持っていないボンソルはアッサリと少女に切りかかられて連続攻撃を受ける。

反撃も防御もできず、ただひたすらに防御に徹するボンソル。

やがて体力値が尽きたのか、ボンソルは骨一式と弓矢を残して防具が霧散して消えていった。


「や、やった・・・・」


絶え間なく連続攻撃をしていたため、息を荒げて歓喜の声を上げる少女。


「ありがとう。助かったよ。」


俺が見上げながら少女に礼を言うと少女も「こちらも、助かりました。」といって頭を下げ礼を言う。

少女が下りてくるのと同時に岩陰に隠れていたリリスもこちらに近付いてくる。


「・・・この子は?」


不思議そうに俺を見つめて尋ねてくる少女に俺は「連れだ。」と言って話を切る。


「いや待て待て、自己紹介をするところじゃろう? もしくは、俺の嫁だと言ってくれんかの。」


リリスは俺の言葉に文句がある様でそう訴えてくるので俺は自己紹介からやり直すことにした。


「俺の名前はアルト、こっちは連れのリリス。俺の師匠的な立場でな。こう見えて俺達より高レベルなんだ。」


「こう見えてとはなんじゃ!」


やり直したのにもかかわらず、何が気に入らないのかリリスは声を荒げる。

俺はそれには取り合わず、少女に「君は?」と尋ねる。


「アーシェと申します。」


アーシェは俺とリリスを交互に見てから自己紹介をする。


「そうか、アーシェ。さっきはありがとう。君のおかげで怪我をせずに済んだ。じゃ、これで」


俺は片手をあげて別れの合図を示して先に進むことにした。

リリスもそれに追従する。


「あ、あの素材はいいんですか?」


アーシェはボンソルの残した骨一式と弓を指さして俺達に聞こえる様に大声を出す。


「君が仕留めたから君の物でいいよ。 助けてもらった礼だと思ってくれ。」


俺は振り返ってそう言い残して先に進んだのだが・・・

アーシェはあの後、少し遅れて俺達に追いついてきた。


「こ、この先は・・・危険だから・・・一緒に行きませんか?!」


急いで走ってきたのだろう。

彼女は息を切らして俺達の前に躍り出て息絶え絶えにそう言った。

俺達は顔を見合わせてどうするかを考える。

リリスの方は相手が女ということと俺が褒めたということで大変に嫌そうな顔をしている。


「いいよ。一緒に行こう。」


俺はアーシェにそう告げるとアーシェはガッツポーズを取って「ありがとうございます!」と元気に告げる。未だ疲れているのか声の音量は調節されておらず意外に大声だった。


一緒に行くことになったので三人で歩くことになった。

俺を中心に右にアーシェ、左にリリスで歩いていく。

両手に花なこの状態に少しだけ胸が高まる。


「アーシェの腰につけてる大きな袋って何?」


俺はアーシェのつけている腰の大きな袋が気になり尋ねる。


「これにドロップアイテムを入れてるんだよ。マジックバックが買えない初心者は皆持ってるよ?」


アーシェは「アルトは持ってないの?」とでも言いたげに俺を見る。


「ああ、リリスに買ってもらってマジックバックを持ってるからな。」


俺の何気ない一言にショックを受けたのか「そうですか・・・」と言って明らかに落ち込んでしまうアーシェ。

申し訳ない気持ちになって「荷物もとうか?」と聞いてみたが、「結構です」と断られてしまった。

そんな俺達を見てリリスは二ヒヒと笑っていた。


二人の間に走った亀裂が面白いのであろう。

俺たち三人は、早くもバラけてしまいそうな状態でダンジョンの奥へと進んでいくのだった。



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