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広瀬理人の日常的被弾劇  作者: どんまち
広瀬理人と入学
7/35

空幕少女


 ――さて。


 というわけで、黒蝉に殴られ脅されたこの瞬間、俺は生徒会員となった。

「こんな荒々しい手を使うことになるなんて――あなたがもう少し向上心のある人間だったらよかったのに」

「……こっちに責任はないでしょうが」

 黒蝉に手を貸してもらい立ち上がったものの、全身を包む苦痛は消えなかった。

 お構いなしに彼女は歩き始める。この一本道になってる廊下の、突き当たりに生徒会室があるらしい。


「そこでは、現生徒会長の天野雫が待っているわ」

 人との繋がりは薄いものの、俺は聞く耳を立てるのが得意だ。


 天野雫(あまのしずく)17歳三年生、この学校の生徒会長である。

 彼女を一言で表すとすれば…いや、一言で表しきれないのが彼女のキャラだろう。

 はっちゃけている人物で、事態をいつもめちゃくちゃにするというのになぜか、最後には解決させている。

 ――いや、解決とまではいかなくても、両者の納得するような結果にさせているのだ。

 そこに秘めているものが自己犠牲なのか、または彼女自身の力なのかはわからない。


 生徒会室のドアには小さな表札以外に何もなく、油断してると物置きと勘違いできそうなくらいだ。そして何かと湿っている。

「失礼します」

 黒蝉はドアをノックし生徒会室に入った。

 すると、冷たい空気が全身に触れた。これは雰囲気がそうさせているのか……いや、クーラーがついているだけだ。


 まるで会議室のような部屋で、長い机にいくつもの椅子が並べられている。そして、ホワイトボードに大量の段ボールがあった。

 生徒会長らしき人物は、長い机の一番奥に座っている。

「待っていたよ――広瀬くん」

 彼女は穏やかに俺を出迎えた。


 想像に反していたわけでもなかったのだが――天野雫は奇抜な人物であった。

 ピンクの髪色なのは深く考えないでおこう。客観的には不自然に見えていない、今はメタネタを言うタイミングではないだろうな。

 それより驚異的なのはその髪型だった。まさかのツインテールときた。

 とはいっても、これだって客観的には自然なことなんだろう。


「生徒会に入らされましたよ……この人に無理やり」俺は横に立つ黒蝉に指を差した。

 黒蝉はわかりやすく顔をしかめる。

「ハハハ!申し訳ないね広瀬くん」

「そう思うのなら今すぐに俺を家に返してください」

「それはできないよ」

 遮るように言われた――というか遮られた。そして、やけに圧をかけるような言い方だ。

 にこやかだが、こいつもぶん殴ってきそうで怖い。

「脅された結果、俺は生徒会に入るといってしまったのですが……今日はここで何をすればいいんです?」

「あーそれはね――」彼女はおもむろに立ちあがり、近くの棚から書類を取り出した。

「この書類を渡すのと、仕事内容の説明だ」

「あぁー、そうですか……」

 俺は書類を手に取る。

 それはどうやら生徒会に入る手続きのもののようだった。

 名前を含む個人情報を記載し印鑑を押すだけらしい。


「生徒会は普段、どんな仕事をしているか――知っているかい?」

 天野は再び席に座って、俺に問いかけた。

 もちろん、知らないと答えた。

「じゃあ、簡潔に話しておくよ」


 彼女は立ち上がって、近くにあったホワイトボードを彼女の椅子の近くにスライドさせた。

 そして再び座る。

 立ったり座ったり――忙しい人だ。

「ホワイトボードいらなかったな……」我に帰るように天野は呟いた。

「…………」「…………」俺と黒蝉は静かにその様子を見る。

 生徒会室には微妙な沈黙が流れた。

「まっ……まぁ!それはともかくだが、生徒会というのはね」

 ホワイトボードはそのままで押し通すことにしたらしい。

「まず、学校で行われる行事とかの準備全般を、各クラスの委員長とで担当するよ!」

 天野は、なぜかテンション高めに語り出した。


 あれ?


 黒蝉は委員長でもあるんじゃないか……?

 まぁ、聞いたところでまともなことは返ってこないだろう。


――どうせそれくらいわかってるだろうし。


「そして!我々が普段から担当する仕事……それは……」

 彼女はわざとらしく間を開けると、バッと立ち上がり、ホワイトボードに何かを書き始めた。

 もう何も思わないよ俺は……。

『校内の環境改善のための相談室!』と、彼女は書いた。

「というわけなのだよ広瀬くん」

 えっへん、となぜか誇らしげな天野だった。

「この生徒会室の隣に相談室を儲けていてね、明日から営業開始さ」

 明日からか…色々聞いておきたいことはあるが――

「会議には必ず出てもらうけど、相談室に関しては、行ける時に極力来てくれればいいさ」

「なぜです?」

「私が毎日そこで残っているからさ」


――色々と頑張りすぎじゃないのか……?


 しかし、俺は追求しないでおいた。

 学校がすごく好きってのも可能性としてはあるのだが多分、友達がいないからなのだろう。

 それはちょっと哀れしい。

「あとちょっとした仕事内容が色々あるって感じかな?」

 しれっと足された!?

 いやそうだろうなとは思ってたけど……!


 一通り説明を受けた俺は生徒会室を後にした。

「明日から生徒会員としてバリバリ働いてもらうわよ」ついてきた黒蝉は俺に告げる。

 というか、天野は帰らないのだろうか――ま、いいか。


 昇降口先にて彼女と別れた俺は、駐輪場へ早歩きで向かい、俺は自転車を取り出した。

 もう時計は17時を回っている。とはいっても、全力で走れば17時半過ぎには着くだろう。

 俺は全力で自転車のペダルを回し始めた。

 そして、俺は17時28分に家に着いた。自身の脚力がどんどんおかしなところへいくような感覚がする。これもメタ的に言えばギャグ表現なんだろう。


 食卓にて――

「えー!?お兄ちゃん生徒会に入ったの!?」

「あぁそうだ、俺は明日からバリバリ働かせるらしい」俺はあからさまにため息をついた。

「なんでそんなことに……嫌なら断ればよかったじゃないの?」

「そういうわけにもいかなかったんだよ――色々とな」

「ふーん」


両親とも今日は残業のようで2人の食卓だった。


 妹の快も帰ってすぐのご様子で、なんとまだ学生服姿だ。

 とはいっても、俺は妹の学生服姿に何か形容し難い感情を覚えるような変態ではない。


「兎にも角にもお兄ちゃんには何かしらのご褒美をあげないといけないかもね」

「……は?」

「ケーキ――買いに行こうか」

 そう言うと彼女は机に置かれた食べかけの料理にラップをかけて冷蔵庫にしまった。


 なるほど。

 甘いものが食べたいんだな。

 そうならそう言えばいいのに。

 ――全く、可愛い妹なんだから……。

「そうだな」

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