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元社畜、どんぐりに転生する【完結】  作者: 芥部


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第96話 明かされた歴史



 地球の時間で2000年以上前。某県■■村の山林に、扶桑さんは生えていた。


 1000歳を越えると扶桑さんに強い自意識が生まれ、扶桑さんは神木と呼ばれるにふさわしい力を手に入れたという。当時は現代に比べ魔法や呪術が使いやすかったらしい。そこで、いつもお世話をしてくれる木こりの世話をしていたのだそうだ。


 森に住み、森で一番高いところにいる扶桑さんは周りがよく見えたおかげで、天気の予想や陥没した穴、珍しいきのこの場所などがよくわかり、それを教えると皆が喜ぶのが嬉しくて木こりを通じてお告げを出していたらしい。


 しかし、大きく立派な杉の木は建材としてもぴったりだった。ある日役人たちに囲まれた扶桑さんはその会話を聞いて切り倒される覚悟をした。

 そして、自分の一番若く、元気な枝を切り木こりに託したと言う。


「もしかして、黒杉姫という杉の木は、扶桑さんなんですか?」


「はい、幼名を呼ばれているようで、気恥ずかしくなりますね」


 何故か頬を赤らめて扶桑さんは頷いた。


「じゃあ木こりってやっぱうちのご先祖様なんですか?」

「はい、あなたの母方の血筋です」

「その節は花粉症を直していただきありがとうございました……」


 俺は深々と頭を下げた。社内の同僚全てが花粉症だったので、その恐ろしさは身にしみていた。

 春になる度いつ再発するかと不安だったが、死ぬまで再発しなかった。杞憂だった。扶桑さんのおかげだったか……。


「あなたの母は家にこもったり、街に遊びに出るのが好きなようでしたが、あなたはよく私のもとに遊びに来てくれましたよね……」


 あっ……。やばい、この話題はこれ以上先に進ませてはいけない。

 全力で話を別の方向に振らねばならない。そもそも話さなければいけない話もあるし。


「そ、そうですね! それで、少しお伺いしたいことがありまして!」

「あんぱんの絵本や、いい感じの枝、素敵な魔法の演舞など、おばあちゃんはすべて覚えておりますよ」


 扶桑さんの言葉に俺は心臓に大ダメージを受けた気持ちになる。全部見られてるんじゃねーか。


「扶桑さん、ストップ。その話はそこで終わりに」


 俺は表面上平成を取り繕っているが内心は冷や汗で一杯だ。頼む、その話はそこでやめてくれ。


「懐かしいですね、『フハハハハハ! 俺こそは地球を支配する闇の大魔導師、木野草也だ!』などとお芝居を見せてくれたこと、おばあちゃんは今のことのように思い出しますよ」

「やめてえ!?」


 黒歴史を暴かれてしまった。俺はもう駄目だ、あの夢マジで予知夢だった。

 助けて! そう思って後ろを振り向くも、目を輝かせたペリュさんやマギネがいるだけで、あとは皆(あー、またかー)みたいな顔をしていらっしゃる。


「うふふ、本当に懐かしゅうございますね。由紀子にお供えしてきて、と言われた草也殿が『クハハハハ! 闇の贄だ! 神木よ受け取れ!』といって供えてくれたお団子の味、美味しゅうございました。未だに覚えておりますとも」


 やだあああああ! 恥ずかしいから辞めてぇえええ! 杉の木に意識があるなんて思わなかったから、好き勝手してたんだよ……。


 因みに由紀子とは俺の母である。もしかして母も俺の黒歴史を耳にしていたのだろうか。辛い。俺はひどい顔をして扶桑さんの顔を見つめるも、俺の嫌そうな顔に気がついていないのか、気がついていて無視しているのか……。


「ほうら、ご覧くださいませ。草也殿が私に送ってくださったあんぱんの絵本。朝顔の鉢。はんばあぐの空袋、読書感想文の表彰状、いい感じの枝はもう15本もございまして……」


 後ろの棚の扉を開くと、なんとなく見覚えのあるものがぞろぞろ出てくる。ほぼすべての人にとってはゴミに近いものだが、扶桑さんはすべてを保管していたのだ。


「この朝顔の鉢は草也殿が七つの時にくれた者で、今でもとても大事に育てているのです。これを見せたら私のことを思い出してくれないか、と思って持ち出したのもつい先日のように思い出しまする」


