表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第一章』隠し事
4/6

《第三節》ポリュイの町 後編

 ゼロが町の方へ走って行ってしまった後、サンはひたすら物陰に隠れていた。

 もうかれこれ一時間以上経つが、ゼロが帰ってくる気配は全くない。

 彼はさすがに心配になっていたが、様子を見に行って作戦が失敗した…なんてことは起こってほしくない。

 そう思って、動くことができずにいた。

 とはいえ、これだけ遅いと何もないという可能性の方が低い。

 もしゼロの身に何かあったらと考えると、やはり行った方が良いのかもしれない。

 そんなことを考えながら、サンは初めてゼロと二人で任務をした時のことを、少し思い出していた。



 ────七年前────

 


 はあ…はあ……

 サンは激しい戦闘を繰り広げていた。

 今回の任務は、犯罪組織〝エデン〟を解体し、エデンのメンバー全員を収容所へ送ること。

 そして今まさに、エデンの拠点に来ている。

 サンは正面から堂々と突入し、得意の剣術で敵と戦っている。

 しかし、敵の数は総勢五百四十名。

 いくらサンが剣術に長けていると言っても、さすがにこの数の相手は厳しい。

 百名ほど倒したところで、もう既に息が上がり始めていた。


(ゼロはいったい何をしているんだ…。俺一人では無理だぞ…)


 早く来てくれと願うが、結局サンはその後も一人で戦い続けていた。

 しかし、さらに三十名程倒した頃、突然辺り一面に黒い気体が充満し始めた。

 なぜか器用にサンを避け、拠点の建物の内部だけに広がっていく。

 予想外の出来事に、サンは驚いてその場で固まってしまった。


 それからしばらくして、謎の黒い気体がサッと消えると、そこにはさらに目を疑う光景が広がっていた。

 建物にいたはずの敵が誰一人としていなくなっていたのだ。

 彼らが持っていた武器すらも消えている。

 サンは何が起こったのか全く分からず、相変わらず固まったまま目を大きく見開いていた。


 ─────ドオオオオン……

 

