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3.教材王族の旅立ち

 引っ越しの挨拶が必須なのはしっている。でも、名ばかり王族の出発となると抜剣した騎士や杖構えた魔法士がぞろぞろでてくる大事になるのは間違いない。お世話になった人に出る直前にプレゼント渡して出ていく予定。

 『婚約破棄の末路』として生きた教材扱いされてた僕を忖度関係なしに構ってくれた人は学園にいる選りすぐりの研究オタクどもである。研究以外の興味がなくて雑用を俺に委託しつつ基本的な貴族マナーや常識を教えてくれた。

 「私は鳥になる」って翼つけて屋上で羽ばたいて飛行魔法研究する奴とか見てて前世を感じてにっこりした。よく骨折ってたから松葉杖作った。

 「服だけ溶かすえっちな薬を我が手に」って言ってるやつはちょいちょい薬品火傷するから治療の練習台にした。

 「妻とよりを戻す薬を」っていって死者蘇生薬を研究するやつにはそのまま遠距離恋愛しとけと勧めはした。向こうに行ってんなら浮気しようがねーよ。運悪くゾンビがわらわら出てもこの世界なら教会御推奨の【浄化】魔法でジュワッとやればどうにかなるから、前世のシューティングゲームでお馴染みのゾンビ増えすぎ世界にはならんと思う。

 時々風呂キャンセルするのは色々無理で【浄化】でジュワッとやったが、それ以外はおもしろくて付き合いやすい人たちだった。

 ダンジョンで拾った各種書物なら間違いなく喜ぶだろう。もし城から問い合わせされても「むかしからうちにある本です」としらきってくれる。そういえばダンジョンでアンデッド系モンスターのドロップに時々本が落ちるんだよな。大抵は魔石か呪われたアクセサリーなんだけど、手書きの本というか手帳みたいなやつ。みんなで研究チーム組んでその記録とか日記とか、別のドロップ品の内容と繋がってて面白くてこれは引っ越しに持っていく。お気に入り。

 研究者ごとに放出する本を箱詰めしているとドアのノッカーが鳴った。来客である。


 さらさら金髪の無表情なお嬢様と、侍女の集団。叔父のデイドレスの布地と侍女の数侍女からして侯爵令嬢かな。第一声は侍女の一人。


「あなたはお嬢様の婚約者候補になりました。喜びなさい」

「むり。うれしくない」

「なんですって?!」

「お嬢様も凄く嫌でしょ?侍女に下に見られてるし、事前連絡なしで訪問される様な旦那なんていらないでしょう。僕もおすすめしませんよ。僕は家庭教師とかいたことないからお辞儀の角度もカラトリーの使い方も習ったことない。令嬢ならそんな相手は生理的に無理でしょう」


 お嬢様の無表情は変わらなかったが、お嬢様を慕っているらしい若手の侍女は動揺を見せた。成人してんのにカラトリーの使い方習ってない男って貴族にしてみたら飛んでもねぇ野蛮人。前世だったらモラル脱ぎ捨てた丸出しノーパン野郎。未就学児の尻は許されても成人の尻は危険。まあ僕は女なんだけどもややこしくなるから言黙っておく。


「婚約決めた人によく確認したほうがいいですよ。母方の実家なんて十年以上なんの音沙汰もないですし、人違いでは?」


 僕の言葉に、侍女のなかで一番強そうなオールバックのマダムの表情が僅かに動いた。


「お嬢様、旦那様に確認してみましょう。人違いかもしれません」


 お嬢様一向はそれだけ言うと去っていった。ホント、貴族嫌い。今の反応からして、母方の実家経由の縁談の可能性が高い。武芸か魔法の能力高いと種馬として売る価値出てくるからな。父方の実家は僕のこと教材として放置してるし、母方の実家が所有権主張して僕のこと言いくるめられればワンチャンあるからな。状況的に母親は身分のせいでお断りできずに浮気相手させられてたみたい。だから、実家が連れ帰って後妻に出すって迎えにきたときもおとなしく見送った。なんもわからんふりした子供の僕ならともかく、大人の母親がこのまま教材にさせられてんの気の毒って理由があったからこそ。それを母方の実家が「このガキなんでもいうこときくぞ」って曲解してるのはありそうなんだなぁ。

