表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第四章』迫り来る影
15/17

《第十一節》化けの皮(2)

「兄に会いたいって…どういうことですか?」


 オスカルの発言に、リヴは敵意を剥き出しにした。

 腰に下げていたポーチから、小型ナイフを取り出して構える。


(俺に何かするならまだしも…兄さんに手出しするのは許せない)


 リヴは戦闘が大の苦手だが、こういう時はなぜか体が先に動いてしまう。

 気がつけば、ゼロからもらった護身用のナイフをオスカルに突きつけていた。

「待て待て、ちゃう! ちゃうねんリヴ! そんなつもりやないねん! ちょっと待ってや!」

「違う? なら早く理由を言ってください」

 リヴの目には僅かな光もない。  

 まるで人が変わったかのように、鋭い眼光を放っていた。


「今から言うつもりやったんやって! 怖い怖い! その目やめてや!」

「元からこういう目ですが?」

 指摘されてもなお、冷徹な目を向け続けるリヴ。

 しかし、オスカルがあまりにも焦っているため、リヴは仕方なくナイフをしまった。

「それで、理由は?」

 リヴの問いに、オスカルはやや肩をすぼめて答えた。


「謝りたいんや。…君のお兄さんに」


「謝る?」

 リヴは思わず目を見開いた。

 キョトンと首を傾げ、光のない目でオスカルを見上げる。

 オスカルは眉間に皺を寄せ、それからゆっくりと話し始めた。


「…俺は九年前、とある家の〝騎士〟として働いとった。大変やったけど、それなりに楽しい職場でな。なんだかんだ言うても一生懸命働いとったんや。

 …せやけど、入って一年くらい経った頃やったかなあ。そこの家の主人と奥さんが亡くなってしもて、二人の息子のうち、長男の方が家を継ぐことになったんや。

 ありがたいことにその兄弟とは仲良うさせてもろててんけど、長男の方は信じられへんくらいようできる子やったから、恥ずかしいことに嫉妬してもおてな。

 …いたずらのつもりで、その子の料理に毒を入れた。ほんの出来心やったんや。…でも、その子…毒入りの料理食べてなんて言うたと思う?」


「………」


「〝美味しい〟て言うたんや。軽い毒やったけど、きっと辛かったはずやのに、笑顔でそう言うてん。…それから俺は、逃げるようにその家を出てった。誰にも見つからんとこまで逃げて、逃げ続けて……。もう、何年も戻ってへん」


