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広瀬理人の日常的被弾劇  作者: どんまち
広瀬理人と恋心
20/35

孤高のバカ

 さて――


 我が高校の一階には部室がびっしりと並んでいて、当たり前だが、その数には上限があるのである。

 至る所から和気藹々とした音が聞こえきて、やはり部活動とはいいものだと思う。

 まぁ入る気は無いのだが。 


 ――それにしても、校舎も老朽化が進んでいるんだな。

「ロック音楽研究部は突き当たりみたいだね」


 そんなものが今まで許されてきたこと自体に驚きだが、2年前の代に出された論文が高い評価を受け、そのまま残されていたようだった。

 しかしそれから活動報告がされることはなく、現在の部員は1人らしい。


 カワノケイ、河野圭と書く。

 2年生であることは確かなのだが――どのような人物か俺は全く情報を耳にしたことがなかった。


 4人は少し歩き、部室の前までたどり着いた。

「河野さん、いらっしゃいますか?」

 黒蝉がノックをしてみるが反応がない――

 すると、彼女は何かに気づいた。

「鍵がかかってるわね……」

 よくみてみると、ドアノブの部分に何か取り付けてあった。形状的にパスワード式のロックだろうか。

 部員が1人だというのになぜロックする必要があるのだろうか。

「《英語》」

 ダニエルは困ったように話す。

「ですね……どうやって入ろうかしら」

 多分――これじゃあ入れないなとでも言ったのだろう。

 アリスといえば、よくわからなさそうな様子でこちらを眺めていた。


「私にいい策があるわ」

 黒蝉は思い出したように言った。

 すると、助走をつけるように一度ドアから離れた。


 ――まさか!?


「ちょっ黒蝉!」

 俺が止めるが遅かった。

 黒蝉は走り出し、そのままの勢いで部室のドアにドロップキックを仕掛けたのだ。

 彼女のパワーを前に老朽化した木材のドアは完全に無力で――すごい音と共に砕け散った。

 中を見てみると、河野圭であってるかは知らないが男子生徒が1人――ギターを弾いていたようで、その手を止めて唖然としていた。


 静寂が流れる――そりゃそうだろうが……。


「誰です?」

 彼が一言目を発した。

 違うだろとも思ったが妥当だろう、そりゃ誰ってなる。

「生徒会です」

 黒蝉はずけずけと部室に上がった。

 それを聞くと彼は、本当にギクっとでも聞こえてきそうな反応を示した。

「部員が足りないんですよね……」

 諦めるように彼は目を潜めた。

「活動報告も足りません」

 黒蝉は冷徹に追い打ちをかけた。

 ――まぁこれに関しては彼が悪いのだが。


 部室内もどこかロックとは違うようなものが多く、アニメキャラのグッズだろうか……?

 しかし飾られたグッズのキャラクターはギターを持っている。

 バンドものなのかは知らないが、研究というには少しおこがましさがあるだろう。

 これじゃあ部室というよりオタ活部屋といったところだ。


 そして、彼の行動には少し怪しさがあった。

 部室内はソファやホワイトボードに本棚が置いてあり、彼はさりげなく本棚を隠すようにしたのだ。

 できるだけ出口に近づいて、こちらに部室を調べられるのが嫌かのようだった。

 黒蝉に詰められ彼は冷や汗を流す。


 ――ほほーん、これはなかなか……なかなかに怪しいぞ。


 俺は黒蝉に続けて中に入ると、あからさまに微笑み尋ねた。

「中を見せてもらっても良いでしょうか」

「はぁ!?」

 それだけのことなのにここまでの驚きよう……これはビンゴか?

 本棚に近づく俺を必死に止める彼。

「ごめん!ごめんやめて!頼むから」

「なぜです?少し見せてもらうだけじゃ無いですか……?」

「ちくしょー!うおおぉ!」

 彼は本棚の本何冊かを抱えて、部室から逃げていってしまった。


 ビンゴだな。


「追うぞ黒蝉ー!」

「わかったわ」

 俺たちは彼を追いかていった。

 ダニエルとアリスを置いとけぼりにしてしまったが――まぁいいだろう、今は彼を捕まえるのが第一だ。


 結論として――あそこには学校で置いておけないいかがわしい本があったのだろう。

 アニメのポスターや彼の反応からピンときた。

 昇降口を出ると、彼はバイクに乗って門から飛び出そうとする最中だった。

 まずい、自転車を取りに行ってたらやつを見逃してしまう。

「自転車をとってまいりましたわ!」

 その瞬間、駐輪場側よりマリンが昇降口前へ現れた。

「ナイス!」

 俺は自転車に跨り、彼女はカゴの中に入った。


 フルパワーを使い自転車を漕ぎ始める――バイクは少し離れた位置まで進んでしまっていた。

 しかしそんなこと、俺にとっては関係ない。

 俺の自転車は人をもはや声だような勢いで加速した。

「観念しろ!同人誌とか入ってたんだろあそこに!」

 彼は本を入れているのであろうバッグを肩にかけてバイクを走らせていた。

 どうにかバイクに追い抜かし、俺は道を塞ぐように立ちはだかった。

 彼は驚いてバイクを止める。

「よく……追いついたものだね」

 彼は薄ら笑いを浮かべて話し出した。


「なんで笑ってんだよ」

「諦めてるからさ」

 彼は言い切るように返す。

「そっか……」

 するといきなり彼は殴打を受けた。

 上から黒蝉が飛び込んできて、頬は拳をぶつけたのだった。

 彼はバッグを落とし、いくつかの本が道へと放たれた。


「あっ――」

 俺はそれを慌てて回収しバッグに戻す。

 ――すると、俺は恐る恐る中身を確認してみた。

「何が入っていたんですの?」

 アリスがそう尋ねたが、これはちょっと……言いづらいな。

「特に何も入ってなかったよ」

 俺は分かりやすく誤魔化した。

 ここで彼の所持していた本の題名を読み上げるのは流石に可哀想がすぎるというものだ。

 ただ――彼が拘束というジャンルが好きっていうことだけだ。

 彼の名誉のためにもそれ以外は何も言わない。


 頬を赤らめ恥ずかしがる彼に俺は告げた。

「どんまい……」

 結局のところ、ロック音楽研究部は廃部ということとなった。

 その他に会議で挙げられていた漫画アニメ研究部にソフトボール部に英語部は、普通に存続となったらしい。

 にしても彼はとても哀れしい。

 その本を見たのが俺だけということが彼にとっての最大の救いだっただろう。

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