第十五、五話 続 ガラシャワ戦
バッドエンドからの起死回生は王道だよね。
リリスが不意打ちにより毒を浴びたことで戦況は一変した。
リリスは体の自由がきかず、魔法も使えない。
そんな中、俺はゆっくりと銃を抜きリリスに銃口を向ける。
バン
一発の銃声がリリスに喝を入れた。
リリスは何が起きたのかと思いアルトを見ると彼はこんな状況でも笑っていた。
リリスはそんな彼の笑顔を見て自分も思わず笑顔になった。
それがただつられてなのか。最愛の人の笑顔だからなのかはわからない。
ただ、リリスは自分は笑っているのだと自覚した。
リリスはゆっくりと降下する。
毒のせいで魔法がうまく使えなくなり、飛翔魔法のコントロールが利かなくなったのだ。
徐々に落下する体とそれを見て口を広げて我先にと群がる蛇たち。
死を間近にしたからか、時間がゆっくりと動き流れていく。
落ちて行く体と開いていくガラシャワの口、そして先程から自分に向けられて飛ぶ魔法の弾丸。
おそらく、落下点をズラそうとしているのだろうが、多少ズレたところで結果は変わらないだろう。
リリスはそう思って笑顔のまま目を閉じた。
最愛の・・・ 初恋の人の笑顔を瞳に焼き付けて笑顔のままで・・・
リリスが最後に願った死にざまだった。
ガチン!
牙と牙のぶつかりあう鈍い音が響き渡る。
・・・
・・・
・・・
・・・?
痛みがない。
リリスが目を開けるとそこは魔法の結界の中だった。
「いつまで寝てるんだ! さっさと起きろ!」
聞きなれた声が怒声となって耳に届く。
円球の魔法結界の中で目を覚ましたリリスは体を飛び上がらせる。
(動く?)
リリスの体はなぜかすんなりと動いた。
先程まで神経毒に侵されて指一本動けないのが嘘のようだった。
周囲を見渡すと魔法結界の大半が蛇たちの口で隠され唯一の隙間からは一人奮戦するアルトの姿があった
もっとも、彼は先程まで手に持っていた二丁目の拳銃を手放し何か薬の様なものを飲んで逃げ回っていた
(なぜ、今この状況に置かれているのか理解はできない。)
だが、そこからのリリスの行動に迷いはなかった。
すぐさま、防御魔法の一部を開いて外に出て飛翔魔法で上昇。
三体の蛇を魔法で撃滅。
今回は先程の様に伏兵の攻撃もなく、さらに死にぞこないの二体の動きが鈍く相手にならないので、
実質一対一のタイマン。
おまけに相手は通常サイズ。
リリスが負ける理由も手こずる理由もなかった。
三体のガラシャワを撃破後、リリスは早急にアルトの救援に向かい残っていた一体を始末した。
「ふう。終わった・・・!」
戦闘終了後、アルトはその場に尻餅をつき腰を下ろす。
リリスはムッとした表情でその前に仁王立ちする。
「まぁ、座れよ。後、喉乾いた。」
アルトの言葉を聞いてリリスは拾ってきたマジックバックから水筒を出して手渡す。
「ありが・・・」
礼をいうアルトの膝の上に強引に座るリリス。
「ふう、文句言う体力もないわ。」
アルトは水筒を口に付けて飲んだ後、上半身を地面に倒して寝ころんだ。
リリスはそんなアルトの上に覆いかぶさり無言のまま説明を求める。
「はぁ、説明はあとでな。休憩したらガラシャワの死体持って早く降りようぜ。」
結局、アルトは休憩中には何もしゃべらず街に戻る最中で事の顛末を話してくれた。
アルトはリリスに魔法の弾丸で水神のお守り、呪魂の反射鏡の順で渡し、
その次の弾丸で呪魂の反射鏡を発動させ、リリスの呪いを反射してアルトが受け持ち
その次の弾丸で水神のお守りで防御魔法を発動させたらしい。
「ワシ、呪いなんてかかっておったか?」
「いや、呪いにはかかってなかったけど、あれは自身についたバッドステータスを誰かに譲渡するってか別の人に呪いを押し返す代物みたいだったからな。」
「なるほど、それで攻撃してきたアルトにワシの猛毒の異常が発現したのか。」
「そ、んで。予想通り猛毒が俺に反射して発現する前に、最後の弾丸で水神の守りを発動させてお前を守ったわけ。」
その言葉を聞いてリリスのあいた口は広がらなかった。
自身より圧倒的に強い敵を前に自身よりはるかに強い仲間のピンチに対する冷静な対処。
呪魂の反射鏡を使っての毒の除去を確証もなくやり遂げる度胸。
毒をくらいった後、銃を手放して解毒をして私が起き上がると信じてくれた信頼感。
「惚れ直したぞ!」
リリスはアルトに力いっぱい抱きついた。
「おいおい、何するんだ。」
突然の抱擁に戸惑うアルト。
リリスはこうして己の失敗からの敗北から無事脱した。
そして、アルトへの想いをより一層強くしたのだった。
短いのはここまでを一つの話としたかったからです。
わざわざ分けてすみません。




