《第一節》お気に入りの店
『プロフィール』
⚪︎Zero Joker
ジョーカー公爵家当主。ガルシア王国第一王子。十七歳。成長しない病のせいで見た目は十歳くらいだが、大人びた雰囲気の心優しい好青年。その親しみやすさから、多くの人々に慕われている。
⚪︎Live Joker
ジョーカー公爵家次男。ガルシア王国第二王子。十四歳。兄に似ているところもあるが、無邪気で明るい性格。しかし兄のことを必要以上に気にかけており、兄のことになると性格が変わってしまうことも。だが本人に自覚はない。
⚪︎Sun Joker
代々王家の騎士団を率いるマーフィー家の三男だが、七歳の頃にジョーカー家の養子となった。十六歳。洞察力が鋭く、頭の回転がとても速い。ゼロと生まれた年が同じということもあり、互いに一番気を許せる関係。
⚪︎Fin Baker
ベイカー伯爵家の次女。十八歳。ある出来事からジョーカー家と、家同士が親密な関係に。芯が強く、しっかり者。最年長ということもあり、ゼロ、リヴ、サンを弟のように思っている。
澄み渡った秋空に白色の太陽が眩しく光り輝く朝。
そんな空とは対照的な町〝ポリュイ〟は、今日も殺伐としている。
一直線に続く大通りは、寝る場所も今日の夕食すらもありつけるかどうか分からない者達であふれ、どこか禍々しい雰囲気すら感じられる。
目的の場所は、この通りにある小さな屋台。
そこで好物の梨を買う予定だ。
その店の果物はどれも新鮮で、すっきりした甘さがあり、初めて食べたときはあまりの美味しさに感嘆した。
毎日食べたいくらいだが、この町は王宮からかなり離れているため、頻繁には買いに行けない。
だから近くまで訪れた際には、必ずこうして赴いている。
大通りをしばらく歩くと、目的の屋台が見えてきた。
美味しそうな果物達が日の光に照らされて瑞々しく輝いている。
奥に座るのは〝ガロ〟。この店の店主だ。
「おはよう、ガロ。久しぶりだね」
いつもなんとなくキラキラした格好をしており不誠実そうな見た目だが、幼い頃から僕たちの面倒をよく見てくれている、歳の離れた兄のような存在だ。
彼がこの屋台を始めたのは五年前。
昔、初めて育てた果物を、僕たちが美味しそうに食べてくれたことが、一番のきっかけだという。
「ゼロか…いつも言ってるが、ここは坊の来ていい場所じゃねえぞ。噂の最重要指名手配犯はこの町にいるらしいからな」
「確かにそうなんだけど…どうしてもここの梨が食べたくてさ」
「それは嬉しいが、せめて護衛はつけろ。正体がバレたらどうするんだ?」
「バレないよ。ちゃんと変装もしているし。それに、リヴ達に言ったら止められてしまうからね」
「いや、なら来るなよ」
〝噂〟と言うのは、王都で騒がれていた殺人事件のこと。
それがひと月ほど前、事件の発生箇所がしだいに南下し始める異常事態が起こり、とうとう先週末にこの町にも被害が出てしまった。
その影響を受け、元々治安は良くない町だが、もっと悪くなってしまっているのだ。
だから、ガロが言うことはもっともなのだが…
「そう言われても、今夜また来るつもりなんだけど」
そう言うや否や、ひどく驚いた様子でガロが立ち上がった。
彼は見た目とは裏腹に、とても情に厚い人だ。
夜は特に、ここを歩くことは自殺行為だと言われているし、心配になるのは当然だ。
「ならせめて来る時は伝えてくれ。一緒に行動してやるから」
心配していても止めないところが彼らしい。ここはありがたく頼らせてもらおう。
「ああそれと、ご注文の梨だ」
「ありがとう。それじゃあ、またね」
「ああ、帰りも気をつけろよ」
別れを告げて、ふたたび大通りを歩き出す。
道端では貧相な身なりをした少女が、大きな白い猫を抱えながら眠っていた。
随分と綺麗な毛並みの猫だ。きっと大事にされているのだろう。
そんなことを思いながら、こっそり銀貨一枚を側に置いた。少しは生活の一助になるかな…
(大丈夫なのか…? 夜に出歩くなんて…。まあ、あのガードたちが守ってくれるか…)
次第に離れていくゼロの背中を、ガロは心配そうに見送っていた。
♢♢♢
気が遠くなるくらい長い大通りをやっとの思いで通り抜けると、先程までの一本道とは異なりいくつかの曲がり角が見え始めた。
ずっと歩き続けていたからか、疲れで足が少し痛い。
気がつけば、もう太陽が真上に昇っている。
「おーい! ゼロー!」
突然、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ゼロー!」
今朝、寝ている弟たちに内緒でこの町へ来たのだが、もう見つかってしまったようだ。
やはり僕の行動パターンをほぼ把握している弟たちには敵わない。
「ゼロ! やっと見つけた…」
「この町は行くなってあれだけ言ったはずだぞ!」
フィンとサンが息を切らしながら駆け寄ってきた。少し後ろには、必死に走る弟のリヴの姿も見える。
「おはよう、みんな」
後ろめたい気持ちになったが、どう切り出せば良いか分からず、結局何事もなかったかのように振る舞ってしまった。
「このやろう呑気に返事しやがって…」
「私たちがどれだけ心配したと思ってるの!」
やはり怒られてしまった。
いや、怒られるというよりも、呆れられているような気がする。
「兄さん…心臓に悪いから本当にやめて…」
追いついたリヴはそう言って息を切らしている。
三人ともよほど心配してくれていたのだろう。
そう口々に言いながら頭を撫でる三人の手が、僕の髪をくしゃくしゃにしてしまった。
申し訳なさから抵抗するのも諦めていると、突然、サンが怪訝な顔で見つめてきた。
訳も分からず戸惑っていると、サンは徐に口を開く。
「なあ…もしかして夜もここへ来るつもりか?」
(!)
流石はサン。この一瞬で、僕の企みを見抜いてしまった。
やはり彼に隠し事をするのは難しい。
「ごめん。でもどうしても行く必要があるんだ」
仕方なくそう伝えると、何か言いたげなサンに代わって今度はフィンが口を開いた。
「こんな僻地にいったい何の用があるのよ…。ここはよからぬ噂が絶えない、この国の最下層民が住む町なのよ? 近頃はあの噂もあることだし…」
おそらくフィンは、遠回しに行くなと言っているのだろう。
だがそういうわけにはいかない。
僕には必ず成し遂げなければならない事がある。
どうにかして説得できないか考えていると、サンが大きくため息をついた。
「あーはいはい分かったよ。ゼロ、どうしてもっていうなら俺は止めない。だがその代わり、俺も同行させてくれ。それでいいか?」
なんだか腑に落ちないけれど、とりあえず行けるのであれば、ここは受け入れるしかない。
「いいよ。えっと、じゃあこの時間に…」
ゆっくりめなので一週間に一度くらいのペースで投稿しようと思います。毎日投稿に比べたらかなり遅くて申し訳ないですが、気軽に読んでいってください。




