第十四話 教会へ
俺達がダンジョンの外に出て換金に行くと、昨日と同じように換金所には豹の獣人のお姉さんが立っていた。
俺達は軽く会釈をして換金するための物を置いていく。
お姉さんはそれを持って「少し待ってて、その間に指輪とイヤリングも受付に返してて」と行って席を立つ。
「おかしいの・・・」
リリスがそんなことを口にする。
だが、それは俺も思っていた。
今回の売却物はボーンの骨のみ。
昨日と同じなら重量だけは買って後はお金を渡すだけのはずだ。
なのに、今回はわざわざ席を立って時間をかけている。指輪とイヤリングも受付に返してきて欲しいと言っているので明らかに時間稼ぎをしているように見える。
ギルド側かお姉さん個人かは知らないが何かあるのは確かだろう。
怪しさを感じながらも俺達は受付で指輪とイヤリングを返し、少し待つ。
そうしていると豹のお姉さんが大柄な男と共に帰ってきた。
男は顎髭を蓄えた人間でいえば40代のおっさんに見える。
(筋骨隆々だが小柄なところを見るとドワーフなのかな?)
「初めまして、私の名はガラハット。この支部の支部長をしております。」
男はそう言って俺にではなくリリスに握手を求める。
リリスは嫌そうな顔をしながら二の腕を組んで首を振り、「用件だけ聞こう。」と言った。
「では、こちらにどうぞ。」
男はそう言ってリリスだけを奥の部屋へと招き入れ様とする。
その間、豹のお姉さんは俺に銅貨を渡される。今回の売却額だろう。
「よし、行くぞ。」
リリスはそう言って俺について来いと言わんばかりに先を歩きガラハットの後についていく。
「そちらの方もですか?」
「何じゃいやなのか? 嫌ならこの話はなかったことでよいぞ。」
俺がついてくるのをガラハットは嫌がったのか質問を投げかける。
リリスは俺が同伴しないなら「話を聞かぬ」と言わんばかりに言いよる。
「いえ、構いませぬ。ただ、できるだけご内密に・・・」
ガラハットは俺に向かってそう言った。
良くは判らなかったが俺は頷いて返す。
その後、俺達はガラハットの案内で奥の部屋へと通された。
部屋に入ると俺達をテーブルを挟んでガラハットが席に着く。
豹のお姉さんは遅れて扉から入ってくると飲み物を三つ置いて出て行った。
豹のお姉さんが飲み物を置いた後、ガラハットは「リズ君、ありがとう」と言っていたので豹のお姉さんの名前はリズというらしい。
ガラハットはコップに注がれた飲み物を一口飲んでから話を始めた。
「実は最近、この町の近辺で商隊や旅人が襲われる事態が発生しております。」
リリスはそれを聞いて明らかに嫌そうな顔をして舌打ちをする。
俺も予想していたがどうやら昨日の鑑定でダンジョン内のリリスの活躍からその実力が俺と同じではないというこが、バレてしまっているらしい。
ガラハットはリリスの舌打ちを気にせずに話を続ける。
「生き残った者の話からどうやら相手は魔獣ガラシャワということは判明しました。 ただ、討伐しようにもガラシャワは広範囲で活動する上に頭も良く危機察知能力も高い。 討伐に乗り出した冒険者も大半は返り討ちにあい、強力な冒険者からは見つからない様に逃げてしまうのです。」
ガラハットはそこまで言ってから懇願するような顔をこちらに向けて言葉を止める。
(なるほど、ギルドを欺いたリリスの幻術で実力を誤魔化して発見して倒して欲しいわけだ。)
俺は両腕を頭の後ろで組んでリリスに目を向けるとものすごくめんどくさそうな顔をしていた。
おそらく、俺と同じ思考に行き着いたのだろう。
いや、リリスの場合は話が始まる前からこうなることがわかっていたのだろう。
リリスの嫌そうな顔を見てガラハットのおっさんは俺に懇願の顔を向けてくる。
正直、おっさんの「助けて下さい」敵な顔を見せられてもうれしくないのでやめてほしい。
「報酬は?」
俺はガラハットの懇願の顔から逃げたい一心で質問を投げる。
「討伐報酬として銀貨30枚。ガラシャワの素材は通常額の3倍で引き取りましょう。」
ガラハットは水を得た魚の様に生き生きとして答える。
「この金額って高いの?」
この金額が相場よりいいのかどうかはわからないので俺はリリスに質問してみる。
