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♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第三章』距離
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《第七節》記憶にない罪(2)

 午後四時二十分。

 ルリ・サピロスのメンバーは、王の執務室に集まっていた。

「……事情は分かった。とりあえず、ゼロのこれからについては、こちらで検討させてもらう。決まり次第すぐに通達するが、それまでは王宮から出ないようお願いしたい。良いな?」

「はい。かしこまりました」

「それから、ルリ・サピロスの任務についてだが──」


 王は一拍置いて、ゼロたちの顔を順に見渡した。


「…しばらくの間は〝リヴ〟に首領を任せる。君たちは通常通り任務に当たってくれ」

「「「はい」」」


 一同が頭を下げ、執務室を出ようとした、その時。


「ゼロ」


 王の声が、背後から呼び止めた。

 振り返ると、王の視線はゼロ一人に向けられていた。

 リヴたちはそのまま退室したため、執務室には王とゼロ、それから宰相の三人だけが残る。


「ゼロ。少しこちらへ来なさい」

「? はい」


 促されるまま、ゼロは王の前へと歩み寄った。

 王の表情は真剣で、いつもの穏やかな表情ではなくなっている。

 数秒間の沈黙の後、王は何かを決意したようにようやく口を開いた。


「……大丈夫か?」


「えっ?」

 思いがけない質問に、ゼロはわずかに瞳を揺らした。

「お前はいつも笑顔だから分かりにくいが……」


 王の目が、真っ直ぐにゼロを捉える。

 心の奥を見透かすような鋭い視線が、澄んだロイヤルブルーの瞳に突き刺さった。


「私には、少しだけ表情が暗いように見える」


「!」

 陛下の言葉に、ゼロは一瞬その場で静止したが、すぐにいつもの表情に戻って、ゆっくりと口を開いた。


「……考えすぎですよ、陛下。私はいつも通りです」


 その声はとても穏やかで、まるで王を安心させようとしているかのようだった。

 少しの迷いもない、堂々とした姿勢。

 それが本心なのかどうかは分からないが、王は仕方なく頷くしかなかった。


「…そうか。まあ、ゼロが言うなら信じよう」

 王はほんの少し困った顔で苦笑すると、ゼロの頭にポンっと手を置いた。

「だが、これだけは言わせてくれ」

「……?」

 キョトンと首を傾げるゼロに、王は優しく微笑みかける。


「今回の件、私はお前のことを少しも疑っていない」

「…………」

「どこかに必ず真犯人がいるはずだ。だから、お前が一人で罪を背負う必要はない。私やお前の仲間は皆、ゼロの味方だ。それだけは忘れるな」

「……はい。ありがとうございます」


 ゼロは静かに頭を下げた。

 月のように光り輝く金色の髪が、重力に従ってさらりと揺れる。

 その様子はどこか幻想的で、その場にいるはずなのに、王にはなぜか遠く離れているように感じた。


「また何かあったらいつでもここへ来い。いくらでも力になろう」


 その言葉に、ゼロはもう一度だけ丁寧に礼をして、そのまま執務室を後にした。

 扉が閉まると、部屋の中はたちまち静かになる。

 王はしばらく扉を見つめていたが、やがて深いため息をついて、隣に立つ宰相に話しかけた。


「…どう思う?」


 宰相が一歩、王に近づく。

 耳につけた繊細なピアスが、窓から差し込む光によってきらりと光った。

「少し心配ですね。事が事ですから…」

「…そうだな」

 王はわずかに眉を寄せ、苦渋の笑みを浮かべた。


「それとなく気にかけておけ。何かあってからでは遅いからな」

「かしこまりました」


♢♢♢

 

