第十三話 換金
俺達がダンジョンから出た時刻は約3時だった。
「便利だなそれ。」
俺はリリスが右手付けている時計の様なものを見てそう言った。
その時計の様なものは実際に時計なのだが作りが普通の時計と少し違う。
時刻を表す時計部分に特殊な魔法石がハメこまれており、日の光に当てることで月の満ち欠けの様に円形の魔法石が輝いてその量でだいたいの時刻がわかるというものだ。
難点は日の光に当てなければならないので今回の様な洞窟内のダンジョンでは使えないことと月の光では弱すぎて時刻が判りずらいということ。当然、雨または曇りの日には使えない。
そんなわけで使いどころが限られる逸品なのだが、太陽の光から勝手に魔力を吸って動くので落として壊さない限り半永久的に動いてくれる便利なものでもある。
もっとも時間をそこまで気にするのは貴族か商人のみなので普及はあまりしていない。
俺としては時計のあった世界で普通に生活していたのでこういう時間がわかる物はすごく便利でありがたい。
俺達は骨や武器を換金するために一旦ギルドに向かう。
ギルドに入ると受付とは別に買い取り専用の窓口へと向かった。
買い取りカウンターの向こう側には豹の獣人と思われるお姉さんが立っていた。
「ギルドの受付って女の人が多いんだな。」
「ギルドに来る男は大半が自分でダンジョンに入って稼ぐからの、逆に女は愛想を振りまいて安全な受付嬢になることが多いの。収入は低いが安定しておるし、有望な冒険者と結婚すれば生活は安泰じゃからの。」
リリスの言葉に俺はフムフムと頷く。
確かにそうすれば男はより強くなって女の子に自分をアピールできるし、女の子は可愛く着飾って有望な男を選ぶことができる。
無論、好き嫌いや性格が会う合わないもあるのでこれだけで選ぶことはないだろうが目安にはなる。
(ギルドって冒険者の結婚相談所も兼ねてるのかも・・・)
俺はそんなことを思いながらマジックバッグから今日の戦利品を出して豹のお姉さんの前に並べていく。
お姉さんは骨の重量を計測して重量分の銅貨を渡してくれる。
「あれ? これは?」
そう言ってお姉さんが手に取ったのはボーンソルジャーの持っていた剣だった。
お姉さんはそれを少し眺めた後、俺達を見る。
「昨日、入ってきた。新人の子達よね?」
お姉さんの問いに俺は首を縦に振ってだけ返す。
何かおかしい事でもあったのか俺とリリスを交互に見てお姉さんは俺達にギルドで借りていた指輪とイヤリングの返還を求めてきた。
俺達は素直にそれを渡すとお姉さんは「少し待ってて」と言って席を立った。
「どうしたんだろう?」
俺が首を傾げてリリスに問いかけるとリリスは不機嫌そうにこちらを見て答える。
「ワシらのことを知っておる様じゃからの。下級職のレベル1が二人でボーンソルジャーを狩ってきたことに不信感を抱いておるのじゃろう。全く失礼なやつじゃ・・・」
(それはリリスが職業とレベルを偽ったからでは)と思ったが口には出さない。
リリスにも考えがあって偽っているのだろうと察したからだ。
その理由が単に「俺と一緒に居たい」というだけのものかもしれないが、今のところリリスの助けはありがたいのでそこにも何も思うところはない。
寧ろ、俺が一人立ちするまでは面倒を見てほしい。
検査が終わったのか豹のお姉さんはにこやかに笑顔を浮かべて帰ってきた。
「申し訳ありませんでした。特に問題はなかったので剣の鑑定に入らせていただきます。指輪とイヤリングに関しては私の方で返却しておきますがどうなさいますか?」
俺達がこの後もダンジョンに入る可能性を考慮してお姉さんはそう聞いてきたが、俺は首を横に振って否定する。リリスも「必要ない」と一言いって否定した。
お姉さんはリリスを見て残念そうにしながら剣の鑑定に入る。
どうやら、俺達のダンジョン内の行動を見てリリスが本来の実力を隠していることに気づいたらしい。