「破格じゃな。ガラシャワは危険生物に指定されておる蛇の魔獣での、通常報酬は銀貨10枚じゃ、
おまけに今回はその素材を通常額の3倍で引き取るという・・・ ますます、何か裏がありそうじゃの・・・」
リリスはそう言ってガラハットを睨みつける。
ガラハットは手でごまをすりながら俺に向かって「そんなことありませんよ」と笑って言った。
明らかにリリスを見ず、おまけに顔には大量の汗をかいているので何かを隠しているのは明白だった。
「おじさん。嘘つくの下手だなぁ~」
俺が頭をかきながらそう言って席を立つとリリスも同じように席を立った。
「あ、あのどちらへ?」
「帰る。この話は聞かなかったことで。」
「うむ、それがよかろう。」
ガラハットの擦れた声での質問に俺とリリスは背を向けて答える。
「お、お待ちください! 話します! 全部話しますから!!」
ガラハットは俺とリリスの服の袖を掴んで涙ながらにそう言った。
俺とリリスは顔を見合わせて仕方なく席に着き話を聞くことにした。
「じ、実は討伐に向かった者たちの生き残りの情報によりますとそのガラシャワは本来よりの二倍の体長があり、おまけに番いで子供までいるようでして・・・
通常の大きさのものも含めて全部で3体確認されております。」
なるほど、討伐報酬が通常の3倍なのは3体いるからか。
「おまけに、体長が二倍ということはおそらくレベルも二倍以上じゃの・・・ 平均が30前後じゃから60~70とみていいじゃろう。」
リリスは溜息をつきながら「割に合わんの~。」と口にする。
確かに、数が三体なので金額的には普通かもしれないがレベル的にみると危険度は倍以上だろう。
おまけに確認されているのは三体ということはまだ他にもいるかもしれない。
とてもではないが報酬と依頼が噛み合っていない。
「なぜ、報酬額をあげんのじゃ? そうすれば人が来るじゃろう。」
「いや、それが・・・」
なんでも共国|(獣人の国)が王国|(魔族の国)に因縁をつけたらしく今現在、冷戦状態で冒険者の数が減っているらしい。
戦争で手に入る金額は高く、おまけに運が良ければ戦争に出なくても予備軍として待機しているだけで報酬が手に入るそうだ。
そして、ギルドは国が運営しているので戦争時にギルドに貯めているプール金を徴収していしまうので、今は金銭的な余裕がないそうだ。
なので、これ以上の報酬アップはできないという。
「あれ? 俺達のいる国ってどこだっけ?」
「公国じゃな。」
「なのに、冒険者の数が減るしギルドのお金を国が徴兵するの?」
「長年戦争をやっておらんからの~。 公国の中央部も、もしもの時に備えて徴収したのじゃろう。」
俺達の今いる公国は戦争に今の所関与しないが、戦争が始まって大規模化すれば飛び火するかもしれないとみているそうだ。
この世界では長年戦争をしていないので国の役人たちも対応に困っているのだろう。
「ま、戦争にはならんじゃろうがの・・・」
「そうなのか?」
リリスのあきれた様な物言いに俺は疑問を投げかける。
「うむ。 まず、起きんな。 現在の獣王は血の気が多いからむやみやたらに喧嘩を吹っ掛けるが自分からは攻め込まん。 それだけの大義がなければの、今回もどうせつまらんことで怒ったのじゃろう。」
「魔族側が攻めることは?」
「魔王はそんな愚を犯さんよ。 アヤツは平和主義者じゃからの。 それに魔族は一枚岩ではない。
種族ごとに立場や考え方が違うから戦争を起こせば非戦派と交戦派が対立して内部分裂を起こす。
唯一、それを起こさぬ方法は共通の敵の出現じゃが、これは相手が一方的に攻めてこんと起こらんの。」
「ふ~ん。 ちなみに、今回の共国と王国が揉めた原因ってなんですか?」
俺がガラハットさんに質問すると彼はかなり言いにくそうにしながら一言だけ。
「たしか、お酒の席である女性がどちらに惚れているか・・・ だったよな・・・」
(女絡みか・・・・ これはもしかしたら揉めるかもしれないか・・・)
女が絡むと男はかなり熱くなってしまう。
女を奪い合うために男はいらぬ争いを起こすケースは多々ある。
それが国王同士であれば戦争だって・・・
俺がそう思った矢先にリリスは大きくため息をついて一言
