表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第一章』隠し事
3/6

《第三節》ポリュイの町 前編

 午後十一時。僕はサンと二人でポリュイの町に向かっていた。

 リヴとフィンは、旅館で待機している。


「やっぱり夜は薄気味悪いな」

「そうだね…」


 夕方のサンの行動。

 あれは、何かを隠している時のものだった。

 サンは基本的に一方を支持することはない。常に中立の立場をとる。

 対して先程のサンは僕を庇った。

 もしかしたら、サンはもう僕の目的に気づいているのかもしれない。

 サンには、相手の目を見ればその人が何を考えているか、大体分かってしまう才能がある。

 だからおそらく今回も…


「ゼロ! あれ…」


 突然、サンが前を指差した。


「……‼︎」


 見るとその先には、一面炎に包まれたポリュイの町があった。

 遠くの方から、誰かの叫び声も聞こえてくる。


 あまりに予想外な状況に、驚いて呆然と立ち尽くしていると、

「…どうやら先を越されてしまったみたいだな、ゼロ?」

 とサンが言った。


 こちらを見て、試すような表情をしている。

 サンがこの表情をするのは、全て分かっている時。

 ということは、彼はもう僕の目的を完全に見抜いている。


「やっぱり気づいてたんだ」

「当たり前だろ。で、どうするんだ?」

 作戦が失敗したからには、もうあれしか手立てはない。


「強行突破しよう」


「そう言うと思った。作戦は?」

「僕が犯人を誘き寄せる。サンはここで向かえ撃ってほしい」

「了解。気をつけろよ」


 犯人の居所に目星はついている。

 おそらくは…


「それじゃあ、行ってくる」


 心配そうに見送るサンに背中を向け、急いでポリュイの町へ走り出す。

 向かうのは、町の中心部にある邸宅。

 犯人はきっと、そこにいるはずだ。


♢♢♢


 町に到着すると、燃え盛る家屋の間をそのまま走り抜ける。

 昼前に見た景色は、全て赤く染まっていた。

 その中にはガロの屋台もあったが、幸い彼はいないようだった。


 しばらく走り続けると、目的の邸宅が見えてきた。他の建物と変わらず燃え続けている。

 裏庭へ侵入して様子を見るも、犯人と思しき人物は見当たらない。

 別の箇所も探してみようと歩き始めると、


 ───ガラガラガラ……ガシャーン‼︎


 突然、目の前に大きな屋根瓦が落下してきた。

 驚いて上を見ると、燃えたせいで屋根瓦が脆くなっているようだった。

 落ちてきた屋根瓦は、まだ燃え続けている。

 このままでは付近の雑草から炎が広がってしまうかもしれない。

 もっと状況が悪くなるのは良くないし、ここはあれを使うべきだろうか。

 僕は屋根瓦に手をかざすと、深く息を吸い込んだ。


Neptuneネプチューン


 そう唱えると、掌から黒い気体が溢れ出る。

 放出された気体は空中で液状化し、だんだん水のようになっていく。

 しばらくして完全に水になった黒い気体は、屋根瓦に降り注ぎ、一瞬で火を消してしまった。


 黒い気体は〝瘴気〟。


 ある出来事から、僕の身体には大量の瘴気が…

 いや、僕の身体はほぼ瘴気でできている。九歳の時に、入れられたのだ。

 本来瘴気は体内に入った時点で即死してしまう気体なのだが、千年に一度、一人だけ耐性をもつ者が現れる。───それが〝僕〟だった。


 瘴気は猛毒の気体だが、さまざまな特殊性質をもつ。

 例えば〝複製〟という性質。あらゆるものを模倣して作り出す性質だ。

 僕は耐性はあるが、実は身体は瘴気によって日々蝕まれ続けている。

 しかし、この複製という性質によって、蝕まれた箇所が自動的に複製されるため、今もこうして生き長らえているのだ。

 その代わり、常に同じ身体が複製されるせいで、成長することができない。

 そのため、世間には〝成長しない病〟だと公表している。

 初めのうちは、瘴気の制御すらままならなかったのだが、昔行っていた訓練のおかげで、今はその性質も自在に扱うことができるようになった。

 先程の消火も、瘴気をコントロールし、水を複製して行ったものだ。


 軽くため息をつきながら火の消えた屋根瓦を見つめていると、ふいに背後から誰かの気配を感じた。

「はあ…僕、言われた通りにちゃんと伝えたはずなんだけどな」

 そう言い放つと、ガサガサという音と共に、生垣から一人の男性が現れた。

「悪かったな。まさか火事になるとは思わなくてよ」

 汚れてはいるが、なんとなくキラキラした服装。僕のよく知る人物。


「ガロ、その怪我…」


「ようゼロ。なあ、悪いが少し手伝ってくれ。逃げるときにヘマしちまってな…」

