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♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第二章』王宮
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《第六節》帰還

 あれから約一週間が経った今日。

 結局その後、犯人の音沙汰がないまま迎えの馬車が到着し、僕たちは王宮へ帰還し始めていた。

 国境の山々に別れを告げて、馬車はゆっくりと走り出す。

 久しぶりに乗り物に乗ったからか、馬車の性能が良くないからか、少しだけ酔ってしまったのはここだけの話。

 王宮から来た馬車だけれど、お忍び用のため、乗り心地はあまりよくないのだ。


 僕たち一行は、行く先々で休憩をしながら、比較的のんびり北上していった。

 最初の一週間はひたすら林道を走り抜け、翌週の六日間で中央平原を通り過ぎ、またその一週間後にはガルシア大橋を渡って、四週間後にようやく、王都の街へ繋がる門をくぐった。

 やはり辺境地から王都までの道のりはとても遠い。

 約一ヶ月間、一日のほとんどを馬車の中で過ごしていたからか、体のあちこちが悲鳴をあげている。


 リヴと「疲れたねー…」なんて言いながら笑い合っていると、カーテンを閉めているため街の様子は見えないが、窓の外から人々の楽しそうな声が聞こえてきた。

 辺境地の街とは違い、王都は人通りが多く賑やかで、街中が活気に満ち溢れている。

 帰ってきたんだ、という実感が湧いてきた。


 その後は一直線に続く大通りを進み、王宮へ続く最北端の門をくぐって、僕たちを乗せた馬車は、そのまま王宮へと入っていった。


♢♢♢


 どこまでも澄み渡った青空。

 光り輝く太陽に負けない、煌びやかな王宮。

 僕たちはついに、王宮へ帰還した。

 久しぶりに見る王宮の景色を堪能していると、馬車の扉がゆっくりと開かれる。

 外には、従者の〝ラグ〟が迎えにきてくれていた。


「ゼロ殿下、リヴ殿下、長旅お疲れ様でした」

「ありがとう。ラグもお迎えご苦労様」


 馬車から降りると、後ろの馬車に乗っていたサンたちが、先に降りて待っていた。

 三人とも、どこか安心したような表情をしている。

 五人が揃ったところで、王宮の敷地へつながる門をくぐると、遠くの方から誰かがこちらへ歩いてくるのが見えた。

 その人物を見て、皆一斉に跪く。

 僕は第一王子として、皆を代表して挨拶をした。


「ただいま戻りました、陛下」

「うむ。よくぞ戻ってきてくれた。貴殿のポリュイの町での活躍は聞いている。本日は皆、王宮でゆっくり休んでいくといい」

「寛大なご配慮を賜り、大変感謝申し上げます。ご厚意に甘えて、そうさせていただきます」


 深々と頭を下げると、陛下はこちらに背を向けて、建物の方へと戻っていった。

 陛下の後に続いて、僕たちも建物へ続く長い通路を歩き出す。

 通路を挟む庭には美しい花々が咲き誇り、色とりどりの蝶が飛び回っていた。

 しばらく一般の旅館で過ごしていたからか、まるで楽園のようで、どこか違う世界にでも迷い込んでしまったような気分になる。


 長い通路を歩き終えて建物へ入ると、何人かが広間で待ち構えていた。

 僕たちを見て、一斉に口を開く。


「皆様お帰りなさいませ。お待ちしておりましたよ」


 そこにいたのは、王宮に仕える使用人たちだった。

 皆、僕たちの帰還を盛大に祝福してくれているようだ。

 少々大袈裟ではと思ったが、そういうところが彼ららしい。


「長旅でお疲れでしょう。今宵は皆様のために、とっておきの夕食をご用意しております」

「十八時頃にお呼びいたしますので、それまではごゆっくりお寛ぎください」


 とっておきの夕食とは、また随分と張り切っているなと思ったが、久しぶりに王宮の料理が食べられるのは嬉しい。

 とは言っても、時刻はまだ十四時二十分。

 夕食まではまだ大分時間があるため、僕たちはひとまず解散し、各々自由に過ごすことになった。


♢♢♢


 「疲れた……」


 来客用の大部屋に案内された後、僕は一人ソファに腰掛けて寛いでいた。

 座った途端に疲れがどっと押し寄せてきて、もう一歩も動けない。

