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第十二話 ダンジョン内の戦闘

俺は昼までに30体近くのボーンを撃破した。

レベルは3に上がった。

リリスは「職業を一つに絞っておればLv9にはなっておるはずじゃぞ。」と愚痴をこぼす。


俺達は昼食を取るために広間を出て来た道の途中で適当な岩を見つけて腰かける。

広間では一定時間ごとに魔物を生み出してしまうので休息は取れない。

岩に腰かけるとまたリリスがいつものようにテキパキとお弁当と水筒を用意してくれる。

俺はタオルで汗を拭きとった後、弁当を手に取り食事をとる。

リリスも同様に取るのだが、俺の方をニコニコと見つめながら食事をしている。


特に会話が弾んでいたり、お弁当に好物のものがあるということではないようだ。

その証拠に会話は特にしていないし、リリスはお弁当よりも俺を見つめて喜んでいるように見える。


「何がそんなにうれしいんだ?」


俺はリリスの笑顔を不気味に感じて問うてみた。


「いや、なに。 お主がやる気に満ちておる様で大変気分がよいのじゃよ。 最近のお主は物事に無関心で面白みがなかったからの。」


俺とリリスが初めて会ったのは四日ほど前のはずだが、リリスは俺の行動を密かに監視。

所謂、ストーカーなので俺の過去をある程度知っているようだ。

確かに俺は中学時代にクラスメイトにあらゆる勝負で敗北し高校も第一志望は受験に失敗して以降、やる気を失っていたが、なぜか今はこの後の魔物狩りとダンジョン内の散策に意識が向いている。


(魔物との戦いを楽しんでるのは俺が子供だからかな・・・?)


俺はまるでゲームの世界の様にレベルがあり魔物いるこの世界の状況をゲームの中に迷い込んだように感じて面白がっている。とても不謹慎な気もするがそのおかげでやる気が芽生えているので大切に育てることにした。

何せこの世界での生活が懸かっているのだ。手を抜くよりはいいだろう。


(あれ? そういえば、ドロップアイテムとかないのかな?)


俺は魔物を倒しても金銭になりそうなものが手に入っていないことが気になりリリスに問うてみる。


「ああ、お主が拾わぬから代わりに拾っておるぞ。ほれ」


リリスはそう言ってマジックバックからボーンの骨の一部と思しき物を取り出す。


「これが、ドロップアイテムなのか?」


「そうじゃ、ボーンは死ぬとほとんどが灰になり消滅するが一部の骨は残る。その骨は大量の魔力を含んでおっての、畑などの肥料になるんじゃよ。」


そんなわけでボーンの骨は1kgで銅貨1枚半と安いが一定の値段で取引されているらしい。

一体から取れる骨の量は倒したボーンのレベルに比例するので一概にどの程度とは言えないらしい。

今回の成果は約三十体で3、2kg程度らしい。一体につき約0、1kg。


(30体倒して銅貨4枚半か・・・ ボーンはあまりお金にならないな・・・)


昼食後、俺達はまた先程の広間に戻る。

広間にはまたぞろぞろと魔物が大量に沸いているはずなのだが、広間の入り口からは目視で確認できない。


「リリス。魔物が湧いてないみたいだがどうしようか?」


「ふむ。おかしいのう。そんなはずはないんじゃが・・・ ちょっと待っておれ。」


リリスは顎に手を当てて少しばかり考えて、何か魔法を発動させる。

リリスの指先に青い光の球ができたかと思うと同時にそれが薄く円形に広がっていく。

探知の魔法かなにかだろう。


「ふむ。なぜか一か所に集まっておるの。行ってみよう。」


探知が終わったのかリリスはそう言って俺を先導するかのように歩き出す。

俺はその後に続いて歩く。

俺達のいた大広間の入り口と正反対の場所になぜかボーン達は一か所に集まっていた。


「んじゃ、行ってくる。」


「待つのじゃ、様子が変じゃ。」


俺はボーン達に戦いを挑もうと一歩進み出るとリリスが右手を俺の前に差し出して制止した。

俺達はボーン達の様子を離れたところから窺う。

ボーン達は一か所に集まりなぜか仲間同士で戦っていた。

その中で一回り大きなボーンが他を薙ぎ払い撃破していく。

大きいと言ってもボーンにしてはの話で身長は約160cm程度だ。


そいつは次々と湧き出てくるボーンを薙ぎ払らっていく。

途中からはそいつ対その他のボーンの戦いへとシフトしていく。

ボーン達は次々とそいつに敗れて灰へと帰り、一部分だけ骨が残って周辺に散らばっている。


(最後に残ったあいつだけを倒すだけで数十体分は骨が手に入りそうだな。)