 その時。部屋の奥の壁が大きく壊れ、土煙が舞った。

 煙に気を取られていると、ふいにサンの横から端正な顔が覗きこむ。


「待たせてごめんね。怪我はない?」


 元々固まっていたサンは、まるで石像のようになってしまった。

 全く動かないサンを見てニコニコと微笑んでいるのは、サンを覗き込んだ端正な顔の持ち主。


 そう、ゼロだ。


 しばらくしてようやく再起動したサンは、横に立つゼロに気づき顔を向ける。


「ゼロ…」


 この頃のサンはもうすでに、ゼロに対して恭しい態度ではなくなっていた。

 サンがゼロを呼び捨てで呼ぶようになったのは、二人が七歳の時。

 彼がジョーカー家の養子になって、まだ間もない頃のことだ。


「あの…さっきのは何なんだ?」


 さっき、というのは黒い気体が現れて敵がいなくなったこと。

 サンはなんとなく、ゼロなら知っていると思ったのだ。


「そういえば、サンは見たことがなかったっけ?」


 サンの予想通り、ゼロはやはり知っていたようで、黒い気体が瘴気であること、敵が武器もろともいなくなったのは、そのせいだということを説明してくれた。

 サンは内心〝やっぱり瘴気は怖いな〟なんて思いながら、ゼロの説明を静かに聞いていた。

 ゼロが瘴気を扱えること以外、あまり深くは知らなかったのだ。


 しかし、サンには一つ引っかかることがあった。

 今回の任務の最終目標は、〝エデンのメンバー全員を収容所へ送る〟こと。

 だがゼロの説明では、敵は瘴気によっていなくなってしまった。

 どこか別の場所に転送でもしたのだろうか、それとも…。

 どちらにせよ、このままでは彼らを連れて帰ることはできない。


「あの、敵は…? まだ四百人以上いたよな…?」


 疑問に思ったことを素直に聞くと、ゼロは目尻を下げて下を向いた。

 なぜかものすごく気まずそうにしている。

「えっと、どうかしたか…?」

 サンは慌てて心配するが、ゼロは首を横に振って渋々口を開いた。


「えーと…すごく言いにくいんだけど…」


 サンは不思議そうに首を傾げる。

 その後に続く言葉は、全く想像できなかった。


「全員、殺しちゃった…」


「え…?」

 サンは呆然とし、ゼロはますます下を向いた。

 彼にしては珍しくしょげている。


「いや、あの、えっと、え?」

「瘴気は…僕以外の人間は皆、触れただけで死んでしまうんだ」

「あー…そういえばそうだったな…」

 ゼロの説明に、サンはすぐに納得したようだった。


「それに、瘴気は猛毒の気体だから、亡くなった人は骨すら残らない…。全て僕の責任だから、サンは気にしないで」 

 そう言って、ゼロは地面に座り込んだ。本当に申し訳なく思っているようだ。

 だが、これでは任務失敗。

 どうしたものかとサンは思ったが、どうすることもできないのはもう分かっていた。


「…まあ、仕方ないさ」


 黙り込んで小さくなっているゼロに、サンはそう声をかけた。


♢♢♢


「懐かしいな…」


 サンがポツリと呟いた。

 彼の横を、夜風がサーっと通り過ぎる。 


 ……………。

 …………………。

 ………………………ん?


 サンはいきなり立ち上がり、辺りを見渡した。

 風が吹いたにも関わらず、自分の髪が全く揺れていないことに気づいたのだ。


「間違いない、これは…‼︎」

 サンは全速力でポリュイの町の方へ駆け出した。

 

 ────通り過ぎていたのは〝瘴気〟だった。

 

♢♢♢


「貴様、その名は嘘だな」


 なぜバレた? というよりも、このままではまずい。どうにか修正しないと。

「…お言葉ですが、紛れもない本名でございます」

「必死に取り繕っても無駄だ。そのくらい、顔を見れば分かる」


 どうしよう。


 今から何を言ったとしても、もう信じてくれないだろう。

 頭をどれだけ回転させても打開策が思いつかない。

 やはり僕には、犯罪者と会話なんてできるわけがなかったんだ。

 僕が黙り込んでいると、しばらくして彼が困った顔で言った。


「…残念だ。できれば生かしてやりたかったが、嘘をつかれてはな」


 ああ、これは本当にまずい。

 言われた通り殺さずに済んだけど、代わりに僕が殺される。

 失敗してしまった…。

 トーマスという男は腰に携えていた鞘から、ゆっくりと剣を引き抜いた。

 そして……


 ───────グサッ。


 剣は真っ直ぐに僕の腹部を貫通した。じわじわと衣服が赤く染まっていく。

「さらばだ、少年」

 彼はそう言い捨てて、剣を引き抜いた。


「……どうしてこの町を燃やした?」


 まだ、死ぬわけにはいかない。

 せめて彼から話を聞き出して、犯罪者に対する考えを変えてからだ。


「なぜ貴様に話さなければならない」

「どうせ、僕は死んでしまう……話を聞いたところで、誰かに伝えることも、覚えておくこともできない…から……」 


 話しているうちに、保ち続けていた笑顔も崩れてしまった。

 先程までは大丈夫だったが、刺された痛みで気をつけるどころではなくなってしまったのだ。


「態度の悪い奴は嫌いだ」


 予想通り、トーマスはまたひどく不機嫌になってしまった。

 今から口調を戻しても、話してはくれないだろう。

 なら、もう最終手段に出るしかない。


「……僕の名は、ゼロ・ジョーカーだ」


 これまでの会話で、彼の観察眼が非常に優れていることは分かっていた。

 そして、彼が僕を刺したのは、僕が嘘をついたせいだ。

 だとすれば、本名を言えば少なくとも状況は変わる。

 もっとも、絶対に教えてはいけないのだが。

 案の定、彼はひどく驚いた表情になって僕の目を見た。


「……嘘ではないのか」


 僕の口調に厳しかった彼は、その名が嘘ではないと分かっても態度を変えることはなかったが、ぽつりぽつりと話し始めた。

 