 リヴたちはどこかへ行ってしまったが、一体どこにそんな体力があるのだろう。


「殿下、本日は皆様のために紅茶とスイーツをご用意したんです。よろしければ召し上がりませんか? きっと疲れも和らぎますよ」

「ありがとう。いただくよ」


 ラグはすぐに部屋の中央にある大きなテーブルに食器を並べ、手際よくスイーツを盛りつけていった。

 アップルパイにモンブラン、スイートポテトに葡萄のミルフィーユ……

 秋の味覚をふんだんに使ったスイーツが、次々と並べられていく。

 その量は、とても五人分とは思えない。

 十人以上いたとしても、なんの問題もなさそうだ。


「こ、こんなに食べきれないんだけど……」

「ああ、ご心配なく。余った分は、私どもが美味しくいただきますので」


 なるほど。それならこの量にも納得がいく。

 王宮の使用人はたくさんいるし、あっという間になくなってしまうだろう。


「それなら多めに残しておくね。今日の夕食は豪華そうだから」


 何気ない一言だったはずが、ラグはなぜか嬉しそうに微笑んだ。

「……どのようにご成長なされば、こんなにもお優しくなるのでしょうか」

「何言ってるの。残飯を与える時点で最悪だと思うけど」

「下位貴族でも、そのようなことを気にする方はいらっしゃらないと思いますが?」

「そういう問題じゃなくて…」

「ふふっ、分かっていますよ」


 その後も用意は進んでいき、テーブルの上は恐ろしく豪華になった。

 先に席に座って待っていると、しばらくしてリヴ達がどこかから戻ってきた。

 他の使用人の誰かが呼んできてくれたらしい。


「わあ、すごい! 盛りだくさん!」

「どれも季節のスイーツなのね。楽しみだわ」


 一気に部屋の中が賑やかになり、いわゆる〝アフタヌーンティー〟が始まった。

 本格的なスイーツを食べるのは二ヶ月ぶり。

 辺境地への任務は普段の生活と違いすぎて、肉体的にも精神的にも疲れてしまった。

 視察の際に身分を隠すのはよくあることなのだが、さすがに二ヶ月を超えると、いつもより負担は大きい。

 そのせいか、甘いものが疲れた体によく染みる。

 最初にモンブランを一口食べて、思わず涙が出てしまったのは仕方がないと思う。

 ものすごくリヴに心配されたけど。 

 でもよく見ると、みんな幸せそうな顔をしている。

 疲れていたのは、皆同じだったようだ。


 その後も美味しい紅茶とスイーツで、ゆったり平和な時間を満喫していたら、あっという間に時刻は十七時を回っていた。

 まだゆっくりしていたいところだが、夕食まであと一時間しかないということで、僕たちは準備のために急いで部屋を出た。

 僕たちは皆王宮に住んでいるため、長い廊下を歩いてそれぞれの自室へと向かう。


 久しぶりの自室。

 扉を開けると、使用人たちが欠かさず手入れしてくれていたのだろう、出立した時と変わらない寛ぎの空間が広がっていた。


「殿下、お召し物はこちらでよろしいですか?」

「うん、ありがとう」


 手渡された服を確認し、素早く着替える。

 視察の間は一般市民の服を着ることが多かったからか、少しだけ着替えにくい。

 いつもよりも時間はかかったが、着替え終わるとラグが一通り確認してくれた。


「問題ありません。もう向かわれますか?」

「そうだね、行こうか」


 夕食の時間まではまだ少しあるが、早くても問題はないだろう。

 僕たちは寛ぎの空間を後にして、食堂へと向かった。


♢♢♢


 時刻は十八時。予定通り、僕たちは食堂に案内された。

 テーブルには、見ただけで満腹になってしまいそうな料理の数々。

 僕たちのために一生懸命作ってくれた、料理人たちの努力が垣間見える。


 僕は早速手を合わせ、ナイフとフォークを手に持った。

 目の前には、メインの牛肉の赤ワイン煮込み、そして主食のパンが二つ。

 試しに牛肉から食べてみると、肉の旨みが口の中いっぱいに広がった。

 やっぱり、王宮の料理は美味しい。

 続いてパンや、テーブルの真ん中にある料理なども食べたが、どれも一級品の美味しさだった。

 それに、僕の好みに合わせてくれているのか、あっさりとした味付けのものが多い。

 食材そのものも良いが、味付けが好みだと余計に美味く感じるのだろう。


 料理人たちの気遣いに感謝しながら周りを見ると、ティータイムの時と同じように、皆幸せそうな表情をしていた。

