第99話 ティエライネン到着
ごきげんなチカぴさんはスピードを上げティエライネンに向かった。
しばらくして、ティエライネンの王都が見えてくる。
今までこの世界で見た中で一番の都会だ。鐘楼等の高い建物や、三階建てや四階建ての大きな建物など、ヨーロッパの何処かの建物のような景色だ。すごい。ヨーロッパ旅行してるみたいで気分が上がる。
ティエライネンの王城の近くにある広場にチカぴさんは降り立った。
俺達を出迎えたのは、沢山の衛兵と、それに囲まれるように立っていた使者シエラさん? に見えるが、背丈が違う。シエラさんによく似た男性が出てきた。
「ミルラ様の弟君、木野草也様でいらっしゃいますね。ようこそティエライネンに。私はティエライネン王国宰相、シジル・ユーティライネンと申します」
赤い髪に青い目。顔立ちもシエラさんにそっくりだ。しかし、宰相って国王の次に偉い人だよな。緊張してしまう。
「はじめまして、世界樹の木野です。本日はよろしくおねがいします。それで、俺達はどうすればいいですか?」
ここまで来ることは決まっていたものの、急に決まった予定なので此処から先の予定が一切不明なのだ。
「迎えの守護者が明日には到着すると思います。それまで宿を用意しましたのでそちらでお休みください。お連れの方もお疲れでしょう。ゆっくり休んでくだされば」
そういってシジルさんは後ろを向くと誰かを呼び寄せた。
「こちらは私の護衛隊長を務めるゴムシーと申す者です。本日はこちらの者が皆様の案内を務めますので、何かあればどんなことでもお気軽にお申し付けください」
「木野様、ようこそいらっしゃいました、本日皆様の案内と護衛を務めさせていただきます、ジェイムズ・ゴムシーと申します。それでは、本日の宿舎までご案内します。どうぞ、こちらへ」
紹介されたのは、茶色の髪を短くした体格の良い若い男性の騎士だった。
にこやかに礼儀正しく対応する若い騎士の背中を、俺と男爵は見つめた。若く、健康そうな体格と元気な歩き方。
男爵は何も言わなかったが、感慨深そうに若い騎士を見つめ続けていた。
若い青年騎士ゴムシーさんに案内され、俺達は豪華な西洋風の館に案内された。
白をベースにして、差し色に青緑の屋根などがある、ヨーロッパに本当にありそうな建物だった。様式の名前とかは全然わからないんだが。
「こちらが皆様に本日お泊まりいただく宿泊所となっております。夕食はこのあと準備させていただきますが、なにかご質問等はございますでしょうか?」
若いゴムシーさんからは卒のないセリフがスラスラと出てきて、俺は気後れを感じている。
こんな陰キャの相手をさせて申し訳ない、と思いつつ俺は極力落ち着いたように振る舞う。
「ティエライネンには図書館が有ると聞きました。そこで、俺の従者に頼んで調べ物をさせたいのですが、許可はもらえますか?」
「畏まりました。図書館はここから歩いて二十分ほどのところにあります。使用許可は私が本日中に取っておきますのでご安心ください」
「ありがとうございます!」
「それでは、ごゆっくりお過ごしください」
一礼して去っていく姿を、男爵と俺はずっと見守っていた。
「アカシア、許可もらえそうだぞ」
「イヤッフー! 読み放題だー!」
いつもローテンションのアカシアが、楽しそうなのは珍しい。
「ええー、いいなー、私も図書館行きたいッス……」
ビブリオマニア仲間のマギネが羨ましそうにしている。
「そんなにすごいのか、ティエライネンの図書館って」
「多分大陸一の蔵書数ですよ! 聖樹族とドワーフはあんまり本を作らないし、魔族は紙がもったいないからインクを消す魔法でリサイクルして同じ紙を使い回すから、古い本が残らないんです。人間は寿命のサイクルが短いから、書物で残すようにしていて信頼が有るんですよねえ」
