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♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第四章』迫り来る影
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《第十一節》化けの皮(1)

 ルイとサイラスと、三人でティータイムを始めた時。

 ふいに聞こえてきたのは、弟の声だった。


『兄さん、今少しいい?』


 やはり、リヴの声だ。

 「何を訳の分からないことを言っているんだ」と言われそうだが、これは決して空耳ではない。

 リヴには護身用に、瘴気で作ったペンダントを渡しており、それを使えば離れた場所にいても声を届けたり、その場の五感を感じたりすることができるのだ。


『うん、いいよ。どうしたの?』


 僕は自分の声は発さずに、瘴気の性質を利用して返答した。

 今はルイとサイラスもいるため、自分の声で話すわけにはいかない。


『今ものすごく暗い場所にいて、肉眼では全く何も見えないから、明かりをつけてほしいんだ。できる?』


 暗い場所…?

 リヴは一体、どこにいるのだろう。

 肉眼で見えないくらい暗いところといえば、洞窟や鉱山の奥深くか、地下牢や地下水路の中くらいしか思いつかない。

 けれど、エスペクトロの拠点は〝アマネセール〟のはず。

 地下にも拠点があるのかもしれないが、そこへいるのだとしても、さすがに肉眼で見えないほど暗い場所ではないだろう。

 大丈夫…なのだろうか。


『できるけど…そっちの様子を確認してもいい?』

『うん、いいよ』


 瘴気をコントロールするにしても、見えていた方がやりやすいし、せめてリヴがどこにいるかだけでも分かれば、何か手助けができるかもしれない。

 本当は関わってはいけないけれど、大事な弟を放ってはおけないため、僕は向こうにも意識を集中することにした。


 しばらくすると、次第に視界が二つになっていくのが分かった。

 視界が重なっている、と説明するのが正しいだろうか。

 よく分からないが、目の前の光景とは別に、真っ暗な場所が見えた。

 この性質を使うのは初めてではないが、やはり便利な性質なだけあって、扱いは非常に難しい。

 瘴気の性質は、便利であればあるほど扱いづらくなるのだ。

 成功したのはいいものの、なんだかとても気持ち悪い。

 目を閉じたいのを必死に我慢しながら、僕は向こうの様子を観察し始めた。


 確かに、リヴの言う通り真っ暗で何も見えない。

 この状況なら、明かりが必要なのも頷ける。

 僕は頭の中で瘴気を制御し、リヴのペンダントの中にランプの機能を加えた。

 ランプといっても、構造は瘴気の性質に任せただけの、人智を超えた全くの別物だ。

 明かりをつけてみると、ぼうっという音とともに大きな岩壁が姿を現した。

 どこからか、水滴が落ちる音も聞こえてくる。

 これは……間違いなく洞窟だ。

 音の響き方から、おそらくその〝奥深く〟だということも推測できる。

 一体、どうしてこんなところにいるのだろう。

 まさか〝迷い込んだ〟なんてことはないだろうし、誰かに連れ去られたと考えるのが妥当だが…。


『ありがとう、兄さん。とっても助かった』

『…どういたしまして』 


 謹慎の身である僕がこれ以上任務に関わるのは良くないし、ここはあまり詮索せず、リヴを信じて待つべきだろうか。

 そんなことを考えながら、再びリヴがいる場所へ意識を向けると、遠くの方にうっすらと人影が見えた。


(!)


 銀色の髪に、青緑色の目をした青年。

 一見優しそうな見た目をしているが、洞窟の奥深くに普通の人間がいるはずがない。

 おそらく…いやほぼ確実に、リヴを連れ去った犯人だ。


Identifyアイデンティファイ


 気がつけば、僕はほぼ反射的に唱えていた。

 Identifyは、人物や物などを〈特定〉する性質。

 僕がかつて見たものや、会ったことのある人物、もっている知識の中から、対象の情報をある程度導き出すことができるのだ。


 名前はオスカル。年齢は二十二歳。

 〝     〟家の長男。××の兄。

 七年前までは───


 ……やはり、特定した甲斐があった。

 でも〝オスカル〟か。

 最後に会ったのは八年前だけれど、見ても分からなかったな…。

 いつの間にか立ち尽くしていた僕は、少し考えてからルイとサイラスの方へ向き直った。


「ねえ、二人とも。少し手伝ってほしいことがあるんだけど、いいかな?」


♢♢♢

 