俺がそう思うほど一際大きいボーンの周囲には骨が落ちている。


やがて、ボーン達の生成が追い付かなくなったのか広間の中にはあの一際大きいボーンだけになった。

俺はそれを見て腰の銃に右手をかけてリリスの制止を振り払おうと左手でリリスの右手を掴んだ丁度その時、異変は起きた。

ボーンの周りに黒い煙が立ち込めて周囲を包んだ。

俺はそれを見て体の動きを止めて黒い煙を注視する。


次の瞬間、煙が晴れるとそこには大腿骨の代わりに剣を持ち、兜をかぶり胸当てをつけ手には手甲を嵌めて足にブーツを履いたボーンが立っていた。


「ボーンソルジャーじゃな。」


その姿を見てリリスがそう呟いた。


「ボーンソルジャーって?」


「ボーンの上位版じゃな。おそらく、先程のボーンが周囲のボーンを倒してレベルアップし、さらに上位の魔物にクラスチェンジしたのじゃろう。」


リリスの説明に俺は呆気に取られて言葉を失う。

魔物にもレベルがあるのは聞いていたが、さらにクラスチェンジまで可能とは予想もしていなかった。

上位の魔物は上位の魔物で別の場所で勝手に生成されると思い込んでいたのだ。


「こんなことは滅多にないチャンスじゃ。今ならアヤツが倒したボーンの報酬を手にできる上に自力でクラスチェンジした魔物は通常の魔物とほぼ互角の性能じゃが経験値は多く手に入る。問題は今のお主では勝ち目がない事かの。」


俺の今のレベルではボーンソルジャーに勝つのは難しいらしい。

それというのも、俺が午前中に倒したボーンはLv1~3程度でクラスチェンジしてボーンソルジャーになったあいつはボーンとしてはLv12以上でさらにボーンソルジャーになって能力値が上がっているそうだ。長いのでボーンソルジャーはボンソルと略すことにしよう。


リリスなら一撃だが俺では勝つのはかなり難しい。というか不可能に近いらしい。

だが、俺は戦うことはもう決めていた。


「リリス。強化魔法をかけてくれ。俺がやる。」


だから、リリスにそう言って俺はボンソルのいる方に歩いて行き相手から見える位置に立った。

後ろをちらりと振り返ると「やれやれ」といった表情で首を振るリリスがいた。

ただその口元は笑みを浮かべているように見える。


俺の言葉を聞いてリリスはすぐさま俺に強化魔法を施す。

その証拠に俺の体には赤い光の様なものが纏わりつく。

以前の弱すぎる俺では魔力の光が全く見えなかったが今ではぼんやりとだが見えるようになった。


ボンソルは俺を視認するとこちらに向かって来る。

ボーンの動きに比べて3倍ほどの速さで走っている。

俺は右手で銃を構えて狙いを定める。

俺とボンソルの間は15mほどあったが今はボンソルが走って近づいてきているのでその距離はドンドン縮まっている。


俺はボンソルが射程距離にはいうと銃を穿つ。

弾丸はボンソルの胸を目掛けて真っ直ぐに飛んだのだが直前に剣で弾かれてしまう。

俺は二発目を打つために銃に魔力を込め、充填と共にまた弾丸を発射する。

今度は距離が近いので狙いはそこそこで威力に集中したおかげか先程よりも早く大きな魔法弾が発射された。しかし、これもまた剣で弾かれてしまう。


ボンソルが目前まで来たので俺は銃をしまい棍棒を構える。

その間にボンソルが剣の間合いに入ったのか剣を振り上げる。

俺はその動きを見て軌道を読み取り事前に回避行動をとる。


ボン!


事前に回避行動をとったおかげでボンソルの剣は空を切る。

俺はボンソルがもう一度剣を剣を振り上げる前に突きを放つ。


バン!


俺の突きはボンソルの胸当てに弾かれてしまう。


「く! 面倒な。」


俺がぼやいている間にもボンソルは次の一撃を放つために剣を振り上げる。

俺は先程と同じように事前に回避行動をとり避ける。

ボンソルの動きはボーンより早くなっているが軌道は縦振りと横振りの二パターンしかない。

おまけにこちらが横に小刻みに動いて翻弄しない限り横振りはしてこない。


様は剣を振り上げるまではあまり動かず、剣を振り上げてから回避行動を取れば攻撃を食らうことはないのだ。

ただ問題はリリスの魔力で身体能力を強化されているにもかかわらず、俺の力では防具の上から決定的な一撃を加えることができない点だ。

攻撃は防具に弾かれているとはいえ当たっているのでダメージが全くないわけではない。


俺には見えないがリリスの眼にはおそらく鑑定のスキルにより相手のステータスが覗き見れていることだろう。それにより、体力値に変動が起きているはずだ。

戦いに集中しているので確認を取る暇はないが、リリスが後ろから「そのまま押し続けるのじゃ!」と言っているのでダメージがないということはないようだ。


何度か縦振りの攻撃は誘い反撃を繰り返しているとボンソルが嫌気がさしたのか急に横振りの一撃を放ってくる。

咄嗟のことに俺は回避ができず、棍棒で何とか受け止めるが思った以上に一撃が重く吹き飛ばされてしまう。


「大丈夫か!」


リリスが心配そうに声を上げるがいちいち答えている暇がない。

俺に追撃をかけるためにボンソルが剣を振り上げて走ってきているのだ。

俺はリリスの介入を防ぐために「来るな!」とだけ大声で叫び、棍棒を右手で振り上げてボンソルより先に攻撃を放つ、身長差によるリーチの長さと武器の長さの二点で俺の方が勝っているので俺の一撃が先に入るはずなのだが剣によって弾かれてしまう。