「馬鹿らしいの~。それって両方とも振られた女の話じゃろう?」
「ええ、まぁ・・・」
ガラハットはそう言って頷く。
俺一人だけが頭の上に?マークを浮かべる。
「確定じゃ、戦争は起きん。その話に出てくる人物はの両方に告白されてあっさり振った女なんじゃよ。その女は他にも男に言い寄られては全部蹴っておったよ。そんなわけでその二人が戦争してたとえ勝ったとしても目的の女性は手に入らん。」
俺は「ああ、なるほど」と頷いた。
確かに、女を争った男の喧嘩もその女性がいなければ起きることはない。
それにお酒の席での話だというし、「その内冷静になって和解するだろう」とリリスは述べた。
戦争の話は一先ず置いておいて、俺達はガラシャワの話をすることにした。
端的に言って受ける理由がないのだが、俺はリリスに「やろう。」と言った。
俺の発言にガラハットは歓喜の声を上げ、リリスは実に嫌そうな顔をして俺を見る。
「本気か? 報酬は正直言ってうまくないぞ?」
「わかってるけど、なんとなくやってみたい。」
「いや、お主は無理じゃよ。ガラシャワは本来、中級のレベル10にならんと狩れんからの。」
どうやら、今回俺の出番はないらしい。
「まぁ、でも俺もついてって勉強しようかな。」
「ふう。やれやれ、お主も変わっておるの。」
リリスはそう言ってガラハットに明日から捜索を始めてみると告げた。
ガラハットは喜んで首を縦に振り、俺とリリスに強引に握手をしてきた。
俺達はギルドを後にすると街をぶらつく。
「また、どこかの店に入るかの?」
リリスが当たりの店を見ながらそう告げるが俺は今回、別の目的があった。
「リリス。回復魔法を覚えたいんだがどうすればいい?」
俺の質問にリリスは「それなら・・・」
そう言って俺を教会に連れてきた。
なるほど、僧侶だもんね。 教会で修行すればいいんだよね。
そんなわけで俺は教会に行き治癒魔法を習うことにした。
教会ではお布施を払うと誰でも習うことができるらしい。
俺はまたリリスにお布施を払ってもらい、僧侶の少女の下で修行することになった。
「初めまして、私の名前はアリスと申します。」
アリスは純白の修道服の良く似合うエルフの少女だった。
彼女はまだ18歳でここであと二年ほど修行した後にダンジョンに入りレベル上げをするという。
服がゆったりしているためか身体つきはほとんどわからないが胸の部分だけは十分魅力的な大きさだった
俺は彼女から回復魔法の基礎と薬師としての知識を学ぶ。
薬師とは読んで字の如く薬を扱う人のことだ。薬剤師みたいなものと言えば分りやすいだろうか?
まだレベルの低い俺には薬を使って足りない部分を補った方がいいという彼女の配慮だ。
ダンジョン内での魔法の使用とリリスから得た知識を使った魔法の訓練で魔力の大半を消費している俺には合っているかもしれない。
俺は生活系職業を付加魔法師から薬師にチェンジした。
魔力量の少ない現段階では付加魔法の練習はできない。
そんなわけで俺は薬に頼ることにした。
彼女の熱心な指導を聞きながら仲睦まじく修行をしている横でリリスはイラつきを感じていた。
(ぬぬぬ・・・ あの女~。アルトに色目を使いよって! 許せん!!)
実際はただ単に仕事熱心なだけなのだが、リリスからすれば若い女と仲睦まじく薬を作る男女にしか見えない。
「くしゅん」
リリスの怨念に寒気を感じたのかアリスはくしゃみをする。
アルトは「大丈夫かい?」と言って着ていた上着をアリスに掛ける。
「ありがとうございます。」
アリスはにこやかに笑顔を向けながら感謝の意を述べる。
(おんのれあのアマ~!! ワシの男に手を出す気か~!! アルトもアルトじゃ!! ワシというものがありながら~!!)
リリスの背中に炎が見えそうなぐらい熱い情念が燃え盛る。
それと同じ規模の怨念が寒気となって二人の背に襲い掛かる。
「「くしゅん」」
「今日はなんだか冷えますね。」
「そうですね。どうしてでしょうか?」
二人一緒にくしゃみをした後、二人はそう言って笑い合いお互いを励ましあった。
リリスはそんな二人を見てまたストレスをため込んでいく。
夜になり、帰宅後。
スキルを確認すると治癒魔法Lv1と薬作成Lv1が追加されていた。