「こちらの剣は『腐食』の効果付きですので銀貨1枚で買い取らせていただきますがどうなさいますか?」
「ほう、珍しいのボーンソルジャーの剣に効果付きとは結構レアじゃぞ? 持っておくか?」
お姉さんの言葉を聞いてリリスは珍しい物でも見たような顔でそう言った。
「いえ、売却でお願いします。」
それがどれほどレアだったのかは知らないが剣を持つつもりがない俺は即答する。
お姉さんは「かしこまりました」と言って剣の刀身を布で巻き、俺に銀貨を1枚渡す。
俺達は換金が終わるとギルドを出て何か食べに行くことにした。
3時だからおやつの時間というのは子供の考えなのかもしれないがなんだか甘いものが食べたい気分だったのだ。
「そういえば、効果付きって何?」
「ん? お主の世界に在ったゲームの中にも効果付きの武具はあったじゃろう? それと同じじゃよ。
あれは『腐食』の効果がついとるから切ったモノを腐食させることができるんじゃよ。 まぁ、アンデット系には効果がないからあのダンジョンでは使えんがの。」
リリスの説明は実にわかりやすかった。
ゲームの様にステータスなどがあるように武具にもいろいろと付属効果のあるものもあるらしい。
(本当にゲームの様な世界だな)と思いながら歩いていると雰囲気の良さそうなカフェを見つけたので二人で入る。
「いらっしゃいませ~」
ウェイトレスらしきエルフの少女が笑顔で出迎えてくれる。
エルフ特有の白い肌と対照的な黒いミニスカの制服は大変よく似合っていると思った。
ウェイトレスの子は俺達を席に案内するとメニューを置いて立ち去って行った。
水とおしぼりを取りに行ったのだろう。
その間に俺とリリスはメニューを眺めて注文するものを選ぶ。
メニューは数種類のサンドイッチにケーキ、コーヒーに紅茶と外観のイメージ通りにカフェだった。
ウェイトレスさんが水とおしぼりを持ってくると俺達は注文を言う。
俺はケーキセットの今日のおすすめを選択。
リリスは紅茶とパフェを頼んでいた。
注文が終わるとウェイトレスのお姉さんが透き通った声で注文を繰り返してくれる。
注文に間違いがないことを確認するとウェイトレスさんは店の奥にオーダーを通しに去って行った。
ミニスカから覗く太もものラインが綺麗だと思うのは男そして普通の反応なのだが、リリスは気に召さなかったらしく俺の頬を引っ張ってきた。
「お主、やる気が出てくると同時に性欲も出てきておるのか? なら、ワシを見ろ。」
そう言ってリリスは服を少しはだけさせる。
俺は全く気にせず、ステータス画面を開いてスキル欄を確認することにした。
対面の席で頬を膨らましているリリスがいるが気にしない。
スキル欄には棒術Lv2 剣術Lv1 矛術Lv1 槍術Lv1 銃術Lv2 魔力操作Lv1 身体強化Lv1 武器強化Lv1となっていた。
武器系のスキルで棒術と銃術は判るが他はどこから出て来たのだろうか?
リリスに尋ねると頬を膨らませて不機嫌なまま答えてくれる。
「棍棒は『振れば剣、払えば矛、突けば槍』と言われる応用力のある武器じゃからの。この3つの武器ができるまでは棍棒がそれぞれの代わりをしていたほどじゃから棍棒を扱っていけば自然と身につくんじゃよ。」
「身体強化と武器強化ってした覚えがないんだけど。魔力操作は魔法銃を使ってたからわかるけど。」
「うむ。それは棍棒の効果じゃな。」
「棍棒の?」
リリスの話によるとあの棍棒は魔力を流すだけで棍棒自体の能力と使用者の能力を上げてくれる代物らしい。
そして何よりすごいのはただ上げるだけでなく、『使用者が魔法を使っていることになる』という効果があるのでスキルとして発現しレベルも上がっていくそうだ。
スキルレベルが上がれば武器がなくてもできるようになるらしい。
(いったいどんだけ高性能な武器を俺に渡してるんだ?)
