第94話 黒い歴史の物語
夢を見ていた。
やはり、おばあちゃんの家に帰省した時の夢だ。
夢の中の俺は中学生だった。あの大きな杉の木の前で黒尽くめの服に、よくわからないシルバーっぽいアクセと謎のベルトをつけている。
ああ、これは厨二病に罹患していた時期だ。もうやだ、思い出したくない。早く目が覚めて。
『ふっ……ここならば、我が魔導の修練も思うようにできよう!』
あまりにも恥ずかしすぎる台詞を吐く俺。
俺は森の中で拾ったいい感じの棒を持って振り回したり、手で九字を切りキェエエエエエ!とか声を上げたり、真言を唱えたりしている。我が事ながら流派が無茶苦茶だ。
『一人称はやっぱ俺様がいいかな……いや、我とかもいいな……』
そんな事考えなくていいから、お前は宿題をしろ! いつも夜中に慌ててやって怒られてるんだから!
そう念じるも、夢なので俺の叫びは伝わらない。この生き地獄ドリームいつ終わるんですかね。
『ふはははは!……いや、もっとシンプルな方が良いかなあ……』
これは、かっこいい笑い方の練習だった気がする。その笑い方は将来一回も使わないから練習しなくていいと伝えたい。
『クフフ……いや、いまいちだな』
何度もやり直している。なんでそんなどうでもいいことにこだわっていたんだろう、俺は。
『ふっ……。よし、こっちのほうがかっこいいな!』
中学生の俺は無い前髪を興奮気味にファサッとしている。
校則の範囲で伸ばしている前髪をファサッとしたいんだろうけど、校則の範囲なのでファサッとできないクソダサシーンだった。
その後も何回もマントを翻す練習だの、かっこよく杖を振る練習だのをしている。
『そうちゃーん、お昼ごはんできたわよー!』
おばあちゃんの声だ、懐かしいなあ。裏山で特訓してるの、秘密だったのに何故かバレバレだったんだよなぁ。
『よかろう! いまこの俺、最強魔導師のソウヤが向かう! 待っていろ、祖母よ!フハハハハハ!』
記憶よりも大分恥ずかしいこと言ってるな……。
『我が魔杖、今はこの神木に捧げよう、さらばだ、神木の精霊よ!』
中学生の俺はそう叫んで、例の杉の木の前にいい感じの枝を置くとお昼ごはんを食べに山を降りていった。
辛い!あまりにも恥ずかしい!
(あああああ、この黒歴史ドリームもうやだあああ、助けてエルシーさん!)
羞恥の限界点で目が覚めると、エルシーさんが心配そうに俺を見ていた。
「おはようございます、ソウヤ様。うなされているようでしたが大丈夫でしたか?」
あんな夢だもん、うなされるよなあ……。
「大丈夫です、ちょっと夢見が悪くて……」
「それは心配ですね……世界樹様の夢は、なにかの予知に関係することが多いのです」
エルシーさんは心配しているが、内容がアレなので大丈夫だろう。
「大丈夫です、子供の頃の、そのちょっと恥ずかしい思い出だったのでうなされていたのかと……」
「そうですか? なら良いのですが……」
朝起きると、地上ほどではないがそこそこに窓の外も、家の中も明るくなっていた。昼間に強く光るように光苔を品種改良した結果らしい。
朝食に行くとテーブルの上にはニワトリ豆の肉まんや、知らない野菜を包んだ春巻きのようなもの、蒸し料理や汁物、お茶菓子などが並んでいてこれもまた豪華な朝食だった。
もちろん、全部美味しかった。朝にふさわしく豪華でありつつ軽いメニューのお陰で、生前は朝はパンとコーヒーくらいしか食えなかった俺も完食してしまったほどだ。
朝食が終わると、昨日お願いした礼服が出来上がってきたので試着した。
思ったよりも仕立てがよく体にフィットする。布地も程よい厚さと感触でお値段を心配してしまう出来栄えだった。試着を終えて元のスーツに着替えてから、俺はエルシーさんたちと合流した。
「今日は、扶桑様とのご対面ですね」
「そうですね、俺のこと見てがっかりしないか、心配で……」
これは本音の心配である。こんなしょぼリーマンに会って、あーやっぱり無理、失敗したとか言われたらどうしよう……。
鏡の中を見てもスーツよりはマシだが明らかに礼服に着られている俺がいる。
「大丈夫ですよ、扶桑様は情け深く礼儀正しい、世界樹一の人格者と言われております。こんなに早く写し身を覚えて挨拶に来た我が子ですから、喜んでお迎えしてくれると思いますよ!」
「そうかなあ、そうだといいなあ」
そうでなかったらどうしよう。力を返せとか言われてももう返せる気もしないし日本に戻りたくないし……。
「扶桑様って感じいいよねー。あれが普通の世界樹だと思ってたから、ラ・ベッラさん初めて見たときにびっくりしたもん!」
チカぴさんから見ても感じがいい人なのか。ちょっと安心する。
「他の世界樹が偉そうすぎるんよな。チェンさんがあの仲間に入りたくなかったのもわかるで」
ラ・ベッラさんは事情があって、しかたなくあの態度だったけど、他の世界樹、会うの怖いなあ。
謎が多いけれども、いつまでもここに居るわけにも行かないので出発することにした。
最後にお礼を言うと、ペリュさんの両親はニコニコと笑っていた。
「若君、また来てや、次似合うまでにはシュッとした姿に戻っておくでビックリさせたる」
「お話おもろかったわー、またいつでも来てな!」
ヴァリエールさんと奥さんはそう笑ってお土産をくれて見送ってくれた。
扶桑さんのいる場所まではチカぴさんに乗ってほんの15分ほどだったが、徒歩で行くと数時間かかるらしい。ドラゴンが居ることのありがたみがすごいな……。
ペリュさんが商売のパートナーとして大事にするのもわかる。商売とか仕事とかって割とスピードが大事な時あるもんな。
「はーい、ついたよー!」
15分の空の旅だったが、前回よりも低い位置を飛んでもらったおかげで前よりもこの周辺地域をよく見ることが出来た。
針葉樹が多く、どことなく昔よく遊びに行った祖母の家の近所を思わせる。
所々に小さな集落は有るが、遠くに見える巨大な扶桑さんの木の麓に人家が集中しているようだ。
チカぴさんが着陸したのは、扶桑さんの本体からすぐ近い草原だった。どことなく見覚えがある場所だ。籠から降りると、大勢の聖樹族……おそらく、扶桑さんの守護者達に囲まれた。
「木野様とペリュ・ソレニア様、そしてお連れの皆様でいらっしゃいますか?」
「せやで、お久しぶりやで!」
「はい、そうです。木野です。よろしくお願いします」
俺が頭を下げると、怖そうで大柄な男性が俺の前で一礼をした。
「扶桑様がお待ちです、あちらへ」
「は、は、はい!」
どすの利いた声に、俺は思わずうろたえてしまった。
(ソウヤ様、この方は私のお父様です、大丈夫ですよ。見た目ほど怖くないです)
うろたえる俺にエルシーさんが耳打ちをしてくれた。髪の毛の色と目の色以外全然似てないな……。
エルシーさんのお父さんに導かれてたどり着いたのは、なんとなく和風な趣のある、神社のような建物だった。
お社のような建物の扉が開き、中から女性がしずしずと降りてきた。長い黒髪にお姫様のような、巫女のような白を基本とした和装をしていた。見覚えがある。あの人が扶桑さんか。
俺は緊張しつつ挨拶をする心の準備を整えた。




