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♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第一章』隠し事
2/6

《第二節》憩いの時間

「疲れた…」

 ポリュイの町は予想以上に遠かった。

 戻ってしばらく経つが、まだ足がじんじんしている。

 ふと窓の外を見ると、遠くに浮かぶ夕日がオレンジ色に輝いていた。


 僕たちは現在、王宮から離れた辺境地へ視察に来ている。

 国境の高い山々に囲まれた、緑豊かな土地。

 自然が織りなす雄大な景色が特徴で、その洗練された美しさから、別名〝光の地〟とも呼ばれている。

 この地には複数の町があり、その一つが先程までいた〝ポリュイ〟。

 最も貧しいとされる町で、今いる旅館からは六キロメートル近く離れている。

 行き帰りの往復だけでも、かなり疲弊してしまった。


 今回はお忍びでの視察ということで、上流階級用のホテル(王族や貴族が泊まる)ではなく、麓にある一般の旅館(一般市民が泊まる)に滞在している。

 いつも豪勢な建物ばかり見ている僕にとっては、何もかもが新鮮だ。

 国民と同じ立場で過ごすのは、後学のためにも良い経験になると思う。


 『コンコンコン…』


 突然、誰かが扉を叩く音がした。こんな時間に誰かが来るのは珍しい。

 誰だろうかと思っていると、「兄さん、入ってもいい?」という声が聞こえた。


「あれ、リヴだったんだ。どうぞ?」

 扉を開けると、バスケットを持ったリヴがそこに立っていた。

「休憩しているところごめんね。ちょっと提案があって…」


 そう言うと、リヴは持っていたバスケットから、紅茶の茶葉とクッキーの入った袋を取り出した。

「さっき王宮から差し入れが届いたんだ。〝視察は進んでいるか? たまには息抜きもするんだぞ〟だってさ。折角だからサンと姐さん(=フィン)も誘って、これからティータイムにしない?」

 王宮からということは、おそらく陛下が用意してくださったのだろう。

 本当に、陛下は聡明な御方だ。

 見えないところまで、抜かりなく配慮が行き届いている。

 疲れていたから、とてもありがたい。


「いいね。早速誘いに行こうか」

「うん!」 

 そうして僕たちは、サンとフィンのもとへ向かうことになった。


「二人はこの旅館の一階でお土産を見ているらしいよ」

 どうやら一階にはお店があるようだ。

 この地方にちなんだものがたくさん販売されているらしい。

 差し入れのお礼に、何か買って帰るのもいいかもしれない。


「兄さん、ここだよ」 


 リヴが指差した先には、色とりどりの商品が並べられていた。

 聞いていた通り、よく見るとこの辺りでとれる食材や、有名な料理にちなんだ商品がたくさん販売されている。


 しばらく店内を回っていると、ベレー帽くらいの大きさの袋に入った〝チーズチップス〟というお菓子を見つけた。

 いくらだろうかと値札を見ると、銅貨二枚…。

 一瞬、目を疑ってしまった。

 こんなに大きな袋なのにお手頃な価格だ。貴族でなくとも手軽に購入できる。


「あれ、ゼロじゃないか。その商品が気になるのか?」

「サン! いや、値段に驚いて…」


 そういえば、サンとフィンはこの店にいるんだった。

 商品に夢中ですっかり忘れていた。


「確かにお前、旅館にも驚いてたくらいだ。こういう店にも来たことないんだろう」

「サンこそ、来たことあるの?」

「そりゃあゼロ。王族でもない限り、貴族でもお忍びで来たりするからな。お前は知らないだろうが、貴族も意外と庶民なんだぜ?」


 なるほど、そういうものなのか。

 やはり初めて知ることが多くて本当に新鮮だ。

 こんなに何も知らなかったのかと気付かされる。


「…まあとはいえ、お前は王族にしては来てる方だがな」

「そうかな? でもこういうお店に来るのは初めてだよ」


 そんな調子で、その後もサンと店内を見て回っていると、何か購入したらしいフィンがやって来た。

 両手いっぱいに大きな袋を持っている。


「あらゼロ、来てたのね」

「何か買ったの?」

「ほとんど家族へのお土産よ。それと、さっきリヴがティータイムに誘ってくれたから、紅茶に合うお菓子を選んできたの」

「あっ…」

「? そういえば、サンも誘われてたわよ」

「本当か? なら俺も何か買わないとな…。少し見てくる」


 サンはそう言うと、すぐに店の奥へと戻っていった。

 しまった…。夢中になってすっかりティータイムのことを忘れていた。

 そういえばリヴはどこへ行ってしまったのだろう。

 気になって辺りを見回していると、急に誰かの手が僕の視界を遮ってきた。  


「にーいーさーん」

「うわあっ‼︎」


 手の正体はリヴだった。

 彼はいつのまにか背後に立っていたらしい。

 振り向くと、驚き方が面白かったのか、僕の顔を見てくすくす笑っている。


「びっくりした…。驚かさないでよね、リヴ」

「あははっ、ごめん兄さん。全然気づいてなさそうだったから、つい」

「つい、じゃないよ!」


 ごめんごめんと言いながら、リヴはお腹を抱えて笑っている。

 そんなにおかしかっただろうか。


「はー…笑いすぎた。ねえ兄さん、俺たちも何か買っていかない?」

「いいけど、たくさんあって選べないんだよね」

「うーん、それなら…」


♢♢♢


 僕の部屋では、早速ティータイムが開かれていた。

 机の上には、紅茶が注がれたティーカップとクッキー。

 フィンからはマカロン。サンからはマドレーヌ。

 そして僕とリヴからはフロランタン…と盛り沢山のスイーツが並んでいる。 


「このマドレーヌ美味しいわね」

「クッキーは手作りか?」

「多分ラグが作ってくれたんだと思う」

「この紅茶、マカロンにすごく合うね」


 皆口々に感想を言い合う。

 どれも美味しくて、幸せな気分になる。

 先程までの疲れが嘘のように吹っ飛んでしまった。

 差し入れを送ってくれた陛下と、ティータイムを提案してくれたリヴ、それからスイーツを持ち寄ってくれたサンとフィン。

 みんなには、感謝しかない。

 そうしてしばらく堪能していると、フィンが唐突に質問を投げかけてきた。


「そういえば、今夜は何をするつもりなの?」


 昼間にあれだけ食い下がったのだから、気になってしまうのは仕方がない。

 伝えたほうがいいのだろうか。

 答えに迷って押し黙っていると、サンが僕の肩にポンと手を置いて話し始めた。


「まあまあ姐さん、気になるのは分かるが、ゼロだって隠し事の一つや二つはあるんだ」


 どうやら庇ってくれるようだ。

 サンがこちらを見てウインクをする。

 〝任せろ〟と言う声が聞こえたような気がした。


「でも夜に出歩くなんて、サンだって心配でしょう。それに、あの町に行くわけだし…」

「同行は許可してくれたんだ。目的はいずれ分かる。それに、何かあったとしても、ゼロには傷一つ付けさせやしないさ」


 そう話すサンの表情は真剣だった。

 さすがのフィンも、抵抗するのを諦めたようだ。


「そう、なら頼んだわよ」


 サンのおかげで、以降この話題が出てくることはなく、その後はすぐに話が切り替わった。

 たわいもない会話が続いていく。

 ふと窓の外を見ると、空が少しずつ暗くなってきていた。

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