 俺がこちらに来る時に拾った朝顔の鉢、本当に俺の植木鉢で、実はこっちに持ってきてた物だったんだ……。と思うと感慨深い。その御蔭で出会えたようなものだしな。

 でも、ハンバーグの空袋はきれいに洗ってあるけれど捨ててほしい。



「俺の昔の話はそこでストップしてください、俺からも扶桑さんにお聞きしたいことが」

「えー、若君の昔話聞きたいっすー!」

「うぇひひひひ、興味有りますねぇ」

「うちも興味あるわ!」

「ペリュさんとマギネとアカシアは黙って! 聞くなら俺のいないところにしろ!」


「えー」


 三人揃って苦情を述べているが、そもそも俺は黒歴史を見せびらかしに着たんじゃないんだ。解ってくれ。


「気になってたんですが、じゃあ、ずっとあちらに生えている天然記念物の神木黒杉姫、って扶桑さんで、なおかつ意思があるんですか?」

「ええ、そうです。本体は切られてしまいましたが、あちらには枝わけをしておりました。それも1000年経つと大分大きく育って力も増しまして。だから、草也殿を招き入れるだけの魔力を貯めることが出来たのです。あと扶桑ではなくできればおばあちゃんとお呼びください」


 そういえば、木は挿し木で増やせるんだったな……。世界樹でもそうなのか。


「扶桑様にはつまりお体が二つ有るということですか?」


 エルシーさんのお父さんが質問する。


「そういうことになりますね」


 皆がざわついている。まさか、使える主が二人だったなんて思いもよらないからな。


 気になったので詳しく聞いてみると、扶桑さんはどちらの扶桑さんも本体。こちらの世界と日本のどちらにも意識は有るが、日本では物理的なものへの干渉は難しい。そばに来た人の病気を直したり、近隣の山の杉の木に花粉を減らすよう命令したり、夢に出たりするなどの行動はできるという。


「魔力はあちらの私とこちらの私で共有しております、ですので他の世界樹よりも多少魔法が出来るようになりました」

「それで、俺がどんぐりのときから喋れたんですね……」

「ええ、草也殿はお喋り好きだったので、何年も土の下に埋めて話し相手がいないとさみしいと思いまして、特製のどんぐりを作りました」


 なるほど、謎のどんぐりは扶桑さんの気遣いの産物だったのか。

 でもそんなに喋ってたかなぁ。無口ではないけども……。


「それと、あの枝、本当にありがとうございます。すごく役に立ってます!」

「まあ、ちいとを込めた枝、お役に立てて嬉しゅうございます。懐かしゅうございますね、身の丈四尺ほどの草也殿が『しんじつはいつもひとつ!』と言って掲げていた物を模して作ったのですよ」


 扶桑さんはニコニコしているが、俺は過去を暴かれて若干ダメージを受けつつも納得する。

 元ネタそれだったんかい……。有名な少年名探偵の虫眼鏡だ。そりゃ、あの性能になるわ……。


「キノぴの子供時代可愛すぎない!? 名探偵ごっこしてたとかかめっちゃいいじゃん!」


 チカぴさんの言葉に扶桑さんは目を輝かせる。


「左様でございましょう!? げに草也殿は幼き頃から賢く溌剌はつらつとしており愛らしく、それでいて作法にも長けており……」


 どんどん早口になっていく扶桑さん。


「扶桑様! キノっちの子どもの頃の大魔導師の話もっと聞かせてや!」

「扶桑様! 聞きたい! 私も聞きたいっす!」

「やめろおおおおおおおおおおお!」


 結局床で悶え転げ回る俺をよそに扶桑さんは楽しそうに思い出話をしていた。エルシーさんと男爵だけが俺に寄り添っていてくれた。


「つらい、身を刺されるようにつらい」

『若君、人生にはこういうときもあるのです……今は耐え忍ぶときですぞ』

『ソウヤ様、私は聞いてないので大丈夫ですよ……』


 二人の優しさが五臓六腑にしみわたる。


 身から出た錆とはいえ、あまりに辛い。俺は逃げ出したくなる衝動を耳を手で塞いで物理的に聞かないようにすることで堪えることにした。

 しかし、それでも扶桑さんの口からは立て板に水の様にサラサラと俺の一挙一動が詳らかにされていく。俺本人ですら覚えてないような些末なことまで覚えているのだ。


 しかも、話がぜんぜん終わらない。

 ここまで来ると俺の精神的体力が尽きて死ぬか、扶桑さんが話したかったことを話し終えるかの勝負である。


 敗色は濃厚だった。




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