だが、俺はあらかじめそれを予測していた。

だからこそ、右手で棍棒を振るったのだ。

そして、左手で腰の拳銃を握り引き金を引く。

狙いは骨盤、ここは胸当てより下にあるので防御されない。

剣はすでに棍棒を弾くのに使っていてすぐには使えない。

骨盤は近距離とはいえ瞬時には正確に的を射ることができない俺にも狙いやすい。


俺の発射した弾丸は狙い通りとはいかなかったが骨盤を貫く。

レベルが上がり威力が上がっていたのか骨盤には大きな穴があき、そこを中心にヒビが入る。

そのおかげかどうかは良くわからないがボンソルの体は斜めに傾き落下するように倒れだした。


俺は立ち上がりながら後ろに飛び退いて上から覆いかぶされることを防ぐ。

ボンソルにはその意志はなかったのか俺に抱きつこうとはしてこなかったが、俺の先程までいたところに剣を突き立ててきていた。


俺は運よく剣に触れなかったようでダメージはない。

戦闘中は体力値を気にするためにステータスの体力値画面を出すように先程の昼食時にリリスに指摘を受けていた。

横振りの一撃によるダメージのせいで体力値は60%ほどしかない。

棍棒で防御してこれなのでもし剣が当たっていれば俺は死んでいただろう。


俺は距離を取ると立ち上がろうと剣を松葉杖代わりにするボンソルの顔先に銃口を向け引き金を引く。

銃弾はゼロ距離で発射され命中しボンソルはその勢いでまた倒れ伏した。


俺は倒したのかわからないボンソルを見て距離を取ると、リリスの方に視線を向ける。

リリスは真剣な表情で首を横に振るう。

ボンソルがまだ死んでいないという意思表示だ。


俺がボンソルに向けてもう一度引き金を引こうとした瞬間。


「動くな!」


リリスの上げた大声に俺は体を硬直させて動きを止める。

俺の顔の横を何かが通り抜けて背後で破裂する。

リリスがファイアーボールか何かを放ったのだろうとそこでようやく理解した。

以前、リリスが魔法を使うときはえらくゆっくりだったがあの時はどうやら本気ではなかったらしい。


俺は振り返るとそこにはボーンを思わしい骨がバラバラに飛び散っていた。

どうやら背後から襲われかけていたらしい、俺はそのことに冷や冷やしながらため息を一つつく。


「どこを見ておる!前じゃ!」


またもリリスの罵声が飛び俺は急遽きゅうきょ前を向く。

今度は前からボンソルが立ち上がり、前のめりになりながら俺に突っ込んでくる。

その手には当然、剣が握られている。


俺は咄嗟のことにまたも回避行動がとれない。

棍棒でガードしようにも片手では防げるのかわからない。

俺は瞬時に棍棒を離し腰を捻って攻撃をかわしつつ左手に持つ銃の先端を剣に押し当てに行く。

銃口が剣に触れるか触れないかの瀬戸際で俺は引き金を引いた。


午前中の連戦の疲れのせいか、それともこの短時間で連発したせいか、それともただ単に咄嗟のことだったからか発射された魔法弾は弱弱しく剣を弾くほどの威力はなかった。

ただ、その軌道をずらすことには成功したので俺は間一髪のところで剣を避けることに成功した。


俺はそのまま真横に倒れ込んでいくボンソルの頭部に拳銃のグリップ部分を鈍器の様に叩きつける。

この一撃もボンソルの被っている兜に防がれるが倒れ込む勢いも相まってそのまま地面にたたきつける形になった。


俺はまた襲われない様に周囲を警戒しながらもボンソルが襲ってこないかを見つつ距離を取る。

さすがに二度も背後を取られたり襲われることはなく、ボンソルも体力値が尽きて死んだようで胸当てや兜が黒い煙となって消えていった。

残されたのは剣と丸々一体分の骨。


「終わった様じゃの。途中、ボーンに襲われたのはすまんかったの。ワシの不注意じゃ。」


リリスはそう言って頭を下げる。


「いや、いい経験になったよ。 それから、助けてくれてありがとう。」


俺がお礼を言うとリリスは照れ臭そうに笑った。


その後、俺達はボンソルの残した骨一式と剣、それ以前に戦っていた骨を回収して今日はダンジョン攻略を終わらせることにした。

俺の精神力、体力共に限界が来たからだ。


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