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第十一話 リリス=クロニクル

俺達はギルドを出てからダンジョンへ

は、行かずに買い物に向かった。

俺が自分用のマジックバッグを欲したからだ。

リリスとしては自分が持つから問題ないと言ってくれたが、俺としてはそういうわけにもいかない。

この世界の必需品を言ってもいい物を持つことは最重要事項の一つだ。


そんなわけでマジックバックを買いに・・・


「嫌じゃ。」


行きたかったのだが・・・

リリスは断固として拒否。

この世界の金銭を全く持っていない俺はリリスからお金を借りて物を買わなければならない。

なので、リリスの許可を得るのは第一条件だ。

だが、リリスは俺の自立を快く思わない。


邪魔をする気もないし手伝って好感を持って貰おうという魂胆はあるはずなのだが、マジックバック購入はなぜか嫌なようだ。


「なぜだ? 俺にはマジックバックは使えないか、危険でもあるのか?」


俺の質問にリリスは目線を合わせず彷徨わせながら「いや、別にないが・・・」と小声でつぶやく。

俺は腰のホルダーを外して上着を脱いでリリスに差し出す。

リリスはそれを見て服と俺の顔を交互に見て不安げな顔をする。


「これを返せば、俺はお前へから借りているものは何もない。宿代は迷惑料としてもらう。あとは自分で稼いで何とかするよ。」


そう言って俺は強引に服と拳銃付きのホルダーを無理やりに押し付けてる。


「ま、待て! お主一人でダンジョンに入るつもりか?」


「ああ。そうだ。」


不安気に俺を見るリリスに俺は平然と答える。

独り立ちするのが少し早くなった程度の事とでも思っているようにできるだけ平静を装う。

内心では(今一人にされたら確実に死ぬ。)という不安は見せない。

内心はガタガタで足が震えそうだが、それを見せてはリリスをつけあがらせてしまう。


(リリスは俺に惚れている。一人にして危険な目には合わせたくないはずだ。大丈夫、向こうから折れるはず!)


自分を奮い立たせて俺はリリスに背を向けてダンジョンへと一人歩きだす。


「ま、待つんじゃ!」


一歩踏み進んだところでリリスが背後から俺を制止する。

俺は振り返りリリスの方を見ると溜息をついて俺に服と拳銃付きのホルダーを渡す。


「わかった。お主のマジックバッグを買おう。返済が済むまではワシと行動を共にするんじゃぞ。」


リリスの返答に俺は気分を良くしながら服を着て腰にホルダーを装着する。


(マジックバッグはできるだけ高価なものを買って支払いを遅らせて、出来なければ体で・・・ うへへへ・・・)


などとリリスが心の中で思っているとも露知らず、俺はリリスと共にマジックバッグの店へと向かう。

店の外を見ると鞄専門店という感じでいくつもの鞄が並べて吊るしてあったり、机に並べられている。

店の中をぐるりと一周して眺めた後に使いやすそうな肩にかけるショルダーバックタイプにすることにして機能などを見て回る。


「これなんてどうじゃ? 所有者権限機能付きで他人では使用できんし最大積載量も固定でかなり多い。」


リリスは緑色のリュックサックを手に取って進めてくる。


「でへへ、お客様。お目が高いそちらは金貨3枚の値段で販売しておりますが、本来は金貨5枚は下りませぬぞ。リュックサックタイプは口が大きいのでかなり大きなものでも収納できますしね」


どこから現れたのか太った小柄な店員が少し不気味な笑みを浮かべて近づいてくる。

金貨3枚という大金を払ってくれそうな客が来たのでうれしいのだろうが、少し気持ち悪い。


「金貨3枚は高すぎる。そうだな。これがいいかな。」


俺はそう言ってオレンジ色のショルダーバックを手に取る。肩にかけて固定できるので戦闘時も気にしなくていいし、リュックサックほど大きくない。

所有者権限機能で登録した者以外は中身を取り出せない。

ただ、レベルによって最大容量が変化するのであまり大きなものは入れられないが、それもレベルが上がれば問題ない。口の大きさは小さいがそんな大きなものを入れる予定もないし、そういうのが必要になったら口の大きい物を買えばいい。

値段も銀貨7枚とお手頃・・・ いや、この世界の物価を知らないからお手頃とは言い難いかもしれない。だが、金貨3枚よりはかなり安い。


「いやいや、そんなお客さんにはもっとこういうのとか、こういうのがいい気がするなぁ~。」


そう言って店員は金貨でしか買えないような高い物を手に取って進めてくる。


(商魂逞しいな。強引だし店員じゃなくて店長か?)