 僕の利用価値が所属者の実力調査している冒険者ギルド経由で漏れたのは、ほぼほぼ確定。

 冒険者ギルドは言ってみれば国営職安で流れ者や農閑期の農民が職にあぶれないようにしたのが始まりである。目的は国の治安維持と庶民の食い扶持斡旋。小説でよくある国をまたにかけた組織ではない。国単位である。ランクの上下も身元が確かかどうかによる。街道沿いの魔物退治や道路工事なら素性もよくわからん流れ者に任せてもいい。多少しくじっても「バッカモーン!報酬は無しだ!」「トホホォ」で済む。しかし、貴族や商人の金持ちの護衛、貴族の私有地の仕事などに素性がよくわからねぇやつを紹介できない。しくじって損害出したら当事者の処刑でも済まない。

 冒険者ギルドは独自に所属している冒険者の能力調査をしているのだ。その流れで漏れたのならばギルドに文句はない。

 しかし何がダメだったのか。身元隠して低ランクのモンスター狩って、卸すときは軽めのおこづかい稼ぎを装っていた。ダンジョンもひと気の少ない場所を狩場にしていて、知り合いなんでザ・普通の剣士のお兄さんしかいない。あのお兄さんも「ギルドは担当者の当たり外れがあって面倒だから素材を卸すかダンジョン潜るときの受付しか使わないよ」と言っていた。ギルドで高そうなドロップ品を売りに出した事もない。雑魚しか売ってない。

 つらつら悩みながら夜のうちにこっそり世話になったお礼を配送して、ケンジくんがくるのを待機。



 いつも通りドア以外から入ってきたケンジくんに、出発前の相談してみた。ケンジくんがそこはかとなく疲れた顔してる。引っ越し準備とか二日は短かったのかもしれない。


「ーーというわけなんだけど、なんでギルドに僕の情報漏れたんだと思う?」

「ロイくんがギルドに卸した品物は?」

「『マンドラゴラ』『コボルトの魔石』『オークの魔石』わらわら たくさんいたやつ」

「うん、うん、若手のおこづかい稼ぎ程度の納品だな。庶民でも背伸びすれば納品できるやつだな。じゃあ、いますぐ買い取りできないって言われてひっこめたやつねぇ?」

「あー、『サイクロプスの目玉』『デュラハンの頭部』」

「それだな」


 あちゃーと言わんばかりに顔押さえるのはどうして。あいつらほんとにたくさんわいてたんだよ。そういうの雑魚っていうのちゃんとしってる。


「わらわらでてきた雑魚だから市場で飽和して買い取れんのかなって」

「逆なんだよ……それダンジョンの中層主相当だし、それがわらわら出るってどこの層なの?そんな情報あったか?…とりあえず何層だったんだよ」

「さぁ?とりあえず生きた人間ほとんどいなくて落ち着いて肉をハントできる場所だったなぁとしか」


 階段登り降りするときにみたいに、今何段目登った降りたとか数えないんだよなぁ。目当ての食材がいるかいないか、なんか面白い本が落ちてないか、しかダンジョンって気にしない帰還するときは即帰宅する。


「………まあ、ロイくんだから階層とか気にしないかぁ。これ出奔できっかな、そこそこ手練れ追ってきそう」

「あー、真面目に働く人たちをたくさんぶっ殺すのはちょっと悪い気がするね。一回城の上の方の奴何人か殺しにしといた方が撹乱できるかな。実は前から目をつけてる奴がいるんだ」

「出奔きめてから発想が逆賊!!」

「あいつら気分で人を魔法の的にしてるからたまには殺されてもいいかなって」

「よくない!よくない!上がごたつくと庶民に煽りがくるから」


 ケンジくんはなんて善人の鑑なんだ。尊敬する。でも、配慮なら負けてないぞ。


「何人か減った程度なら大丈夫だよ。政治はチームでやってるもんだから多少減っても控えが出てくる。ちゃんと庶民生活への配慮はあるよ」

「ちゃんと配慮で殺しはでてこねぇんだなぁ……あの、もっと、人が死ななくて高速で追手を撒いて逃げる方向がいいなぁ」

「ケンジくんがいうならしかたないかぁ……ハリケーンポテト作戦でいこう。ちょっと王城の台所に芋仕込んでくるね」

「ここは都内とはいえ、ちょっとじゃ」

「【ワープ】」

「おまえさぁ!!!!!!!」

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