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広瀬理人の日常的被弾劇  作者: どんまち
広瀬理人と恋心
21/35

俺にできるのはビンタして逃げるってことくらいだ

「じゃあ、これにて本日の活動を終わりにします」

 意外に仕事が多く、活動は午後6時半ごろまで続いた。


「俺は帰るよ――アリス、車で迎えがくるのが?」

「それでは目立ちますわ」

 彼女は首を振る。

 どうやら、今朝に入ったビルまで連れてきて欲しいとのことだった。

 アリスは自転車のカゴに入って、進むように催促する。

「はいはい――明日から後ろになんかつけるし、そこに座りな」

「えー!ここがいいんですわ」

 意外にも彼女はそう返す。

 こんな不安定で危ない場所、不満に思ってそうだと思っていたのだが……。

 意外に無邪気というか――なんだかなぁ。

「学校はどうだったか?」

「やっぱりよくわからないですわ」

 まぁ、無邪気だからこそ文化の違いってのはでかいよな。

 もう日が暮れかけていた

 ――急いだ方が良さそうだな。


 少し加速し、その5分後くらいには到着していた。

 俺は彼女を下ろす。

「じゃあ、また明日だな」

「――寂しくなるわね……」

「また明日だって言ってんだろうが」

 すると今朝に話したおじさんが出てきた。

 そういえば、彼はなんて名前なのだろうか……。


 俺は軽く手を降りその場から走り出した。

 ゆっくりと自転車を漕いでいると、いつのまにか周りは真っ暗となっていた。

 時刻は7時過ぎ。

 淡々と走り続けていたが、何かに当たってそのまま横に倒れてしまった。

 ここら辺はまともに街灯もない――どこかあらぬ方向に進んでしまったのだろうか。

 その場に立ち上がると、俺はスマホのライトを照らした。


 すると――その光はすぐ近くで止まった。


 道のど真ん中に人が立っていたのだ。

 そして俺は人を轢いていたのだ。

「あっすいません!真っ暗で何も見えなくて……」

 スーツを着た俺と同じくらいの体格の男のよう――高校生か?

「………………」

 彼は言葉を返さない。

 真正面から自転車を受け止めて、佇んでいた。

「大丈夫ですか?救急車とか――いやまぁもうくるか怪しいけど」


「…………君が広瀬理人か?」


 彼は、なぜか俺の名前を知っていたのだ。

「なぜそれを?」

「アリス様は元気か?」

 立て続けに男は質問を続けた。

 唖然としたが、すぐに気づく。

 学校でアリスを守るために外国の方から派遣されてきた人なんだろう。

 ――この人もえらく日本語が流暢だな。

「勘違いするなよ……」

 感心していると、男はいきなり声色を変えた。

「アリス様と結婚するのはこの私――秋瀬神楽(あきせかぐら)だ」


 アキセカグラ……そうか、つまり彼は日本人だったというわけだ。

 よく見ると顔もそれらしい感じ。

「あっライトで照らしちゃってすみません」

 慌ててスマホをしまう。

 彼にしっかりと俺の意思を伝えておかなければ、どうなるかわかったものじゃないな。

「俺は別に、アリスのことが好きというわけでもなんでも」

 その瞬間――俺の首元を刃がかすった。

 制服の襟越しに温かい物を感じる。


 ――血だ。


 それと共に冷や汗も全身から飛び出してきた。

「アリス……だと?貴様が呼べるほど安いなじゃないんだよ」

 瞳孔を開いて距離を詰めてくる彼の気迫はとんでもないものだった。

 戦闘能力に関して申し分はなさそうだが……。

 それより今ここで殺されてしまうのが一番まずい展開だろう。

 しかし言葉が出てこなくなるのを感じた。

 この状況じゃ、何を話したところで彼の力にねじ伏せられるような気がしたのだ。

「あの……その……」

 必死に思考し言葉を探す。


「二度とアリス様に近づくんじゃないぞ」

「いや、俺は頼まれた立場なんだっていうか」

「関係ない!それともなんだ?君がこの世に存在する何かで私に勝るとでも言うのか?全面的に私の方が上位的な人間なのだよ」

 はっきり言ってぐうの音も出ないことだった。

 やはり力による支配……。

「君は逃げたと私が伝えておくよ」

「…………嫌だね」

 彼は顔をしかめた。

 そんなことをしたらアリスが悲しむ――というのもあったのだが、俺はこう見えてもプライドが高いのだ。


「死にたいのか?」

 秋瀬は刃物を取り出した。

 バッグに入れてもかさばることがなさそうな銀色の小型ナイフだった。

 ここまできたらやるしかない……俺は覚悟を決める。


 彼の顔面――主に目玉付近を狙って思い切り拳をぶつけた。

 完全なる不意打ちとなり、彼もギリギリ反応できていたものの、無理やり殴り抜け左目にダメージを与えられた。

「クソっ……この野郎が!」

 秋瀬は刃物を近い間合いから投じた。

 まっすぐな軌道だったこともあり回避は容易だった。

 しかし、このままで俺に勝機はないだろう。

 俺は自転車に跨る。


「じゃあ、また会おうぜ秋瀬神楽――」

 そして全力で漕いだ。

 俺の自転車は今までに出したことのないような立ち上がりを見せる。

「待てこの……!」

 秋瀬が追いかけてきているのがよくわかった。

 だが、これに関しては誰にも負けるつもりはない――彼の素早い足音も徐々に小さくなっていった。


 家へ着いたので俺は自転車から降りて塀の中に身を潜めた。

 すると突然左肩が痛む。

「あっ――なるほどね」

 左肩にナイフが刺さっており、そこから出血していたのだ。

「ナイフが刺さっていたけど、アドレナリンが出ていて気づかなかった」

 そう解説してみても少し現実離れしているような気がした。

 やはり俺には――1発ビンタして逃げるくらいのことしかできないんだろう。


 しばらく様子を伺ったが街は静寂のままだったので、俺は家の中に入った。

 そして誰にも会わないよう急いで部屋に向かう。

 首と肩から出血している姿なんて見られてしまったからには、どうなるかわかったものじゃない。

 部屋には幸い包帯などの医療セットが押し入れの奥に入っていた。

 なんとか出血を止めて俺は着替える。

「全く――人の心ってものがないよな……」


 時刻は7時半。

 風呂にでも入るうと俺は着替えを持って、風呂がある一階に向かった。

「お兄ちゃんおかえり」

 リビングにいたらしく、妹の快と廊下で対面した。

「今日はずいぶん疲れてそうな様子だよね、生徒会で何かあったの?」

「……まぁ、色々だな」

 そうとだけ言って俺は話を終えた。

 この家は俺を日常に包み込んでくれた。

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