 そこまで一気に説明すると、オスカルはふうと息を吐いた。

 ずっと黙ってオスカルの話を聞いていたリヴは、その拍子に拳を強く握りしめる。

 俯いていて表情は見えないが、拳から赤い血が流れていた。


「だから謝りたいって…?」


 ようやく発せられた声は、とても低かった。

 その一言で、周りの空気が凍りつく。

 オスカルは無意識に一歩後ろへ下がっていた。


「〝手出しするつもりはない〟って、すでに〝手を出していたから〟だったんですね」


 リヴの発言に、オスカルはわずかに顔をしかめる。

 優しそうな見た目からは想像できないような表情を浮かべていた。

「鋭いな。もう分かったんか」

「ええ、もちろん」

 リヴはそう言うと、ゆっくりと顔を上げた。


「その〝優秀な長男〟って、兄のことですよね?」


「……そうや」

 〝兄〟というのはもちろん、ゼロこと〝ゼロ・ジョーカー〟のこと。

 リヴの推測通り、オスカルが勤めていたのは〝ジョーカー公爵家〟だった。

 そして、彼はジョーカー家の長男であるゼロに嫉妬し、ゼロの料理に毒を盛った。

 ゼロが〝死ぬことはない〟と分かっていたからだろうが、それでも絶対にやってはいけないことだ。

 しかも、彼はジョーカー家から〝逃げ出した〟と言っている。

 罪を認めるどころか、罪から目を逸らした彼に、リヴが怒るのは当然だ。

 しかし、リヴが怒っている理由はそれだけではなかった。


「オスカルさん。貴方、逃げ出した後も兄に付き纏っていましたよね?」


 リヴの問いに、オスカルはぴくりと肩を震わせた。

「な、なんの話や…」

「知らないとは言わせませんよ」

 リヴは冷たくオスカルを睨みつけると、再び低い声で切り出した。


「…七年前の〝クランツ事件〟」

「⁉︎」

「実際に犯罪を起こしたクランツは捕まりましたが、どうやら裏で〝手を引いていた人〟がいたようですね」

「そ、それがどうし…」

 リヴはオスカルの目を真っ直ぐに捉え、それから指を差した。


「貴方なんでしょう? オスカル・〝マーフィー〟」


「な…ぜ…、その名を…」

「私や兄を狙う輩はごまんといますが、その中でも最も厄介なのが、あなた方〝マーフィー家〟です。何度やめるよう伝えても、執拗に狙ってくる…。サンはもう〝戻る気はない〟と言っていますよ」


 サンの実家であるマーフィー家は、代々王家の騎士団を務める由緒正しき名門だ。

 サンは幼い頃から剣術の才に恵まれ、鍛錬を始めてわずか五か月、六歳という異例の若さで騎士団に入団を果たした。

 これは王国史上初の快挙であり、それほどまでにサンの才能は抜きん出ていた。

 だが、その出来事を境に、マーフィー家はなぜか彼を遠ざけるようになる。

 才能への畏れか、それとも嫉妬か。

 やがて家族はサンを〝いないもの〟として扱うようになり、彼は一族の中で孤立していった。


 そんな彼を救い出したのが、ゼロとリヴの父〝レオ・ジョーカー〟である。

 彼はマーフィー家から親権を剥奪し、サンを養子として迎え入れた。

 そのおかげで、サンは再び平穏な生活を取り戻したのだが、やがてマーフィー家はサンを奪い返そうと動き出す。

 レオの存命中は彼が強く追い返していたため、事態は丸く収まっていた。


 しかし、彼の死後──ゼロが当主になってから、マーフィー家の行動は次第に常軌を逸していく。

 王宮に忍び込んでサンを誘拐しようとしたり、ゼロやリヴの命を狙ったり…。

 その手段は、日に日に過激さを増していった。

 それでも少し前の衝突を最後に、マーフィー家の動きは途絶えていた──はずだった。


「あーあ。西の方言覚えるの、大変だったんだけどなあ…」


 オスカルはどかっとその場に座り込むと、人が変わったように標準語で話し始めた。

 先ほどまでの訛りは、どうやら全部嘘だったようだ。

 とはいえ、西の方言をあそこまで自然に話せるようになるとは、さすがはマーフィー家の人間といったところか。


「無駄な努力をしている暇があったら帰ってください」

 リヴは冷たく言い放った。

「帰ってもいいけど、俺は〝弟〟を連れ帰るって大事な任務が…」

「サンは奪わせませんよ」


 リヴはオスカルを鋭く睨みつけると、オスカルとは反対方向へと歩き始めた。

 しかし、その歩みはすぐにオスカルの手によって止められる。


「リヴ殿下、まさかこのまま帰れるとお思いですか?」

「………」


 オスカルは薄く笑みを浮かべながら、リヴの肩を押さえつけ、その場に強引に座らせた。

 そしてゆっくりと鞄を開くと、中から何やら細い針を取り出す。

 明かりを反射して冷たく光る針先に、リヴの背筋は一瞬で凍りついた。


「や、やめ…っ!」


 嫌な予感が胸を締めつける。

 立ち上がろうとしたが、その動きはわずかに遅れてしまった。

 次の瞬間、首筋に鋭い痛みが走り、リヴは思わず息を呑んだ。

 何かが抜けた感覚とともに、熱い液体が体内へと流れ込む。

 リヴは何が起こったのかよく分からないまま、おそるおそるオスカルを見上げた。


「なに、これ…」

「大丈夫。そのうち分かりますから」


 オスカルはそう言うと、その場にリヴを押さえつけながら、片手で鞄を開け、中から小さな箱を取り出した。

 そしてその中に、リヴの首に刺した針を器用にしまう。

 リヴはその様子をじっと見つめていたが、その時ちらりと覗いた小瓶を見た途端、血の気が引いたように顔を真っ青にした。


(あれ、人体には危険な…!)


