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♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第二章』王宮
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《第五節》フェリシティの街

 ゼロとリヴがポリュイの町で用事を済ませている間、サンとフィンは二人で街へ出かけていた。

 ポリュイではなく、〝フェリシティ〟という街。

 ポリュイの町よりもはるかに栄えている街だ。


「素敵なところね。晴れて良かったわ」


 街の至る所に色とりどりの花が咲き乱れ、心地よい風が吹いている。

 まるで二人を歓迎してくれているかのようだ。

 街の大通りには、いくつもの店が立ち並んでいる。

 レストランに喫茶店、アクセサリーショップに洋服店…。

 たくさんありすぎて迷ってしまう。


「どこか行きたい店はあるか?」

「そうね…最近、お気に入りのネックレスをなくしてしまって…。サンが良ければ、見に行ってもいいかしら?」

「もちろん。…なら、あそこがいいかな」


 二人はすぐ近くにあった宝石店へ向かった。

 店の前の張り紙に、宝石だけではなく、宝石が施されたアクセサリーなども置いてあると書かれていたからだ。

 中へ入ると、店内は思ったよりも広く、様々な種類の宝石が綺麗に並べられていた。

 手前に宝石、奥の方にアクセサリーが売られている。

 どれも素敵な宝石で、思わず見とれてしまう。


 しばらく店内を見て回っていると、フィンは一つのネックレスに目が留まった。

 〝アクアマリン〟が施されたネックレスだ。

 海を連想させる爽やかな青色は、サンの瞳と同じ色で、なぜか一際輝いているように見える。

 じっと見つめていると、隣からサンが覗き込んできた。


「何か気になるものでもあったのか?」

「! …いいえ。あ、このブローチ、ゼロとリヴみたいね」


 ネックレスのことは口には出さず、フィンは近くに置かれていたブローチを手に取った。

 一つは〝ブルーサファイア〟、もう一つは〝パイロープガーネット〟だ。

 澄み切った濃い青色と、炎のような深い紅色が、フィンの言う通り、ゼロとリヴの瞳の色にそっくりだった。


「せっかくだから買っていこうか。多分喜ぶぞ」

「いいわね。そうしましょうか」


 サンはさっとフィンからブローチを受け取ると、すぐに会計のカウンターへと向かっていった。

 あまりに自然に行ってしまったため、フィンは〝私も払う〟とは言えなかった。

 先ほどのネックレスを買おうかとも思ったが、自分がサンの瞳の色の宝石をつけているのは、あまり良くないのでは? という思いに至り、諦めて先に店を出ることにした。


 数分ほど店の外で待っていると、しばらくして紙袋を提げたサンが戻ってきた。

 ブローチ二つ分にしては、少しだけ袋が大きい。

 ちょうど良いサイズがなかったのだろうか。

「次はどこへ行こうか」

「サンの行きたいところでいいわよ」

「なら……」


 宝石店を出てからも、色々な店を回った。

 花屋に果物屋、靴屋に時計屋…。

 食料品から装飾品まで数えきれないほどの店があり、気になる店を何軒か回っていたら、もう太陽が真上に昇っていた。

 さすがに少し疲れたので休憩しようと、二人はその足で街の東にある噴水広場へ向かった。


 噴水の周りを囲む、円形石造りの休憩場所。

 人が少なくとても静かだ。

 噴水の縁に座って一息つくと、心地よい水の音が耳に入ってきた。

 歩き疲れた身体が、自然と癒やされていく。

 涼感に浸っていると、突然サンがフィンの方を向いて言った。


「姐さん、ちょっと手を出してくれるか?」


 フィンが不思議に思いながらも言われた通りに手を出すと、サンは最初に行った宝石店の袋の中から徐に箱を取り出して、彼女の掌にそっと乗せた。

「これは…?」

「今日来てくれたお礼だ。受け取ってくれ」

 フィンが「お礼なんていいのに」と言いながら箱を開けると、中には先ほど見つめていたネックレスが入っていた。

 サンの瞳の色にそっくりの、アクアマリンが施されたネックレスだ。

 驚いてサンの方を見ると、彼は優しい目をして微笑んだ。 


「それ、気になっているみたいだったから」


 どうやらサンには気づかれていたらしい。

 思わぬサプライズに、フィンはほんのり頬を赤らめた。

 もう一度ネックレスへと目を落とし、目尻を下げる。


「ありがとう、サン。とっても嬉しいわ」


 そう言って、フィンは早速ネックレスを着けた。

 夏のように爽やかな青色が、日の光に照らされてより一層光り輝いている。

 サンはすぐに、思ったことをそのまま口にした。


「綺麗だ。よく似合っているよ」

 サンの真っ直ぐな褒め言葉に、フィンは頬を林檎のように赤く染めて、嬉しそうにはにかんだ。

「ふふっ、ありがとう」

 

