すげー怖いって
「なんだこれ?」
昨日、いつの間にかクラスチャットというらしい何かができており、問答無用で俺はその中に入っていた。
そもそもグループチャットというものがよくわからない。
別に断る理由もないのだが、有無を言わせないものなんだなと悪い意味で感心した。
そこで、チャットを繋げていない人を追加する作業が行われていたらしく、俺は武田とみそね、そして黒蝉から一方的にメッセージが送られてきた。
『よろしくー!』とメッセージの直後によくわからないが、犬のようなスタンプを送ってきたのが武田。
何かしらのゲームのキャラクターかは知らないが、よろしくというメッセージ文字と共にやたらと胸のでかい女性が写っているスタンプをポンと置いたのがみそね。
徹夜するほどゲームが好きという設定があったな――とそれが送られてきて思い出した。
黒蝉は簡潔なメッセージで済ませそうなものだったが、それ以上だった。
『明日は生徒会員が集まっての会議があります』
1通目がそれかよと軽く心の中でツッコミを入れた。
そして月曜日――俺はコンビニの前に佇んでいる。
今朝、珍しくスマホが音を鳴らしたため確認してみると、
『今日も一緒に朝ごはん食べよー!朝7時にコンビニ前ね!』
と、みそねからチャットが送られてきていたので、急いで自転車を走らせてきたというわけなのだ。
我が妹、快の面食らったような顔が頭に浮かぶ。
あいつはどれだけ俺と朝食を食べたいのやら……。
そして焦って出発し足を走らせた始末――集合時間より15分も早く到着してしまったのである。
さて、何をしようか。
コンビニで何かしら買ってこようと俺は歩き出した。
するとその瞬間……とは言いつつ何か起きたわけではない。
どこかから走ってきた様子の車に俺は目を奪われたのだ。
「……なんだあれ」
何十年も前に製造されたと言われても違和感のなさそうな雰囲気を纏っていた。
昔のヨーロッパで走ってそうな代物だ。
日常のちょっとした驚きを味わっていると、その車はコンビニの駐車場に停まった。
どんな人がこういう車に乗っているのか、何気に気になった俺は駐車場からの死角へ逃げ込む。
ドアが開くと、外国人であろうか――スーツ姿のおじさんが出てきた。
『おじさん』などと軽い言葉で表現したが、かなりのガタイに白髪混じりの髪に威圧感のある髭を持っていたのだ。
ボディーガードとして来てくれたら嬉しいという次元じゃない。
そして、獲物を見つけた殺し屋のように殺意のこもった瞳は――小さく顔を出している俺を見ているようだった。
いや、見てる……?
そして、悠長に観察していると、なんと目が合ってしまった。
俺は咄嗟に隠れたが、捕捉されたようで、俺の耳は小さな足音をとらえた。
「あの――」
相当距離が離れていたのにもかかわらず、5秒ほどで隠れていた俺を発見してしまった。
「我々に敵意がないことを念頭においてほしい……」
見た目通りに低い声で男は語りかけた。
「広瀬理人さん、ちょっとお話しいいか?」
そしてそう続ける。
「まぁ……無理ではないですけど――」
正直、みそねには連絡をすれば良さそうな話である。
それより名前を知られていたことの方が重要だ……思わず表情が険しくなるのを感じた。
冷静な表情の男――その目は虎のようだった。
いや、外国風にいうなら悪魔だろうか。
なにわともあれ視線の圧力に耐えかねた俺は、諦めてついていくことにした。
彼は俺を車の方へと案内し、そして俺はそれの後部座席に乗った。
車内もどこか独特な雰囲気がある――と状況に反して冷静を保っていた俺は周りを見渡してみる。
すると、横に知っている顔が見えた。
知らないと言えば知らない、知ってると言えば知ってるような顔――。
それは土曜日に学校へ送り届けてあげた、転入生の小柄な少女だったのである。
メリア・アリス……で、あったのである。
「ごきげんよう」
彼女に笑顔で挨拶をされた。
――なぜ今自分はこの車に乗っているのだろうか。
そりゃ俺がビビリだからじゃないか。
「どうも……」
こんなよくわからないが状況だというのに話が弾むわけもなく、俺は車にて一言も話せなかった。
彼女も特に何も話しかけてくることはなく、車内には静かな雰囲気が流れていた。
俺の心臓だけが音を鳴らしていた。
しばらくすると大型のペナントビルのような場所に到着する。
ついでだが、みそねにはしっかりと連絡を入れておいた。
『すまん、今日行けなさそうだ』
『りょ』
それだけのチャットだった。
男にされるがまま案内され、そのビルの地下へと俺は来ていた。
そこは会議室にでも使うのか、白い内装に大きな机とその周りにいくつか椅子があった。
そこに男とアリスが座り、促されたので俺も近くの椅子に座った。
「なぜ俺が……?」
そこでようやく口を開いてみる。
「あなたに頼み事があるのです」
そう話す彼はいまだに慎重な表情を続けていた。
「なんです?」
俺が聞き返すと、男は一瞬、躊躇うような仕草を見せたが――覚悟を決めるように息を吐き、口を開いた。
「この娘――アリスを守ってあげてほしいのです」




