《第七節》記憶にない罪(1)
王宮へ帰還してから六日目。
僕たちルリ・サピロスは、再びポリュイの大火災の調査へ乗り出していた。
というのも、今回の大火災はやはり〝単独犯ではない〟だろうと、陛下と意見が一致したからだ。
他に犯人がいるのならば、一刻も早く捕まえなければならない。
そうして、陛下からルリ・サピロスへ正式に任務が与えられた。
「なあ、ゼロ。今から何をするんだ?」
「実験だよ」
僕は今、騎士団の演習場を借りてとある実験をしようとしていた。
サンはちょうど別の調査が終わったところだったため、ついでに連れてきたのだ。
「それは任務とは関係があるのか?」
「もちろん。それじゃあ少し見ててくれる?」
「ああ」
サンが頷いたのを見て、僕は掌から瘴気を放出した。
ある程度出し終えると、次に体の半分くらいの大きさの家と、それに合った大きさの人形をいくつか製成していく。
なんとなく〝とある町〟の雰囲気に寄せて。
「ゼロ、それって…」
「そう。これは〝ポリュイの町〟だと思ってね」
「模型ということか」
「うん。そっくりでしょ」
しばらくして小さな町を作り終えると、僕はサンの方へ視線を向けた。
「ここからよく見ておいてね。重要だから」
「? 分かった」
僕は深く息を吸うと、もう一度掌から先程と同じくらいの量の瘴気を放出した。
作った町全体を瘴気で覆い、それらを全て炎へと変換する。
すると、作った町はたちまち火の海となり、その後すぐに焼滅してしまった。
「これは…」
「ポリュイの大火災を、僕の瘴気で再現してみたんだ」
「全く同じだな…?」
「そうだね。つまりどういうことか分かる?」
「ああ。ゼロは〝犯人が瘴気を模倣した〟と考えているんだな」
「さすがだね。その通りだよ」
僕が伝えたかったのは、犯人が〝瘴気を知っている人物〟かもしれないということ。
今回の大火災は、傍から見れば人間の仕業には見えない。
自然災害、あるいは神の仕業とでも言う方が、よっぽど正しいように思う。
一晩で町が焼滅し、町人は誰一人生き残っていない…なんて、そんなこと普通は起こらない。
人々の中には「呪いや悪魔のせいだ」と言い始める者も出てくるだろう。
「でもどうやって模倣したのかは、全然分からないんだよね」
「確かにそうだな…」
〝普通は起こらない〟
それは、僕たちにとっても同じことだ。
複数人で街を燃やすことまでは可能だとしても、町人を全員焼き殺せるかと言われれば、そこまではできないはずだ。
念の為もう一度騎士団に確認してもらったが、やはり町人は全員〝焼死体〟で見つかっていた。
それに、死亡推定時刻も大火災が発生した後だった。
ということは、犯人が先に町人を殺害していた可能性はない。
僕が知らない未知の方法があるのか、それとも……。
「うーん…」
「? どうした?」
「…ねえ、一つ聞いてもいい?」
「ああ、もちろん」
「ポリュイの大火災の時に一緒にいたのって、本当に〝僕〟だった?」
「…はっ⁈ 当たり前だろ?」
「そう。なら…」
「ちょ、ちょっと待て。それはどういう…」
未知の方法を考えるよりも、もっと簡単に思いつくことがある。
〈僕が〝犯人〟だったら……?〉
僕の瘴気なら、街を一瞬で火の海にすることも、町人を全員殺すこともできる。
それは、先程の実験でも明らかだった。
もちろん、僕自身はそんなことをしようとは絶対に思わない。
けれど、もし何らかの方法で僕が洗脳されていたとしたら?
覚えていない記憶があるのだとしたら?
その場合は、自ら大火災を起こしていても、何も不思議ではない。
「待て待て。本当にそうなら、相当まずいんじゃないか…?」
「うん。どうしよう」
僕がいつも通りの笑顔のままそう言うと、サンは大きくため息をついた。
「…とりあえず、今すぐ〝ラピスラズリ〟に戻るぞ。リヴと姐さんにも、このことは共有しておいた方がいい」
「そうだね。行こうか」
僕たちは急ぎ足で、ルリサピロスの隊舎〝ラピスラズリ〟へと向かった。
♢♢♢
「「はああああああああ⁈」」
ラピスラズリへ戻って、リヴとフィンに先ほど思いついたことを伝えると、二人は勢いよく椅子から立ち上がった。
「なっ、えっ⁈ 兄さんが犯人⁈」
「そんなはずはないでしょう! ゼロが洗脳されるなんてありえないじゃない!」
「うん。僕もそう思っていたんだけどね…」
よく考えれば気づくことだった。
人間業と考えにくいのなら、もう瘴気以外ほとんどありえないことに。
僕が犯人だと仮定すれば、ほぼ全ての辻褄が合う。
「だが、本当にお前かどうかはまだ分からないんだろう?」
「…いや、そうも言ってられないかな」
「は?」
「サンとポリュイの町へ出かける前…。ティータイムが終わってから、夜までの記憶があまりないんだよね」
「え、それほんと?」
「もちろん。それに、今回の大火災、町は火の海になるほど燃えていたというのに、周囲の森には少しも燃え移っていなかったでしょう?」
ポリュイの町は、〝ヴェール〟と呼ばれる森の中にある。
そのため、町が燃えようものなら、すぐにでも森林火災が起きるはずなのだ。
あれだけの大火災で、燃えていないというのはおかしい。
大火災の翌日に、リヴともう一度町に訪れた時から不思議に思っていた。
「どうしてそれを早く言わないかなあ。もう手遅れだったりしないよね?」
「……分からない」
「これからどうすればいいのかしらね?」
「うーん…」
今回の事件、僕は実行犯ではあるかもしれないが、実質的には被害者だ。
そもそも殺させたのは黒幕だし、瘴気の性質を勝手に利用したのも黒幕だ。
僕が責任を負う必要はどこにもない。
大体、ポリュイの町が焼失して一番困るのは、この土地を支配している王族だ。
国内の町はそのほとんどが自治を許されているが、所有権は陛下や王族にある。
そのため自治権をもつ町は全て、王宮にいくらか税を支払っているのだ。
町がなくなれば当然、そこからの税が入ってこなくなるため、税を受け取る側の人間である僕が、なりふり構わず町を燃やしたりはしない。
いや、そういう財政的な理由がなくても、大切なこの国と民に仇なすようなことは絶対にしない。
黒幕は、僕のことを何も分かっていないみたいだ。
そんな人間に洗脳されただなんて信じたくもないが、このまま犯人に仕立て上げられるのだけはなんとしてでも避けたい。
どうにかして、僕の罪を晴らす方法はないのだろうか。
「とりあえず、陛下には素直にそのまま報告する。これからどうするかは、陛下に判断してもらおう」
なにかしらの処分を受けてしまうかもしれないが、僕たちだけで勝手に行動するのはやめておいた方がいい。
万が一僕が犯人にされてからでは、それこそ手遅れになってしまう。
「「「了解」」」
それから僕たちは一度解散し、夕方ごろに王の執務室へと向かった。