 それからまた少し休憩した後、もうお昼時ということで、二人は噴水広場を後にして、レストラン街へ直行した。

 この国ならではの料理から外国の料理まで、幅広いジャンルの店がある通りだ。

 迷いに迷ってやっとのことで店に入ると、奥の席によく知る人物が座っていた。


「あれ、ゼロとリヴじゃないか?」

「そうね…?」


 朝からいないと思っていたら、二人もこの街へ来ていたらしい。

 二人とも完璧に変装しているため、見ただけでは誰か分からないが、それでもなお溢れ出る気品が隠しきれていない。

 サンは〝王族だとバレてしまうのでは〟と心配になったが、口には出さなかった。


「おーい! 二人とも、どうしてここにいるんだ?」

「サン? 姐さんまで!」

「あれ、二人もここへ来ていたんだ。僕らはポリュイの町の調査のついでだよ。二人は……もしかして〝デート〟?」


 ゼロの唐突な冷やかしに、サンは顔が真っ赤になってしまった。

 なんとか表情を維持したフィンも、慌ててすぐに訂正する。

「失礼ね、視察よ視察。それ以上でもそれ以下でもないわ」

「ふうん。ま、そういうことにしておいてあげるよ」


 ゼロは目尻を下げて二人を見た。

 サンもフィンも、全く動揺を隠せていない。

 三人の様子を見ていたリヴも、さすがに笑うのを堪えきれていなかった。


「…しっかし、お前たちが二人で街にいるなんて珍しいな」

「確かにそうね。久しぶりなんじゃない?」


 サンとフィンの言う通り、ゼロはそこまでではないのだが、リヴは任務以外でほとんど王宮を出たことがない。

 視察などは年に数回ほど行っているが、個人的に街を訪れることは滅多にないのだ。

 唯一王宮を離れることが多い任務の時でさえ、目的を達成すればすぐに引き上げてしまうため、道中の街に立ち寄ることもほとんどない。

 先週末に街の視察をした時も、変装した騎士団と共に街の様子を観察しただけで、個人的なことは特に何もしていなかった。


「そうだね。二人で街を回るのは何年ぶりだろう?」

「八年…くらいかなあ」

「もうそんなに経ったんだね」

「へえ。どうだ? ゼロと回るのは楽しいか?」

「うん! すっっごく楽しい!」


 リヴはそう言うと、本当に楽しそうに満面の笑みを浮かべた。

 あまりに屈託のない笑顔に、ゼロもつられて笑顔になる。

「…そっか。良かった」


♢♢♢


 サンとフィンも料理を注文し、食べ終わった頃。

「あっ、そうだ。二人に渡したいものがあるんだった」

 突然、サンは先ほど購入したブローチの存在を思い出し、紙袋から二つの箱を取り出して「はい」と二人に手渡した。

 二人は不思議そうに顔を見合わせて、おそるおそる蓋を開ける。


「わあ、素敵なブローチだね」

「こんなに綺麗なもの、僕らがもらっていいの?」

「ああ、もちろんだ。これは俺と姐さん、二人からのプレゼントだぞ」

「「ありがとう!」」


 二人はブローチを大変気に入ったようだ。

 変装しているため同じ色ではないが、二人の瞳が宝石に負けないくらいキラキラと輝いている。


「ふふっ、二人とも、やっぱりそっくりね」

「ああ、そうだな。羨ましいよ」


 フィンとサンがこのブローチを選んだのは、何も施されている宝石が、彼らの瞳の色と同じだからという理由だけではない。

 二つ並べられたブローチから、ゼロとリヴ──仲の良い二人の姿が思い浮かんだからなのである。


「ブルーサファイアと、パイロープガーネットか…二人ともセンスがいいね」


「そうか?」

「うん。昔母上がくれたブローチにも、同じ宝石が施されていたんだ。僕らの瞳と同じ色だからって言っていたよ。多分、サンたちもそれで選んでくれたんでしょう?」

「ああ、まあ…」

「思い出した。そういえば昔、これに似たようなものがあったね」


 ゼロとリヴいわく、そのブローチはもうなくなってしまっているらしいが、とても思い入れのあるものだったらしい。

 話をする二人の顔が、どこか幸せそうに見えた。


「懐かしいことを思い出したよ。本当にありがとうね、二人とも」

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