 ガロはそう言って笑ったが、右足全体に大きな火傷を負っていた。

 所々皮膚がただれてしまっている。

 僕が傷口を見つめていると、ガロは何かを思いついたのか、僕の顔を覗き込んできた。


「…治せるか?」


 いや、僕は医者じゃないんだけど。

 残念ながら、僕には火傷を治せるような知識も道具もない。

 正直、治せるものならすぐにでも治してあげたいのだが…。


「それ冗談? 僕には簡単な応急処置くらいしかできないよ」

「馬鹿言え。そんな人間業で治せって意味じゃねえよ」


 ああ、なるほど。瘴気を使って、ということか。

 それなら確かに容易に治せる。

 人前では使うなと止められているのだが。

 とはいえ、ガロをこのまま放っておくわけにはいかない。

 幸い、ここに生存者がいない事は確認済みだ。治す方法があるなら使うべきだろう。


「…分かった、治すよ。そこに座って」

「すまないな…助かる」


 火傷の具合はかなり酷い。

 これからすぐに手当したとしても、傷痕が残ってしまうかもしれない。

 ……いや、それは人間業の場合。

 僕は先程と同じように深く息を吸うと、今度は火傷の箇所へ両手をかざした。

 体内の瘴気が、心臓から手の方へ集中していく。

 今にも溢れ出すような感覚。


「Reproductionリプロダクション


 先程とは少し違い、掌から無毒化した瘴気が放出され、ガロの右足を包み込む。

 じわじわと傷口に浸透していき、みるみるうちに皮膚が再生されていく。

 気づけば火傷の傷は、跡形もなく消えていた。


「すげえ…治ってる」


 ガロはそう言って立ち上がった。

 治るのは分かっていたけれど、綺麗に再生できたみたいだ。


「サンキューな、ゼロ。本当に助かった。お前がいなかったら、今頃どうなっていたか…」


 そう言って、彼は安堵の表情を浮かべた。

 大した事はしていないけれど、こうして力になれたのは嬉しい。

 事後報告でサンに怒られそうだけど…


「そういやゼロ、ここへ何しにきた? 今夜来るってのは言ってたが、さすがに火災までは考慮してなかっただろ」

「そう、想定外だよ。仕方がないから強行突破しようと思ってね。僕が犯人を誘き寄せて、サンが迎え撃つ作戦に変更したんだ」


 犯人はここにいると思ったが、ハズレだったようだ。


「サン……。ふうん、やっぱりあいつにはバレてたんだな?」

「全くだよ、お手上げだ」


 懐中時計を開くと、時刻は午前一時を回ろうとしていた。

 もしかしたら犯人は、もうこの町にいないかもしれない。

 そうだとしたら大変厄介だ。せめて手がかりだけでも見つけないと。


「ガロ。この火災は、おそらく人の手によるものだ」


 手段としてとりあえず、ガロには分かっているだけの情報を伝えることにした。

 ガロは、元王宮の諜報部隊の隊長。僕よりもはるかにこの国の情報には詳しい。

 犯人探しに協力してくれれば、これほど頼れる人物はいないというわけだ。


「…犯人は、おそらく噂の最重要指名手配犯だと思う」


 僕は前々から、あの噂について色々と調べていた。

 そしてついに先日、次の事件がまたポリュイの町で起こることまでは突き止めることができたのだが、結局それがいつ、どこで起こるのかは分からなかった。

 そのため僕は、最重要指名手配犯を捕まえるため、今日から毎晩張り込み捜査を行おうと考えていたのだ。

 予想外の事態でその計画は崩れてしまったが、元々はそういう目的でここへ来ようとしていた。


 そのことをガロに話すと、彼はなぜかキョトンと首を傾げた。

「待て。どうしてお前が犯人を捕まえるんだ?」

「陛下の御命令だよ。僕は〝ルリ・サピロス〟の首領だからね。忘れたの?」


 ルリ・サピロス。

 主に国王陛下からの命で、騎士団や衛兵隊では手に負えない事件の捜査、違法組織の取締り、極悪人の制裁などを行う組織。

 裏社会で行動しやすくするために、普段は〝マフィア〟を名乗っている。


 メンバーは僕を含め、たったの四名。ちなみにリヴとサン、そしてフィンがそうだ。

 必要であれば王家の騎士団から、何人か援軍を用意してもらうことはあるが、基本的にはメンバーのみで任務に当たっている。

 組織内で特に役割は決まっていないのだが、リヴに関しては主に現場へは行かず、首領である僕の補佐をしてくれている。

 一国の王子が二人とも出歩くわけには行かないからだ。


 僕がこの組織の首領なのは、瘴気の力があるから。

 瘴気の力は非常に有用だが、その正体はあくまで猛毒の気体だ。

 少量でも触れれば即死してしまう。

 もし何の性質にも変えないまま空気中に蔓延すれば、この国だけでなく、世界中の全ての生物が絶滅するだろうと言われている。

