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広瀬理人の日常的被弾劇  作者: どんまち
広瀬理人と恋心
30/35

春空を走る

「なぁ……もうそろそろ」

「いえ、もう少しだけですわ」


 桜咲く夜の公園を自転車で進み始めてからすでに2時間が経過していた。

 風が頬を撫でて気持ちが良いのだが、楽しませてやろうと最初に本気を出したせいで、俺はもうへとへとだった。

「頼む!流石に足が動かなくなってしまう!壊れた機械の如く……!」

「もう〜仕方ないですわね」

 そんなわけで俺は自転車を止めた。

 もはや当たり前かのように自転車のカゴで体育座りしていたアリスを下ろす。


 休憩がてら2人はベンチに座った。

「静かですわね……」

「そうだな――今日は楽しかったか?」

 アリスは静かに頷く。

「ならよかったよ――最近、なぜか態度がよそよそしいというか……なんか心配でさ」

「そうでしたか……!?」

 すると彼女は慌てるように手をバタバタと振った。

「実を言うとそれは――」

「それは?」

「……それは――」

「それは?」


「あなたが好きだからですわ」


「……」

 言葉が出なかった。

 唖然としたというよりかは、憐れむ心が強かったんだろう。

 この子は、恋を知らなすぎる――だから俺のような人間を好きになってしまうんだ。

「アリス……」

 言葉に詰まる俺を見てアリスはため息を漏らした。

「ちょっと歩かない?」

「――はい、ですわ」


 そうやって俺とアリスはベンチを立って公園

の園路に立った。

 夜風が止んだ――いや、違う。何かが背後で動いた。

 その刹那――その一瞬だった。

 ――なぜこんなことになってしまったのか……。

「うっ……!?」

 肩に衝撃が走る。

 何かで刺されたのか、内側から焼けるような痛みが広がる。

 俺は咄嗟にアリスの方を見た――白いハンカチを口に押さえつけられていた。

 2人組の黒いスーツ姿の男たちがアリスを襲っていたのだ。

 ……知ってるぞ!催眠薬的なやつだ!


 抵抗する彼女を無理やり連れて行き、車に乗せてしまう。

「アリス!アリスーッ!」

 ダメだ……痛みで体がまるで動かない。

 ――本当に、なんでこんなことになってしまったのか……。

 俺が用心していなかったから……?

 というか……秋瀬は?

 クソ……意識が……。

 視界がどんどん暗くなり、追いかける意思すら消えかけてしまいそうだった。


「追うぞ!」


 秋瀬の声が俺を起こした。

「本当にごめん!アリス様の告白シーンを直視できなくて――つい目を逸らしちゃったんだ!」

 バイクに乗って彼は車を追いかけていた。

 ――その瞬間、俺の耳に知っているもう1つの声が響いた。

「足は動くわよね?」

 黒蝉玲――我がクラスの学級委員にして生徒会同期。

「黒蝉!?」

 彼女は俺を担ぎ上げると自転車に乗せた――そして黒蝉はその後ろに座る。

「説明は後よ!私がハンドリングするから――わかるわよね?」

 理解する必要もない、それが俺の使命だ。

「あぁ!追いついて見せる」

 もうヘトヘトで更に肩の痛みも引かなかった、だが、俺は全力で自転車を漕ぎ始めた。


 しかし、あいつらはどこに?

 先には分かれ道が迫っていた。

 すると――暗くなってきたからか自転車のライトがついた。

「なるほど……!」

 コンクリートの地面に水のこぼし後のようなものが一直線に続き左に曲がっていた。

 水の跡が光る。

 黒蝉が反応した。

「わかったわ――左ね」

 それを察したようで彼女はハンドルを切った。


 どんどん自転車は加速していく――そのまま3分ほどで車に追いつくことができた。

 肩の傷はどんどんと悪化してきており、俺の意識がなくなってしまうのも時間の問題でしかないだろう。

 執念だけで足を動すのにも限度がある。

 そこは山沿いのようで、車がほとんど通っていなかった。


「秋瀬!」

 俺は声をかける。

「本当にごめん……これは私の責任だ」

「それを責めるのは後でにしてやるさ――今はあいつを追いかけないと!このままじゃ逃げられるぞ!」

 俺が叫ぶと秋瀬はニヤッとした笑みを浮かべた。

「――焦っているところ悪いんだが……その必要はないぜ?」

「え」

 前を見ると、対向車が迫ってきていた。

 まずい!このままじゃ正面衝突するぞ!

 すると対向車は一本道だと言うのに急旋回し車体を横にした。


 キーッ!


 黒蝉が思い切りブレーキをつかむので俺も足を止めた。

 追いかけていた車も横になった対向車に阻まれ止まるしかなかったようだった。

「アリス様……!」

 ドアの開く音と共にそんな声が響く――その声の主は、セバスチャンだった。

 それからはもう、俺の出る幕じゃなかったらしい――肩からの出血が祟り意識が薄くなってしまう。

 目の前が暗く染まっていき、そのまま俺は気絶した。

 ――血液不足にも程があったのだ。


 そこからの記憶はほとんどない。

 いつのまにか俺は病院のベッドで寝ていた。

「お兄ちゃん!」

 快の泣きそうな顔が脳内に張り付くのを感じた。

 あの後犯人はボコボコにされてアリスは無事救助されたんだとか……俺と黒蝉は偶然自転車でそこを通っていたと説明されていた。

 説明というよりかは隠蔽に近いだろう。

 アリスの件に関しては結局、俺しか知らないまま――だと思っていたのだが、黒蝉はやはり気づいていたらしい。

 完全に気づいていたわけじゃないが、勘づいていたとのこと。


 意外とすぐに退院できた俺は家に帰ると、CDのようなものが郵便受けに入っていたのだった。

 嫌な予感がしたが、俺はそれを再生してみる。


『セバスチャンです――まず、君の行いには非常に感謝しています』


 そう言った始まりだった。

 その一言だけで、俺は何かを察していた。

『また別の国に移り住むことになりました――もう二度と、君やその友達と出会うことはないでしょう』

 だが……と彼は間を開ける。

『アリスが大人になるまで――籍はそのままにしておいてほしい』

「……お断りだぜ」

 俺は自傷気味に笑った。

『なおこのビデオは3秒後に自動消滅する』


 ――おいちょっと待て!


 その日、俺の部屋で軽い爆発が起こったのだった。

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