 リヴの捜索を始めてから約一時間半。

 サンとフィンはアマネセールにある大きな屋敷の上で、持ってきたパンを食べながら作戦会議を行なっていた。


「このこと、ゼロに伝えるべきかしら?」

「うーん…謹慎中だしな…。言ったところで何ができるか…」


 伝えるか迷っているのは、つい先ほどサンがフィンに耳打ちした内容だ。

 「あくまで推測でしかない」と言っているが、サンの推測はほぼ確実に当たる。

 推測が事実だと仮定すると、相当厄介なことが起きているため、リヴのいない今、〝ゼロに意見を仰ぐべきではないか〟とフィンは考えているのだ。

 迷うサンに、フィンは少し考えてから口を開いた。


「でも、私たちは〝四人〟でルリ・サピロスでしょう? 何もできなくても、伝えるべきじゃないかしら?」


 フィンの言う通り、ルリ・サピロスは四人で一つ。

 今までの任務だって、誰か一人でも欠けていれば解決できなかったかもしれない。

 そもそも、ルリ・サピロスが担当するのは、普段から様々な事件を解決している騎士団や衛兵隊でも解決できなかった〝難事件〟だ。

 今まではゼロがもつ〝人外の力〟があったからこそ解決できていたが、それがない今、人間の力だけで解決できるとは思えない。


「伝えた方がいいのは分かってる。だが…」


 サンには、どうしても決められない理由があった。

 先ほど名前を出した、クランツという組織。

 主に殺人や誘拐を行っていた犯罪組織だ。

 組織自体は七年前に起こった〝クランツ事件〟で殲滅されたのだが、ゼロはその事件に関して苦い思い出がある。

 事件から約七年経った今でも、名前を出すだけで顔色を変えるほど。

 そのため、サンはゼロの前ではなるべく、クランツの話をしないようにしていた。

 しかし、これから推測を伝えるとなると、クランツはとても重要になってくるため、どうしても話さなければならない。

 そういうわけで、一向に決められずにいたのだ。


「サンの気持ちも分かるわ。私もできることなら伝えたくはない」

「だろう?」

「でも」

 フィンはパンを一口頬張ると、それからサンの方へ顔を向けた。


「それでリヴに何かあったらどうするの?」


「!」

 フィンの言葉に、サンの瞳が大きく見開かれた。

(確かにそうだ…)

 ゼロにとって一番嫌なことは、クランツの名前を出されることなどではなく、〝リヴがいなくなること〟だ。

 幼い頃に両親を亡くしたゼロは、唯一の肉親であるリヴをとても大切に思っている。

 ゼロのことだから、リヴを助けるためならなんだってするだろう。


「……報告、してみるか」

「ふふっ、その言葉を待っていたわ」


 サンは腰に下げていたポーチから、緑色のペンダントを取り出した。

 リヴも持っていた、瘴気で作られた特殊なペンダントだ。 

 ゼロが人数分作成しており、リヴは赤、サンは緑、フィンは紫とそれぞれ色が異なっている。

 サンは早速ペンダントを首にかけると、それに向かって話しかけた。


「ゼロ、聞こえるか?」


 何年も使用していないため、返事が来るのか不安に思っていると、ペンダントが日の光に当たったようにきらりと輝いた。


「うわっ、びっくりした…」

「応答かしら?」


 しばらく待ってみると、ペンダントから聞き慣れた声が聞こえてきた。

『サン? どうかした?』

 どこか大人びているが、幼い声。

 元気そうなゼロの声に、サンとフィンは思わず顔を綻ばせた。

 しかし、すぐに真剣な顔になって話し始める。


「ゼロ、少し伝えたいことがあるんだが」


 サンの発言に、ゼロは間髪を入れずに反応した。

『ちょうど良かった。僕も伝えたいことがあるんだ』

「伝えたいこと?」

『そう』

 二人が首を傾げていると、ゼロは一拍置いて言った。


『知りたいでしょう? リヴの〝居場所〟』

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