 リヴは慌てて抵抗しようとしたが、何故か頭が重く力が入らない。

 それでも必死にもがいていると、次第に視界の端が揺らぎ、世界が波打ち始めた。

 必死に何かを話そうとするが、声は途切れ、うまく言葉にならない。

 舌の感覚すら鈍く、身体が重く沈んでいく。


「慣れぬ場所でお疲れでしょうから、リヴ殿下はしばらくお休みになってください。大丈夫、私が隣にいますよ」


 オスカルの声音は妙に柔らかく、それがかえって不気味に響いた。


「まっ…て……」


 最後の抵抗も虚しく、瞼はどうしても開いていられない。

 落ちゆく意識の中で、リヴが最後に見たのは──唇の端を吊り上げ、愉悦にまみれた笑みを浮かべるオスカルの姿だった。


♢♢♢


『知りたいでしょう? リヴの〝居場所〟』


 リヴがオスカルの正体を暴くよりも少し前。

 ゼロはペンダントを通じて、サンとフィンと会話を続けていた。

「居場所って…お前、知ってるのか?」

「大体だけどね。でもその前に…」

 ゼロが何かを唱えると、サンとフィンの前に四角い鏡のようなものが現れた。


「これは…?」

「こっちの様子を映し出す鏡だよ。どう、見える?」


 ゼロに言われて鏡を見てみると、パッと光が現れ、ゼロの顔が大きく映し出された。

 隣にはルイやサイラスの姿も見える。


「なんだこれ⁈ ゼロが鏡の中に⁈」

「良かった、見えているみたいだね。この方が話しやすいかなと思って、試してみたんだ。驚いた?」

「驚くもなにも…さすが瘴気だな。現代の技術力を超えているぞ…」

「もはや私たちの時代にあってはならない技術ね…」


 サンとフィンは鏡をまじまじと見つめて、口々に感想を述べた。

 確かに、現代の技術では他の場所の様子を見ることなんてできないし、そもそも離れた場所に声を届けることすらできない。

 その点で、瘴気は〝最先端技術〟とも言えるのかもしれない。


「ちなみにサンたちの姿も見えてるよ」

「さっきも見たが、何度見てもすごいな…」

「サンくんが目の前にいる〜!」


 ルイとサイラスも、ゼロの隣で感嘆の声を漏らしていた。

 みんなの様子を眺めていたゼロは、頃合いを見計らって口を開く。


「…それじゃあ早速、リヴの居場所を教えようかな」


 ゼロはそう言うと、手書きの地図を見せた。

 これは、先ほどルイとサイラスと共に、サンのペンダントから見える景色を見ながら、瘴気の性質を駆使して即席で作り上げたものだ。

 正確な距離などは分からないが、大まかな地形などは把握できる。


「サンたちはまだアマネセールにいるよね?」

「ああ」 

 ゼロは〝アマネセール〟と書かれた場所を指で示し、そのまま隣に描かれた山へと動かした。


「そこから西の方角に山が見えると思うんだけど、どうやらその麓に洞窟があるみたいなんだよね。そこからだと…歩いて十五分くらいかな。サンたちの足ならもっと早くに着くと思う」

「洞窟か…。犯人も変なところに連れて行くんだな」

「うん。ただ、一つ問題があってね」

 ゼロは少し難しい顔になって、サンの方を向いた。


「リヴがいるのは洞窟の奥深く…。おそらく歩いて一時間はかかる場所にいる」


「「一時間⁈」」


 ゼロの発言に、サンとフィンは思わず声を上げた。

 リヴが今も同じ場所にいるかどうかは分からないが、少なくとも洞窟から出られていないのは確かだ。

 先ほどゼロがリヴのペンダントを覗いた時も、まだあたりが大きな岩で覆われていた。


「うん。だから二人とも、このまま繋げた状態で移動し始めてくれる?」


 ゼロがそう言うと、サンとフィンはすぐに頷いた。

 何も言わなくても、あまり時間がないことは分かりきっている。

「分かった。行くか、姐さん」

「ええ。急ぎましょう」

 サンとフィンは素早くその場を片付け、足早に洞窟へと走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