 トーマス・ポリュイは、先代の領主の息子として、この町で生まれ育った。

 彼はポリュイの町が大好きだった。

 そして、大好きな町に住む領民の皆のことが大好きで、何よりも大切だった。


 彼がポリュイの領主になったばかりの頃、町は現在よりもとても貧しかった。

 生活の糧となる野菜や果物が、あまり採れなくなってしまっていたのだ。

 彼はこの状況を打開するために色々と手を尽くしたが、一向に効果は得られなかった。

 そんな中、流行病も蔓延し、町はますます大混乱に陥ってしまう。


 しかし、何とかしないとと焦る彼に、突然〝ある組織〟から声がかかる。

 その組織は、ポリュイへ大量の食糧と優秀な医者を、無償で提供してくれるとのことだった。

 〝これは、天からの恵みだ〟

 そう思った彼は、藁にもすがる思いでその組織に支援を要請した。


 ────それが、運の尽きだった。


 支援を要請してから十日後。

 いつまで経っても支援が送られてこないため、トーマスは怪訝に思い、直接組織を問い詰めた。

 しかし、組織側はなぜかまともに取り合ってくれず、それどころか逆ギレされる始末。

 最終的には町に爆弾を仕掛けるとまで脅してきたため、彼は仕方なく支援のことは諦め、他の解決策を考えることにした。


 だが、そんな彼に組織はさらに追い打ちをかけてくる。

 〝町全体を自分たちの支配下に置く〟と言い出したのだ。

 そのことを聞いた彼は、もうどうすることもできないと感じてしまった。

 裏切った組織に渡ってしまうくらいならば、死んだ方がマシだ。

 そう思った彼は、ポリュイがポリュイでなくなってしまう前に、己の手で町を滅ぼしてしまおうと考えた。


 そうして今夜。


 彼は町の至るところに油を引き、マッチを擦って一気に着火させた。

 町は瞬く間に炎に包まれ、気づけばあっという間に火の海になってしまった。

 彼は燃え盛る町を目の前にして、ようやく自分が犯した罪の重さを実感し、恐ろしくなってとうとう逃げ出してしまった。


 彼は己を恨んだ。領民を助けられなかった己の不甲斐なさ、領民と共に死ねなかった臆病な自分、その全てを恨んだ。

 そして、もう一度この町に戻ってきた。

 町を燃やし、領民を皆殺しにした〝犯罪者〟として。

 まだいるかもしれない、生き残りを殺すために。



 ───これが、彼が話した全て。



「私のせいで町は滅んだ。私は生きている資格がない。本来死ぬべきなのは私だというのに…」

 話終わった彼は、目に大粒の涙を浮かべていた。

 僕には彼ほどの観察眼はないが、彼の話が嘘でないことは、言うまでもない。

 彼の姿はもう、犯罪者ではなかった。

 そこにいたのは、一人の〝人間〟だった。


「助けたかった…本当は、生きててほしかったんだ……」

 彼の目からポタポタと地面に涙がこぼれ落ちる。 

「……少しだけ、貴方のことが理解できた気がします」

 少なくとも、いつものように殺してしまうなんてことはない。

 自分でも驚くほど落ち着いていた。


「けれど…それなら何も燃やす必要はなかったのでは……? もし組織の手に渡ってしまったとしても…生きてさえいれば、必ず立ち直れる日は来ます。領民たちは貴方と同じように…この町を大切に思っていたはずですから……」


