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♦︎伝説の槍は、僕を殺せない♦︎  作者: Blueberry
『第三章』距離
12/15

《第九節》アマネセール(2)

「そこの君。少しいいかな」

 サンが呼びかけると、連中のうちの一人がしかめっ面で答えた。


「あ? 誰だテメエ。何しに来た?」


 白銀の髪に、赤色のアクセサリーを身につけた、いかにもチャラそうな男。

 似たような銀色の髪をもつサンとは大違いだ。

「お前たちこそ、この町で何をするつもりだ?」

 サンが単刀直入に聞くと、男は途端に眉間に皺を寄せた。


「何って…ここは〝俺らの拠点〟だぞ? 勝手に踏み込んでんじゃねーよ」

(! 案外、素直に明かしてくれたな)


 ここが〝拠点〟ということは、彼らは間違いなくエスペクトロ。

 今まで人気がなかったのは、どこかへ出かけていたからだろうか。 


「そうか、それは悪かったな」


 犯罪組織を相手にしているため、悪いとは全く思ってはいないのだが、一応礼儀正しく謝ると、男はニヤリと笑って口を開いた。


「悪い? いやいや逆に感謝するぜ。お前、金持ってそうじゃねーか」

「………」

「手持ちの金全部くれたら許してやるよ!」


(ありきたりな連中だな。よく聞く脅し文句だ)

 犯罪組織相手の任務だと、こういうことを言われるのは日常茶飯事。

 特にゼロやリヴの場合、どれだけ巧みに変装していても、隠しきれない品の良さが滲み出てしまうため、どうしても金目当てに狙われてしまうことが多い。

 といっても、実際にお金を奪われたことは一度もないのだが。

 サンは男の発言を聞いて、思わずふっと笑うと、ポケットに手を突っ込んでから、手をひらひらさせた。


「…ははっ、すまないな。今は一銭も持ってないんだ」


 サンの言葉に、少しだけ向こうの空気が凍りつく。

 もちろん、一銭も持っていないというのは嘘だ。

 当然のことだが、そう易々とお金を渡すわけにはいかない。


(さあ、どう動くか…) 


 静かに男の反応を待っていると、周りの空気がさらに冷たくなったように感じた。

 それが彼らの何を表しているのかは分からないが、少なくともあまり良く思われていないことは確かだ。

 サンが無意識に身構えていると、男は頭をかきながらようやく口を開いた。


「そうか…。なら金目の物でもよこすんだな」


(そうくるか…。やはり、ありきたりな連中だな)

 サンは小さくため息をつくと、怪訝な顔で男の方を見た。


「なぜそんなにお金が欲しい?」


 まあ、答えてはくれないだろう。

 そう思いながら、サンは先ほどいた家の中へと視線を向けた。

 しばらく見つめていると、窓枠のあたりに茶色の目がちらりと見えた。 


 この目の正体は、リヴだ。

 リヴは任務の時は必ず、赤い目を茶色に変えている。

 そして、リヴはルリ・サピロスの中で唯一戦闘ができない非戦闘員のため、敵と対面する際は、こうして大抵どこかに隠れているのだ。


(よし、大丈夫そうだな)


 これから戦闘になるかもしれないため、初めから家の中にいてくれるのは大変都合がいい。

 万が一リヴに危害が及ぶようなことがあれば、後でゼロが黙っていないからだ。

(あいつ、怒ったら怖いんだよなあ…)


『言ったよね? リヴには傷一つつけるなって。これはどういうこと?』


(笑顔が消えないだけまだマシだが、できることならあの顔は、二度と見たくないな…)

 数年前の怒られた日のことを思い出して、思わず苦笑いを浮かべていると、ずっと黙り込んでいた男が突然大声を上げた。


「金はなあ‼︎」

「うおっ⁈」

「いくらあっても足りねーんだよ! 理由なんかねえ‼︎」

「お、おう…」


(ま、まさか答えてくれるとはな…)

 あまりの威勢の良さに少し驚きながら、サンは再びポケットの中に手を突っ込んだ。

 ガサゴソという音とともに、色とりどりの小袋が溢れ出る。

 地面に落ちたそれを見て、サンはニッと笑った。


「これ、一袋で銀貨一枚もするんだ」

「あ? 何言ってんだ?」


 サンの突拍子もない発言に、男だけでなく、周りにいる仲間たちも皆首を傾げた。

 何を言っているのだろう、という心の声が自然と聞こえてくる。


「それがここには十袋もある。売ったら…高いぜ?」

「!」

 サンはニヤリと笑うと、落ちた小袋を拾って再びポケットの中に入れた。


「な、何を…」

「え? いや、あげるわけないだろ」

「は?」

「欲しいなら自分で手に入れろ」

 サンは得意そうな顔でそう言うと、再び目だけで家の中を見た。

(リヴは…よし、出てくる気配はないな。姐さんは…)


 ———————ゾクッ。


 フィンの居場所を探していると、ふいに背後からものすごい殺気を感じた。

 驚いて振り返ったが、誰もいない。

 殺気を感じたのは一瞬だったが、すでに冷や汗をかいている。

 とてつもない殺気だ。


(今のは…)


 ちょうどリヴがいる家の方からだったため、先ほど確認した窓枠のあたりを見ると、覗いていた茶色い目がなくなっていた。

 それどころか、家の中から人の気配が消えている。

(…リヴ?)