 王の執務室を出てから、僕は先に出ていたリヴたちと合流するべく、再びラピスラズリへと戻ってきていた。

 明かりのついている部屋を目指して長い廊下を進み、部屋の前で扉を数回ノックする。

 部屋の中からは、楽しそうな話し声が聞こえてきた。


「ただいまー…」


 徐に扉を開けると、皆の視線が一斉に僕の方へと集まった。

「おかえり、ゼロ。待ってたわよ」

「お疲れさまー。何話してたの?」

「ただの世間話だよ」

「ふうん? ま、いいや、兄さんも入って入って」


 リヴに促されて部屋の中へ入ると、僕は早速奥にある棚の中から、膨大な量の書類を取り出した。

 ルリ・サピロス結成から約七年間、僕が毎日書き続けていた仕事のメモだ。

 首領の仕事内容や今までの任務の詳細などを、事細かに記してある。


 これを取り出した理由はただ一つ。

 リヴに〝首領の仕事を引き継ぐ〟ため。

 僕の処遇が決まるまではリヴが首領を務めることになったため、基本的な仕事だけでも教えるよう、陛下から命令されたのだ。


 僕はとりあえず書類の一番上にある紙を一枚手に取ると、それを見せながらリヴに簡単な説明を始めた。

 そんなに時間はかからず、三十分ほどで説明を終えると、僕は首領の印であるバッチをリヴに手渡した。


「リヴ、これからは頼んだよ」

「任せて。兄さんみたいにはできないけど、俺なりに精一杯頑張るよ」


 そう力強く宣言したリヴを見て、兄なりに弟の成長を感じながら、僕は書類の山の整理を始めた。

 このまま渡すのは、さすがに申し訳ない。

 たくさんあるため、まとめるのに苦労していると、ふいに隣からサンが話しかけてきた。


「ちょっといいか、ゼロ」

「ん? うん」

「任務について一つ聞きたいことがあるんだが……」

「うん。いいよ、続けて」

「真犯人の捜索は続けてもいいのか?」

「……少し考えさせて」

「ああ、すまない」


 陛下からは〝通常通り任務に当たってくれ〟としか言われていない。

 おそらく続けても問題はないと思うが、僕が欠けた今、みんなにそのような任務を任せても良いのだろうか。

 真犯人は、この僕を洗脳できた人物だ。

 今まで戦ってきた相手とは格が違う。

 下手に動かない方が良いのかもしれないが、このまま真犯人を野放しにしておくというのも、あまり良い判断とは言え……


 ……あ。でもそっか。

 僕は今、ルリ・サピロスではないんだ。


「サンたちに任せるよ」

「「・・・は⁈」」


 僕の発言が予想外だったのか、サンだけでなく、リヴとフィンも拍子抜けした表情になってしまった。

 けれど、こればかりは仕方がない。

 実は僕の処遇が決まるまでの間、僕は陛下から、ルリ・サピロスとの一切の関わりを禁じられている。

 そのため、首領の引き継ぎだけは許されているのだが、任務についてなどは何も言えないのだ。


「はい、これ。何か分からないことがあっても、答えは大体ここに書いてあるから。良かったら使ってね」

「あ…ありがとう……」


 ようやくまとめ終わった書類をリヴに手渡すと、最後に僕は胸につけていた〝ブローチ〟を取り外した。

 赤と青の二つの三日月が向かい合い、その間に金色の直線が入った、ルリ・サピロスの紋章。

 メンバーである証として、四人全員が身につけている。


 僕は外したブローチを机の上に置くと、改めてみんなの方へと向き直った。

 ここを離れる前に、言わなければならないことがある。


「リヴ、サン、フィン。この度は、私のせいで皆に多大なご迷惑をおかけすることになってしまったこと、深くお詫び申し上げます」

「兄さん……」

 リヴが何かを言いかけたが、僕はそのまま言葉を続けた。

「……みんなは僕の自慢の仲間だから、きっと上手くやれると信じてる。僕はいつ戻れるか分からないし、もしかしたら二度と戻れないかもしれないけれど、これからもどうか我が国のために力を尽くしてほしい」


 改めて深く頭を下げると、隣に座っていたサンが大きなため息をついた。

「はあ…そんなに畏まるな、調子が狂う。それに、言われなくてもそうするに決まってるだろう?」

「そうよ。でも、私たちはゼロが必ず戻ってくるって信じてるわ」

「うんうん。俺たち〝四人〟でルリ・サピロスだからね」


 口々にそう言う三人の顔は、とても朗らかだった。

 少し心配していたけれど、この様子なら安心して任せられそうだ。

 みんなならきっと、僕がいなくてもやっていける。

 あとはただ、信じて託せばいい。


「…それじゃあ、僕はもう部屋に戻るよ」

「そうか、またな」

「ゆっくり休みなさいね」

「夕食には遅れないようにね!」

「分かってるよ」


 僕は少しだけ寂しそうな顔をするみんなに背を向けて、そのまま部屋を───


 ───ルリ・サピロスの隊舎〝ラピスラズリ〟を後にした。

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