 初めて、犯罪者の前で微笑んだ。

 〝会話をすれば、何かが変わる〟。

 ガロのアドバイスは正しかったようだ。

 トーマスは僕の顔を見て、静かに頷く。


「そうだな…」


 ふいにどこからか人の声がして振り向くと、未だ燃え盛る炎の奥から、援軍と思わしき王都の騎士団の姿が見えた。

 おそらくサンが呼んでくれたのだろう。

 これから彼は、王都の収容所へ運ばれるのだ。


「それでは…貴方を拘束する前に……」


 必ず行わなければならないことがある。

 〝記憶の改竄〟だ。

 先程教えてしまったゼロ・ジョーカーの名前を、適当に考えたレイ・ロペスへと変換する。


「…失礼。私が良いと言うまで…しばらく目を閉じていただけますか……?」

「え? あ、ああ…」

 トーマスは不思議そうにしながらも、快く目を閉じてくれた。

 僕は軽く息を吐いて、彼の頭へ手をかざす。


Alterationアルタレイション


 ガロの火傷を治した時と同じように、彼の頭の周りを無毒化した瘴気が覆い尽くし、そのまま脳内へと入っていく。

 しばらくして全ての瘴気が入ると、彼は意識を失ってその場で倒れてしまった。


 とりあえず、成功したようだ。


 倒れた彼を、隠し持っていたロープで縛る。

 数分ほどで騎士団が到着し、そのうちの何人かが、縛られた彼を町の外へと運んで行った。

 彼らはこれから、すぐに王都の収容所へ向かう。

 残りの部隊はというと、懸命に町全体の消火活動にあたっていた。

 …それと、遺体の回収も。


 ひとまずこれで、僕の任務は全て終了。

 あとは王宮に帰って、陛下に報告をするだけだ。


「おーい! ゼロー‼︎」

 サンが向こうから全速力で走ってくる。

「ゼロ、よくやったな」

 隠れていたガロも、どこからともなく現れた。

 僕がきちんと任務を遂行したことに、安堵の表情を浮かべている。


 しかし、僕の腹の刺傷を見たガロは、すぐにひどく驚いた表情に変わる。

「おいおい、重症じゃねえか」

 会話に気を取られて忘れかけていたが、そう言えば死にかけていた。

 思い出した途端、激痛が襲いかかる。


「………ゴフッ‼︎」


 今まで普通に話せていたのが信じられないくらい、一気に口から血が溢れた。

 胃か何かの内臓をやられていたようだ。


「おい、おいゼロ! しっかりしろ‼︎」

 ガロが切迫した表情で叫ぶが、なんだかもうそれどころではない。

「どうした⁈ 何があった⁈」

 駆けつけたサンも、僕の様子を見て慌てている。


 一国の王子がこんなところで死ぬなんて情けないが、任務は達成できた。

 国民を一人でも生かせられたのなら本望だ。思い残すことはない。

 ……なんて思っていたら、サンとガロが二人してじっとこちらを見つめてきた。


「……っ何」

「ゼロ、いい加減にしてくれ」

「ああそうだ。こっちは知ってるんだからな」

「…………」


 そうなんだよね。

 僕は物理攻撃なんかでは死ねない。

 だって、瘴気が刺された箇所を複製してしまうから。


「あーあ…今度こそ死ねると思っ…たのに……」

 僕がそう言うと、二人とも困った表情になった。

「そんなこと言うなよ。それ聞いたら、リヴやフィンが悲しむぞ? もちろん俺たちも」 

「だって……」


 僕の身体には、瘴気がある。

 そして、瘴気は僕の身体を蝕む代わりに、なぜか必ず複製してくれる。

 食べ物を口に入れてから、吐き出しているような感じだ。


 つまり、僕は不死身なのだ。

 神話に登場する精霊〝エルフ〟とは違い、病気や他殺などで死ぬことはない。

 手足が引き裂かれても、頭が潰れても、猛毒に冒されても、絶対に死ぬことはない。


 必ず複製される。 


 僕は、そんな自分の身体が大嫌いだ。

 リヴやサン、フィンにガロ───大切な人たちと、同じ時間を生きられないから。


 普通の人間であれば、何もせずともいつかは必ず死が訪れ、死のうと思えば心臓を刺すだけで簡単に死ねる。

 けれど、僕の場合はたとえ人類が滅亡したとしても生き続けられる。

 何百、何千、何億人もの様々な人の死を見届け、それでもなお生き続けなければならない。

 そして、追いかけたくても死ぬことはできない。

 それはきっと、僕には耐えられない。


 だから僕は、日々自分が死ねる方法を模索している。

 皆と同じ時間を、共に生きられるように。


「ゼロ、とりあえず治したらどうだ。勝手に治るとはいえ、痛いのは嫌だろう?」


 確かにそうだ。大分深く刺されたからか、瘴気による自然治癒は遅い。

 正直、痛すぎて本当に死にそうだ。それはないんだけど。

 

「Reproduction」


 そう唱えると、みるみるうちに傷口が塞がっていく。

 それとともに、死にそうなくらいの痛みも綺麗さっぱり無くなってしまった。


 改めて、瘴気のもつ性質の異常さを実感する。

 刺傷があっという間に治るなんて、普通はありえない。


 やっぱり瘴気は大嫌いだ。

 〝死〟というものは、本来克服するべきものではない。

 いつか死んでしまうからこそ、人は〝今〟を一生懸命生きられる。


 こんな瘴気、なくなってしまえばいいのに。


 ……そんな思いを隠すように、僕は勢いよく立ち上がった。

「よし。それじゃあ、旅館に戻ろうか」

「そうだな」

 僕は「そういえば…」とガロの方を見る。


「ガロも来るよね?」

「ああ、すまねえな。屋台も家も、燃やされちまったからな」


 僕たちは未だ消火活動を続ける騎士団をおいて、旅館の方へと歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