俺が店員をうっとおしそうな顔で見ているのにもかかわらず、ぐいぐいと物を進めてくる。


「いや、結構・・・」


「まぁまぁ、そうおっしゃらずに! これなんかは大変いい品でして・・・」


俺の制止を聞かずに店員はあれもこれもと物を進めてくる。


「いい加減にせんか。嫌がっておるじゃろうが。」


俺がため息交じりに嫌がっているとリリスが助け舟を出してくれる。


「いや、しかしだねお嬢ちゃん。」


店員はなおも果敢に接客をやめない。

それを見てリリスはイラついたのか、それともこの店員が浮かべている気持ち悪い笑顔が嫌だったのか。

リリスは店員を威嚇した。

俺は店員とリリスのちょうど間にいたのでその威圧にもろに巻き込まれて息をするのを忘れ、ただただ必死に失禁しない様に我慢することしかできなかった。

絶対的強者からの敵意とはまさに蛙が蛇に睨まれるが如く動けなかった。

逃げることも戦うことも忘れてただ殺されるのを待つ。

そんな圧倒的な実力を見せつけられた。

この時、失禁しなかった俺は俺自身をかなり褒めてやりたいと思う。


店員はリリスに土下座して平謝りした後、俺は手にしていたバッグを購入。

リリスとしてももっと高い物を買って俺に支払う金額をあげたかったという理由から値段は値引きしては貰わなかった。


店を後にした俺達はその辺のお店でお弁当を購入しダンジョンへと向かう。

ダンジョンに入る道すがら俺はリリスにこの世界での収入はどれくらいあれば問題ないのか聞いてみる。


「そういうのはピンからキリまであるからのう。そうじゃな、今ワシらが宿泊しておる宿の代金が一日銀貨6枚で晩飯と風呂付で朝食代に昼食代が今ワシらが購入したもので銀貨1枚分ぐらいかの。そこに武器の購入費、メンテナンス費が入ってくるじゃろうから銀貨10枚は一日で稼がんといかんの。」


一日で10万稼ぐってどんだけ仕事すればそうなるんですか・・・


(もしかしてかなり贅沢しているのか? もっと安い宿を探すべきなのか? 銀貨7枚ってかなり高価な鞄を買ってしまったのか?)