俺はリリスの過保護ぶりに頭が下がった。
そんな話をしていると注文のメニューが届いた。
俺達は疲れた体と脳に糖分を補給して一息つく。
俺達は店から出ると街の中をブラブラと散策する。
俺は服をあまり持っていないのでこれを機に少し購入することにした。
俺の持っている服は俺がこの世界に来た時に来ていた学生服とリリスが用意してくれていた下級の各職業に就いた時ようの服が5着の計6着だ
。
それでも問題ないような気もするが残念ながら俺の好みのものは1着もない。
この世界に来た時の服は学生服だし、下級職用の装備は性能の良い物の中でリリスがチョイスしたらしいが俺の服のセンスとは少し違う。
などと文句を言っているが俺がただ単にリリスにこれ以上甘えないために自分で選んだものを買うのだ。
お金はリリスが払うんだけどね。
まぁ、お金は借りているということにしてマジックバック同様に後で稼いで返せばいい。
俺達は服を買うためにいくつかの店を回ってから宿へと帰った。
買い物の際中、リリスは常に上機嫌だった。
男女が二人でウィンドショッピング。
デートと思われても仕方がない。
特にリリスは俺に好意を抱いているのだから・・・
翌日、俺達はまたギルドで指輪とイヤリングを借りてダンジョンへと潜った。
今回も最初の曲がり角で左に曲がって奥へと進む。
広間に辿り着くと昨日と同じように俺がメイン、リリスがそのサポートという形でボーンを狩っていく。
昨日と違うのは二体同時の戦闘に慣れるために二対一の形になるようにリリスが調整するということ。
昨日の戦闘でレベル4まで上がったと言っても二体同時は意外ときつかった。
正面に二対や左右に挟み込まれた状態、正面と背後に一体ずつといった様々な形を試しながら柔軟な対応を迫られる。
俺達は体力値を気にして一戦ごとに体力を回復するために休憩に入る。
おかげで俺が午前中で狩れた魔物の数は12体程度だ。
リリスは俺が休憩中や戦闘中、魔物の数を調整するために何体か狩っていたようだが、正確な数は判らない。俺にわかるのはリリスが何か魔法を使用している程度のことであった。
リリスはアルトの行動を見ながら感心していた。
二対に挟まれたあらゆる状況を体験するためにその状況をわざと作り出し戦うさまは最初の方こそ危なっかしいと思ったが、アルトが二体を相手取りながらリリスの方に時々目をやっているのを見てリリスは確信する。
アルトは敵二対と自分の計三人分の行動を監視していると・・・
リリスはアルトの冒険心と向上心に感服しながら笑顔を浮かべて周囲を警戒しつつ邪魔になるであろう標的を狩っていく。
その様は笑顔を浮かべて魔物を狩る虐殺者の様であった。
アルトは中学時代にあらゆるスポーツである同級生と勝負をしていた。
そのため、あらゆる競技や球技をして周囲の行動を観察することが自然と身についていた。
特に球技は一対一でやるのではなく集団対集団の戦術や戦略、奇策などを必要とするためこの手の能力は必須ともいえる。
そんなわけで集団戦の練習を終え、午後からはさらに奥へと進んでいく。
昨日の様にボーンソルジャーとは出会えなかったのだ。
(昨日のような出来事は本当に稀だったんだな)と思いつつ俺は広間の奥の方にある通路を通って奥に入っていく。
狭い通路の先には小さな小部屋があった。
広さは先程の広間に比べて狭く縦横高さ共に7,8mほどしかなくそれ以降の道もないようだった。
小部屋の中には魔物などもおらず俺はリリスに引き返すかどうかを確認する。
「とりあえず、入るかの。もしかしたら、侵入後に魔物が生み出されるパターンかもしれんしの。」
リリスの言葉聞くにどうやら小部屋内に入った後に魔物が誕生するというパターンもあるようだ。
俺が部屋へと入るとリリスの言う通りに小部屋内にボーンが数体誕生したが俺は事前にリリスの魔法で身体能力を強化していたので難なく倒した。
「明日からは右に進もう。」
俺はリリスにそう言ってダンジョンを後にした。
リリスはただ頷いて返事を返してきた。