「おい! 大人しく渡してくれねえってんなら、どうなるか分かってんだろうな?」

「………」

「チッ。お前ら、一斉にかかれ! こいつをぶっ殺すんだ!」 


(リヴが心配だな…。ここは一気に片付けるか)

 サンは腰に携えていた剣を、鞘に収めたまま手に取って構えた。


「…悪いが、お前たちに相手をしている暇はない」


 一斉に襲いかかってきた敵をある程度引きつけると、サンは構えていた剣を大きく振り回した。

 前列にいた敵が剣に当たって吹っ飛び、後方にいた仲間にぶつかって向かい側の家に衝突する。

 威力も相まって、後方の敵ごと気絶させられたようだった。

 残るは白銀の髪の男のみ。


「や…やめろ…来るな!」


 男は腰が抜けたように尻餅をついたが、サンはお構いなしに近づいていき、剣は使わずに、素手で殴って気絶させた。


(敵はこれで最後か。リヴは…いや、一旦姐さんと合流しよう)


 サンは気絶している敵を縛りつけ、駆け足で向かい側の家の間をすり抜けて、勢いよく屋根の上に飛び乗った。

 辺りを見回してみると、予想通り何軒か先の屋根の上で、フィンが身を屈めながら下の様子を伺っていた。


「姐さん」


 呼びかけると、フィンは持っていた小型ナイフをしまって、ゆっくりと振り返った。

 綺麗にまとめられた薄紫色の髪が、風によってふわりと揺れる。


「あら、もう片付いたの? 早いわね」


 サンは息を整えると、眉間に皺を寄せてうなづいた。

 その様子を見て事情を察したのか、フィンは何も聞かず、ただ穏やかに微笑んだ。


「…そう。なら、一緒に探しましょうか」

「姐さん、俺…」

 サンは何かを言いかけたが、フィンはそれをすぐに遮った。

「もう、しっかりしなさい。あの子なら大丈夫よ。そんな簡単にさらわれるような子じゃないって、サンも知っているでしょう?」

「…ああ、そうだな」

 サンは眉間に皺を寄せたまま頷くと、徐に空を見上げた。

 

♢♢♢


「え、そうなんすか⁈ 初耳っす!」

「なんだ、知らなかったのか」

「そうだったんだ。てっきり知ってると思ってた」


 サンとフィンが血眼になってリヴを探している間。

 王宮の一室では、ゼロと王家専属の騎士団〈アポロ騎士団〉の団長、副団長の三人でティータイムが行われていた。


「殿下〜、聞いてくださいよ〜」


 机の上に両腕を置き、上目遣いでゼロを見つめるのは、副団長の〝ルイ〟。

 いつも砕けた態度で接しているが、ゼロへの忠誠心は誰よりも強いらしい。

 とはいえ、この態度が許されているのは、ゼロがそういうことを全く気にしないからである。

 この三人で紅茶を飲むことができるのも、そういうことだ。


「はいはい。今度は何?」 

 ゼロが笑いながら答えると、彼は身を乗り出して話し始めた。


「この間サンくんに『そんなんじゃ殿下に捨てられますよ!』って怒られたんすよ〜。さすがに言い過ぎだと思いません?」

「どうせお前が何かしたんだろう」 


 ゼロが話し出す前にすかさず突っ込んだのは、団長の〝サイラス〟。

 紅茶を片手に、仏頂面で座っている。 


「あははっ、サンにそこまで言わせるのはルイくらいだよ。一体何をしたの?」


 ルイの口からサンの話が出てきたのは、サンもアポロ騎士団の団員だからだ。

 サンはジョーカー公爵家の養子であり、ルリ・サピロスのメンバーでもあるが、それと同時に、最も近くでゼロとリヴを守る役目として、王家専属の騎士団にも所属している。


 この国の王族は、王を含めて四人しかいない。

 詳しくは国王とその妻、それからゼロとリヴだ。

 ジョーカー家は元々子どもが生まれにくい家系なのだが、八年前の事件で陛下の弟夫婦(ゼロたちの両親)が亡くなったため、とても少なくなってしまった。

 あまりにも少ないため、七年前に〝せめて残った四人だけでも守り抜こう〟と王宮内で義勇軍が結成され、今ではリヴを除く一人一人に、専属の騎士団がつくようになった。

 そのうちの一つ、ゼロ専属の騎士団が〈アポロ騎士団〉なのだ。

 リヴ専属の騎士団は、アポロ騎士団が兼任しているらしい。


「よくぞ聞いてくれました! それがっすね……サンくんが買ってきたクッキーを、俺のだと思って食べてしまっただけなんすよ!」

「子どもか」 

「あはは、相変わらずだね」

「ちょっと! もっと憐んでくださいよ!」

「ごめんごめ…ん…?」


 ルイが口を膨らませていると、ふと何かを思いついたようにゼロが立ち上がった。

 突然の出来事に、ルイは思わず肩をビクつかせる。


「殿下? どうかされましたか?」


 サイラスが怪訝な顔で問いかけるも、ゼロは一点を見つめたまま動かない。

 ルイとサイラスは、顔を見合わせて首を傾げた。

「どうしたんすかね?」

「さあ…?」


 ゼロはしばらくの間そのまま静止していたが、やがて我に返ったように顔を上げると、ニコッと笑って口を開いた。


「ねえ、二人とも。少し手伝ってほしいことがあるんだけど、いいかな?」

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