俺はこの世界での生活とリリスへの借金を返せるのかと思いながらダンジョンへと重い足取りで向かった。



ダンジョンは北の内壁の門から1km近い距離の場所の切り立った崖のところにある洞窟らしい。

洞窟の入り口は固く鉄の門で閉ざされており、門の前には兵士が4人。

その左右には兵士の駐屯所と思わしい建物が二つ。


ダンジョンの入り口で警備の兵隊に指輪を見せると通行の許可が降りた。

リリスも同様にイヤリングを見せている。


リリスも俺と同じように通行の許可を得ると兵士は手を上げて他の兵士に合図を送る。

すると固く閉ざされた鉄の扉が動き出した。

どこかで開閉のそう探されているのだろう。

俺はリリスから棍棒を受け取り二人で洞窟内に入っていく。

洞窟の広さは幅と高さは2mほどで傾斜の緩い下り坂になっていた。


ダンジョン内に入るとその中は空気が重いというかなんというか。

ただ歩くだけでやけにしんどかった。


「しんどいな。」


俺は50mほどしか歩いていないのに汗が噴き出して疲労感を感じている。

一方リリスはいつも通り涼しい顔をして歩いている。


「魔力が濃いからの。動きが制限されておるのじゃよ。レベルが上がればいずれはなくなる。」


リリスはそう言って俺を励ました。

ダンジョン内は魔力が充満していて奥に行けばいくほど濃いらしい。

そのため奥に進む時はそれを感じ取って進めば自分のレベルにふさわしい場所がわかるそうだ。

動きに制限がかからない場所が自分にとって適度な狩場なのだそうだ。


「俺、めっちゃ制限かかってないか?」


入門者用のダンジョンなはずなのにものすごい制限がかかっている気がするので聞いてみる。


「ああ、本来はLv5で入るんじゃよ。それまでは森で狩りでもしてレベルを上げるんじゃよ。」


「そんなことあのウサ耳のお姉さん言ってたか?」


「いや、ワシが昨日言わなくていいと言ったから言っておらんぞ。」


「いや、なんでそんなことしてんだよ。」


俺のツッコミにリリスは「ワシがおるから大丈夫じゃよ。」と言って笑って返す。

俺はリリスとの旅に一抹の不安を覚えながら先に進む。

俺達は岐路だ立ち止まる。

足跡を見ると皆、右側に進んでいるようなので右に進むのが正解なのかもしれない。


「左じゃな。」


リリスの言葉に俺も頷く、皆が右に進んでいるということは左側は行き止まりが近く奥まで続いていない。低レベルな俺のレベル上げを誰にも見られることなく邪魔も入らない。

俺達は左へと進み、また50mほど歩くと広い空洞に出た。

俺達は空洞の入り口から辺りを見渡す。

空洞の中は幅50m長さ100mほどの長方形の広さに高さも20mはあるかなり広い空間の様だ。


そんな広い空間内には骨のみで動く人型の骸骨が5匹ほど徘徊していた。

人型の骸骨の手には大きな骨の棍棒を持っている。大腿骨だろうか。


「ボーンじゃな。」


リリスが人型の骸骨を見てそう言った。

リリスによると人型の骸骨はボーンという魔物らしい。

アンデット系の最弱種で一定以上の破損で撃破できるそうだ。

俺はリリスから水筒を受け取り一口飲むんで少し休憩する。ここまで来るだけでレベル1の俺には重労働だったのだ。リリスは昨日登録を済ませて以降は職業を仙人に戻しているのでこの程度の行軍で疲れることはない。

おまけに、俺はこれから初の実戦を行うので緊張している。


「じゃ、とりあえず戦ってみるわ。リリスは俺が一対一で戦えるように足止めか、無理なら撃破してくれ。」


俺の言葉にリリスは「うむ。」と力強く頷いて俺を送り出してくれた。

俺は腰から拳銃を取り出して魔力を込める。

俺の魔法の操作は残念ながら拙く、何かに魔力を込める程度以外にはほとんど使えない。

一応、マッチの火程度の炎や空気中の水分を集めたりそよ風を起こす程度のことはできるのだが、戦闘では役に立たない。


ただ、俺の持っている棍棒も拳銃も魔力を込めるだけで勝手に一定の力に変換してくれる。

棍棒は性能の向上、拳銃は込めた魔力を自動圧縮してさらに外部から魔力を吸収して圧縮してくれるので使用される魔力量は込めた魔力の1、2倍。

自動圧縮された魔力は固く発射すると有効射程距離内にある電柱ほどの木に穴を開けることができる。

有効射程距離は10mと短いが、これは俺の実力が低すぎるからで本来はもっと長いらしい。


俺は左手で棍棒を持ち右手で銃を構えて半身の状態で最も近い位置にいるポーンに狙いを定めてトリガーを引く。

魔法の弾丸は急速に圧縮された後に発射される。

弾丸の速度は秒速100mと拳銃としては遅いが現状では十分な速度で獲物に向かっていくのだが、弾丸はポーンの頭から数センチずれたところを飛んでいく。


弾丸の風圧でこちらに気づいたポーンは俺に向かって走り出した。

すぐ近くにいたポーン達の内、2体ほどがそれに続いて駆け出してくる。


「頭部ではなく胸部を狙った方がよかったの外れても当っとったはずじゃ。」


俺のノーコンを見てリリスが冷静に指摘事項を述べる。

俺は(練習が必要だな)と思いながら先程外したボーンに向けてもう一度銃を構えて魔力を込める。

距離はまだ8m。十分とは言い難いが射程距離ギリギリの標的を気づかれる前に打たなければならなかった前回と違い、今度は到達前に撃ってしまえばいい。

相手の足は遅く緩慢なのでそこまで焦る必要もない。


俺は敵を5mまで引き付けてからトリガーを引いた。

弾丸は今度は相手の胸に当たるとその体を貫く。貫かれた衝撃で肋骨の骨が破砕して飛び散る。

だが、ボーンはまだダメージ不足なのか己の体を顧みずに突っ込んでくる。


俺は拳銃を腰にしまい棍棒を両手で持つ。

その間にボーンは俺の目前まで迫っており手に持っていた棍棒を大きく振り上げる。

その動作もゆっくりとしているのだが、如何せんこちらも早くは動けない。

俺はボーンの攻撃を棍棒で受け止める。


ガッ!!


