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元社畜、どんぐりに転生する【完結】  作者: 芥部


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第93話 魔界の黄昏



「ああ、そろそろ夕方やないかな。ほれ、あっちの窓の外を見てみ」


 指の示す方向の窓を見ると、空から夕焼け色の光が差し込んでいた。


「時間が見えんと不便やからなあ。昔は地上に明かり取りの穴を開けていたんやけど、雨とか降ると地下である利点がのーなってまうからな。地上の明かりを取り込む水晶を置いて時間の目安にしとるねん」


「ま、そういうことでもう夕方や。そろそろ街の明かりも大分減るさかい、あんまり暗くならないうちに家に行こうや、歓迎するで」


 薄いオレンジの光を眺めつつ、ペリュさんに誘われて店を出た。十分程歩くとペリュさんの家だという屋敷にたどり着いた。


「うおおおお、すごい屋敷! 庭もすごい!」


 相変わらず俺の褒め言葉には語彙力がない。もっと語彙力を身に着けたいところだが本もそんなにホイホイ読めないしなあ。

 庭には噴水や暗黒樹の生け垣、外で見たのと違う暖色系の光る苔や高価な調度品などが置かれている。いかにもお金持ちの家という風情だ。生前は全く御縁のなかった風景である。


「掃除が大変で不経済やけどな、大きい商いをするなら見た目も重要やからなあ」

「大変そうッスねー」


 マギネがそう言うが、こいつはまず自分の見た目をどうにかした方が良いと思う。さっきもお茶をこぼして服にシミを一つ増やしていた。


 エルシーさんがマギネをジト目で見つめているが、気にする様子もない。なにげに、あの聖樹族エルフの集落で一番メンタルが強いのはこいつではないのか、と俺は思っている。その強さが今は羨ましい。


「若君と従者の皆様、ようこそいらっしゃいました! そしてペリュ、あなた、おかえりなさい!」


 ド派手な金色ベースの豹柄の中国っぽい服を着て、首にも耳にも腕にも指にもジャラジャラと宝石を付けている、The大阪の金持ちのおばちゃん(異世界風)がそこにいた。スタイルはめちゃくちゃいいのだが、目が痛くなるほどのゴージャスさだ。


「帰ったでー! おかん、今日もええ服着とるな! 麗しいで!」

「おう、ただいま。お客さんに飯と茶出してくれや。ほんまルネは今日も別嬪さんやな」

「ママぴ今日も服いけてるねー! 髪型とアクセのコーデバッチリじゃん!」

「んもー! そんな当たり前のこと言わんといて!」


 そう言って、皆で大笑いしていた。どうやら、大分仲の良い家族+チカぴさんのようだ。陰キャ俺には眩しい。


「本日はお招きに預かりまして、誠にありがとうございます。ソレニアさんの奥様にはお初にお目にかかります、世界樹の木野です。よろしくおねがいしますね」


 と、俺は頭を下げ、エルシーさん以下三名がそれに揃って頭を下げた。


「奥様なんて照れてまうわ! 噂では世界樹はもっと違う感じや聞いてたけど、若君はちゃう感じやねえ」


 俺はその言葉について同意するほどのサンプルがとれていないので同意も否定もせず、進められた客間のソファで曖昧に頷きながら出されたお茶を飲んだ。


 そもそも世界樹で会ったことあるの、扶桑さんとメアリーさんだけだからな。サンプルが少なすぎる。

 なんか前世で飲んだ良い烏龍茶に似た味で、香りもよい。お茶に添えて出てきた豆菓子がなんとなく出てくるメニューの何もかもでかい喫茶店を思い起こさせる。


「服は明日の朝には出来る予定だから、今晩はうちでゆっくり休んでいってや。そうだ、若君、飯食ったら例の件頼むで!」

「呪詛のアイディアの話でしたっけ」

「そうそう、めちゃ楽しみにしとるねん!」

「わかりました、後でお話しますね!」


 ペリュさんがよっしゃ! とガッツポーズをしている。よっぽど呪詛が好きなんだろうなあ。


「ペリュぴの生きがいはお金と呪詛だからねー」


 チカぴさんが教えてくれる。その割に、割と性格が良いような気はするな。


「そういえば、呪詛って実際めちゃめちゃ怖かったんですけど、皆あんな恐怖体験しても平気で使うんですか?」


 俺はずっと気になっていたことを聞いた。


「昔はあの恐怖体験の呪詛が主流だったんやけど、あんなあからさまに怖いと呪詛元もすぐわかるし、すぐわかると対策されてまうやろ。呪詛ごとに個人のクセがあるねん。せやから、今のメインストリームは、相手に気づかれない呪詛なんや」


