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広瀬理人の日常的被弾劇  作者: どんまち
広瀬理人と恋心
28/35

鈍感男は悩む

 あっという間に土曜日だった。


 ――最近、なぜかは知らないがアリスの態度がどこかよそよそしい……何かしてしまったのだろうか?

 いつもの布団の中、俺は思考する。


 時刻は7時2分だった。

 集合は9時に大倉駅――つまりは学校の近くにある駅だ。


「俺は今……悩んでいる」

 その悩みがそこまで深刻ではないことも含めて自己解説した。

 俺は彼女に嫌われてしまったのだろうか?


「広瀬……本当に何もわかってないんだね」


 窓から秋瀬の声が聞こえたので俺は目を向ける――腕をひっかけているようで、彼の上半身だけが見えた。

 その腕力には感心するあまりだ。

「もう読者すらも察しがついてるよ……やっぱアリス様は君のことが好きなんだよ」

「俺をからかうのも大概にしろよ――アリスの俺が出会って一週間も経ってないんだぞ?」

 秋瀬はわざと聞こえるようにため息をついた。


「それより秋瀬、今日も見張っててくれるんだろ?よろしくな」

「告白シーンも――な!」

「そんなわけないだろって……」

 するとおもむろに彼は地上に降りた。

 そして再び窓まで上がりバイクらしきものを見せてくる。

「この前広瀬に逃げられた反省を生かしてバイクを用意したんだ!これなら広瀬にも追いつけるだろう?」

 俺は鼻で笑って返す。

「バイクくらい余裕で逃げ切れるわ」

「君も大概化け物じゃないか……まぁいいや!紙で都度報告するからさ!以上秋瀬でした」

 すると彼はどこかへ走り去ってしまった。


 さて――


 そういえば、アリスは浅草寺を巡った後にサイクリングしたいとか言っていたな……自転車の管理はどうしたものか。

 スマホで駅近の駐輪場について検索してみた,

 2時間まで無料でそれから1時間100円――12時間置いておいても1000円と考えれば割とリーズナブルかもしれない。

 彼女がなぜ機嫌を損ねているのかはわからないが、俺は案内を遂行するだけだろう。


 俺は布団から体を起こしリビングまで行った。

 9時集合ならおそらく朝食は家で食べる想定なんだろう――まぁ、食べると言われたら食べれるくらいに腹はすかしておこう。

「おはようお兄ちゃん!朝ごはんは卵かけご飯だよ!」

 嫌な予感がする――それは普通に的中した。

 山盛りに積まれた白米と生卵がひとつ机に置かれた。

 今度は流石に調味料を使おう。

「今しょうゆとかある?」

「あるよ!えいっ!」

 快はしょうゆの密封ボトルをキッチンから目掛けてぶん投げてきた。


 手でキャッチしたが骨にまで響きそうな衝撃がくる。

「……快、何部?」

「女子野球部!現在部員8名!」

「廃部の危機!?」

 彼女は元気はつらつに笑った。

「も〜お兄ちゃん大丈夫だよ!兼部ができないだけで大会メンバーはたくさんいるんだよ!」

「何人なんだ?」

「20人」

「控え野手までしっかりそろってやがる……!」

「私は4番ファーストなんだ!」

「それはなんかわかってた」

 その途端、彼女の眉がピクリと動いた。

「どういう意味じゃ!」

「そちらの想像通りの意味ですが!?」

 我ながら漫才みたいな会話をしているな……まぁいいや、さっさと食べ切ろう。

「この前の大会なんかね〜7失点したけど私がホームラン3本打って勝ったんだ!」

「外国人助っ人じゃねぇんだから……」

「私は金本知憲を連想したよ」

「なんでちょっと古いんだよ!?」


 7時半――完食。

 集合の30分前くらいにはついておくのが待ち合わせのプロであるとどこかで聞いたことがある。

「俺ちょっと出かけるわ」

「わかった〜」

 雲の少ない春空も今日は少し曇りがかって見えた。

 彼女は立派な人間だからな――俺に気を遣って不満を話さないでいる可能性は十分にあるのだ。


 結局――頭の中に何かモヤモヤが残ったまま駅に着いた。

 俺らしくもない……最高に情けない。


 現在8時49分――いつもより時間がかかってしまった。

 近くの駐輪場に自転車を置いて集合場所まで歩いた。

 昨日も一時的に休憩した大倉駅のベンチスペースだった。

 まだアリスは来ていなさそうだったのだったので、できるだけわかりやすそうな位置に座った。


 というか……心配だな。

 秋瀬がしっかり見張っててくれるというなら大丈夫そうなのだが……それも俺の心が不安定になっているからなんだろう。


「ごきげんよ〜う!」


 アリスが遠くから歩いてきていた。

 ――ダメだ!心機一転ってやつだ。

「っよし!」

 俺は両手を頬にパチンと合わせた。

 なんか女子みたいな仕草をしてしまった――自分でちょっとだけツボる。

 俺は立ち上がってアリスを迎えた。

「行きましょうか!」

 彼女は駅に入ってからしまったのであろう日傘を持っており、服装は白いワンピースのようだった。

 なぜか今日はいつも通りでちょっと安心する。


 実を言うと全く道を調べていなかった。

 そもそもこの大倉駅がどの路線に入っているかすらよくわかっていなかったのだ。

「西武池袋線に丸の内線に山手線――有楽町線に副都心線……」

「「?」」

 さて――浅草ってどこだ?

「ふむふむ」

 上野を経由して行かなくちゃいけないのかな?

 全くわからない。

「セバスチャンに相談いたします?」

「いやそれはちょっと情けないと言うか……」

 するとバッグから見知らぬ紙切れが出てきた。

『山手線から銀座線――秋瀬より』

 ありがとう……!

 俺はアリスと浅草寺へ向かい始めるのだった。

 その途中、もう一枚紙切れが出てくる。

『今日は特に気をつけて――秋瀬より』

  ――大丈夫、のはずだ。

 そう思おうとする俺の心臓は、なぜか少しだけ早かった。

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