 僕の周りは、顔に出やすい人が多いのかもしれない。

 美味しいものを食べて幸せだと思えるのは、とても素敵なことだと思う。


 皆の素敵な笑顔を眺めながら、ほとんど手を止めることなく食べ進めていたら、なんだかあっという間に完食してしまった。

 いつもの二倍くらい早いのではないだろうか。


「ご馳走様でした」


 しばらくして席を立つと、僕はラグとともにまっすぐ自室へと戻った。

 部屋に入ると、何も考えずにベッドへ直行する。

 疲れが溜まりすぎて、立っているのも精一杯だったのだ。

 僕の身体は幼いから、みんなよりも体力はあるはずなのに、なぜか一番疲れているのはどうしてなのだろう。


「殿下、もうお休みになるのですか?」

「いや……」


 正直、まだやらなければならないことはたくさんある。

 このまま寝てしまうのはあまり良くない。

 けれど、うつ伏せで寝転がってしまうともう起き上がれない。

 というより、一ミリたりとも動けない。


「ごめん…あとは…よろしく……」

「えっ、殿下⁈ まだ何も終わっていませんよ⁉︎」

「…………」

「はあ…、仕方ありませんね。おやすみなさい、殿下」


 僕はその後一度も起き上がることなく、そのまま朝まで眠っていた。


♢♢♢


 王宮へ帰還して二日目の早朝。

 僕は陛下へ任務の報告をするため、ガロと一緒に王の執務室へと向かっていた。 


 陛下は僕の叔父、父上の兄に当たる。

 僕が第一王子なのは、現王妃殿下が病で子を産めず、後継者不在のため、陛下の唯一の血縁者である父上に話が回ってきたからだ。

 本来であれば、陛下の弟である父上が王位を継ぐのだが、父上は母上と共に僕が九歳の頃に亡くなってしまったため、息子の僕たちが王位継承権を与えられることになった。

 父上の息子は僕とリヴしかいないため、必然的に長男である僕は、王位継承の第一順位の王子ということになっている。


「ルリ・サピロス代表、ゼロ・ジョーカー。報告書を提出しに参りました」

「うむ。入れ」

 扉を開けると、部屋の隅に置かれた事務机の奥に陛下が座っていた。


「こちらはルリ・サピロスからの報告書、そしてこちらが援軍を派遣してくださった騎士団からの報告書でございます」

 ポリュイの大火災についてまとめた報告書を渡すと、陛下は書類仕事の手を止めて、すぐに読み始めた。


「ふむ…。なんと…そんなことが……」


 報告書に一通り目を通すと、陛下は深くため息をついた。

「…そうか、ご苦労だった。後のことはこちらでなんとかしよう」

「ありがとうございます」

「最重要指名手配犯の狙いがルリ・サピロス、あるいは王族だという話も聞いている。こちらでも何か対策を考えておこうと思うが、貴殿らはくれぐれも気をつけてくれ」

 陛下はそう言うと、こちらを見て穏やかに微笑んだが、すぐに真剣な顔に戻ってまた話し始めた。


「さて、ガロ殿のこれからについてだが……」


 そう。今日ここへ来たもう一つの理由は、ガロのこれからについて話し合うためだ。

 ガロは元々王宮の諜報部隊の隊長であったが、それ以前にジョーカー家ととある契約をしており、生活の援助だけは今も行っている。

 そのため、ポリュイのガロの自宅がなくなった今、これからどうするのか話し合わなければならない。


「一つ提案がある」

「なんでしょう?」

「ルリ・サピロスの隊舎〝ラピスラズリ〟の一室を借りて暮らしてもらう、というのはどうだろうか」


 なるほど、ラピスラズリか。

 確かにそこならこの王宮内でも比較的安全かつ、快適な場所かもしれない。


「私は良いと思います。ガロはどうですか?」

「ゼロ殿下が良いと仰るのなら問題ありません。それでお願いします」

「そうか。ではそのように手配しておく」

「ありがとうございます」


 こうしてガロは、ジョーカー家に加え、ルリ・サピロスの保護下に置かれることとなった。


「次の任務は三日後とする。疲れただろうから、それまではゆっくり休むといい」

「お心遣いありがとうございます。それでは、失礼いたします」

 僕とガロは陛下に頭を下げ、執務室を後にした。

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