 そんなに恐ろしい力を、僕は自由自在に扱えてしまうのだ。

 僕の裁量で国家の存亡…というより命が決まってしまうわけだから、〝その力はどうか国を守るために使ってくれ〟というのが陛下からのお言葉だ。

 ちなみに僕の瘴気のことは一部の人間にしか知らされておらず、いずれも厳しい箝口令が敷かれている。


「別に忘れたわけじゃねえよ。だが〝捕まえる〟んだって思って」


 何かおかしなことを言っただろうか。

 僕が不思議そうに首を傾げていると、呆れたようにガロが言う。


「はあ。だってお前、犯人生かして連れて帰ったことないだろ」


「…………」

 捕まえた犯罪者は、王都の収容所へ送り届けなければならない。

 彼らには本来、そこで刑罰が科されるのだ。

 ……しかし、僕は彼らを生きたまま収容所へ届けたことがない。

 ガロが言っているのは、この事だ。


「何だよ、気づいてなかったのか。ついにお前にも慈悲の心が生まれたのかと期待したんだがな」

「何その言い方! 僕にだって慈悲の心くらいあるんだけど⁈」

「へえ、なら犯罪者にもか?」

「ぐっ……」


 犯罪者はなぜか生かせられない。

 もちろん、彼らには犯行に及んだ理由があるのだろう。

 家族のため、自分のため、生活のため、生きるため…中には娯楽の一つだったり、特に理由はないという者もいるかもしれない。

 正義も悪になりうるし、悪が必ずしも悪でないというのは知っている。

 正義も悪も、本当は存在しないのかもしれないということも。

 でもこれは、おそらく理屈ではないのだろう。

 頭ではそう理解していても、体が勝手に動いてしまう。

 気づいたら殺していた、なんてことが頻繁にある。


「……僕でも捕まえられるかな?」


 ガロに指摘されてから、だんだん不安になってきていた。

 今回もまた、無意識に殺してしまう可能性は十分にある。

 というか、その可能性の方が高いかもしれない。

 らしくなく俯いていると、ガロが僕の頭をポンと叩いた。


「それは分からねえが、一つコツを教えといてやるよ」

「コツ?」

「奴らと、少しでいいから〝会話〟をしてみるんだ。そうすりゃ、きっと何かが変わるぜ」


 何だかよく分からないが、とりあえず会話をするだけでいいらしい。

 それくらいなら僕にもできるかもしれない。


 ───コツ…コツ…コツ…


 (‼︎)

 近くから誰かの足音が聞こえた。


「早速お出ましだな」


 ガロの言う通り、こんなところに来るなんて、犯人しかいない。

 僕はすぐに戦闘体制に入った。

 ガロはというと、いつのまにかどこかへ隠れてしまっている。


「…なんだ、子どもじゃないか。まさか生き残りがいたとはなあ」


 現れたのは、身なりの良いぽっちゃりとした中年の男性。

 発言からして、こいつが犯人で間違いない。


「誰だ」

「貴様、言葉遣いがなっていないな。それが大人に対する態度か」

「………、………失礼いたしました」


 思わず反発しそうになる気持ちをなんとか堪えて、僕はその場で跪いた。

 ガロは会話をしてみろと言っていたが、本当にできるのだろうか。


「そうだ。それでいい。お前、さては貴族だな?」

「…ええ。決して高貴な身分ではございませんが」


 王族だということはもちろん秘密だ。

 だが、貴族だと見抜かれたのは衝撃だった。

 お忍びのため、一般市民と同じ服装をしているし、まだあまり話していないから話し方は分からないはずだ。

 実際、彼は意外なところから見抜いていた。


「所作が綺麗だからな。すぐに分かった」


 そういうことだったのか。さすがに所作までは気にしていなかった。


「お褒めいただき光栄です。貴殿は素晴らしい観察眼をお持ちなのですね」

「当たり前だ。お前のような子どもとは格が違う」


 なんだか毎回余分な一言がある気がする。気にしないようにするので精一杯だ。


「そのようですね。失礼、先に名乗るのを失念しておりました。私…」


 ゼロ・ジョーカー…は良くないな。何か適当な名前を考えないと。


「レイ・ロペスと申します」


 我ながら上手く考えれたと思う。忘れなければ問題はないはずだ。


「うむ。私の名はトーマス・ポリュイ。この町の領主だ」


 もちろん、知っている。

 何らかの式典で、何度か会ったことがあるからだ。

 しかし、領主ということは、彼は自分の領地を燃やしたことになる。

 いったい何が目的なのだろう。

 ここを燃やせば、自分も住めなくなるというのに。

 そんなことを思っていると、彼の口から衝撃的なことが告げられた。


「貴様、その名は〝嘘〟だな?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