なんか元人間としては若干悲しいような、誇らしいような、複雑な気分だ。
「そうなんよねえ、すごく古い本の価値はわかるんやけど、ちょっと古い本ってゴミやんか。だからついまっさらにして使いまわしてまうんよなあ。公文書でも最近ようやく残すようにし始めたくらいでな……。さりとて地下洞窟は場所が限られとるから、全部残すことも難しいんや。痛し痒しやで」
長命で魔法を使えるというのも良いことばかりじゃないのかもしれないなあ。
「せやから、ティエライネンからは紙を輸入したいねん。世界一紙を作っとる国やからな。あと名産の溶けにくい氷とか、高級木材とか、取引したいもんはようさんあるんよな」
ペリュさんの取引がうまくいくと良いが、明日からは別行動である。ペリュさんとチカぴさんの幸運を祈っておこう。
「そういえば、エルシーさん、妹さんとは会わないんですか?」
「多分、あっちから来るんじゃないですかねえ……」
そう言っていると、バン! と漫画みたいに両開きの扉が開いた。大きくドアが開いた先には、両手を大きく広げたドレスの女性がいた。
「お姉様! 私を抱きしめてくださいませー!」
謎の女性が超高速で俺をふっとばしながらエルシーさんに突撃していく。
エルシーさんはそれを軽くいなし、後ろ手に関節技を極めた。すごく痛そうで、ミリミリという音が響いてきそうなほどだ。幸い、俺は尻餅をついただけで済んだ。
「ああっ、痛い、痛すぎますわ! でも久々のお姉様の愛のムチですわー!」
「こら、ルシアーネ! 若君をふっとばすとは何事ですか、それでも聖樹族ですか、恥を知りなさい!」
そういうともっとギリギリと腕を締め上げる。大丈夫かな、筋とか関節にダメージがありそうな勢いだが……。
「ああん、折れるぅ、腕折れちゃうう! でも、もっとぉ!」
痛そうにしながらも、その女性はとても楽しげであった。なんかそういう性癖の人なのかな、大人しく見ておくか……。
マギネやアカシア、ペリュさん達も謎の珍客を引き気味で見つめている。
「いい加減にしないと、腕を肩からもぎ取りますよ」
じっとりと怒りをにじませるエルシーさんの声に、その女性は関節技からすっと抜け出しエルシーさんの前で土下座をした。
「エルシーお姉様、そしてえーと………ミルラ様の弟君? でしたっけ? 大変申し訳有りませんでした。エルシーお姉様の妹、ルシアーネと申します。以後お見知り置きくださいませ」
瀟洒なドレスを着たまま、そのルシアーネと名乗る女性は土下座をして挨拶をした。俺達はその違和感にビビりつつも、エルシーさんの顔を覗き込んだ。
エルシーさんは心底うんざりした顔をしている。それでいて、ルシアーネさんとエルシーさんはそっくりな顔立ちをしていた。たしかに姉妹のようだ。
「これでも、優秀な魔法使いで、優秀な守護者なんですよ、一応……」
「そうですよね、お姉様! 私はお姉様の妹ですもの! すごく優秀ですからご安心なさいませ!」
全然安心できなさそうな態度でルシアーネさんはエルシーさんの腕を恋人のように抱きしめていた。くそっ、ちょっと羨ましい。
「いやー、聖樹族に中々いないタイプの強烈なキャラっすねー」
マギネが呟いたが、一言一句同意できる。でも、お前もだと言ってやりたい。
「それで、ルシアーネ。ミルラ様をおいて何故ここにきたのです」
「容態が安定したので、ミルラ様が迎えに行ってあげてっていうから来たんですよー。筆頭守護者が理由もなく離れるわけないじゃないですかぁ」
周りをキョロキョロ確認しながらルシアーネさんは軽く言い放った。
うーん、存在感が濃ゆいなぁ……。
妹さんの強烈なキャラに、俺はちょっとたじろいでいた。