手には今まで感じたことのない思い衝撃が伝わる。

全力で受け止めていなければ弾き飛ばされていたかもしれない。

そう思いながら棍棒を止めた後に何とか押し返そうとしたが相手の力の方が上なのかできない。


(スカスカの骨に力負けするのか。)


俺は右足引いて半身になりながら相手の棍棒を右に流すことにした。

それと同時に左手を前に突き出して棍棒の左端をボーンの頭部に殴りつける。


バキッ!


とボーンの頭部が棍棒に当たり砕け散る。

ボーンはそのままゆっくりと倒れていく。


俺はそのまま次のボーンへと向かい走り出し、同じように攻撃を防ぎ、反撃するを繰り返していく。


リリスはそんなアルトを見ながら魔法を次々と展開していく。

リリスはアルトのレベル上げをスムーズに行うために攻撃魔法を使わず、遅延魔法と拘束系の魔法を使用してアルトとボーンが常に一対一になるように仕組んでいく。

アルトのレベルは低い、入門用のダンジョンと言っても本来は入るまでに森で狩りをするか師の下で修業をしてLv5になるまでは入らない。

最もこれは一人でのことなので優秀な師がいる弟子はLv1のままダンジョンに入ることもある。


リリスがアルトをダンジョンに入れたのは自分がいるからであり、何よりも武器の性能がいいからだ。

アルトの持つ武器はリリスが揃えた超一級品で本来は上級職に就いたものが持つような高価なものだ。

おかげでボーンへの攻撃もアルトのレベルでも問題なく一撃二撃で沈んでいく。

本来のボーンならばもっと激しく体をバラバラにしなければいけないが、この世界には体力値が設定されており、これが0になると体のダメージにかかわらず死に至る。


まるでゲームの様な世界で、法則性が歪だがこれもまた神が作り出した一つの世界の形なのだろうとリリスは考えている。

それにこれは欠点ばかりではない。

体力値と肉体がリンクしているおかげで肉体にかなりの損傷を受けても体力値さえ残っていれば回復魔法で治療することが可能なのだ。

つまり、心臓や脳といった一撃で死に至る急所がこの世界では存在しないともいえる。

無論、受ける場所でダメージは変動するので死なないわけではないが上位になればなるほどレベルが高ければ高いほどに耐久値、体力値は上昇し、急所での一撃死の危険性が下がる。


(まぁ、低レベルなアルトでは高レベルモンスターの攻撃で掠り傷を受けただけでも体力値をゼロにされて死んでしまう可能性があるのじゃがの。)




五体のボーンしかいないと思っていたが広間には思ったより多くの数がいたらしくアルトは現在20戦目に突入している。

その後にもまだ2、3体のボーンがリリスによって足止めされている。

アルトは全身から汗を吹き出し、息を荒げながら棍棒を振るう。


「少し休憩せぬか?」


リリスがあきれ気味に尋ねるが、アルトには全く聞こえていないらしくがむしゃらに棍棒を振るう。

そんなアルトを見てリリスは無理にでも止めようとはしない。

寧ろにこやかに微笑を浮かべてアルトを見守る。


アルトは元の世界、リリスがギフトオアラッキーと名づけた世界で己の才能を限界まで磨き、努力した後に圧倒的才能さ実力差を持つ存在に完敗した。

その戦いは小学校高学年から始まり中学三年まで続いた。

そいつはアルトに比べて才能が多彩な上に大きさでもアルトより遥かに上だった。

文武両方で戦いを挑み全敗。

周りからは身の程を知らぬ馬鹿と言われた。


そして、高校が同じ学校に通えなかった事を機にアルトは勝負をあきらめた。

別に相手が転校して遠くに行ったわけではない。

超有名進学校にそいつが受けるのでアルトも受けてアルトだけが受験に失敗したのだ。


そいつに勝てないだけでなく、同じステージにも立てない。

その事実にアルトはようやく敗北を心に刻み、挫折した。

以降アルトは、努力することをやめ、物事を深く考えず無関心になっていった。


リリスはそんなアルトを哀れに思いこの世界に連れてきた。

いや、懸命に努力を続ける一途なアルトをリリスは好きになり、アルトが努力をやめたことを勝手に悔み、嘆き、憤怒した。

だからこそ、リリスはこの世界にアルトを連れ去ったのだ。


もう一度、踏み出すチャンスを歩みだす勇気を機会を与えるために・・・


故にリリスは歓喜していた。


(もう一度立ち上がる。私の愛した。私が恋い焦がれたあの男が返ってくる)


リリスは胸に熱い想いを抱きながらアルトの後姿を眺め続ける。


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