 メインストリーム。呪詛にも流行が有るのか……。今まで無かった視点だな……。


「えっ、じゃあなんで俺の時だけあんな怖かったんですか、酷い!」


「若君の魔法抵抗が高すぎて、普段は使わない火力特化の怖い奴やないと呪詛が通らんかったねん……そこはうちの技術力の問題やね。ほんま申し訳ない」


 俺の方の問題だったのか、じゃあしょうがないか……。


「呪詛いうと怖いってイメージが数百年前まではあったんやが、実質ただの属性が闇の魔法全般の呼び名ってだけやからな。今は呪詛も医療目的や育児にも便利に使われとるんや。ええ時代になったもんやで」


 なるほど、道理で呪詛が流行っている世界線が有るわけだ。ずっと疑問だったので解決できてよかった。


 その後、テーブルいっぱいに豪華な食事が並んだ。ニワトリ豆の揚げ物は確かにチキンナゲットのようで絶品だったし、それよりも高級だというワギュー豆で作られたコロッケは人生で食べたコロッケの中で一番美味しい味だった。

 他にも、煮物やスープ、蒸した地底魚など凝った料理が沢山で、生前の俺に食わせてやりたいな、と勝手にしんみりしてしまった。生前の俺と死後の俺、同じ人物ではあるが……。


 そこに、エルシーさんが気を利かせて持ってきてくれた聖樹族エルフの最上級果実酒が加わり、場の盛り上がりは絶好調になった。


「まあ、聖樹族エルフの果実酒! 美味しいんよねえ!」


 ペリュさんのお母さんもご満悦である。

 俺もショットグラスに一杯だけ貰ったが確かに甘党にも辛党にも飲める絶妙なラインの味だ。度数は強めなので、注意は必要だが。


 マギネにももちろん酒は出されたが、飲もうとすると逃げ回る果実酒に、ペリュさん一家の他、使用人の方々まで全員出てきて爆笑していた。

 面白すぎるから、俺も笑ってしまったのだが。


「エーリュシオン様そろそろ許してほしいッスよー!」


 走り回り酒を追いかける哀れなマギネの悲鳴が、豪奢なソレニア邸に響き渡っていた。



 食後は俺の知っている色々な呪詛やオカルトについて簡単に説明した。藁人形に釘をうつ呪詛やその際の装束、ウィジャ板やこっくりさん、陰陽道の式神の話や一人かくれんぼなどの都市伝説方面の受けが良かった。

 逆に、伝統的な悪魔召喚の儀式などはあまり受けが良くなかった。


「悪魔召喚とか、あっちの世界じゃメジャーで物語の中で大人気だったんですが、こっちでは駄目なんですかねえ」

「そもそも、その悪魔がこっちの世界におるかもわからんし、いても誰かに召喚されて使役されとるんちゃう? 何人もおるもんやないやろ」


 確かにそうかも知れない……。汎用的なやつが良いのかな。勉強になる。


 話も一段落したので、明日に備えてシャワーを浴びて寝ることにした。


 流石に女性と同室はよろしく無いので、俺は久々に一人で寝ることになった。気軽で嬉しい。

 しかも、屋根も壁も有り、ベッドもある! 最高の睡眠環境だ。

 エルシーさんは最後まで強固に反対していたが、ペリュさんの呪霊が常時監視してくれて、男爵も傍らに控えて、エルシーさんは隣の控えの部屋にいてもらうということで妥協してもらった。


 さすがにこの姿でエルシーさんと同室は俺が気恥ずかしいので……。朝の寝ぼけた間抜け面を見られたくないのだ。それでなくても普段からわりとそうなので。


 大きな寝室に天蓋付きのベッド。ふかふかのマットレスにふわふわの布団。

 空調も程よく効いており、俺は移動の疲れも相まって、すぐに眠りに落ちて、夢を見始めた。



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