規律完璧少女の縛りプレイ③
「彼女を生徒会に引き込みたいと思っているのなら、早めに言って欲しかったわ全く……」
そんな、見当違いも甚だしいことを言い出したのは、我が相棒の黒蝉玲であった。
放課後――彼女がいきなり俺の席へとやってきてそう告げたのである。
「…………え?」
まだ浅草も帰っておらず、というか、ホームルームが終わって2秒後くらい。
そりゃ唖然とするし、困惑するだろ。
そんなことはお構いなしのようで、黒蝉は浅草の片腕をガッチリと掴んで、ズルズルと引きずり始めた。
「待ってください黒蝉さん!私に生徒会なんて務まりませんよ……!」
必死に引っ張っているようだが、黒蝉に勝てるわけがない――生徒会の武力担当なだけはある。
「我々生徒会は、全校生徒の中でもオーバースペックな能力を持つ人材を集めたいと思っていたのだけれど――今回だけは方針を変えさせてもらうわ。あなたはどちらかというと、オールラウンダータイプだからね」
それは天野先輩が語っていたやつだけども……勝手に変えて良いのだうか?そう冷ややかな目を向けても、彼女を止められる人間は存在しない。
少なくとも地球上にはいない。
そして宇宙上にもいない。
どんどん教室から離れていく浅草は、本当に哀れとしか言えなかった。
* * *
「なるほど……、規則正しい生活を求めて邁進するその姿、生徒会に相応しい!君を歓迎しよう!」
天野先輩はそもそもの性格が甘いので、あっさりと浅草は受け入れられたのだが――ここからどう対応するつもりなんだろう彼女は。
生徒会に入れるほどの自信がないし、人見知りだから無理だと話していたのだが。
「はい……」
全てを諦めたかのような表情でこくりと頷く――彼女に抵抗はできないのだった。
本当に哀れなやつだ。
「強引に入れようとしてる風に見えたんだけど?」
そう助け舟を出してくれたのは、サイコパス先輩こと笹倉であった。
今日も今日とて、爽やかなイカれ野郎である。
彼の言葉を耳に入れた黒蝉は、機嫌を損ねるように顔を顰めたが、焦るように、にんまりとした笑顔を見せる。
すると、浅草へ腕を伸ばし肩を組んだ。
「もう、何言っているの銃刀法違反先輩……浅草さんがどうしても入りたいと言うから、私がここまで連れてきたんじゃない」
「……それはともかく、銃刀法違反先輩って俺のこと?」
ヘラヘラと笑いながら彼は問う。
黒蝉はそれを無視した。
「何を言われたって、生徒会に入りたいと決心しているんです、ねぇそうでしょう?浅草さん」
恐怖を纏った微笑みで、彼女は浅草に顔を近づけた。
「あの……えと……」
詰め寄られ完全にテンパってしまったようで、額から汗という汗が大量に出てきた。
「ね?」
「はい!決心してここに参りました!私を生徒会に入れてください〜っ!」
浅草は無様に敗北するのだった。
* * *
「そういえば天野先輩――ダニエルは?」
「そろそろ体育祭だから、準備を進めてもらっているよ」
「へぇ」
俺も手伝ってやらないとな。
* * *
相談室の活動もさっさと片付けて、俺と浅草、そして黒蝉は一緒に下校しようという話になった。
まぁ、俺はだいぶ家が遠いのですぐに別れるのだけれども。
流石に浅草も不満そうで、生徒会室を出ると、黒蝉に苦言を呈した。
あまりに人の文句を言うのに慣れていないのか、不自然に両腕をわしゃわしゃとさせている。まるで一人芝居だ。
「ひどいじゃないですか!あんな誘い方」
あれを勧誘しているとでも思ったのか彼女は……ナチュラルに脅しだったぞ!?
しかし黒様に悪びれる様子はなかった。
「私に手段なんてものは選ばないわ――やろうと思ったことをそのままやるのが、私だからね」
そう返しつつ、髪を払った。ふぁさーって、夕陽に照らされて髪が光り輝くようだった。
「えぇ……」
明らかに暴論だというのに、引き下がってしまう。
これがこいつの力なんだろうと俺は思った。
だが――それだけじゃない黒蝉玲という彼女の力を俺は知ることになる。
「でも、生徒会には入りたいと思ってたんでしょう?あなたと広瀬の会話を聞いていたら流石にわかったわよ」
そう浅草に尋ねる黒蝉は、淡々としているようで、勝ち誇っているようにも見えた。
浅草は追い討ちを喰らったかのように、そっと目を逸らす。
「確かにそれは……そうですけど」
「へ?ちょっと待てよ。浅草は、『人見知りだから生徒会に入りたくない』って言ってたんじゃなかったのか?というか黒蝉、お前つけてたのかよ」
そこで俺が割って入ると、呆れるようにため息をつかれる。
「やっぱり、あなたが生活習慣を上げたいなんて言うとは考えられなかったのよ。なんのつもりかと思ってついてきたら……あなたが急に勧誘を始めるから」
やっぱり俺の考えっておかしかったんだな……それに関しては諦めることにする。
「広瀬――あなたの観察眼は腐り切ってると言っても過言じゃないわ。今すぐに外して魔改造したいくらい」
「せめて普通の改造をしてほしいんだが」
「あら、そうかしら?じゃあ早速」
黒蝉が俺の右目に片手を伸ばし始めた。
ギャグにしても、彼女がそうするとあまり冗談に見えない。
そんなわけないでしょ……とでも言ってくれると期待して、俺は目を見開いて待った。
「フンッ!」
その瞬間――腹部が強烈な痛みを完治した。
それはあまりにも美しく、華麗で上品で煌びやかな……腹パンであった。
俺は悶絶する。
「なんてことするんだ黒蝉ーっ!」
「あら?目が飛び出てくると思ったのだけれど、違うのね?」
「俺はギャグ漫画のキャラクターか!?」
それこそギャグ漫画だと思える掛け合いをしていると、浅草が口元を抑えて、静かに笑い始めた。
「2人は仲がいいんですね、もしかしてだけど、付き合ってるんです?」
あまりにもいきなりで、俺はついポカンとしてしまった。
そう見えるのか……?マジで行ってんのかこいつ。
「いや、俺たちはどっちかと言われると、相棒的な感じ?」
こう説明するのも少し気恥ずかしい気がしたが、俺は黒蝉の表情を伺ってみる。
なんか――『無』だった。
いつも通りの、どこか淡々とした真顔……やっぱり俺たちは相棒だな。
「今ここで付き合ってもいいのだけれど、別に私からってほどじゃないわ」
「えぇ?」
思わずよくわからない返しをしてしまう。
まぁ、こういう言葉でドキッとしてしまうようなウブな自分ではないのだけれど――なんだが暑いな。
そりゃ夏だからな。
「顔が真っ赤ですよ広瀬理人さん」
「……マジで!?いやいや!そんなわけないだろ!」
俺は両手をバタバタと振る――どうやらかなり頬を赤くしてしまったみたいだった。
ダメだこんなじゃ……最近ちょうど人をフってしまったってのに。
黒蝉だって多分、からかってるんだ。
「全く広瀬――あなたって人は、おもしろいわね」
黒蝉に笑われてしまった、ケラケラと。
我が相棒、黒蝉玲。やはり、こいつは怖い。




